2023年10月5日木曜日

ラビオリ、つまり北伊のパスタ・リピエーナのバリエーション。

アルト・アディジェの食文化のレジェンドと呼ばれるノンナのリチェッタ(CIR7月号P.17)で、シュルツクラブフェンを見てきました。聞いたこともなかった料理でしたが、今は、なんとなくアルト・アディジェ料理の特徴が見えてきたような気がします。

シュルツクラブフェン。

そもそもこの料理はパスタ、いわゆるラビオリです。
ラビオリは、パスタ・リピエーナpasta ripiena、つまり詰め物入りパスタ。
パスタ・フレスカの部類に入りますが、イタリアには多数のパスタ・リピエーナがあります。
その代表は、エミリア・ロマーニャのトルテッリーニ。
このパスタは、ドッピア・キウズーラと呼ばれる形が特徴です。
つまり、詰め物を二回閉じるということです。
詰め物をのせて生地を折りたたんで詰め物を閉じ込めるのが1回め。さらに指の周りに巻き付けて端を閉じるのが2回目め。ここまでやるのは調理中に詰め物が出てこないようにするためです。
指先の器用さが求められるドッピア・キウズーラのパスタ・リピエーナ。それに対して一般的なパスタ・リピエーナ、つまりラビオリは、閉じるのは1回のみ。生地に詰め物を載せてカットするのが閉じる方法です。

カットの仕方や使う型によって、長方形や三角形、そして円形、半円形などのラビオリになります。

ラビオリのバリエーション。
一番シンプルな半分に折って閉じるラビオリから、天才シェフの感性から生み出される複雑なラビオリまで、発想次第でラビオリの形は様々です。




ラビオリのベースは麺棒で薄く均一に伸ばした1枚のパスタです。
いわゆるボローニャのパスタ。
これは北イタリアのすべてのパスタのベースになるパスタです。
パスタをこれだけ薄く伸ばすのは、軟質小麦粉の特性を活かした造り方なので、軟質小麦粉が育たない南部では普及したなかったパスタです。
軟質小麦が育つ地方では、薄く伸ばす麺棒使いの技が発展しました。

さて、シュルツクラブフェンですが、これは軟質小麦粉とライ麦粉のパスタです。形は半円形。
ちなみにこの地方で最も多く栽培されているのはライ麦。

さらにこの地方ではパンも独特。ライ麦パンです。パン粉もこのパンをおろして作ります。

シュルツクラブフェンの形には、オーストリアの影響が感じられます。
と言うか、半円形のものは、クロワッサンに代表されるように、イタリアでは三日月形と呼ばれます。
この三日月形は、イスラム教のシンボルで、トルコの国旗にも描かれています。
かつてオーストリアはトルコ(オスマン帝国)と戦争をしていたことがあります。トルコがウィーンを2度に渡って包囲していたこともあります。結果的にはローマ皇帝やハプスブルグ家などのヨーロッパが必死に抵抗してイスラム諸国を破り、敗走させます。
そのことがよっぽどうれしかったのか、この時以来、三日月型はこの戦争と結びついて誇らしげに語られるようになりました。
この三日月形のラビオリも、なぜかトルコとの戦いの勝利を祝うおめでたい形として、イタリア料理史上でも今にいたるまで語り継がれています。スッドチロルは元はと言えばオーストリア領。この三日月型は由緒正しい形なのです。


北イタリアには三日月形のラビオリがほかにもあります。
その一つが、フリウリのカルニア地方に広まったチャルソンスCjalsons
語源はcalissonという言葉で、トルコ語のリュートに似た楽器のこと。
詰め物に放牧地で摘んだ野草を使います。

この地方の料理に欠かせないのが山小屋のチーズとバター。

お勧めなのは放牧チーズのフォカッチャ。
下の動画はレッコのフォカッチャ。あくまでもイメージです。

放牧チーズのパンナ・コッタも美味しそう。
(CIR定期購読の8月号)は本日発送します。次回からは8月号のリチェッタの動画解説です。

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イタリアの料理月刊誌の日本語解説『(CIRクチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)
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