2022年10月21日金曜日

オステリアの味は、外国人向けになんの手心も加えていない。本物は、よそ者にはかなり敷居が高い。

『ラ・ピオーラ』の続きをもう少々。

時代と共に多少は変化するピオーラですが、変わらないのは何を食べるか、ということ。選択肢はわずかです。多くてもブリーモとセコンドが2品ずつ。ミネストローネかニョッキ、鶏かポークチョップ、といった具合です。セコンドについてくるコントルノも2種類。その選択は、おかみさんがします。そしてそれが間違いないのがお客たちを満足させる要因になっています。水戸黄門のようにこの後どうなるのかわかっていても、毎回その展開を期待して月9を見続けるようなもの。
今月の(CIR)には、イタリア地方料理界の月9のラインナップもあります。
“イワシとフィノッキエットのパスタ”(シチリア)、“ピザレイ・エ・ファゾー”(エミリア・ロマーニャ)、“トリッパ・アッラ・ロマーナ”(ローマ)、“ズッパ・グレガダ”(トリエステ)、“レタスのインボルティーニ”(トリノ)、“ヘーゼルナッツのトルタとザバイオーネ”(トリノ)といった料理です。
確かに、気取りのない素朴な地方料理。

イワシとフィノッキエットのパスタ↓

考えてみれば、それまでイワシのパスタなるものも日本で食べたことがなく、フィノッキエットという古代ローマでも栽培されていた植物の香りなんか、知るはずもなく、この料理がシチリアを象徴する料理だと単純に思い込んでいた私は、シチリアに初めて行った翌日にパレルモのトラットリアでなんの心の準備もなくこの料理を食べて、シチリア料理の洗礼を強烈に受けました。
それまで知っていたイタリア料理とはあまりにも違っていて、私が食べていたものは、外国人向けに大幅にアレンジしたものだったということをようやく知りました。シチリア人向けの伝統的な味付けは、外国人にとっては容赦がなさすぎるのですが、シチリアのトラットリアでは1㎜も手をゆるめません。かなりなトラウマ体験になりました。それ以来、地元の味に無防備に手を出したら火傷する、ということが身に沁みています。でも、あの緊張感やわくわく感は病みつきになるようで、ローマのユダヤ人街のレストランで食べたアーティチョークのユダヤ風とヘブライ語のラベルが貼られたコーシャーワインは、一生の思い出になりました。さらに言えば、その時の私はコーシャーフードの存在さえ知りませんでした。オステリアの醍醐味は、よそ者も家族のように受け入れる包容力の大きさにもあると実感しました。
きっとここに挙げたオステリアの月9料理がおふくろの味と思えるのはかなりあの種の味に慣れてる人ですよ。

(CIR)で訳したイワシのパスタのリチェッタを提供した店はパレルモのトラットリア・マフォーネMafone↓ドン引きしてるお客を横にすっかりパバロッティになりきっているのはこう見えて魚には詳しい店主。

ピサレイ・アンド・ファゾーはピアチェンツァの料理↓

地元の店ならどこでも出している料理。小麦粉とパン粉の小粒のニョッキにトマト、ラルド、玉ねぎ、いんげん豆がベースのソースをかけたもの。ルーツは修道女がローマへ行く巡礼のために作った料理。豆はいんげん豆より古い品種の黒目豆。新大陸が発見される前からヨーロッパにあった豆。ピザレイはニョッキ、語源はスペイン語のpigiare。“押す”という意味でニョッキを作る動作のこと。ファゾーはいんげん豆(ファジョーリ)のこと。

リチェッタを提供した店は、ピアチェンツァのアンティカ・トラットリア・カッティべッリ・イゾラ↓

ピアチェンツァはサルーミ造りが盛んな地方。
その元になっているのは豚肉。






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イタリアの料理月刊誌の日本語解説『(CIRクチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)
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