2014年1月30日木曜日

『カルロ・クラッコの地方料理』

今日は、カルロ・クラッコシェフの新刊のご紹介です。
前作『クールにしたいならエシャロットを使う』は、イタリアでは相変わらず売れていますが、昨年の11月に、早くも次が出ました。
『A QUALCUNO PIACE CRACCO』というタイトルですが、わかりにくいので、クレアパッソでは、『カルロ・クラッコの地方料理』という日本語で販売することにしました。
この本の表紙にも、「LA CUCIN REGIONALE COME PIACE A ME」とはっきり書いてある通り、クラッコ氏が好きな地方料理を集めた本なんです。

そもそも、カルロ・クラッコとは、どんな経歴の人なのでしょうか。

彼がオーナーシェフを務めるミラノのリストランテ・クラッコのこちらのページによると、1965年、ヴィチェンツァ生まれで、ヴィチェンツァ近くのレコアロ・テルメ・ホテル学校卒業。
この学校は1963年創業で、ヨーロッパホテル観光学校協会所属。
プロとしての最初の仕事は、イタリア最初の3つ星店、ミラノのグアルティエーロ・マルケージ。
その後フランスに3年間住み、アラン・デュカスやルカス・カールトンで働き、イタリアに戻ってフィレンツェのエノテーカ・ピンキオッリに入り、この店にも3つ星をもたらします。

さらにエルブスコのマルケージの店、ラルベレータ、ミラノの美食の殿堂ペックと提携したクラッコ-ペックと、いくつか店を渡り歩き、しかも、そのどれもが短期間でミシュランの星やガンベロ・ロッソのフォークを獲得する凄腕シェフ。
2007年に、リストランテ・クラッコのオーナーシェフとなりました。
2012年にはシンガポール航空のビジネスクラスとファースト・クラスのメニューを担当。
シンガポール航空のニュースページ
余談ですけど、シンガポールって、ほんと最近すごいね。
2013年からは、ミラノの5つ星ホテル、パラッツォ・バリジ・ホテル・エ・グランスパのビストロとレストランの経営に取り組んでいる。
パラツッォ・パリジ・ホテル
 ↓




いやあ燦然と輝くまぶしい経歴ですねえ。
しかもイケメンで、セクシーと評判。
シェフのインタビュー。
 ↓



イタリアを代表するスターシェフですね。
彼の本を読むと、すごーく勉強している人だとわかります。
『カルロ・クラッコの地方料理』の序文は、
「イタリアの地方料理について話すことは、迷路に入り込むようなものだ」
で始まります。
「はっきりした目的地があるのに、気が付くと、あっという間にはるか遠くに飛ばされているのです。
場所だけでなく、時代や文化や伝統の中も飛ばされてしまいます」
「例えば、サクリパンティーナを調べると、リグーリアから出発したのに、すぐにスペイン王家の宮廷に迷い込んでしまいます」
「イタリア地方料理の歴史はイタリアの歴史であり、時には国境も越えます。
しかし同時に、各町ごとに時を告げる鐘楼があり、他では手に入らない地元にしかない無数の食材があるのです。」
「ピエモンテのベテラントリュフハンターからこんな話を聞いたことがあります。
私の人生で食べた最高のリボッリータは、アレッツッォの友達の家で食べたものだった」

いやあ、全くその通り。
私もこのブログをアップするために料理を調べていて、気がいたら全然別な話を追いかけていたということの繰り返しなんです。
しかも、歴史を調べだすと芋づる式に調べなきゃならない別の歴史がずるずる引っかかってくるし、20年以上翻訳していても、初めて聞く名前の食材とかざらだし。

だから、イタリアの地方料理の本を書くというのが、どんなに大変なことかも想像つきます。
しかも、かなりの頑張り屋のようで、イタリアの20ある州のすべての料理を数点ずつ選んでいるのです。
確かに、1000点とか、膨大な数の地方料理を集めた料理書と比べると、数は少ないです。
でも、そのどれもが実に詳細に調べ上げられていて、リチェッタには一流シェフの感性も加えられています。

ちょっとリグーリアのページを見てみると、いきなり、見たこともないような濃厚なペスト・ジェノヴェーゼの写真が。
料理の説明は、プラのバジリコへの熱い思いから始まります。
さらに、ロブションで出会って衝撃を受けたというリグーリア風野菜のズッパへと話は広がっていきます。
野菜スープの仕上げにペスト・ジェノヴェーゼを加えるということを説明するために、ロブションの野菜スープのリチェッタも、ズッキーニは完璧に5㎜角に切らないとシェフが怒る、といったことまで、事細かに書いてあります。
早速やってみよーっと。

次の料理はバッカラかタラのイン・ジミーノ。
イン・ジミーノの意味とか、知らなかったなあ。
オリジナルはこうだけど、私のリチェッタではこうしたとか、詳しく書いてあるなあ。
相当几帳面な人だよ、クラッコシェフは。

前著は、イタリア料理の教本といった感じでしたが、新作は、地方料理を、自分が好きなもの、という基準で選んで、とことん研究して、彼の目線で再構築した、ある意味、とても個性的な地方料理書です。
どちらも若手料理人さんに読んでもらうことを意識して書いているような優しさがあふれています。
お勧め。



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2014年1月27日月曜日

カルロ・クラッコのズッパ・イングレーゼ

ズッパ・ドルチェの続きです。
『サーレ・エ・ぺぺ』の記事によると、ズッパ・イングレーゼに代表されるズッパ・ドルチェは、
イギリスの貴族たちによってシラバブのトライフルがイタリアに、
詳しく言えばイギリスの貴族との交流が盛んだった16世紀のエステ家の宮廷料理人に伝わって、アレンジされました。
スポンジ生地でなく、地元のブラザデーラbrazadelaという素朴なチャンベッラにクレーマ・パスティッチェーラとチョコレートをかけたものになったんだそうです。

下の動画のタイトルはボローニャのブラザデーラですが、フェッラーラのブラザデーラと呼ばれることも多いようです。
かつてはエミリア・ロマーニャ地方の家庭の定番のお菓子だったよう。
たしかにクリームによく合いそう。



ブラザデーラの代わりにスポンジ生地を使って、さらにアルケルメスに浸したのが、ズッパ・イングレーゼ。

カルロ・クラッコの本、『クールにしたいならエシャロットを使う』には、ズッパ・イングレーゼのリチェッタがあります。
それによると、彼は大御所イジニオ・マッサーリ氏からズッパ・イングレーゼを教わったのだそうです。
それは、卵と砂糖がたっぷり使われた、リッチな、昔ながらのオーソドックスな味のズッパ・イングレーゼで、一般的なエミリア・ロマーニャの家庭料理バージョンとは違ったものです。

リチェッタは、スポンジ生地、チョコレートクリーム、クレーマ・パスティッチェーラ、シロップから構成されていて、料理教本スタイルのこの本では、レベル1に分類されています。
つまり基礎中の基礎です。
特にクレーマ・パスティッチェーラは、レッスン・ナンバー22として、懇切丁寧に説明していますよ。
クラッコのカスタード、どんな味なんでしょうね。

ネット上には、彼のリチェッタでズッパ・イングレーゼを作った人たちの作品がたくさんアップされてます。
確かに、イタリアのドルチェの入門編にふさわしい一品だなあ、イギリスっていう名前だけど。





ところで、カルロ・クラッコさんは、去年の11月に、『A qualcuno piace Cracco』という本を出しました。
なんと、今度は地方料理の本です。
20あるイタリアのすべての州から、厳選した地方料理を取り上げています。
今度も面白いですよー。
近日中に発売予定です。
詳細は次回。


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関連雑誌;『サーレ・エ・ぺぺ』2012年1月号、“ズッパ・ドルチェ”の記事とリチェッタは、「総合解説」2012年1月号に載っています。

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2014年1月23日木曜日

ズッパ・ドルチェ

今日はドルチェの話。
ズッパ・ドルチェzuppa dolceで、ドルチ・アル・クッキアイオdolci al cucchiaioという分類に入る、ドルチェです。
直訳すれば、甘いズッパでスプーンで食べるドルチェ。

甘いズッパといえば、最もよく知られているのは、ズッパ・イングレーゼ。

下の写真は一人前サイズのズッパ・イングレーゼ。
すごくお洒落。
ちゃんとスプーンを添えて写真を撮るところに、センスを感じるなあ。

zuppa inglese


普通は洗面器サイズ。
これは何人前でしょう。

zuppa inglese


でも、そもそも、ズッパって何?
その響きからして、スープっていう意味だとは想像がつきます。
つまり、汁物ですよね。

例によって、ガストロノミー大百科事典で調べてみました。

すると、ズッパzuppaとは、ゴート語の“suppa”が語源で、その意味は、汁に浸したパン、だって。

中世の領主様は、皿にブロードを注いでパンを1枚敷き、その上に切り分けた肉などのご馳走をのせて、食べたんだそうです。
スープに入れる炭水化物は、パスタや米の場合もありますが、肉をのせるためなら、やっぱりパンですね。
そのせいか、パスタや米を入れたスープはミネストラで、ズッパじゃないですね。

なーるほど、こうすればパンが美味しい出汁を吸い込んで、お鍋の締めみたいになって一段と美味しくなるのか~。
というのは平民の考え。

なんと、ご領主様は、肉は食べるけど、このパンは残しておくんです。
それを使用人が煮て、夕食としてありがたくいただく、というわけ。
美しき残酷な世界ですねえ。
究極のもったいないだなあ。
でも、よく考えてみると、食べ物の歴史はもったいないの歴史なんです。

その昔、人間は、火を使うことを覚え、道具を作り、食料をゆでて食べることを発見しました。
そのゆで汁を再利用するという発想は、料理の世界の革命だったんだそうです。
最初は粉を煮てお粥にし、やがて穀物や豆を煮るようになりました。

麺を煮る鍋の締めは、多分、豆の次の段階。
さて、次はどう進化するのか。

で、ズッパ・ドルチェですが、言われてみれば、ドルチェのズッパにも、パンが入ってますねー。
パンと言うか、スポンジ生地やサヴォイアルディですけどね。

で、よく知られている通り、イタリアの甘いズッパのルーツはイギリスのトライフル(下の写真)。

おー、イギリスでも洗面器サイズですねー。

Trifle - YUM!


こうやってスポンジ生地を敷き詰めるようすから、ズッパと名付けたんでしょうねえ。


English Trifle, Step 4

イングリッシュ・トライフル、別名、ズッパ・イングレーズだって。





トライフルには無数のバリエーションがありますが、イタリアに伝わったのは、シラバブというクリームをかけたものだそうです。
なので、アマレット・シラバブをどうぞ。
砕いたアマレッティ(マカロン)にアマレットリキュール入りのダブルクリームをかけた超美味しそうなデザートです。
イギリス人の有名料理研究家、ナイジェラさんが作ると、やけにセクシーですね。




こんなデザートが、ルネサンスのイタリアに伝わったんです。
それからの話は次回に。


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関連雑誌;『サーレ・エ・ぺぺ』2012年1月号、“ズッパ・ドルチェ”の記事とリチェッタは、「総合解説」2012年1月号に載っています。

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2014年1月20日月曜日

1月のパネットーネ

今日はパネットーネの話。
あれ、なんだろう、この過去のもの感。
あれから一か月もたってないのに。

Home made Panettone - IMG_8656

なんだかレトロな雰囲気漂わせてます。

今回は、『ア・ターヴォラ』の記事、“クリスマスだけじゃなパネットーネ”の紹介ですが、このタイトルがぶっちゃけているように、別の言い方をすれば、パネットーネの販促記事です。

パネットーネ業界は、第二のスプマンテの座を狙っているようですよ。
かつてイタリアでは、スプマンテは年末年始にしか売れない飲み物だったんです。
でも今では、年中飲むようになったらしいです。
日本と同じですねー。


で、パネットーネを広めるなら、クリスマスのパネットーネがまだ残っている今だ!
なんです。

新しいパネットーネの食べ方を提案するのは、パネットーネ界の巨匠で、オートクチュール料理のグランシェフ、ダリオ・ロイゾン氏。

ロイゾンのパネットーネができるまで
 ↓



彼のパネットーネは食材のコストを気にしないのがポイントだそうで、お値段も素晴らしい。
使っている材料は、マクランのトルコラート、プロセッコ・ディ・ヴァルドッビアーデネ、シチリアのオレンジのカンディート、カラブリアのディアマンテのチェードロ、チアクッリの晩成のマンダリンオレンジ、マダガスカルのバニラなど、それ自体が貴重なものばかり。
webページ(こちら)を見るかぎりは、高級路線を突っ走ってます。

記事では、パネットーネを使った彼のリチェッタを3点紹介しています。
まずはフォアグラとパネットーネのミッレフォーリエ。
パネットーネは、マンダリンオレンジ入りのもの。
これはかなりゴージャスな一品。
次は、子牛のヒレ肉にパネットーネの粉をまぶしたステーキと、裏漉ししたバネットトーネ入りのじゃがいものニョッキ。
コストパフォーマンスすごそう。

もっとすごいのは、下の動画のパネットーネのサンドイッチ。
正直言って、ロイゾンのお高いパネットーネでこれができる人は、かなりの太っ腹。
ロイゾンさんも、これらの料理は、ミシュランの星付きの店で出すような料理だと思って考えたはず。 





お手頃な値段で、しかも、今、この時期に余っているパネットーネがあったら、分厚いヒレ肉にまぶしてステーキにしてみたいと思う今日この頃でした。

もう一人のパネットーネの巨匠、というか、イタリアのドルチェ界のドン、イジーノ・マッサーリ氏のパネットーネ。




1月のこの時期に、パネットーネ猛烈に食べたくなってきたー。
どこで売ってますか?

朝食にパネットーネのフレンチトーストって、美味しそう~。

First Breakfast

French toast and Frenched Panettone


#breakfast #tasty http://www.williams-sonoma.com/m/recipe/french-toast-caramelized-bananas.html (Used leftover panettone, so good)


コーヒーに添えてもおされ。
ロイゾンのパネットーネとカップッチーノの朝食


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関連雑誌『ア・ターヴォラ』、“クリスマスだけじゃないパネットーネ”の解説とリチェッタは、「総合解説」2012年1月号に載っています。

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2014年1月16日木曜日

ブランケット

今日はフランス料理の話。
とは言っても、イタリアの家庭でも一般的なフランス料理です。
イタリア料理には、ちょいちょいフランス料理が出てきますよね。
今回の料理、“ブランケット”も、イタリア料理の立場から見たフランス料理の話です。
『サーレ・エ・ペペ』の記事です。

この記事は、こんな風に始まります。

「フランス人て、料理にちょっと特別~な雰囲気の名前つけるの、うまいですよねー」

ほお~、なんとこれは、イタリアの料理用語を翻訳する時、よく感じることそのものですよー。
例えば、ミッレフィオーレはミルフィーユ、タルタラはタルタル、ベシャメッラはベシャメルなんて感じで、ちょっとした料理用語も、イタリア語よりフランス語のほうがお洒落にすんなり聞こえるんですよねー。

で、ブランケットblanquetteですけど、これは毛布のことじゃないですよ。
基本のフランス料理の一つ。
肉の煮込み料理です。
難しく言うと、19世紀フランスの中産階級の食卓の主役、だったんだそうです。
語源はblancブラン。
フランス語で“白”です。

こんな料理。
 ↓
Blanquette de veau, or as the waitress pronounced it,


定番の付け合せはライス。
どこからみても、21世紀初頭の日本の庶民の間でもお馴染みの、ホワイトシチューですね。

まず、主な材料は、白肉。
つまり、子牛、鶏、七面鳥など。
煮込むソースは生クリーム、ホワイトソース、白玉ねぎ、ホワイトマッシュルーム。
バリエーションでポロねぎ、かぶ、セロリアック、じゃがいもなどの野菜。
全部白。

これをブランケットと呼ぶと、イタリア人にはとても魅力的な響きと感じるらしい。
イタリア語で呼べば、スペツッツァティーノ・ディ・ヴィテッロかなあ。
そういえば、ブランマンジェもイタリア語だとビアンコマンジャーレだし、モンブランはモンテビアンコだし、フランス語のが、言いやすいなあ。
この料理は、イタリア語の名前がないようで、イタリア人もブランケットと呼んでいます。
よっぽどこの名前の響きがしっくりきたんでしょうねえ。




白い食材に色がつかないように、炒めるのではなくポシェするこの料理。
いつものシチューも、このひと手間でブランケットに変身です。

組み合わせるワインも白。
お勧めは、コッリ・オリエンターリ・デル・フリウリのカンティーナ・クリーヴィのワインだそうです。


コッリ・オリエンターリ・デル・フリウリ地方。
素晴らしい。




クリーヴィのワイン


eleonora-manto_gustonudo_18.clivi



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関連雑誌;『サーレ・エ・ペペ』2012年1月号、“ブランケット”の解説とリチェッタは「総合解説」2012年1月号に載っています。

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2014年1月13日月曜日

ヴァルネリーナのペンキ

今日はウンブリアのパスタの話。
そもそも、ウンブリアのパスタって聞かれて、何を思い浮かべますか?
あまりメジャーなのがないかも。
 
ちょっと地味な印象(ゴメンネ)。

そんなウンブリアのパスタの中で、意外とインパクトのある名前に出会いました。
その名も、ペンキpenchiです。
知ってます?
私、初めて聞きました。
複数形でペンキってことは、単数形だとペンコ?
ププ、超カワイイ~。

グランデ・エンチクロペディア・イッルストラート・デッラ・ガストロノミーア』によると、

「ウンブリアの、特にスポレート地方の軟質小麦粉、卵、塩のパスタ。
素朴で厚めのラザニェッテの一種で、グアンチャーレとサルシッチャがベースのリッチなソースをかける。
別名、モンテレオーネのストラッシナーティ」

ストラッシナーティというと一般的にはひっかくパスタですが、どうやらこれは、幅広で長くて厚い手打ちパスタのよう。
パッパルデッレに似ています。

ペンキという名前より、モンテレオーネのストラッシナーティと言う名前のほうが有名なようです。
この名前で調べると、すぐに、この料理の由来となった言い伝えが見つかります。


モンテレオーネ・ディ・スボレートはこんなとこ。
 ↓




典型的なウンブリアの町。
静かで落ち着いたたたずまいですね。

パスタの由来となった伝説ですが、
こちらのページによると、それは、この静かな雰囲気にはあまりそぐわない話でした。

それは1494年のこと。
傭兵隊長のヴィテッリ兄弟の二人は、フランス王シャルル8世によるナポリ王国への侵攻、つまり、第一次イタリア戦争ですね、これに加勢してひと旗揚げようとしました。

当時、フランス王とバチカンは、ナポリ王国を巡って戦争をしていました。
そしてウンブリアは長い間、ローマ教皇領だったんです。

そんな戦争にフランス側で参戦したヴィテッリ兄弟、ところが戦況は厳しく、へとへとになってモンテレオーネの城壁にたどり着きます。
そして城のまかないのおばちゃんに、
「俺様の兵士と馬のために食事を出せ、こるあ!」
と要求しました。
ところが、相手はフランス王の味方、つまり、おばちゃんにとってはれっきとした敵です。
それでも、親切なおばちゃんは、料理を出してあげました。
それがペンキです。
でも、今は戦時下の緊急時。
食べ物は貴重なので、ろくな味付けもできません。
あまりにも素っ気ないそのパスタを見て、傭兵隊長は激怒しました。
「おらあ、もっとちゃんとしたもん出さんかい。
さもないと、捕虜(つまりイタリア人)を馬に括り付けて、城壁の周りを死ぬまで引きずりまわらせるぞー!」
と脅迫したのです。
すると、その話を聞いた一人の美少女が、
「捕虜の兵隊さんが可哀そうだから、豚の生肉と、グアンチャーレとサルシッチャとペコリーノと卵も入れてあげましょうよ」と提案したのです。
そうして作られたリッチなペンキを食べた傭兵たちは大満足し、惨事は回避されたのでした。
そしてそれ以来、このペンキはストラッシナーティ(引きずる)と呼ばれるようになったのでした。
めでたし、めでたし。

ひえ~、昔話って、怖すぎる~。

ストラッシナーティなのに普通のパスタだなあと思っていたら、パスタをひっかくじゃなくて、人を引きずり回す、っていう意味のストラッシナーティだったのかあ。
モンテレオーネのストラッシナーティを作る時は、お腹を空かしたチンピラを怒らせないように、と思いながら作るといいかも。
以上、リッチなソースとの組み合わせがマストのパスタでした。


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関連雑誌『ヴィエ・デル・グスト』2012年1月号、ウンブリア料理の記事と“ヴァルネリーナのペンキ”のリチェッタは、「総合解説」2012年1月号に載っています。

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2014年1月9日木曜日

メスチュア

今日はリグーリア料理の話。

mesciuaです。

どう発音するのか、ちょっと戸惑いますよね。
ヒントは、元となった言葉はmes-ciua。
意味はmescolata、ミックスしたという意味。
メスチュアと発音します。
ミックス豆のスープですね。
チンクエテッレがあるトスカーナに近いラ・スペツィア地方の名物です。
作り方の動画はこちら

残り物の豆を混ぜて作ったスープと言われていますが、『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の記事によると、壮絶な過去を持つ料理だったんですね。

なんと、ラ・スペツィアの港で荷物の積み下ろしをして働く人たちの奥さんたちが、袋からこぼれ落ちた豆や穀物を拾い集めて作った料理なんだそうです。

昔、ラ・スペツィアの港は豆や穀物の集積地だったんですね。

「メスチュアの町」をBGMにラ・スペツィアを紹介する動画をどうぞ。



この記事を読んで最初に思い浮かんだのは、ミレーの「落穂拾い」。
収穫後の畑に残ったわずかな麦の穂を拾い集めている最下層の貧しい人たち。
こうまでしないと生きていけない人たちのために、こうした行為が許されていたんですねえ。
ラ・スペツィアの港でも、豆を拾い集めることが許されていたんだって。

落穂と言えば、プーリアのグラノ・アルソも思い出すなあ。
これは小麦を収穫して、さらに畑を焼いた後に残った、鳥も食べないような小麦を拾い集めたものです。
グラノ・アルソの小麦粉は黒ずんでいて、いかにも焼け残り風。
黒ずんだカヴァテッリやオレッキエッテを見るたびに、可哀そうな話だなあ、と思っていたのですが、なんと最近じゃ、普通の小麦をトーストして、わざと焼け残り風にしているという衝撃の事実を知ってしまったー。
そりゃそうだよなー。
今時、畑で落穂を拾う人も、港で豆を集める人もいません。
だけど、メスチュアは、その名も「ミックスした」なので、何種類かの豆を混ぜて作ることに存在意義がある。
だから、今や、最初からメスチュア用に豆をミックスして売ってるんだってー。
しかも、定番の組み合わせは、カンネッリーニ、ファッロ、小麦、チェーチだっていうから、律儀に全部揃えたら、かなりリッチなスープになっちゃいそう。
どの豆を使うか特にルールはないですが、他に、オルゾ、チチェルキア、レンズ豆、いんげん豆、ささげ、そば粉などと、バリエーション豊か。

よーく考えてみると、豆や穀物は、それぞれ戻し時間や加熱時間が違うから、拾ったもので作るわりには、超手間がかかる料理だったんですねー。
豆を戻す時に重曹を加えるのは、時間は短縮できるけど味の点からは勧められないという人もいるので、とにかくじっくりのんびり作らないと。
でも、豆のスープの割には見た目がなかなかきれい。
ラ・スペツィアのレストランでは、メスチュアが美味しい店は全体的な評価も高いみたいですねー。

ココット入りのメスチュア


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関連雑誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2012年1月号、『メスチュア』の記事とリチェッタは、「総合解説」2012年1月号に載っています。

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2014年1月6日月曜日

『ドルチ・ディ・カーザ・ミア』

2014年ですね。
今年もよろしくお願いします。

それでは新年のスタートは、新入荷の本、『ドルチ・ディ・カーザ・ミア』のご紹介から。

この本の著者は、マウリツィオ・サンティン氏。
アンティカ・オステリーア・デル・ポンテの2代目です。
 

この店は、昔から、ミラノの星付きレストランとしての高い評価を保ち続けている高級店でありながら、サンティン一家による家族経営の店というイメージを常に前面に押し出していました。
ところが、息子はシェフになって店を継ぐという道を選ばなかったんですねえ。
彼は、パスティッチェーレになりました。

アンティカ・オステリーア・デル・ポンテが、ミシュランの星レースから降りたことは、彼のこの選択が多少とも影響しているのでは、と勘繰りたくなりますが、この本を見る限り、彼はわが道を行くけれど、自分の歩む道のルーツは、サンティン家だ、ということを力むことなく、愛情を持って主張しているようです。

半世紀近くに渡ってイタリアを代表する高級店と言われ続けてきた店の息子は、有名パスティッチェーレになった今、家ではどんなドルチェを作るんでしょうか。
レストランのリッチで舌の肥えた、料理を評価したがるお客のためではなく、家族や友人のために作るのは、どんなドルチェなのか。

高級な食材や専門的な道具は一切使いません。
ただ、イタリアの伝統菓子やフランスの菓子、オリジナルなど、アイデアにはなんの制限もありません。
ドルチェは何よりも美味しくなくてはならない、というのが彼のパスティッチェーレとしての哲学です。
シンプルで美味しい、ただそれだけ。

そういうものほど、作る人の個性が表れますよねえ。
例えば、こちらの写真のジャムのクロスタータ。
ジャムのクロスタータといえば、ビスケット生地を格子状に表面にかぶせるのが定番ですが、彼のクロスタータは、大、中、小の3つの花形に抜いた生地を散らした、とてもパーソナルなもの。

ある意味手抜きなのに、特別みたい。

本にはこんなテイストのドルチェが載っています。

次は、ティラミス・デストゥルットゥラート作りを教える動画をどうぞ。
デストゥルットラートとは、「分解」という意味。
グランシェフが比較的好んでつける名前ですね。
どんなティラミスになるのでしょうか。






みんな超真剣に見てましたねー。
次はフォンダン・ショコラ。
本にはこれの家庭料理版のリチェッタもあります。




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生ハムの一番美味しい部位はガンベレットこと端っこ。

生ハムやパルミジャーノを、パルマの食文化の観点で見ると・・・。 食の都パルマのシェフが語るパルマの食文化 これはアルタ・クチーナとしてのパルマ料理ですね。 もう少し庶民的な、パルマの日曜日の家庭のプランゾの場合、スタートは、クラテッロ、パルマの生ハム、コッパ、ストロルギーノなどの...