2023年8月8日火曜日

ジェノバのフォカッチャ職人は、フォカッチャはパンではない、と言う。その意味が分かればフォカッチャの秘密が分かるかも。


さてそろそろ(CIR6月号)のリチェッタの話を始めましょうか。
1品めは、フォカッチャ・コロラータです(P.2)。
前菜やアペリティーボの定番、フォカッチャですが、これはフォカッチャに鮮やかな色をつけて同じ色のトッピングをのせるというアレンジ。

ジェノヴァのフォカッチャ。
ジェノヴァに行ってフォカッチャを食べない人はいないと思いますが、私のフォカッチャ・ジェノべーゼとの最初の出会いは、ホテルの朝食でした。

一口かじっただけで、ん?なんだこの香ばしさは。カリカリサクサクじゃないですか、これが有名なフォカッチャ・ジェノベーゼか、知ってるフォカッチャと全然違うとびっくりしたものです。ホテルでは、朝食のビュッフェに出すフォカッチャは、小さくカットしてトーストして温かいものを出していました。
その日は早朝からホテルを出発して、通勤の人で混雑する駅まで歩きました。その間に、それまでは全然気が付かなかったのに、フォカッチャ屋さんが、通りのあちこちにあって、どこも大繁盛していることに気が付きました
どうやらジェノバ中の人がフォカッチャを買いに店にやってきているようです。
よく言われることですが、ジェノバのフォカッチャは、朝食であり、スナックであり、ランチ、軽食であり、アペリティーボですが、動画のパン屋さんは、薄いスライスを1枚食べれば満足できて何も具が必要ないフォカッチャは、パンではない、と言っています。
うーん、深い・・・。フォカッチャの香ばしさは、具に匹敵するかも。
フォカッチャの食べ方まであるなんて。リポーターが噛り付いたら、向きが反対だと注意されてました。つまり焼いた麺を上にして、香ばしい面が最初に舌に触れるように噛り付くのが一番おいしい食べ方なんだそうです。
こんなすごいこだわりがあったなんて、何にも知らずにジェノバで食べてました。
もったいなかったなあ。


リグーリアの発酵生地

という本もありました。
フォカッチャをジェノバで買うのは特別な体験。下の動画の職人さんも食べ方を教えてますねー。



ジェノバのフォカッチャ。



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2023年8月7日月曜日

バジリカータのシンボル、ペペローニ・クルスキの編み棒のフジッリ。

映画『ゴッドファーザー』の、フランシス・フォード・コッポラ監督が、実はシチリア出身じゃなくて、イタリア人も“無名”と呼んじゃうマイナーなバジリカータ出身だった、という事実を知った次は、バジリカータのスペチャリタの話です(CIR/P.21)。

バジリカータのスペチャリタ。

知られていない地方だけに、本物の純粋な食材の宝庫です。

中でも代表的なのは、ペペロー二・クルスキ。

食物を保存する時、北イタリアでは、塩漬けという方法と、木を使った燻製という方法が利用されました。いずれも身近に安価で手に入るものを使う工夫です。
アルト・アディジェのスペックはスモークする生ハム。

スペック。

そして南イタリアで身近で安価なものと言えば、太陽です。
干す、という方法が用いられました。

バジリカータでは、肉ではなく、ピーマンを干しました。細長くて黒ずんだ赤色をしたペペローネ・ディ・セニーゼという品種です。甘くて水分が少なく、干すのに最適の品種。

ペペローニ・セニーゼの生産者。

このペペローニ・セニーゼを干して揚げたものがペペローニ・クルスキ。




ペペローニ・セニーゼの産地、セニーゼ。



こんなのどかな地方で生まれて、どうやってあんな『ゴッドファーザー』なんて映画を思いつくのでしょうか。


上の動画はペペローニ・クルスキのパスタの超シンプル版。
基本は(CIR)P.23のフジッリと同じ。パンのクラムをほぐして炒めて加えます。ペペローニ・クルスキはヘタと種を取って使います。パスタは生麺が合います。

フジッリ・アル・フェッレットFusilli al ferretto。編み棒のフジッリ。


やっぱり、バジリカータが舞台だったら、あの映画は生まれなかったなあ。




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2023年8月5日土曜日

バジリカータの有名観光地、マテーラは、一大ブームを迎えて生活が急速にスマートになりました。無名の地方都市からの脱却を果たした街の今後、気になります。

『La Cucina Italiana』の地方の食文化の連載記事、《ベル・パエーゼ》が、5月号で終了となりました。
最後に取り上げられたのは、イタリアの中でもかなりマイナーな地、バジリカータです。
バジリカータをイタリアの編集者たちは、どう紹介しているのでしょうか。
なかなかユニークな紹介の仕方でした。
まず最初に、映画『ゴッドファーザー』で知られるフランシス・フォード・コッポラ監督は、バジリカータのベルナルダという小さな村の出身だ、と、いきなりマニアックなネタを振り込んできました。
イタリアでは、世界的に強い影響を与えた映画監督はとても尊敬されていて、リミニ出身のフェリーニ監督などが知られていますが、コッポラ監督がバジリカータの出身とは、知りませんでした。

フェリーニ監督の出身地のリミニにはフェリーニ博物館があります。

街を挙げてのフェリーニ推し。

代表作の一つ、『甘い生活』

コッポラ監督はの代表作はもちろん『ゴッドファーザー』

バジリカータからアメリカに渡って、アカデミー賞受賞監督になり、アメリカンドリームを実現させたバジリカータのヒーロー、コッポラ監督。



監督は、故郷にゴージャスなバカンス用の5つ星ホテルを持ってます。いろんなサイドビジネスも考えていたようですが、バジリカータでコッポラ監督を超えて国際的な知名度を獲得したものがもう一つありました。

故郷の村、ベナルダについて語るコッポラ監督。

出身地に錦を飾った監督としては、ベナルダをメジャーな場所にしたかったようですが、バジリカータには、ベナルダを超えてもっと有名になった場所があります。
それはマテーラです。

マテーラは映画『007』のノータイム・トゥーダイのロケ地で、しかも世界遺産。ライバルにするには強敵すぎたかも。


歴史と南イタリアの自然と時間がのどかに流れるマテーラの町は、私が訪れた時は、観光地としてのブームになり出したころでした。そこら中が改装中で、洞口住居という悲惨な歴史があった割には活気に満ちていました。建築資材用の巨大な砂の山を野良猫が夢中になって掘っていた光景は、今も瞼に焼き付いています。半地下のようなおしゃれなレストランでは、とてもハイセンスな料理を出していました。ニャンコもワンコも人もみんな素朴で、まだ観光地として擦れていない、純情な街でした。
その後、マテーラは観光地として大ブームになったそうです。料理人やパン屋からも、国際的に活躍する人たちが巣立っていきました。ほんの数年でマテーラのライフスタイルは急激にスマートになり、その影響は周辺にも及んでいるそうです。
バジリカータの話、次回に続きます。


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2023年8月4日金曜日

スイスチャードのトルタ・サラータ、エルバッツォーネ。野草の料理と呼ぶにはオシャレすぎる。山から平地の田んぼに出稼ぎに行った娘たちが現物支給された米と山の野草で作った料理。

(CIR6月号)は発送しましたが、到着まで場所によっては時間がかかるので、今日は5月号のリチェッタで気になっていたものの話。
まずは、“ベル・パエーゼ”の記事から、エミリア・ロマーニャ州の料理、“スカルパッツォーネScarpazzoneP.25”>
ランブルスコの記事で紹介した料理“エルバッツォーネErbazzoneP.46”によく似た料理です。
どちらもエミリア・ロマーニャ地方の料理。スイスチャード(ビエトラ)かほうれん草の詰め物のトルタ・サラータです。

によると、イタリアのスイスチャードの旬の6月末と11月初めに作る料理だそうです。昔はスイスチャードの白い茎の部分を方言で(ビエトラの靴)スカルパscarpaと呼んでいたそうで、なのでスカルパッツォーネという名前になったそうです。
スカルパッツォーネ。

あのぶっとい麺棒は、トルタの生地を作る時も使うんですね。
この料理の特徴は牛乳で煮たお米が入ること。
この料理は、ポー河流域の田んぼに出稼ぎに行った山の娘たちが現物支給の米を持って山に帰り、その地のビエトラなどを使って作った料理なのだそうです。

エルバッツォーネ。


ビエトラのミネラル感とパンチェッタとラードの軽い脂がランブルスコによく合う料理です。
エルバッツォーネとスカルパッツォーネ、似てるけど背景は全然違う料理。
エミリア地方のお薦め本は、ブルーノ・バルビエリ/ビア・エミリア



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2023年8月3日木曜日

パン粉は日本がロシアと戦っていた第二次世界大戦中に、オーブンを使わずに電気でパンを焼いたのがきっかけ。今ではこれが本物のパン粉と言われるようになった。

今日は5月号のリチェッタを訳している時に気になったワードの話。
それは、P.6の“野菜のコトレッタ”とP.5の“パッケリ・フリッティ”に登場した食材です。
コトレッタとフリットに使われるものです。
それは“パン粉”です。
パン粉はイタリア語ではpangrattatoですが、少し前あたりから、よく見かけるようになったのが、pankoです。
パン粉です。P.5のリチェッタに、もう少し詳しく説明がありました。
pangrattatoはイタリアで一般的なパン粉。
パンをミキサーにかけたものです。

pankoもパンをミキサーにかけたものですが、日本製のパン粉として大分広まりました。
食パンをミキサーにかけて作ると思ってる人が多いけれど、今ではこれが“本物のパン粉”と言われるようになりました。
その違いについて、リチェッタでは、「日本製のパン粉は揚げると空気を含んで膨らみ、油を押し出すので乾いて軽いフリットになる」と、説明しています。



こういった説明が不要で“panko”で通じる日本の発明。コトレッタにもpankoが不可欠。

pankoのコトレッタ。

業務連絡 定期購読のCIR6月号、本日発送します。

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2023年8月2日水曜日

(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)6月号発売しました。

(CIR)はクレアパッソで発売しているイタリア料理の月刊誌、『クチーナ・イタリアーナ』と『サーレ・エ・ペペ』誌のリチェッタとイタリア食文化の記事を日本語に訳した小冊子です。
歴史のある格式高い本格派『クチーナ・イタリアーナ』と、現代的で楽しく気軽だけど、とても野心的な『サーレ・エ・ペペ』と、個性的な2誌。雑誌と合わせての購読をお勧めいたします。

(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)は『旧総合解説』。もう何年も続いていますが、さすがにシステムが古くなって昔のものは扱えなくなったので、この機会に名前を(CIR)に変えて、昔のものは思い切って販売を終了しました。

(CIR)6月号のテーマは、陽気さと遊び心。これってイタリア人のこと?
と思うような美しくて楽しい料理が登場して、夏の到来を告げています。

月刊料理雑誌は1年通して読むと、四季によって違うイタリアの1年の食文化が、イタリア人の視点で詳しく紹介されていて、複雑でバラエティー豊かなイタリア料理がだんだんはっきりと見えてきます。
今月のイタリアは、バカンス直前のウキウキした気分の季節です。

個人的には、バカンスの時期に仕事で行ったリミニで、外国人観光客向きの高級リゾートとはまったく違う、すごく庶民的で、めちゃくちゃ人が多い夜のビーチを見て、ちょっとショックでした。
庶民と観光客は違う場所でバカンスを過ごすんですね。あたりまえだけど。

リミニ。

そもそも悲しいかな日本にはバカンスの概念がないから、バカンスってどういうものか分からない。リミニでは、夜になると、町中のすごい数の老若男女がストリートに出て、ただひたすらウインドーショッピングをしているのでした。

一方、国際的な観光地と言えば、たとえばカプリ島。
こちらは世界中のおのぼりさんがやってきて、小さな島が観光客でぎゅうぎゅう詰めになります。
お金を使う気取ったところばかりで、価値観がちょっと変わる。

カプリ。


それでは、夏休みを満喫してください。




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2023年8月1日火曜日

野草入りマルファッティは、道端の草とそれを食べた羊のリコッタから作る究極の地産地消料理。

(CIR)6月号はもうすぐ発売予定ですが(8/10頃)、今日は5月号のまだ取り上げていなかった料理の1つ、マルファッティmalfatttiの話です(リチェッタの日本語訳はP.4)。
マルファッティはロンバルディアはブレッシャの伝統料理。

ブレッシャBrescia。
マルファッティmalfatti。

ロンバルディアのプリーモ・ピアット。ニョッキの一種です。
リコッタとほうれん草の生地で、野草が入るのが特徴。
野草が入ることがこの料理の特徴を物語っています。
野草は、道端に生えているただで手に入る食材です。人間が食べるだけでなく、放牧されている羊も食べました。そしてそのミルクから作るリコッタと、パンが材料のこの料理は、ある意味、質素そのものの農民料理。ただし生物多様性の豊かな自然の宝庫でなければできない料理でもあります。地元の本物の産物をふんだんに使える地産地消を証明する料理でもあります。
ロンバルディアは、意外なことに、カンパーニアに次いでイタリアで2番目に人口が多い地方。面積に至ってはイタリアで一番大きな州。そのせいか、山、丘、平野、河、湖、森と様々な地形があり、水が豊かな地方としても知られています。水が豊かな平野では豚や牛が飼われ、平野ではヤギの群れが夏の牧草地へと移動する移牧の地で、様々な乳製品が造られました。
チーズ、バター、生クリーム、マスカルポーネ・・・。これらはロンバルディア料理の重要な要素です。
主要な穀物は米。そして主要な産物はバター、チーズと続きます。ロンバルディアのチーズはパダナ平野の特産物、グラナ、ストラッキーノ、平野で放牧されるヤギのリコッタ。
今日の料理、マルファッティは、野草入りのおかげで質素さが強調されていますが、最近では、この野草はイラクサの若葉やホップの芽など、グルメな食材を使う傾向があります。今回のリチェッタも、シレネという野草を使っています。

シレネ。

シレネは新ほうれん草で代用できますが、最近はカラフルなスイスチャードなどで代用することが多く、質素な野草というイメージは消えていきました。

スイスチャード。

ほうれん草とリコッタのニョッキで思い出すのがラバトン・ピエモンテージ。そっくりの料理でした。

アレッサンドリアのラバトン、ピエモンテージRabatòn piemontesi。




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ブローヴォローネ・デル・モナコ、産地のモンティ・ラッテリは、ローマ人との戦いに敗れて追放された人々が住む荒れた未開地でした。

今日のお題はブローヴォローネ・デル・モナコ。 名物ナポリ料理のベースになっている名物チーズ。 工場で大量生産する現代のプロヴォローネ。 この工場では、一日に600トンの牛乳を加工しているそうです。 アルティジャナーレなプロヴォローネ・デル・モナコ。 牛乳のチ―ズです。 ソレント半...