ベネト料理のホロホロ鳥の料理を調べていたら、ゲルマン系ランゴバルド族だの、東アフリカだの、果ては北京ダックまで出てきて、さすがは農家の庭で飼われていた家禽類の一種。その対応範囲の広さにびっくりしました。
でも実は、この国際色豊かなホロホロ鳥料理を、ベネト料理にぐっと引き寄せる付け合わせがあります。
ポレンタです。これが添えてあるだけで、立派なベネト料理になります。
地方料理の本には、米、パスタの章というのが必ずありますが、ベネト料理のこの章には、米、パスタ、ポレンタと続きます。
そもそも、ベネトというのはとても興味深い州で、その地形は海、潟、内陸の平野部とバリエーション豊富です。漁業、養殖業、農業、放牧、牧畜が盛んで、その根底にあるのは農民の伝統です。そして頂点に輝くのはベネチア。
この街は歴史的には他の地方に君臨していたので、沿岸地域全体に影響を与えました。
ベネトの平野部は牛や豚や家禽類の飼育の伝統があり、鶏が名物のパドバでは鶏はリゾットのベースになりました。アヒル、ガチョウ、ホロホロ鳥はベネト全域で飼育されています。
ベネトの食材。
ベネト料理のお薦め本、『クチーナ・ディ・ベネチア・エ・デッラ・ラグーナ』
には、ポレンタは単なる食べ物ではなく、ベネトの伝統や習慣も合わせたもので、愛情を注ぐ対象なのだ。何も食べるものがなく飢えていた時の唯一の付け合わせだった。だから今でもベネトの人は、ポレンタの付け合わせはたっぷり皿に盛り付ける。
には、ポレンタは単なる食べ物ではなく、ベネトの伝統や習慣も合わせたもので、愛情を注ぐ対象なのだ。何も食べるものがなく飢えていた時の唯一の付け合わせだった。だから今でもベネトの人は、ポレンタの付け合わせはたっぷり皿に盛り付ける。
代表的なベネト料理。
ポレンタはトウモロコシの粉で作る。
もちろん、トウモロコシはアメリカ大陸から伝わったが、ポレンタはソラマメ、ひよこ豆、大麦、ファッロ、小麦などの粉を使って、かなり昔から造られていた。古代ローマ人は日常的にポレンタを食べていたが、料理の名前はポレンタではなく、プルスplusと呼ばれた。
コロンブスによってトウモロコシが伝わると、ベネトを中心に北、中部イタリアに広まった。そして食の世界に革命が起きる。とうもろこしは鍬も使わずに栽培できて、たった3か月で収穫ができ、どんな植物よりも豊かに実り、インカ帝国では一国の国民の丸ごとの腹を満たすほどだった。
ポレンタ。
ただ、ポレンタが18世紀当時の農民の主食になるほど広まり、ナイアシンが欠乏するペラグラ病が広まった。ナイアシンは必須アミノ酸の一種で、トウモロコシは含有量が少なかった。
ちょっとややこしいのが、ポレンタ・タラーニャだ。これはそば粉入りのポレンタで、東ヨーロッパやバルカン半島から伝わったので、サラセンの小麦、と呼ばれた。ちなみにトウモロコシの粉がトルコの小麦frano turcoと呼ばれたのは勘違いからだとか。
そばも高地の段々畑で容易に栽培できて他の穀物より早く熟した。19世紀前半にそばの栽培は最大級に広まったが、その後劇的に減った。
現在、トウモロコシの粉の産地として有名なのは、ストーロ渓谷。毎年ポレンタ祭りも開催されている。
2018年のストーロ渓谷のポレンタ祭り
ちなみに、イタリアは観光大国だけど、コロナで厳しい事態になり、その後、復活した。インバウンドや映画産業に牽引されたその過程が不思議なほど日本とそっくり。しかも復活の過程でヨーロッパならではの生物多様性やバイオダイナミック農業を取り入れ、観光業にも若者が中心となって最先端のスタイルを取り入れている。改革を恐れず、伝統に敬意を払うヨーロッパの若い頭脳が次に打つ手が興味深い。
そうそう、ベネトの街、パドバにはヨーロッパで2番目に古い大学があり、ガリレオやダンテが教鞭をとったこともあります。
パドバ大学。
ベネト料理の中心地の一つ、パドバの話題は次回に。
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