忍耐がポイントになる食材、バッカラですが、その相棒、ポレンタも、忍耐が必要な食材です。
銅鍋を薪の火にかけて、最低1時間かき混ぜながら煮る、という、現代人には信じられない労力が要求されます。そこまでして出来上がるのが、ポテポテのお粥という、腹持ちはいいけど、ちょっと悲しくなる貧しい農民のための食べ物。
ポレンタ。ネット上にはポレンタを簡単に作る方法を紹介する動画がたくさん上がってますが、インスタントポレンタの粉や圧力鍋や電動ニーダーで造ったポレンタには、ノスタルジーが感じられない、という美食家の意見も根強くあります。つまり、ひたすらかき混ぜ続けるのも含めてポレンタなんです。さらに銅鍋は温度が均一に伝わり、一度高温になったら長時間温度を保つので火を弱めて煮ることができる、テーブルに運ぶことができる見栄えの良さ、などの利点もあります。
ベネチアのオステリア料理と言えば、チケッティ。ポレンタにのったバッカラは代表的な1品。
ポレンタには北から南まで様々なバリエーションがありますが、ベネトのポレンタと言えば、白いポレンタ、polenta biancaです。白いとうもろこし(mais bianco)の粉は、ベネトを中心として限られた地域で栽培されています。
白いトウモロコシは鶏の餌になります。鶏肉を白くするためだそうです。パスタを白くするために小麦粉に加えることもあります。
黄色いトウモロコシの粉と比べて風味が強く、ほろ苦さが少ないそうです。そういえばトウモロコシはグルテンを含まないのでした。
白いトウモロコシはストーロのbiancoperla、黄色いトウモロコシはマラノのものが有名。
ビアンコベルラのPV。貧しい農民の食べ物からの脱却を狙っているのか。
一方で、マラノのトウモロコシは昔ながらのまっ黄色のとうもこし。伝統を守るぞ、という決意も感じられるけど、実はこの街のとうもろこし農家が目指すのは、とうもろこしのフェラーリ。最高のとうもろこしを本気で作ってます。
farina gialla di Storo。
白も黄色も、最高のとうもろこしはストーロ平野で栽培されています。
実はここはベネトじゃなくてトレンティーノ・アルト・アディジェ。
ストーロ。
ベネトのポレンタは、トラットリアで出す農民の料理とみなされていました。ベネチアの有名店、『ハリーズ・バー』
の本によると、店でポレンタを初めて出したのは50年前のことでした。庶民の料理ですが、多くの料理の付け合わせとして活躍していたようです。ハリーの息子のアッリーゴは、黄色いポレンタのほうが美しいけれど、白いポレンタのほうが味はデリケート、と語っています。
父親のハリーは彼の母親のポレンタを手本にしてポレンタを造っていましたが、リストランテではおいしいポレンタは出せない、と言っていました。なぜなら、ポレンタを作る忍耐のあるシェフはあまりいなかったというのです。そして湯気の立つ熱々のポレンタにのせたバターやパルミジャーノが溶ける様子と、冷めたポレンタのスライスを炙ったり油で揚げて熱いカフェラッテと一緒に食べた朝食のことを、楽し気に語っています。
白いポレンタは、その色合いから魚介にもよく合い、レストランの洗練された料理に使われるようになりました。
イグレス・コレッリシェフの小コウイカのポレンタ・ビアンコ添え。
コウイカのイカ墨煮、ポレンタ添えSeppie in nero con polenta。
材料/5人分
コウイカ・・1.5㎏
刻みトマト・・400g
にんにく・・3かけ
白ワイン・・100ml
ビネガー・・大さじ1/2
EVオリーブオイル、こしょう
・コウイカの甲、目、口バシを取って下ごしらえする。
・鍋に油とにんにくをソッフリットにし、イカを加えて弱火で熱する。・ワインかビネガー、塩、こしょうを加え、にんにくを取り除く。
・トマトを加えてなじませ、イカ墨(一般的な大きさのものなら2袋)を加えて煮詰める。
・約40分煮て煮汁の状態を見る。火を止めてオイルを加える。
・ポレンタ・ビアンカをイカと同じ形に盛り付けてサーブする。
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