アンドリアのブッラータを巡る物語の次は、プーリアに行ったらこれが食べたい、と常々思っていたもの、イタリアの料理雑誌にも度々取り上げられていたプーリアの名産物。パーネ・ディ・アルタムーラです。
ムルジェ地方にあるアルタムーラ。この町、別名はプーリアの雄ライオン。
パーネ・ディ・アルタムーラ。
アルタムーラ。
パーネ・ディ・アルタムーラは、リエヴィト・マードレ、パスタ・アチダ、海塩、水、から作られるパン。
2週間も日持ちがするために、羊飼いが群れを追いながら移動する時には重宝なパンでした。数十年前までは各家庭で生地をこねて、村の共同かまどで焼いていたが、パンを焼くのは週に一度。男たちは仕事に出ているため、作業はすべて女性たちの手で行った。伝統的で個性的なあの形は、積み重ね型と司祭帽子型がある。家長のイニシャルを刻んで目印にした。
アルタムーラでは昔は家庭でパンを焼くことは禁止されていた。違反すると罰金も科せられた。共同のかまどは、20世紀半ば頃までは26か所あったらしい。20世紀半ば頃までは、夜明けになるとパンが焼き上がったことを知らせるパン屋の声が村に響いたという。
20年ほど前のアルタムーラでは毎日80トンのパンが焼かれ、その80%以上がイタリア中に出荷されている。小麦粉はアルタムーラ周辺の5つのコムーネで栽培された硬質小麦の粗挽き粉。パン造りの作業はアルタムーラでのみ行う。
アルタムーラのパンを有名にしたのは、マクドナルドだった。町で唯一のマクドナルドが。近所に新しくできたパン屋に客を奪われて閉店に追い込まれたのだ。客を奪われたのがマクドナルドの方、というのがイタリア人には痛快だったらしい。このエピソードはかなり広まった。マクドナルドは誕生日パーティーや衛星テレビでのサッカー中継など、あらゆる方法で客を引き留めようとした。ところが若者たちは、マクドナルドで試合を見た後にパン屋に行ってパンを買うという有様だった。この話、大好き。
この話を知って以来、パーネ・ディ・アルタムーラをいつか食べてみたい、と強く思っていました。プーリアに行くことになって、アルタムーラまでへの行き方を調べると、バーリからマテーラに電車で行く途中にアルタムーラという駅があります。マテーラは、洞窟住居群で知られる世界遺産。なのでアルタムーラより、まずマテーラを目指すことにしました。マテーラはプーリアではなく、バジリカータ。でも。パーネ・ディ・マテーラもプーリアのパンの仲間として有名なパン。
パーネ・ディ・マテーラ。
パーネ・ディ・マテーラは、味、歯ごたえ、栄養価の三拍子が揃った、マテーラのシンボルとも言えるパン。このパンを食べると、マテーラの農民の何世紀にも渡る伝統、文化、歴史を感じることができる。
マテーラのパン造りの伝統は、ナポリ王国時代までさかのぼる。この地方では、各家庭に凝灰岩の粉挽用石臼があって、パンは共同竈で焼いていた。パン生地には木の型で各家庭のイニシャルを刻み、焼いた後でも誰のパンか分かるようにした。やがて製粉所ができ、伝統のパンは現代まで受け継がれていく。
パーネ・ディ・マテーラは角頭巾型のパンで、大きさは1㎏と2㎏のタイプがある。外皮はパリッとして焼き色がつき、クラムは麦わら色でたっぷり発酵させている。小麦は、カッぺリ、ドゥ―ロ・ルカ―ノ、カベイ―ティといった昔からある品種を使っているので、他の場所にはない、地元独自の遺伝子が受け継がれている。これがパーネ・ディ・アルタムーラを独特なパンにしている大きな要因だ。
小麦粉と水をこねた生地には生の果物から作った酵母を加える。この酵母もパーネ・ディ・マテーラに独特の風味を与える。
パーネ・ディ・マテーラは消化が良く、なおかつ長期間の保存が可能なパン。1㎏のもので7日間、2㎏のものなら15日間たっても香ばしさと歯ごたえは変わらない。ただし歴史の古いパンはビニールとは相性が悪く、ビニール袋に入れるとカビが生えてしまう。保存する時は布巾で包むようにするとよい。マテーラやその近郊では、焼き立てのパンを買いに行くときに、パンを包む布巾を持参する人もいる。
情報だけはたっぷり仕入れられるのですが、その味は謎のままでした。マテーラは行ってみたかった場所ですが、初めて足を踏み入れて、あちこで建築が行われていて、田舎なのに活気のある町で、しかも世界中から観光客が来ていて、とてもおしゃれな街で、ビックリしました。
マテーラ。
とりあえず見かけたレストランに入って食事をすることにしたのですが、半地下にあるおしゃれなこの店が、パーネ・ディ・マテーラとの出会いの場でした。席についた私たちに、さっそくスライスされたパンの盛り合わせが運ばれてきました。それはとても変わった形をしていました。パーネ・ディ・マテーラやパーネ・ディ・アルタムーラは、スライスすると、とても変わった独特の形になるのです。
このパンをスライスした姿を想像してみて。見事に大きくてベースと上段の2つがあるとても面白い形でした。一目見てすぐ分かりました。これはパーネ・ディ・マテーラだと。同時にこの地方では、パンは小さく切らずに、大きく、元の形が分かるようにスライスすることも知りました。
次回はその話。
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