20年ほど前の『クチーナ・エ・ヴィーニ』というアルタクチーナとワインの雑誌の記事に、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノのこんなことが載っていました。
「ブルネッロは“土地のワイン”というフランスが最初に考え出した概念をイタリアで最もよく表現しているワイン。イタリアにはブルネッロのライバルはいない。このワインは高級ワインが打撃を被った経済危機の影響をものともしなかった。
《クリュとテロワール》(長いです)
現在、ブルネッロの60%は海外に輸出され、中でもアメリカへの輸出量は総生産量の25%を占める。ちなみにこの時の日本への輸出量はイギリスに次ぐ2%。
市場の関心を受けて、ここ数年、ブルネッロは変わりつつある。もちろん変わらないものもある。土地にしみこんだ個性は消せるものではないが、ブルネッロの新しい色についてはあちこちで議論されている。
多くのブルネッロで、複雑な濃いルビー色の中に、スミレ色の反射が見られるようになったのだ。
これは数年前までは考えられないことだった。
その原因はいずれは科学的に解明されるかもしれないが、歴史は繰り返されるという考えも浮かぶ。
実はキアンティを筆頭とするトスカーナの赤ワインは60年代初めに一度色が変わっている。
当時のトスカーナワインは熟成によってオレンジ色を帯びた。しかし、これでは外国市場では売れない。
よく知られているように、元々トスカーナでは赤ワインに白ぶどうを加える習慣があった。
熟成のためのワインではなく、飲むためのワインを造っていたからだ。
外国市場向けの解決策として取られたのが、白ぶどうの量を徐々に減らしていくという方法だった。
老舗と違って、若い造り手はブランドイメージが確立されていない。そこで彼らは色の強い赤ワインが売れるという市場の傾向に対応するために、色のよく出るぶどうを多用しているのかもしれない。
ただしこれは大した問題ではないし、ワイン業界全体の傾向であって、モンタルチーノに限ったことではない。
地元の伝統的な醸造方法でなく、色を出すことを重視した方法で醸造すると、タンニンの中の優雅さが犠牲になり、アロマが変化する。
これは試飲をすることで簡単に見つけることができる。
タンニンは若干粗く、柔らかさと硬さがやや溶け合わず、濃い味で、熟したベリーやシロップの風味が強いブーケになる。
ワインの色を変えるということは味やワインの個性に結びつく大きな変化をもたらすんですねー。
トスカーナのワインは、老舗がその盤石の基礎の伝統を造り、若手が改革を行って伝統を打ち破り、姿を変えていく歴史でもある。
19世紀まで、ブルネッロといえばサンジョベートsangiovetoのことで20世紀になるとこのぶどうはサンジョベーゼ・グロッソsangiovese grossoと分類されるようになる。
モンタルチーノで最初にぶどうや醸造技術を研究したのは、グレッポにぶどう畑を所有していたクレメンティ・サンティだった。
ビオンディ・サンティのグレッポの畑
そしてそれを発展させたのが、クレメンテの母方の甥のフェッルッチョだった。
彼はビオンディとサンティの名前を組み合わせて有名ブランドを作り上げただけでなく、最初のクローンを選び出してワインのブルネッロの基礎を築いた。
他にも様々な人がブルネッロの初期に貢献しているが、これほど深くかかわりあっている一族はほかにない。
フェッルッチョからタンクレーディへ、そしてフランコへと続くその歴史はブルネッロとは切っても切り離せない。フランコ・ビオンディ・サンティは「自分とブルネッロは兄弟のように一緒に歳を重ねてきた」と語っている。
フェッルッチョの功績の一つは、キアンティのリカソリ家が作った数種類のぶどうを混ぜると言う伝統を打ち破って、サンジョベーゼ・グロッソ100%のワインを造ったことにある。
自著『Questa e mia terra』について語るフランコ・ビオンディ・サンティ。
次はビオンディ・サンティがトスカーナワインに起こしたもう一つの歴史的改革の話に続きます。
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