2016年4月28日木曜日

カルロフォルテのクロマグロ

このところ、クレアパッソのホームページで過去の「総合解説」の記事を紹介するアーカイブというコーナーで、クロマグロを取り上げています。
タイセイヨウクロマグロが産卵のため、大西洋から地中海へと旅をする途中でイタリアの沿岸を通るので、4月から6月半ばまでが、クロマグロの漁の最盛期で、地域によってはこの期間だけ漁をするところもあります。
何しろ、産卵を終えて夏の終わりに大西洋に戻るマグロは、やせて脂がなくなってしまうので、美味しくないんだそうです。

10年ほど前、サルデーニャのマグロの島、カルロフォルテを紹介した記事によると、

「サルデーニャの南東にある小さな島、サン・ピエトロ島では、島の北側で2、3日季節風が吹き荒れると、魚が岸によってくる。
風が収まった時が、マグロ網漁トンナーラには最適のタイミングだ。
トンナーラでのクロマグロの水揚げ量は、2005年は4000尾だった。
50年ほど前は1万尾ほどあった。
大分減ったが、それでも春の終わりから夏の初めまで、島の生活はマグロが中心になる。
島のマグロ網漁は、今も昔ながらの方法で行われているが、数年前まで、島で水揚げされたマグロはすべて日本人が買い占めていたため、日本流の選別方法や保存技術も導入されている。

カルロフォルテは島で唯一の居住地区だ。
1541年、チュニジアのすぐ前にあるサンゴでできた小さな島、タバルカ島に、ジェノヴァからの一団が移り住んで町を造った。
ところがその後、海賊に襲われたり、サンゴが崩れるなどの危機に見舞われため、サルデーニャ王、カルロ・エマヌエーレ3世は、住民をサン・ピエトロ島に移り住ませることにした。
それをきっかけに、王の名前を取ったカルロフォルテという町ができたのだった。
パステルカラーの家が並ぶカルロフォルテの街並みは、リグーリアのものによく似ている。
島で話されている方言も、20世紀初めまでジェノヴァに残っていたものに似ている。
伝統料理には、フォカッチャ、ペスト(にんにくとパルミジャーノは加えない)などがある。
カスカー(またはカスカサ)はチュニジアのクスクスの影響だ。
カルロフォルテのレストランのメニューは、季節によって変わる。
6月までは生のマグロが手に入る。
7月は心臓、ボッタルガ、ムッシャーメ(塩漬け)、8月にはグレズという顎の肉の塩漬けが出来上がる」

マグロの島でも、生のマグロを食べることができる期間は、限られていました。
その分、マグロの保存食という、日本人は見たことも食べたこともないものが発達しました。
このあたりは、次号の「総合解説」で紹介する予定です。
スローフードの“リチェッテ・ディ・オステリエ・ディ・イタリア”シリーズの『ペッシェ』によると、そもそもマグロは、古代ギリシャの時代から地中海では食べられていました。
身はとても貴重で、その頃から塩漬けにしていたという記録が残っているそうです。
古代ギリシャの詩人、アイスキュロスはトンナーラのメインイベント“マッタンツァ”を見たと書き残していたそうです。

2011年のカルロフォルテのトンナーラの成果。
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ぼちぼちマグロは獲れていたようですが、5年前で、無残なまでの活気の無さ。
今はどうなっているのでしょうか。

1955年のマッタンツァ。
シチリアでは2007年以来行われていませんが、そろそろ観光客向けに再開するとかいう話も出てきました。
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2016年4月25日月曜日

ヒレステーキ

今月の「総合解説」のイタリア料理の基礎シリーズ、牛肉編は、フィレットです。

肉の焼き具合、レア、ミディアム、ウエルダンのイタリア語は、ほぼ単純にそのまま。
レアはアル・サングエal sangue。
ミディアムはメディアやアル・プンティーノmedia, al puntino, al punto
ウエルダンはベン・コッタben cotta。

レアよりもっとレアはmolt al sangue。
なので、al sangueはミディアムレアのことでしょうか。
あと、あまり聞かないけどあえて言うなら、media-al sangueか。

アル・サングエ(血がしたたる)と呼ぶと言っても、実際に流血しているわけではないんですねー。
知らなかった。わりと本気で血だと思ってましたよー。
でも、安心してください。
あの肉の赤い色は、血ではなくタンパク質のもの。
ミオグロビンと呼ばれるこのタンパク質に含まれる鉄分が酸化すると、赤い色は茶色に変わります。

それでは、ヒレ肉をアル・サングエに焼いていただきます。




お次はアル・プントに焼きます。




当然次はベン・コッタですが、なぜかこんなネタみたいな動画しか見つからなかった。
溶岩焼きだって。




ヒレ肉のステーキと言えばトゥルヌド。
コロンナータのラルドで巻いてみました。





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“牛のフィレット”の記事の日本語訳は、「総合解説」13/14年5月号に載っています。
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2016年4月21日木曜日

パイヤータ

そういえばホルモンて、牛や豚の大腸とか小腸なんでしたっけ?
腸で思い出したけど、それならローマ料理にも、有名なホルモン料理がありましたなー。

先日クレアパッソのホームページでもご紹介した本、“イルストラーティ”シリーズの『ラ・クチーナ・ディ・ローマ・エ・デル・ラツィオ』に、リチェッタが載っているので、訳してみましょうか。

まず、ローマでは、牛や子牛の小腸のことをpajataパイヤータと呼びます。
イタリアの標準語ではpagliataバリアータですが、料理の世界ではもはやバイヤータのほうが通りがよさそうです。
昔は子牛のパイヤータが一般的でしたが、狂牛病以来禁止されて(昨年解禁されました)、今はもっぱらアッバッキオ(子羊)のパイヤータを使っているそうです。

『ラ・クチーナ・ディ・ローマ・エ・デル・ラツィオ』のホルモン焼きならぬ、パイヤータ焼き(pajatina alla piastra)は、熱した鉄板で15分焼いてパレットで裏返し、軽く押さえながら15分焼きます。
ローズマリーにエクストラヴェルジネのオリーブオイルをかけたものの上にパイヤータを盛り付けて塩、こしょうし、皿の上でよくあえながら食べます。
なるほど、ホルモン焼きもこうすればイタリアンになるのか。


内臓料理はローマ料理の柱の一つ。
ホルモンも、鉄板で焼くだけでなく、パスタのソースにもします。
その代表的なのが、パイヤータのリガトーニ

玉ねぎのソッフリットにパイヤータと唐辛子を加えて炒め、白ワインをかけて煮ます。さらにトマトのパッサータを加えて煮込みます。





ローマ料理の大家、リヴィオ・ジャンナットーニは、パイヤータは、トラステヴェレ生まれではない人にとっては、最も得体の知れないイタリアの地方料理の一つだ、と書いています。
これが普通のリアクションなのでしょうが、ホルモンに免疫があると、何とも思いませんねー。
ちなみに彼は、子牛の小腸より牛の小腸のほうが美味しいが、リゾットには子牛の小腸が合うとも言っています。リガトーニは、料理人によっては生まれたての乳飲みの子牛など、こだわりがあるようです。


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2016年4月18日月曜日

クラウスターラー

今日はビールの話。
今月の「総合解説」のビールは、イタリアのピッツァ業界が一目置ているノンアルコールビールです。
そういえば、先月紹介したビールはグルテンフリービールでした。
イタリアでは、ノンアルコールよりグルテンフリーのほうが関心が高いのですねー。

今月の記事で紹介しているのは、市場に最初のノンアルコールビールを登場させたドイツのメーカー、クラウスターラー。
日本ではクラウスターラーと読むんですね。
「総合解説」では、ドイツ語の発音からクラウストハラーとしています。
失礼しました。




クラウスターラーのテイスティング。




ノンアルコールビールでもいろいろ語れるもんですね。
ちなみに、下面発酵のラガーだそうです。

このビールのことはまったく知らなかったのですが、なんでも1978年に誕生した最初のノンアルコールビールで、それから40年間、クラウスターラーを超えるドイツビールは登場しなかっのだそうです。
ドイツ語圏では、ノンアルコールビールの代名詞なんだそうで。


さらにこのメーカーは、最初の無濾過のノンアルコールビールも作っています。
カスケードホップを使い、ホップフェンシュトプファー製法のタンク内発酵で作られたのだそうで、もう、何のこっちゃですね。

イタリアのピッツァ業界も、スペインのグルテンフリービールやら、ドイツのノンアルコールビールやらをそろえたりして、大変ですねー。


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“クラウスターラー”の記事の日本語訳は、「総合解説」13/14年5月号に載っています。
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2016年4月14日木曜日

フィレンツェとシエナ

今月の「総合解説」のグルメガイドは、フィレンツェとシエナです。

トスカーナの隣り合った町ですが、一方はイタリアを代表する賑やかな観光都市。

Firenze


もう一方は、歴史と自然に包まれて、厳かに時間が流れる古都。

Siena


フィレンツェとシエナ、訪れるならどちらの街?

そう言えば、フィレンツェとシエナの間に広がっているのはキアンティ・クラッシコ地区。
教皇のグエルフィ派のフィレンツェと皇帝のギベッリーニ派のシエナと、古くからのライバル同士だった2つの街が、境界線をめぐって争った地が、今やイタリアで一番世界的知名度の高いワインの産地。

フィレンツェは、大都会の観光地としての楽しみ方ができる場所で、シエナは、キアンティやペコリーノ、チンタ・セネーゼなど、郊外で作られる素晴らしい食材を味わうディープなグルメ旅には最適の街。

例えば、シエナの南東にある丘陵地、クレーテ・セネージは、シエナの美味しいペコリーノの産地。
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シエナの南には、世界遺産でもあるヴァル・ドルチャが広がっている。





気持ちはかなりシエナに傾いてきたなあ。


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“フィレンツェ”と“シエナ”のグルメガイドの日本語訳は、「総合解説」13/14年5月号に載っています。
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2016年4月11日月曜日

チェルヴィアの塩

今日は塩の話。
イタリアの海塩は、今では日本のスーパーでも手に入って、かなり身近になった気がします。
有名なのはプーリアとシチリア、サルデーニャあたりだと思いますが、今日はエミリア・ロマーニャの塩の話です。

エミリア・ロマーニャの塩と言われても、地中海の青い海と明るい太陽のイメージは、まったくないですよねえ。
ここで塩が作られているということ自体、すっかり忘れていました。
でもありました。そういえば、その名前、聞いたことあったかも。
“チェルヴィアの塩”です。
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地中海の塩田とは大分雰囲気が違いますね。
チェルヴィアはラヴェンナ県の南の端にあるアドリア海に面したコムーネで、ローマ時代より前から塩を作っていました。

総合解説」で説明していた“Sapore di sare”というイベント中の儀式、“Armesa de Sel”。
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ここの塩は、“甘い”と表現されますが、それは、硫酸マグネシウムや硫酸カルシウムなどの苦い塩(にがり)をほぼ含まないので、柔らかい味をしているためなのだそうです。
なので、料理にも重宝されています。
エミリア・ロマーニャの特産品、生ハムやパルミジャーノにも利用されています。

さらに、「総合解説」でも紹介していた新製品、プレス塩。
塩の上で目玉焼きができちゃいます。
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種明かしは、塩のブロックをあらかじめオーブンで熱してありました。
油を使う必要がない、というのが売りだそうです。



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“チェルヴィアの塩”の記事の日本語訳は、「総合解説」13/14年5月号に載っています。
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2016年4月7日木曜日

タヴェルナ・エスティア

今日は今月の「総合解説」で一番頭に残った料理です。
作ったのは、ナポリ郊外のタヴェルナ・エスティアのシェフの一人、アルマンド・スポジートさん。
店のwebページはこちら

オーナーのアルマンドは、教師の仕事を辞めて、好きだったレトラン業を始めたという人。
奥様と二人の息子も、一緒にレストランの仕事をしているそうだから、家族の団結力、すごいですねー。

その料理は、日本語でいうなら、“イカそうめん”。
イタリア人も作るだろうとは思ってましたが、さすがはナポリのレストランです。
ただし、正確には生のイカではなく、真空調理で加熱しています。
その料理の名前、なんだと思いますか?
“イカのタリアテッレ”でした。
意外と普通・・・。
写真はこちら

普通に生のイカを切ったほうが簡単だし美味しいと思うのですが、蒸しゆでにして、塩、オリーブオイル、レモン汁で調味し、さらにイカ墨はにんにく風味のオイルを加えてオーブンで乾燥させて粉にして、散らしてあります。

イカそうめんにオリーブオイルをかけるという発想はなかったなあ。

スポジートシェフの次の料理は、もっと美味しそうでした。
エビのビスクとミニトマトのスパゲットーニです。

写真はこちら


エビのビスクは日本でも人気のソースのようですが、
ソースをすべてパスタにからめ込ませて、スパゲッティを巻きながら塔のように立たせた盛り付けは、パスタの素材感がものすごいです。
やっぱりナポリの人だなあ。

イカのタリアテッレとエビのビスクのスパゲットーニに続くセコンドは、ガチョウのもも肉のグリルにいちごのカラメルソースとフォアグラのムース添え。
これも美味しそう。
ドルチェはルーコラとバジリコのマドレーヌ、レモンのソルベット、いちごのポルト酒風味の3点盛り。
なんだか、かなり行ってみたい気になってます。

タヴェルナ・エスィア。










イタリアの有名シェフを100人集めた本、『100×10』には、アルマンドさんの息子のフランチェスコ・スポジートシェフが載っています。

16歳で父の横で料理を始め、学校を卒業した19歳で料理人になる決心をします。
そして、イグレス・コレッリを初めとするイタリアとフランスの巨匠の元で修業して、2005年から2006年にかけてタヴェルナ・エスティアのシェフになり、ミシュランで2つ星も獲得しました。
得意なのは地元のアーティチョークを使った料理だそうです。
ちなみに弟のマリオはロンドンの大学で経済学の修士号までとっていながら、父親の店を手伝うためにソムリエになったそうです。
幸せな家族ですねえ。


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“アルマンド・スポジート”のリチェッタの日本語訳は、「総合解説」13/14年5月号に載っています。
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2016年4月4日月曜日

レズドーラ

今月の「総合解説」の“エルバッツォーネ”の記事を訳していて、初めて聞く言葉と出会いました。
それは“rezdora(レズドーラ)”です。
エミリア地方の言葉で、家事を切り盛りする人のこと、例えるなら、家の女王様、だそうです。

レズドーラはこんなイメージ?
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さすがは、女性の麺打ち職人、スフォリーナという職業が確立されているエミリア地方だけあって、料理が、特にパスタ作りが上手な女性への敬意が、強く感じられる言葉ですね。

この言葉が出てきた料理は“エルバッツォーネ”でした。


erbazzone


農家の家庭料理として誕生した素朴なトルタ・サラータです。
野草の詰め物を小麦粉とラードの生地ではさむので、麺棒で生地を伸ばす技だけでなく、いつ、どこに野草が生えるかを知っている必要もあったわけです。

さらに、山に住むレズドーラは、ポー河流域の米作地帯に雑草を抜く季節労働者とし雇われ、現物支給として受け取った米を使ってエルバッツォーネを作って、さらに工夫を加えてリッチなお米のトルタにしたのだそうです。
そりゃ、尊敬もされますよねー。

トルタ・ディ・リーゾ
 ↓
Torta di riso


レズドーラ。
日本語には、ベテラン主婦を敬う言葉なんてあるのでしょうか。




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“エルバツォーネ”の記事の日本語訳は「総合解説」13/14年5月号に載っています。
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マリア・ルイジアの小さな街、パルマのバターとグラナの娘、アノリーニ。本物は牛と去勢鶏のブロードでゆでます。

昨日の最後にサラっと登場したアノリーニですが、このパスタ、(CIR12月号P.5)にもリチェッタが載っていました。クルルジョネスの次の料理です。花の形の可愛い詰め物入りパスタ、なんていうのがこのパスタの印象ですが、イタリア人は、こんな風に思ってるんですね。 「マリア・ルイジアの小...