2022年9月30日金曜日

新年のバッカラ。

今日は『piatti e cichetti da osteria』から、典型的なベネトのチケッティ料理のリチェッタを訳してみます。
本で紹介されている1品目は一口サイズの小さなアランチーニaranciniでした。
考えてみればこれは米料理。

アランチーニarancini

ビアローネ・ナノという地元の品種の上質の米を考え出し、リゾットが大好きなベネトの人には、人気が出そうなシチリア料理です。
ベネトらしい、アッラ・ビチェンティーナやマンテカートなどのバッカラ料理、ビゴリ・イン・サルサ、サルデ・イン・サオールといった代表的なベネト料理もある一方で、オリーベ・アスコラーネolive ascolaneの串揚げなんかもあったりして、一口で食べることができるストリートフードのオンパレードです。

アランチーニより小さい。
オリーベ・アスコラーネolive ascolane

その中から、まずはバッカラのフリット。

本のリチェッタでは、バッカラ・フリットbaccalà frittoの材料は
バッカラ (または生のメルルーサ)・・600g
パン粉・・150g
00番の小麦粉・・50g
卵・・2個
塩、レモン・・1個
揚げ油・・1ℓ

・メルルーサを同じ大きさに切る。
・1つめのボールにパン粉と小麦粉を混ぜる。
・2つめのボールに卵、塩少々、レモン汁少々を混ぜる。メルルーサを入れて時々混ぜながら5分置く。
・小麦粉とパン粉をまぶしして軽く抑える。
・熱したた油で強火できつね色に揚げる。
・シートに取って油を切る。
・罰からのフリットを皿に盛り付けて塩を散らし、サラダとグリルしたポレンタを添えてすぐにサーブする。

次もバッカラのフリットだけど、付け合わせがレンズ豆。
レンズ豆と言えばコインの形をしているのでお金がたまる縁起の良い食材としてクリスマスや年末年始に食べる縁起物。今回は、シンプルな付け合わせにする場合のリチェッタ。レンズ豆をにんにく、唐辛子入りのオイルで炒め、水で覆って30分ゆでて塩味を整える。潰したにんにくをオイルに入れて溶かし、ゆでたレンズ豆を入れてなじませる。唐辛子少々を散らす。仕上げにルーコラとレタスにザクロを散らしたサラダも作ってますねー。ザクロは多産の象徴で、年末年始に欠かせない縁起物。かなり縁起の良いバッカラのフリットになりそうです。
ただのフィッシュフライが新年の1品に。
小金がたまりそうな新年のポレンタ・フリッタのレンズ豆とザクロのサラダ添え。

バッカラの付け合わせの定番、ポレンタ。
ポレンタのグリル、コロンナータのラルドとローズマリー添え↓
材料/4人分
ポレンタ・・40g
コロンナータのラルド・・150g
ローズマリー

・冷めたポレンタをスライスして熱したグリルにのせる。
・裏返して両面をグリルする。
・ポレンタが熱いうちにラルドで巻き、ラルドを溶かす。
・ローズマリーのみじん切りを散らす。

ナポリの新年の料理はウナギとバッカラ↓


ナポリもバッカラを愛してやまない町。

(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ11月号)ですが、発売が若干遅れそうですが、予定では近日発売です。

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イタリアの料理月刊誌の日本語解説『(CIRクチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)
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2022年9月29日木曜日

オーストリアの兵隊のために考え出されてベネト人もとりこにした食前酒、スプリッツ。

今日も『PIATTI E CICCHETTI DA OSTERIA』

から、一部を訳してみます。
ベネトの新しい支配者となったオーストリアの兵隊たちは、べネトのオステリアに入り浸りながらも、アルコール度が高いベネトのワインは苦手だった。そこでオステリアの店主たちはオーストリアの兵隊たちのために新しい飲み物を考えだした。すると、それが思いの他大人気になり、ベネトの人からも人気で、さらに世界中に広まっていった。
それはスプリッツSpritz。フリッザンテの白ワイン(主にProsecco)を水で薄めたアペタイザーで、様々なバリエーションができて、加えるリキュールによっては鮮やかな赤い色をしたものもあった。
こうしてオステリアでディナーの後や夕食の前に飲む一番人気のアペリティーボが誕生した。
お薦めのバカロとチケット、スプリッツを紹介する動画↓

スプリッツ↓

・グラスに氷を入れてプロセッコ90mlとアペロールを3対2の割合で注ぐ。
・アペロール60mlを加える。
・ソーダかガスの強い冷えたミネラルウオーターでグラスを満たし、
・オレンジの輪切りを加える。

時代はイタリア統一、リソルジメントの機運が高まっていた。電車や自転車や車で人々は各地から美味しいワインを出すオステリアに集まった。

リソルジメント↓
ルキノ・ビスコンティ監督の映画『山猫』は、イタリア統一戦争のさなかのシチリア貴族の落日の様子を描いた美しくて残酷でリアルな映画。
この映画の中で描かれる統一運動は、時代の激変と、それに振り落とされていく人たちの姿が、とても深く沁みました。
ヨーロッパの貴族というと、華やかなイメージしかなかったのですが、過酷な現実を知ってしまったということがショックな映画でした。でももちろん名作です。シチリア料理に関する有名なシーンもあります。
この映画でアラン・ドロンはバート・ランカスター演じる侯爵の甥でイタリア統一のシンボルになったガリバルディの赤シャツ隊の隊員を演じています。若くて美しく輝き、昔ながらの階級に縛られた女性を魅了していく新勢力の象徴です。

赤シャツ隊のシチリアでの戦闘シーンは、統一運動の激しさをリアルに再現していて、かなりショックでした。

本の内容に戻ります。
・・・オステリアでは毎週金曜日にポレンタを添えたバッカラを出した。平日は、トリッパ・イン・ブロードtrippa in brodoやパルミジャーナparmigianaが人気だった。定番料理はソップレッサやモルタデラを挟んだシンプルなパニーノ、ゆで卵とアンチョビ、ハーブ入りのオリジナルなフリッタータ、野菜のグリル、ポルペッテ、コテキ―ノやムゼット、大人気のパスタ・エ・ファジョーリ、シーフードのサラダ、イワシのフリット、シャコなどで、店主の得意料理と気質が料理には現れる。
心地よく、美味しいワインが飲めて、美味しい料理もあり、元気が出る店、オステリア。料理はカウンターの大皿に並び、それを皿に取り分け、紙のテーブルクロスの上にサーブされる。最初の1杯が料理への前奏曲となる。入口にチョークで黒板に手書きされたメニューや窓につるされた伝統に忠実なメニューをちらっと見たら、あまりあれこれ悩まずにすぐに注文して席につく。料理の量はたっぷり盛られている。オステリアから空腹で出ることはありえない。
現代のベネトのオステリアのライバルは品ぞろえの良いエノテカだ。

ベネチアでバカラ巡りをした後に夜明けの運河を見ながら、ベネチアっていい町だなあ、と思った人は、もうベネチアにはまっています。

次回は本からチケッティのリチェッタを訳してみます。




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2022年9月28日水曜日

オステリアは紀元千年ごろベネチアで誕生した。ギリシャ人はオステリアで大量に消費されるワインを見て、ベネト人のことをエネティと呼んだ。ワインのことだ。

今日は、新入荷の本、『piatti e ciccchetti da osteria』の紹介をかねて、リチェッタ以外の話が面白かったので、内容を軽く訳してみます。

「チケッティchichettiとは、ベネト特有のオステリア料理のこと。
バカロと呼ばれるオステリアで出しています↓

オステリアは、友人や仲間たちとワインを飲みながら長時間、思想やアートについて熱く語り合う場所。言い伝えによると、オステリアは紀元1000年頃、ベネチアで誕生した。
ベネチアの商人はオリエントの旅から絹やお香、宝石、スパイスなどを持ち帰っただけでなく、ビザンツやアラブから、洗練された調理方法を学び、イタリアのシンプルでスパルタ風の伝統の食文化を豊かにしていった。
これがのちにローマ帝国と結びつき、さらに地味で質素さを求める修道院の規制や、大きなパンや肉の串焼きといった蛮族、はっきり言えばロンゴバルド族の食文化が加わった。
こうして港のすぐ近くのオステリアは、最初の商取引の場所になり、テーブルには、オリエントのハーブ入りのスーゴやミネストラや魚、こょうやスパイスをまぶした肉が並んだ。
赤や白のワインは川のように流れ、ワインが大好きだったギリシャ人は、ベネトのことをエネティenetiと呼んだ。語源はenos、つまりワインだ。
オステリアはベネチアからベネト中に広まった。どの村にもワインを造るカンティーナがあり、ワインと食事を出す場所ができた。
一方で、貴族や裕福な階級は、館のサロンやチョコレートをカップで出すカフェを好んだ。
オステリアには仕事帰りや日曜のミサや祭りの帰りの市民が集った。
18世紀になると、ナポレオンに敗れてベネチア共和国が消滅する。
古いオステリアは登録が消され、食事は出さない酒だけを出す質素な宿泊所と規定された。
しかし、ベネト人は新しい形態を考え出し、新しい呼び名も考え出した。
カサノバ、ゲーテ、ダヌンツィオ、ワーグナー、スタンダールと、イタリアを旅してバカロやマルバジーアに通い詰めた芸術家は数多い。
ナポレオンの次にベネチアを支配したのはオーストリアだった。オーストリアの兵士たちはオステリアに入り浸った。が、アルコール度が高いベネトワインは、あまり彼らの好みではなかった。そこでベネトのオステリアではある食前酒が生まれる・・・。」

かなり長くなってしまいました。
続きは次回。


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2022年9月27日火曜日

バイキングの富の元、バッカラ。バッカラ・マンテカートを作り出した人はノーベル賞に値する、とハリーズバーの創業者は語っていた。

今日の料理はベネチア料理の前菜、“バッカラ・マンテカートbaccalà mantecato”です。
きのうのバッカラ・アッラ・ビチェンティーナに続く、ベネトの人気バッカラ料理ですが、このノルウェーのロフォーテン諸島特産の干ダラは、長期間保存ができ、とても安価だったので、ヨーロッパ中の、主に海のない地方に広まりました。イタリアでも国中にバッカラ料理があります。
特にベネト地方ではバッカラの消費量が多かったのでした。

冬のロフォーテン諸島↓

ストッカフィッソ作り↓

動画のストッカフィッソはほんの一部。多分、このほとんどがイタリアに輸出されます。

バッカラはメルルーサを保存加工したもの。
この干したメルルーサは、バイキングの長い航海を可能にした。彼らはこれを食料にし、
物々交換の商品にしてヨーロッパ中に広がっていった。
イタリアに伝えたのはベネチアの商人。ロフォーテン諸島で難破した時出会ったストッカフィッソを故郷に伝えた。それ以来、ロフォーテン諸島で生産されるストッカフィッソの90%はイタリアに輸出される。

メルルーサは主に北大西洋、北海、バルト海に生息するタラの一種で、ナゼッロはもっと小型のタラのこと。地中海を含むもっと温かい海に棲む。イタリア近海の魚ではないので、ナゼッロの鮮魚を使った伝統料理はイタリアにはない。タラはイタリアでは主に冷凍ものが出回っている。
バッカラはイタリアの地方料理には欠かせない重要な魚。

特にキリスト教は金曜日に肉を断つ,金曜日の断食の教えがあったので、金曜日にバッカラを食べる習慣が広まった。
山では干ダラを何時時間もかけて戻して料理していたが(ノルウェーのRabnarという有名な輸出業者が作るラーニョという上級品は戻すのに6日かかった。戻すと3倍近い量になる)、沿岸部では生のフレッシュな魚を食べた。
当然ながら、バッカラは質素な食材の筆頭だった。
ベネトの庶民の味と言えば、ベネトにはバカロとチケッティという独特のオステリア文化がある。

チケッティ↓


バッカラ・マンテカートIl baccalà mantecato ↓

材料/
戻したストッカフィッソ・・500g
軽いEVオリーブオイル(リグーリア、ロンバルディア、ベネト産)・・150g
ストッカフィッソのゆで汁・・100g
ローリエ・・2枚
レモン・・1/2個、塩
・バッカラ(ストッカフィッソ)を水で3日間戻す。ストッカフィッソは塩漬けしたメルルーサを干したもの。ベネトではバッカラと呼んでも実際はストッカフィッソのこと。戻したバッカラは茶色でストッカフィッソは灰色がかっている。戻す間、5~6時間ごとに水を替える。
・戻したストッカフィッソを骨、皮ごとゆでる。皮や骨からゼラチン質が溶け出たゆで汁は、皮や骨を完全に取り除いて調理に使う。大きく切って鍋に入れる。鍋に水(ゆで汁)、ローリエ2枚、レモン1/2個、オイル、塩を加えてストッカフィッソを入れて火にかけ、沸騰してから20分ゆでて冷ます。
・皮と骨を取り除きながらほぐしてニーダーに入れる。ミキサーを使うと歯ごたえが変わる。これは牛乳を使わないリチェッタだが、好みでミキサーを使ったり、牛乳を加えてもよい。
・攪拌羽を付けたニーダーで攪拌し、覆いをして速度を速めて10分攪拌する。
・速度を落とし、オイルとゆで汁を少しずつ加えながらマンテカーレしてクリームにする。戻したストッカフィッソ500gに対し、タッジャスカオリーブのオイル150g、ゆで汁100gの割合で加える。
・覆いをして速度を速めて20分攪拌する。
・グリルしたポレンタのクロスティーニにのせてサーブする。

次回はバカロのチケッティについて。

ベネチアの名店、ハリーズバーの自伝的本『ハリーズ・バー

には、ハリーズ・バーの創業者、ジュゼッペ・チプリアーニが、あんなカチコチのストッカフィッソから、こんなふわっとした料理を作り出すなんて、この料理を考え出した人にはノーベル賞を与えたい、と書いている。

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2022年9月26日月曜日

バッカラ・アッラ・ビチェンティーナ。

今日の料理はベネトのシンボル的1品。きのうのトウモロコシの産地、マラノは、正確にはマラノ・ビチェンティーノといいます。その名の通り、ビチェンツァ県にあります。
ビチェンツァは世界的天才建築家、パッラーディオPalladioが手掛けた世界遺産の町。
彼の建築様式はパッラーディオ様式と呼ばれ、アメリカのホワイトハウスにも取り入れられています。
古代ローマとギリシャの神殿がベースで、左右対称のとても分かりやすい様式。
イタリアの建築に興味がなかった人でも、この町に残るパッラーディオの傑作を見ると、誰もがとりこになります。
彼の影響はベネチアやトレビーゾ、パドバなど近隣の街にも広がりました。
ベネトだけでなく、イギリス経由でアメリカなど植民地にも伝わっています。

世界遺産、「ビチェンツァ市街とベネト地方のパラディオのヴィッラ」↓

ビチェンツァが、彼に負けないくらい誇っているのがバッカラ・ビチェンティーナ

Bacalà alla Vicentinaです。

ビチェンツァのホテル・レストランのシェフの動画をどうぞ。

材料/
戻したストッカフィッソ・・800g
EVオリーブオイル・・400g
00番の小麦粉・・100g
玉ねぎ・・2個
アンチョビー・・4枚
グラナ・・100g
牛乳・・400ml、塩

・鍋に玉ねぎの薄切り、皮付きにんにく1かけ、アンチョビ、油少々、塩を入れてソッフリットにする。
・バッカラを細く切って小麦粉をまぶし、鍋に入れる。玉ねぎで覆ってグラナとイタリアンパセリを散らし、牛乳で覆う。
・オーブンシートで覆ってナイフの刃先で穴をあけ、オリーブオイルをかける。
・160℃のオーブンで25分焼き、110℃に下げて2時間焼く。
・ポレンタを作る。熱湯に塩を加え、ホイッバーで混ぜながらトウモロコシの粉を振り入れる。かき混ぜながら25~30分煮る。
・オーブンシートを取り除く。
・皿にポレンタとバッカラを盛り付けてイタリアンパセリのみじん切り少々を散らす。油をまわしかける。

ビチェンツァどころかベネトが誇るベネトで一番有名な料理です。
主役はバッカラではなく干したメルルーサの棒鱈(ストッカフィッソstoccafisso)というちょっとややこしい料理。ドイツ語系のストッカフィッソという名前はビチェンツァの人には呼びづらかったのでしょう。
正確にはragnoという、ストッカフィッソの中でも最高品質のものを使います。
定番の付け合わせはポレンタ。

かなり作りやすいお手軽版のリチェッタのようなので、ビチェンツァのバッカラ信者会の、ビチェンツァの商工会議所に登録されている公式リチェッタもどうぞ。

バッカラ(ストッカフィッソ)は見るからに立派ですが、最高品質のものを使います。
玉ねぎのソッフリットは上に乗せるのではなく、間にはさみます。

オイルで煮る調理方法は、アヒージョにも通じるところがあるかも。
この料理と対になるもう一つのベネチア名物のバッカラ料理、バッカラ・マンテカートは次回。

遅くなりましたが、(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)11月号は10/30発売予定です。
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2022年9月25日日曜日

イタリアにはポレンタのフェラーリと呼ばれるとうもろこしの粉がある。スーパーカーの聖地はトウモロコシの名産地でもありました。

ポレンタは代表的な山の食文化の食べ物。
材料は、トウモロコシの粉、バター、チーズ、塩、こしょう。そして不可欠なのが、シェフの忍耐力。
さらに言うと、ポレンタとチーズの組み合わせは、山の大切な美食文化。
この場合のチーズはフォンティーナfontinaだ。
イタリアの代表的な穀物は小麦、というイメージがある。北イタリアの気候に合ったのが軟質小麦ととうもろこしだった。南イタリアではパスタの原料の硬質小麦は育つが、トウモロコシのポレンタはパスタほどは普及していない。
イタリアのチーズと言えば、パルミジャーノ・レッジャーノ、カンパーニアのモッツァレラ・ディ・ブファラ。フォンティーナはアオスタ地方南部で15世紀末から造られているチーズ。製造地区はバッレ・ダオスタ。地元品種の牛のミルクのセミコットチーズで、天然の洞穴で2~5か月熟成させる。生地はソフトで弾力があり、甘くてマイルドな味。熟成が進むと風味が強くなる。
フォンティーナ↓


上質のポレンタの粉として知られているのはヴィチェンツァのマラノMaranoやストーロstoro。北イタリアにポレンタを広めたのは、これらの地方にとうもろこし栽培を広めた農家だった。
ダビデ・オルダーニの『メイド・イン・イタリー

には、マラノのとうもろこしの粉は、“ポレンタのフェラーリ”と呼ばれている。と書いてある。

マラノのとうもろこしの収穫祭↓


なぜここに唐突にフェラーリの名が出てくるのか、スーパーカーのことは全然知らないのでピンとこなかったのですが、フェラーリの本拠地は、モデナのマラネッロというところにあるんだそうで、イタリアの車好きの聖地なんだそうです。
マラノはマラネッロに似ているので便乗しちゃったみたい。
マラノのとうもろこしは地元の農家が地元の品種と乾いた砂利がちな土壌でも育つ品種を交配させて作り出したとうもろこし。

スーパーカー好きは、フェラーリの本社に行くのが一生の夢なんだって。↓

ストーロはトレンティーノのストーロ平野で栽培されている品種でマラノより黄色でデリケートな味、両者はライバル同士。

ストーロのトウモロコシの収穫祭↓

とうもろこしは南米からイタリアに伝わって、独自の進化を遂げたみたいです。


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2022年9月24日土曜日

モルラッコ・デル・グラッパ。

ベネトの名物料理の一つがポレンタです。

ベネトのオステリア↓

肉料理にポレンタが添えてあると、ヨーロッパ料理感がアップしますねー。
ところで、動画の中にモルラッコ・デル・グラッパMorlacco dedl grappaというチーズが登場してました。このチーズはポレンタを添えて食べるチーズ(一番お金がかからないお手軽な食事)として知られていました。
モルラッコ・デル・グラッパはグラッパ山(標高1775m)のチーズです。
モルラッコはダルマチア地方からの移民が多い地方です。
第一次世界大戦の激戦地で。頂上には礼拝堂が建っています。モンテ・グラッパ↓

モルラッコのチーズ祭り↓

モルラッコ・デル・グラッパは、香りの強い牛乳のソフトチーズ。熟成が進むと香りは一段と強くなる。熟成は15~20日間。ピノ・グリージョ・デッレ・ベネチアなどのアロマのある白ワインが合う。ポレンタやゆでたホワイトアスパラガスなどに添える。
モルラッコ・デル・グラッパ↓


次回はポレンタの話です。


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2022年9月23日金曜日

平野と山地の間には牛のテリトリー、高原があった。

ベネトはチーズの地だそうで、チーズ作りの長い伝統があります。
その中でも今回知ったのは、高原と山の存在。
アジアーゴは高原altopianoのチーズで、モンテベロネーゼmonte veroneseは
山のチーズということ。
平野と山の間に高原、という分類があったのですね。
アジアーゴの産地、アルトピアノ・ディ・セッテ・コム―ニ↓
ドイツと言われても信じそう。

チーズの産地だけあって、移牧の風景は季節の風物詩。↓
この町は移牧の終点としても知られる。
ベネトのバッサノ・デル・グラッパの移牧の到着。
牛が多い。

下の動画はプーリアの移牧の到着。羊、ヤギ、ロバが主体。

高原のオアシス、山小屋↓高原や山の料理の食材のベースはチーズ、リコッタ、バター。

猛暑や台風が続く中で見ると、高原て天国みたい。いつも思うけど、北イタリアは地中海地方とはまったく別の世界。


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2022年9月22日木曜日

ワインから始まったベネトの美食の旅は、チーズ、サラミへと続いていきます。

ベネトのチーズの話。
アジアーゴの次は、ベネト料理のリチェッタに度々登場して気になっていたチーズ、モンテ・ベロネーゼMonte veroneseです。
ベローナの山、という名前だけど、その名の通りベローナの牛乳のチーズ。正確には広大な牧草地帯でもある標高1500~1800mのレッシーニ山地Lessiniaの丘陵や山岳地帯のチーズです。
甘い、牛乳やヨーグルトの香りのチーズ。熟成が進むと辛さが増します。
アジアーゴと同じく、フレスコとベッキオの2タイプがあり、フレスコタイプはりんごやラモンのいんげん豆に合う。ベッキオはくるみなどのナッツと相性が良い。食後にじっくり味わうチーズ。
アジアーゴと同じ山小屋のチーズ、モンテ・ベロネーゼ↓

モンティ・レッシ―ニのレストラン↓

上の動画でちょうど名前が出たベネトの名物サルーミ、ソプレッサsopressa↓
塩気が利いているのが特徴。甘いチーズによく合いそう。

山小屋の料理を出すレストラン↓



これらの料理を見ていると、トレンティーノやドイツの料理を感じます。

ソプレッサの話は次回に。



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2022年9月21日水曜日

植物性油脂のソースと動物性油脂のラグー、野菜と水分の乳化がポイントで、一番便利なのがトマトのパッサータでした。

今日はアジアーゴの料理です。とは言っても何も思い浮かばないので、スローフードの地方料理書、『イタリア・イン・クチーナ

のベネトのページを見てみました。
アジアーゴは確か山のチーズでした。アジアーゴは標高1000mの高原。
“本には、山はジビエ、きのこ、山小屋のチーズ、河魚のふるさとで、数多くの野菜やハーブ、ポレンタなどが渓谷を伝って下ってくる。下った先にはイタリアで一番大きな湖ガルダ湖、そしてベネチアと、ラディッキオ・ロッソからバッサノのホワイトアスパラガスまで、上質の野菜が育つ平野から、ワイン造りに適した丘陵地帯まであらゆる地形がある。
平野の名物は、ラモンのいんげん豆から、ビアローネ・ナノ米、とうもろこし、温暖なガルダ湖のオリーブ、柑橘フルーツと、およそあらゆるものが育ち、そのどれもが質の良さで国中に知られている。
ベネチアとそれに続く潟や海にも上質の海産物で知られる港がある。
ベネチアにはオリエントのスパイスやノルウェーのバッカラ、ゲットーのユダヤ料理も広まった。
さらに、親から子へと代々受け継がれる伝統のオステリアでは、美味しい地ワインを添えながら地元料理をつまむ習慣も生まれた。
こうして異文化との幸せな邂逅が行われながらベネト料理は出来上がっていった。

ベネト料理は、リゾットやポレンタなどブリーモ・ピアットの名物が多いので、今度はパスタの地方料理書、パスタ・フォルメ・デル・グラノ

を見てみました。
まずアジアーゴを使った料理はないか探してみたのですが、見つからないなあ、と思っていたら、材料の中に、こんなものを見つけました。
“formaggio stravecchio di malga(フォルマッジョ・ストラベッキオ・ディ・マルガ)”。
これは、山小屋の長期熟成チーズ、つまりアジアーゴ・ストラベッキオのことでは・・・。

料理はガルガ―ティ・コル・コンシエロGargati col consieroです。
ガルガ―ティは小麦粉とセモリナ粉、卵で作るマッケロンチーニ・リガーティの一種。ビチェンツァの伝統的パスタだそうです。ビゴリの話題の時に登場した、押し出して造るパスタ。コンシエロは、ラグー・ビアンコのこと。
本のリチェッタを読んでみると、香味野菜のみじん切りをバターとオイルでソッフリットにして、牛と豚、鶏、七面鳥の粗い合挽き肉を加え、白ワインとハーブを加えてじっくり煮込んだソースです。
パスタは小麦粉、セモリナ粉、卵の生地をトルキオで押し出した長さ7~8㎝、直径2~3㎜の穴あきパスタ。
パスタをラグーであえたら、おろしたアジアーゴ・ストラベッキオを散らす。

ここで気になったのが、ラグー・ビアンコragù biancoです。
つまりトマトが入らないラグー。

ひょっとして、このチーズは、地中海料理ではなく、中央ヨーロッパの山の料理に合うのでは、ないでしょうか。

山小屋のアジアーゴのコンクール↓

山のアジアーゴの作り手のアグリトゥーリズモ↓

アジア―ゴは標高1000メートルです。

イタリア料理アカデミーの本、スーゴとソース

では、ソースはオイルやバター、ラルドから発展していき、スーゴはハーブやスパイスから発展していったと分けています。
さらに動物性脂肪のバター、ラルド、パンチェッタ、ラードがベースのものと植物性脂肪のオリーブオイルがベースのものでは特徴が大きく違います。
オリーブオイルはベネチアの最も大事な交易物資で、その物流は管理されていました。
なので、ベネチアの支配地では、バターよりオリーブオイルが一般的な油脂で、オイルには玉ねぎ、にんにくなどのソッフリットで風味をつけました。ベネトの有名なソース、イン・サオールのように、ベネトで広まったのはトマトや動物性油脂を加えないソースでした。
パスタのビゴリも、ビゴリ・イン・サルサと呼ぶアンチョビのソースが広まりました。
ビゴリ・イン・サルサ↓

鴨のラグーのビゴリ↓

ソースがラグーになると、トマトと肉が加わって、かなりボリューミーになります。
トマトだけが加わると、軽くて滑らかな、そして真っ赤なソースになります。野菜と水分をつないで乳化させるのにトマトのパッサータは最適でした。おろしたチーズにも同じ効果がありますが、チーズと比べると粘りが出る、という欠点があります。

ラグー・ビアンコ↓


トマトのパッサータの代わりにオリーブオイルをたっぷり使ってます。

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2022年9月20日火曜日

アジアーゴはベネトを代表するチーズ。名前は聞いたことあっても、食べたことは・・・。

今日のお題はベネトのチーズその1、アジアーゴASIAGO。
『サーレ・エ・ペペ』誌のベネト特集の記事の1つです。
アジアーゴは、ベネトの自然に恵まれた美しい高原にある標高1000mの町(ヴィチェンツァ県)。人気の観光地。中央ヨーロッパの雰囲気が強く漂ってますね。
アジアーゴ↓

紀元1000年ごろに高原で飼育された牛のミルクが生まれたベネトで一番有名なチーズ。↓


アジアーゴは、名前を聞いたことはあっても、姿や味に接する機会はめったに無いチーズ。
アジアーゴ高原で飼育されたペッツェッタ・ネラ、またはブルーナという品種の牛乳が原料の山のチーズ。
フレスコとスタジョナートの2タイプがある。フレスコタイプは別名アッレーボallevoと呼ばれる。アッレーボとは農場という意味で、農場で特別に世話をして作ったチーズということを意味している。
熟成が進むと塩気や辛さが増すチーズで、熟成させたものは3〜5ヶ月熟成のメッザーノmezzano、最低9ヶ月熟成させるやや辛いvecchio、ストラベッキオstravecchioという各タイプがある。
スローフードは、アジアーゴ・ストラベッキオはイタリアでもっとも高貴で貴重なチーズと評価している。
アジアーゴの製造過程↓

アジアーゴ・ディ・アッレーボは熟成が進んだものはより個性的で、食後にナッツやパッシートワインと一緒にテーブルチーズとして食べたり、おろして使うこともできる。
アジアーゴ・プレッサートpressatoは1920年代に生まれたチーズで、途中まではアッレーボと同じ製法だが、仕上げに型に入れてプレスして、20〜40日熟成させて作る。甘くてデリケートな味。テーブルチーズやプリーモ・ピアットなど各種の料理に使える。若い白やロゼワイン、フルーティーでソフトなワインが合うチーズ。
バッサ―トに合うワインは、フレッシュで、山のハーブの風味やほろ苦さがあるガンべレッラ・スプマンテ。
厚くスライスしてライスサラダに入れたり、リゾットに使う。
メッザ―ノやベッキオにはベリーやスパイスの風味があるコッリ・べリチ・バルバラノ、
おろしても使えるストラベッキオにはブレガンツェやカベルネ・ソービニヨン。

コッリ・べリチはアジアーゴと同郷のビチェンツァのワイン。

アジアーゴは、様々な料理に使われていました。
リチェッタは次回。


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イタリアの料理月刊誌の日本語解説『(CIRクチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)

ハリーズ・バー

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2022年9月19日月曜日

ベネトのスペチャリタ

今日のお題はベネトのチーズです。
ワインの話題になると、ベネトはかなり活気づく地方。
ベネト料理となると、知名度はワインより落ちますが、ワインと共にベネトの名産物として知られているのが、チーズだそうです。
ベネトの代表的Dopチーズは8種類。
アジアーゴAsiago、カザテッラ・トレビジャーナCasatella Trevigiana、グラナ・パダーノGrana Padano、モンタジオMontasio、モンテ・ベロネーゼMonte Veronese、ピアーベPiave、プロポローネ・バルパダーナProvolone Valpadana、タレッジョTaleggio。

ベネトの名産物↓

ベネトのスペチャリタ16品↓

どの地方に属するか様々な説がある世界一有名なドルチェ1.ティラミス、ビチェンツァの伝統料理2.鴨のラグーのビゴリbigoli co l'anatra、3.リジ・エ・ビジrisi e bisi、中央ヨーロッパの影響を受けたビーツの詰め物のラビオリ、4.カスンセイcasunzei、5.女神の愛の伝説があるバレッジョのトルテッリ―ニTortellini di Valeggio、羊飼いが作った料理6.ニョッキ・コン・ラ・フィオレータgnocchi con la fioreta、変わった作り方のベローナの米、ビアローネ・ナノ米の7.リゾット・アッラ・イゾラーナrisotto all'isolana、ベネト料理のシンボル、8.バッカラ・アッラ・ビチェンティーナbaccalà alla vicentina、漁師が魚を保存するために考え出した料理、9.サルデ・イン・サオールsarde in saor、ボッリート用名物ソース、ベアラを添えるボッリート。10.パドバ風ボッリート、レッソ・エ・ベアラ・ベロネーゼlesso e pearà veronese e bollito padovanoパドバ―ノ。ベネチア料理のクラシック、レバーのベネチア風11.fegato alla venezianaは子牛のレバーよりマイルドな豚のレバーとキオッジャの玉ねぎの組み合わせ、
かまどで質素な素材を煮込む12.ソーパ・コアーダsopa coada、キオッジャ名物の濃いズッパ13.魚のブロデット、14.ベローナのカーニバルの主役、ニョッコを添えるパスティッサーダ・デル・カバルpastissada del caval、串焼きの回転グリル、15.トッレサー二・アッロ・スピエードTorresani allo spiedo、8つの角がある星の形のドルチェ 16.nadalinナダリン。


ベネトはドロミティからアドリア海まで、様々な地形に恵まれた地方で、30%は山岳地です。移牧の羊飼いや隊商が行き来してベネトの歴史は紡がれ、山麓ではミルクは美味しいチーズに加工されて、コミュニティーが形成されてきました。周囲の平野は河につながり、遠くのアペニン山地の食文化をベネトまで伝えました。ベネトでは、チーズには通貨の役割がありました。パドバ公の領土はアジアーゴ高原まで広がっており、地元の数多くのチーズが支払いに用いられていました。
手間をかけて作られる強いアロマのあるアジアーゴは、舌の肥えた支配者階級にも人気があり、広まりました。

アジアーゴの話、次回に続きます。

ベネト料理、面白そうです。


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イタリアの料理月刊誌の日本語解説『(CIRクチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)

ハリーズ・バー

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よもぎはドイツ語ではベアムート。かっこよくてお餅につける名前じゃないよね。トリノでパティシエが白ワインとよもぎから作りだしたのがベルモット。

今日のお題は、メイド・イン・イタリーの食材です。(CIR2022年1月号P.37の記事) その食材は、ベルモット。ピエモンテ州トリノで誕生したフレーバード・ワインです。 白ワインにスパイスとハーブを加えて香りをつけたもの。 ところで、ベルモットはドイツ語の“ヨモギWermut”が...