2019年6月28日金曜日

今年も4月25日にリジ・エ・ビジ食べるの忘れた。

総合解説」3/4月号はソラマメが影の主役でしたが、5/6月号はアスパラガスでした。
あと、ちょっと時期は過ぎちゃいましたが、この時期、毎年登場するのがグリーンピース。
正確に言えば、4月25日のベネチアの守護聖人、サン・マルコの日の料理、リジ・エ・ビジ。

今年のサン・マルコの日のサン・マルコ広場。

毎年必ず登場するので、もうネタ切れだろうと思っていたら、今年は、ベネチアのグリーンピースのリゾットがなぜ美味しいのか、という核心をついてきましたよ。

そもそも、イタリアのグリーンピースは甘くて美味しいことが知られています。
ベネトの美味しいグリーンピースの産地として知られているのはベネチアの西のコッリ・ベリチ地区。
コロニョーラ・ア・ベリチ(ヴェローナ)のグリーンピースの収穫祭。

さらに春の初物は新鮮で柔らかいと、大人気。
甘くて新鮮で柔らかい初物が出回る時期、5月初旬は、当然、みんなが食べたがるわけです。
意外と大変そうなグリーンピースの収穫(一般的には4月末から5月)

さらに。ベネチアのグリーンピースは潟の周囲で栽培されているため、塩気があるのが特徴なんだそうです。
ベネチアの潟地方の畑。

適度に塩気のある甘いグリーンピースと米の組み合わせが最高。
さらにグリーンピースのさやをブロードに入れてゆでるのはリジ・エ・ビジのお約束。
上級者は、ゆでたさやを裏漉ししてブロードに加えてて、濃くて味の強いブロードにします。
具体的なリチェッタは「総合解説」を御覧ください。


もう一つの主役は、米。
ヴィアローネ・ナノです。
ピエモンテあたりですとカルナローリですが、ベネチアではヴィアローネ・ナノ。
長くなってきたので、米の話は次回に。




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“地方料理~リジ・エ・ビジ”のリチェッタの日本語訳は、「総合解説」2017年5/6月号P.11に載っています。
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2019年6月26日水曜日

混雑する前の季節に湖畔でピクニックする時の料理

総合解説」は5/6月号になりました。

夏は、南イタリアや海辺の料理一色になって、冬はアルプスが大フィーチャーされるイタリアの料理雑誌ですが、夏でも冬でもないこの季節は、なんと湖でピクニックでした。
北イタリアの湖畔地方が注目される貴重な季節。
『サーレ・エ・ぺぺ』の記事には湖畔のピクニックの素敵な写真が載っていますが、撮影に協力したのはメルゴッツォのヨットクラブ。
メルゴッツォはピエモンテのマッジョーレ湖から分離した小さなメルゴッッォ湖畔の町。


この湖畔でピクニックをしている時の料理をイメージしてください。

最初の料理(P.3)は3種類のナッツを味付けしたナッツのカルトッチーニですが、料理の順番にはこだわらない、というピクニック料理です。

アーモンドはしょうゆとにんにく風味にしてココナッツオイルで炒めます。
仕上げにオレガノを散らすのがイタリアン。
ピーナッツはバルサミコ酢とブラウンシュガーで煮て塩、こしょう。
ピスタチオは塩と唐辛子をまぶしてオーブンでさっと焼きます。
そして巻いた紙に入れて別々にサーブ。

次はもっと手の混んだうさぎ肉とハムのテリーヌ。
香味野菜と一緒にゆでてゼラチンで固める、という発想はゆで鶏と同じですが、ケッパーやハーブ入りでイタリアンに。

そういえば、ピエモンテにはうさぎの名物料理がありました。
トンノ・ディ・コニッリオ。
調理方法とオイル漬けにする保存方法がマグロと同じなのでこう呼ばれるようになりました。
数ヶ月間保存できるそうです。

『トラディツィオーネ・グスト・パッシオーネ1巻』(P.32)によると、

なぜうさぎ肉を作ってすぐ食べるのではなく長期間保存するのかというと、料理のルーツ、ピエモンテでも田舎のランゲではうさぎは大抵の家庭で飼われていて、すぐに増えてしまうのだそうです。
なので大量に作って保存する必要があったのです。

トンノ・ディ・コニッリオ

冬は前菜、夏はセコンドとしてサーブするそう。

この他に、スパゲッティを少量ずつ平らまとめて揚げて、ミキサーにかけたブッラータのソースをかけたり、アボカドとズッキーニのサンドイッチに溶き卵をつけてバターで揚げて筒切りにしたり、リコッタとローストミニトマトをピッツァ生地で四角く包んでオーブンで焼いたカルツォーニなど、遊び心がちらちら見える料理の数々です。





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“湖畔のピクニック”のリチェッタは「総合解説」2017年5/6月号にのっています。
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2019年6月24日月曜日

春のミルクから作ったパルミジャーノが最高と思われていた時代もあった。

「総合解説」2017年5/6月号、発売です。

今月は初夏の料理満載です。
リチェッタは、リジ・エ・ビジ、スパゲッティのフリッタータ、スカロッパ、カルトッチョ、アスパラガス、etc・・・といったところ。

まずは今月の食材。P.2

パルミジャーノ・マッジェンゴparmigiano magengoを取り上げます。

パルミジャーノにマッジェンゴという形容詞がついていますね。
maggio5月に関係がありそうな名前です。
1984年まで使われていた呼び方ですが、それまでのパルミジャーノは、すべて4月1日から11月11日の間に作られていたそうです。

マッジェンゴは4月1日から11月11日の間に作られたパルミジャーノで、
他の季節に作ったものと何が違うか言うと、春に新鮮な、カロテノイド(チーズの色に影響する赤系色素)を含む草をたっぷり食べて放牧場から戻ってきた牛の最高のミルクから作ったパルミジャーノ。
最高のパルミジャーノとみなされていました。
色の濃さが味や栄養価の良さを錯覚させていたのです。
4月1日から11月11日というのはこの地方の一般的な農期。
それ以外の季節、つまり牛に干草を与える冬の間に作ったものはヴェルネンゴVernengoと呼ばれていました。
実は、栄養価も薄いと勘違いされていたこの冬の時期のパルミジャーノは、脂肪分を最も多く含んでいたそうです。

その後、飼育方法が進化して、年間を通して変化のない品質のチーズが作られるようになってこの分類は廃止されました。
それに、ひねくれて考えれば、色の濃い資料を与えて色の濃いチーズを作るということもできるわけで、パルミジャーノの質は単純に色だけでは判断できないですよね。
という訳で、最近の食通たちの関心は、肥料の詳しい内容と、牛の品種のようです。


そう言えば、最近はパルメザンチーズがすっかり定着して、気がつけばアメリカ産のものしか食べてないかも。
久しぶりに、例の歌でも聞くかなー。



パ、パ、パ、パ、パルミジャノ・・・




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2019年6月21日金曜日

グルテンフリーで注目されているそば粉

ピッツォッケリの話が出たところで、そば粉の話でも。
そばはアジア原産で、トルコ人によって14~15世紀にヨーロッパに伝わりました。
ヴァルテッリーナに伝わったのはその1~2世紀後です。
最近ではグルテンフリーの食材として注目されています。

グルテンフリーのイタリア料理の本、『ディ・ファリーナ・イン・ファリーナ

には、そば粉はブリニやガレットによく使われ、アメリカ風朝食のブルーベリーのパンケーキにもぴったり、とあります。
色が黒ずんでいて、独特の風味やほろ苦さがあるので、使うのをためらっている人も多そうですが、著者は、自らの経験から、カムット小麦との相性はとてもよい、と言っています。

カムット小麦はエジプト産の硬質小麦を有機栽培した小麦の登録商標で、普通の小麦よりタンパク質やミネラル、ビタミンが豊富な小麦。
この小麦に関しては、第二次大戦直後、あるアメリカ軍パイロットによってエジプトのDashare近くの墓で発見された一握りの4000年前の小麦がルーツで、知人がその一部を譲り受けて栽培したところモンタナに根付いたので、商標登録して古代小麦(品種改良がされていない、何世紀もの間手が加えられていない小麦)として大々的に売り出した、という、半分伝説と化した話が伝わっています。

カムット小麦の粉はとてもなめらかでデリケート。
ケーキやパンなど、様々な料理に使えます。

そば粉に話を戻します。
本の中にはピッツォッケリのリチェッタもあります。
麺はそば粉150gにファッロ粉50g、湯110~120ml、塩。

「総合解説」では、麺はそば粉400gに00番の小麦粉100g、水270ml、塩。
一般的にピッツォッケリはそば粉と小麦粉のミックスの麺です。


この動画もそば粉400gに軟質小麦粉100g。
クラシックな配合です。

ファッロですが、3種類あるファッロのうち、Triticum Spelta、またはSpeltaという品種はグルテンを含みます。

語源は不明など謎が多いピッツォッケリですが、考え出したのはそばの産地のヴァルテッリーナのテーリオteglioという村の女性料理人というのが定番の説。
テーリオのピッツォッケリ




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“ピッツォッケリのバリエーション”の記事は「総合解説」2017年3/4月号に載っています。
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2019年6月19日水曜日

素朴な田舎風パスタでも、地元の職人技が集結していたピッツォッケリ

次号の「総合解説」5/6月号は、6月24日発売予定です。
その前に今日は、3/4月号のリチェッタから。
“春のタリアテッレ”、“サルデーニャの子羊料理”、“肩肉料理”など、面白いテーマがありましたが、今回はピッツォッケリpizzoccheriの話です。

ヴァルテッリーナ料理の代表的1品で、そば粉のパスタ。

じゃがいも、サボイキャベツ、チーズ、そば粉、バターで作る典型的な北の田舎料理。
素朴な料理でも、上質の地元の産物を使えば、食通好みの特別な料理になります。

この料理のキーワードはヴァルテッリーナですね。

スイスとの国境に近いロンバルディアのアルプスの山の中にあって、バターとチーズとワインが美味しいところです。

ピッツォッケリに使うチーズはヴァルテッリーナ特産のカゼーラ。

同じくヴァルテッリーナ名物のビットとヴァルテッリーナ・カゼーラの違いがわかる動画。

ビットは牛が山の放牧地にいる夏の間だけ作る期間限定のチーズ。
脂肪分がとても多いので、加熱すると溶けてしまい、ピッツォッケリなど料理に使うビットは、若いタイプかヴァルテッリーナ・カゼーラ。

ヴァルテッリーナ・カゼーラ

カゼーラとビットはペアで語られることが多いチーズ。
“カゼーラ”とは、チーズを熟成させる小屋のこと。
昔は冬をこすために山から降りてきた牛のミルクで作りましたが、今では1年中作られています。
ヴァルテッリーナ料理に使われているのは、ほとんどがこのチーズ。
溶けやすくても冷えると再び固まるとろけるチーズ。
ビットに関しては「総合解説」1/2月号で、取り上げています。
伝統的製法にこだわる管理組合員の分裂騒動があったチーズですね。

山のバター

バターの型を作る職人さんもいます。

バターの型がこんなに手のかかる木工品だとは知らなかった。


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2019年6月17日月曜日

リグーリア人はフォカッチャをカフェラッテに浸す美味しさがわかるのが自慢

粉物の知識がやたら専門的に普及しているパスタとピッツァの国で、フォカッチャ王国のリグーリアのパンを紹介する本、『リグーリアの発酵生地』では、

フォカッチャに最適な粉を紹介するのも、やたら専門的です。
フォカッチャ以外にも、イタリアの小麦粉を理解する時には欠かせないことなので、訳してみます。
こんな感じ・・・。

小麦粉の強さを理解する唯一のシステムは、Wというシンボルで表される。
Wとはタンパク質の含有量を表している。
タンパク質の含有量が10%以下(W130~170)は、一般的な弱い小麦粉。
ビスコッティやケーキに適している。
11、12%(W170~240)は中程度の強さ。
13%(W240~350)は強い小麦粉。
14、15%はとても強い小麦粉(Wは350以上)。
またはスペチャーレ。
オーソドックスなパネットーネのような長時間発酵させて作る生地に適している。
よくある誤解は、Wで表示される強さを、精錬具合やふすまの含有量の割合と勘違いすることだが、これらは00や0、1、2という番号で表される。
2は全粒粉で、00番はふくまをほぼ含まない真っ白な粉だ。

つまりイタリアではタンパク質の含有量で粉を、薄力、中力、強力、最強力に分類し、ふすまの含有量で00~2に分類するのですね。
この本のリチェッタでは、小麦粉はすべてWか00番などの表記がついています。
タンパク質やふすまの量をすばり指定しているので、理系の人にはスッキリするのでは。

さて、使う粉が決まったところで、本は、最も重要なのはこねる作業だ、と続きます。

この作業こそが、発酵生地特有のあの香りと香ばしさを生み出す。
小麦粉の不溶性タンパク質がグルテンの網目を作り出し、空気を含んで酵母の働きが活性化する。
完璧な堅さ、つまりなめらかで弾力のある生地になると手や台からから簡単に剥がれるようになる。
強さが同じでも小麦粉はいつも同じではなく、水は徐々に加える必要がある。
5%は残しておいて、生地の状態を見て加えるようにする。
こねる時間と温度も重要だ。
こねすぎると繊維質になり、温度が高くなる。
こねが足りないと温度は低くなる。
こね終わりの生地の温度は二次発酵のために重要だ。
25~26℃程度が適切。・・・

さらに発酵の方法の説明があり、手でのこね方の説明があって、ようやく、ビーガ(発酵種)を使ったフォカッチャ・ジェノヴェーゼのリチェッタが始まります。

フォカッチャ・ジェノヴェーゼをカフェラッテに浸して食べる朝食の美味しさがすんなり理解できるのは、つまり塩味の食べ物を甘い飲み物に浸す美味しさがわかるのは、リグーリア人だけだろうと、冒頭から、かなり排他的。

これがジェノヴァ人の朝食。
フォカッチャの塩とオイルとミルクの脂肪の関係を真剣に解説しています。

ジェノヴァにいるみなさん、ぜひトライして、感想を教えください。




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2019年6月14日金曜日

ジェノヴァの食文化に深く根付いたフォカッチャ

リグーリアの発酵生地』は、大雑把に言えばリグーリアのパンの本ですが、まずフォカッチャの章から始まります。

今回は、章の冒頭の、「フォカッチャとは」、という部分をざっと訳してみます。

focacciaとは、パン生地に各種の材料を、トッピングする、生地に練り込む、生地ではさむなど様々な方法で加えて味付けしたもの。
その歴史はパン同様古く、語源はfocus(fuoco/火)で、火で焼いたものという意味。
紀元前5世紀にかまどが発明されて、熱した石の上か灰の下で焼くようになるまでは、挽いた穀物の粒と水を混ぜた生地を焼いて食べていたが、それがフォカッチャの前身だ。
カルタゴではファッロや硬質小麦の粉に卵、チーズ、蜂蜜を加えた生地で作っていて、ローマのフォカッチャより美味しいと言われていた。
やがて時と共にフォカッチャはあらゆる階層、地方へと広まっていく。
フォカッチャは、夜通し働いたパン屋が、空腹と暇を持て余してまだ発酵していない生地を少量取って直接かまどに入れて焼いたパンとか、かまどの温度が適温か見るために生地からつまみとった小片を型に入れずに直接かまどの底に載せて焼いたもの、と言われている。
リグーリアにはこの種のパンがたくさんあり、書物に残る最古のものは、ルネサンスの時代に遡る。
薄い詰め物入りトルタもfocacceフォカッチェと呼んでいたので、スキアッチャータタイプの薄焼きパン全般を意味したのだろう。
ジェノヴァのフォカッチャは、all'olio/オイル風味が多い。
フォカッチャの典型でいちばん有名なものといえば、これだ。
ベースは軟質小麦粉、イースト、水、オリーブオイル、塩で、
これにセージ、ローズマリー、オリーブ、玉ねぎなどを加える。
すでに16世紀のジェノヴァでは広く普及していて、パン屋では早朝から売っていた。
バールではカップッチーノに添えた。
昼の軽食、学生の間食、ビーチで食べる夕食など、一日のあらゆるタイミングでフォカッチャを食べた。
リグーリアの最も古いストリートフードでもある。

なるほど、この歴史を無視すれば、フォカッチャのライバルはハンバーガー、と言い切ることもできますね。

本では、粉、酵母、発酵、焼成と、さらに詳細な内容へと続いていきます。
あの美味しさを生み出すには、この部分が重要。


上の動画の職人さんたちは14歳からパンを作っているそうですよー。
完璧な手作業で、若手でも手慣れたもの。
年配の親方風職人さんは、フォカッチャも女性もきれいに化粧した美人がいい、と言いながらフォカッチャにオリーブオイルを塗ります。
この手の話は、うんざりするほど必ず聞かされますが、レポーターの女性は初めて聞いたみたいにニコニコ笑ってますねー。
この対応。素晴らしい。
焼き立てフォカッチャのかっこいい食べ方もありました。

ジェノヴァのフォカッチャもフォカッチャ・ジェノヴェーゼとしてのブランド意識に目覚めたようです。

この奥手な感じがリグーリア人ですねー。




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2019年6月13日木曜日

ガラパゴス化するリグーリアのフォカッチャの本

初めてジェノヴァを訪れた時、フォカッチャ天国ぶりに驚きました。
ナポリで初めてピッツァを食べた時、それまで食べていたピッツァは偽物だったんだ、ということに気がついて愕然としましたが、それと同じくらいの衝撃がありました。
そしてリグーリでは、食べ物のガラ系現象が起きる、ということにも気が付きました。
ピッツァがナポリ人と共に世界中に広まり、世界中からナポリに本場のピッツァを食べに人が集まる、という現象は、ある意味、奇跡なんですね。
フォカッチャは、確か世界中に広まりました。
でも、ピッツァ・ナポレターナのように、伝統を頑なに守る、という行動が綺麗サッパリ抜けていました。
その結果、フォカッチャて何?
という質問の答えがあやふやになり、フォカッチャの本場はジェノヴァだということも、ろくに知られていないという現状では。
ジェノヴァの産物に対するこだわりも少なく、世界中どこでも作れるパンとして広まりました。

でも、ジェノヴァや近隣の人にはめちゃくちゃこだわりがあります。




この、ジェノヴァ人があまり声高に主張しないこだわりを本にしたのが、新入荷の本、
『リグーリアの発酵生地』です。

本にもリグーリア人のアピール下手が現れているようで、ナポリ・ピッツァだったら立派な大型本にするような専門的な内容なのですが、ぎゅっとコンパクトにそっけなくまとめた本で、リグーリアの外に広める気、ないですねー。

本は、まずパンの大まかな説明から入っていきます。
この話、なかなか面白いですよ。
ヨーロッパにパンが広まる経緯が分かります。

「パンは小麦粉、水、塩、イーストをこねた生地をオーブンで焼いた食べ物で、香りと味が混ざり合い、過去の記憶や象徴としての価値、宗教的、地域的意味も含有した、栄養的、文化的側面も知らなくては語れない食べ物。
その歴史は人間が穀物の栽培を始めた時代にまで遡る。
約2万年前、人は穀物を水に浸して柔らかくして、または炙って食べていた。
粉にする技術が発明されると(最初はエジプトで、石臼で挽いた)粉を粥状にして食べた。
さらにこれを熱した石板で焼くようになる。
このガレットが、パンのルーツと考えられている。
おそらく忘れて放置された生地が偶然発酵し、それを焼いたところ、ふんわりして軽い味の良い食べ物になったのだった。
・・・
第二次大戦直後まで、パンは家で下ごしらえをして、村の共同かまどに運んで週に1回焼いていた。
60年代の好景気の後は、パンを直接パン屋で買うようになり、精製した白いパンが良い暮らしの象徴になった。
現代は情報が行き渡り、再び自家製パンや天然酵母の良さが知られるようになり、全粒粉パンや天然酵母パンが再評価されている。・・・」

イタリアの食文化は、第二次世界大戦とその後の好景気の時代を経て大きく変わります。

さて、次回はいよいよフォカッチャの話です。


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2019年6月10日月曜日

ティジェッレとクレッシェンティーナの違いは人間国宝とバイトの違い

エミリア・ロマーニャの薄焼きパン、ピアディーナ。
そしてピアディーナにそっくりで具を挟んで焼くカッソーネ。
ピアディーナにそっくりと言えばクレッシェンティーナcrescentinaとティジェッレtigelle。

ティジェッレ

モデナのクレシェンティーナ専門店

生地は小麦粉、水、塩、オリーブオイルかラード、イースト。
どちらも小型のフォカッチャの一種。ピアディーナとの違いは、ピアディーナが具をのせて半分に折って食べるのに対して、モデナ名物のストリートフード、クレッシェンティーネは、焼いてから2枚に切って具をはさむ、というあたりでしょうか。
ティジェッレは上の動画で紹介しているようにティジェッラという、“花びらが6枚のバラの形”がついた型を暖炉で熱し、そこに生地を挟んで焼きます。
比較的最近までこの方法が用いられていましたが、鉄や金属製で電気で加熱する方法が普及してモダンな製法が広まるとあっという間に姿を消してしまいました。

当時の具は刻んだ豚のラルドにローズマリーとにんにくのみじん切りを加えたペストを塗り、パルミジャーノを散らして食べました。
つまりメインはラルド(背脂の塩漬け)です。
生ハムやサラミよりずっと安くてボリューミーな食材でした。
その他の具は、肉の煮込み、サルーミ、チーズ、ジャムなど。
具をのせる、はさむ、塗る、と、形によって違いが生まれたんですね。

1001スペチャリタ』によると、


クレッシェンティーナはモデナの山の食べ物で、現在ではモデナ地方を象徴する名物になっていて、あらゆるバールやリストランテ、収穫祭で出しているそうです。
ティジェッレに入れて焼くと直径12cm、厚さ1~2cmのフォカッチャになりました。
今ではティジェッレで作っている人は人間国宝なみの貴重で頑固な職人。
ティジェッレを使わなければバイトでも焼けます。

さらに複雑なことに、ボローニャのクレッシェンティーナはモデナではニョッコ・フリット、パルマではトルタ・フリッタと呼ばれる全く別の食べ物でした。

そう、生ハムの相棒ですね。


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“ストリートフード”の記事の日本語訳は「総合解説」2017年3/4月号P.30~に載っています。
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2019年6月7日金曜日

トロイ戦争とピアディーナの神がかったつながりは・・・

今日はストリートフードの記事から、カッソーネです。
北伊の、といってもロマーニャ地方ですが、ストリートフード。

この地方の名物ストリートフード、ピアディーナの仲間。
詰め物入りピアディーナです。

上の動画では、
トマトソース入りのロッソ、
ほうれん草入りのヴェルデ、
サルシッチャとじゃがいも入り
の3種類のカッソーネcassoneを紹介しています。
総合解説」ではサルシッチャとじゃがいも入り、ほうれん草入りの2種類のカッソーネをミニサイズのカッソンチーニcasoniciniにアレンジしています。
伝統的なカッソーネはピッツァサイズ。

ピアディーナ→カッソーネ、クレッショーネ、ティジェッレは、
どれも同じ生地を薄く伸ばして同じ具を挟んで同じ形に閉じてテストで両面を焼きます。
ピアディーナは焼いた生地に具をはさむタイプ、残りは具を詰めて焼くタイプ。
どうやら全てのルーツはピアディーナですね。

テストを使ったピアディーナ作り。


イタリアの地方料理のウンチクの本、『1001 スペチャリタ』によると、


ピアディーナは、発酵させない、オーブンでなくテストというテラコッタの皿で焼く、という点から、ピッツァよりもっと質素なパンのストリートフード、という立ち位置。

テストは中世に広まった道具ですが、ピアディーナには、もっと壮大な歴史があるのです。

主役は、アイネイアースというギリシャ神話に登場する半神の英雄。
彼はトロイ王の息子でしたが、木馬で有名なトロイ戦争に敗れて、お告げに従ってイタリアを目指して船で逃げます。
そしてたどりついた場所に町を作りました。
これが後のローマと言い伝えられています。
ギリシャ神話がからむとよく知っているローマの話とは大分違うのですね。

船で逃げていた時、アイネイアースは船員たちの飢えを満たすために、普段は皿として使っていた小麦粉と水で作った平らな丸い生地を食べることを許可します。
これがピアディーナのルーツだそうです。
もちろん諸説あり。
料理を乗せる皿がパンのルーツという話は、ピッツァの歴史あたりでよく登場するので、実は神話の世界の話だったとわかっても、ころっと信じちゃうなあ。

カッソーネについても書いてありました。
カッソーネはリミニや沿岸部で人気の食べ物で、内陸部ではカボチャ、じゃがいも、リコッタの具などもあるそうですが、最近は生ハムとグリル野菜、またはナポリのカルツォーネ風のモッツァレッラとトマトが人気。
ピッツァが人気になるにつれて、ピアディーナとピッツァが合体したピダーツァpidazaなるものも生まれたそうです。
ピアディーナの生地にピッツァ風トッピングをしたものです。

軽い気持ちでピアディーナの歴史を調べたのですが、ギリシャ神話の世界にどっぷり浸ることになるとは、想定外な壮大さ。
クレッショーネとティジェッレの話は次回に・・・。


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“ストリートフード”の記事とリチェッタは「総合解説」2017年3/4月号P.30に載っています。
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2019年6月5日水曜日

強力な影響力を発しているジュゼッペ・ダクイノシェフ

今月のシェフはジュゼッペ・ダクイノ氏。
ヴェローナ県のガルダ湖畔のバルドリーノにあるインターナショナルなワイン・ルレのリストランテ・ロゼレータのシェフです。
アマルフィ、アメリカ、ドバイ、フランスで腕を磨いた後にイタリアに戻り、ロゼレータのシェフになりました。
イタリアの上質食材を活かしたシンプルな地中海料理を作ります。


アーティストと職人のマインドを持ったインフルエンサーといった感じですね。
ルールや常識に取らわれない自由な発想で料理する人です。

そのことは、「総合解説」にのせた彼のリチェッタからも感じられました。
たとえば、スパゲッティは、塩ではなくコラトゥーラを加えた湯でゆでたり、
フォアグラの上に生のマグロをのせる、という自由さ。

ロゼレータのゴージャスなプランゾ。

は~。優雅でんなあ。
ホテルは5つ星。

デザート、“チョコレートとラズベリー”のリチェッタの日本語訳は「総合解説」P.47にのせました。
ラズベリーのムースとゼリーをプラリネのベースに重ねてチョコレートのクーポラで覆った1品。



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“シェフ~ジュゼッペ・ダクイノ”の記事は「総合解説」2017年3/4月号P.44に載っています。
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2019年6月3日月曜日

ベネチアの影響を受けたパドヴァのドルチェ

パドヴァがこんなに話題が豊富な街だとは、全然知りませんでしたよ~。
個人的には、ルクサルドのマラスキーノの瓶が、ムラノ製、つまりベネチアングラスだったなんて、驚きです。
もちろんパドヴァ県に移った今は違うんだろうけど、もしそうだったらもったいなくて瓶捨てられないよ。
あ、その前にルクサルドのマラスキーノ買ったことなかったのでした。

パドヴァはべネト州にあり、ベネチアにも近いので、その影響をたっぷり受けています。
その一つがカフェ文化。

パドヴァの老舗カフェ、ペドロッキ。


パドヴァの記念碑的建物で、ヨーロッパのカフェの中でも重要な1軒。
5年前に経営者が変わって、歴史的だけどwifi完備のモダンなカフェになりました。
昼も夜も営業していたので、ドアのないカフェcaffè senza porteと呼ばれていました。
1831年創業です。

パドヴァのお菓子もベネチアの影響大。
とうもろこしの粉とベネチアから届くスパイス入りのビスコッティ、ザレーティzaletiは、ベネト州の名物。
ポレンタクッキーという英語の名前も美味しそう。


さらにパドヴァでパスティッチェーレと言えば、1997年のパティシエのワールドカップで優勝したルイジ・ビアゼット氏。

パドヴァのパスティッチェリーアで一番売れているのはドルチェ・デル・サント。

パドヴァの守護聖人、聖アントニオに捧げたドルチェです。
上の動画のリチェッタでは、パイ生地にあんずジャムを塗ってオレンジのカンディート、レーズン、アーモンドを入れ、ホイップした卵と砂糖に溶かしバター、振るった小麦粉と片栗粉を加えた生地を流し入れ、パイ生地で閉じてオーブンで焼きます。
典型的なイタリアの田舎風ドルチェですね。
スポンジ生地で作るバージョンやアマレッティ入りバージョンもあります。

締めはパドヴァ料理の一つ、コウイカのトマト煮のポレンタ添え。(音無し)
ホテル学校の生徒が作ります。

・ポレンタを作ってアルミのカップに入れる。
・玉ねぎのみじん切りをオリーブオイルでソッフリットにしてローリエを加え、色がつかない程度に煮る。
イカの細切りを加えて混ぜ、白ワインをかけてアルコール分を飛ばす。
・トマトペーストを加えて40分煮て塩味を整える。
・皿にポレンタをあけて横にイカを盛り付ける。縁にトマトの粉を散らしてイカにイタリアンパセリを散らす。

おすすめ本はグイド・トンマージシリーズの『ヴェネチア




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“グルメ気候~パドヴァ”の記事は「総合解説」2017年3/4月号P.52~に載っています。
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マリア・ルイジアの小さな街、パルマのバターとグラナの娘、アノリーニ。本物は牛と去勢鶏のブロードでゆでます。

昨日の最後にサラっと登場したアノリーニですが、このパスタ、(CIR12月号P.5)にもリチェッタが載っていました。クルルジョネスの次の料理です。花の形の可愛い詰め物入りパスタ、なんていうのがこのパスタの印象ですが、イタリア人は、こんな風に思ってるんですね。 「マリア・ルイジアの小...