ガンベロ・ロッソのイタリアワインの格付け本、『ヴィ―ニ・ディタリア』のトレ・ビッキエーリの発表会。
“ワインと階級”というその記事は、イタリアワインの歴史にも触れた興味深い内容でした。イタリア目線で語っていますが、ヨーロッパワインの入門の知識も詰まってました。ここでざっと紹介します。
まず、最初のワインは農民のワインだった。畑を持つ農民は皆、地元のぶどうを育ててワインを造っていました。ルーツはフランスのブルゴーニュ地方。それがやがてイタリアやドイツへと広まっていきます。
ブルゴーニュ。
農民のワインのすぐ後に、貴族のワインも生まれた。農民と違って、貴族は自分たちで味わうためにワインを造った。売るのは必要な時だけで、しかも、しばしば最高のものは自分たちのために取っておいた。良いものを売って残り物を飲んだ農民とは正反対だ。しかし、彼らのワインも土地と強く結びついていた。自分たちの土地のぶどうを使い、最初は地元の品種を栽培していた。
最初の革命は、農民が畑を持つようになって起こりる。農民のワインは土地と強く結びつき、伝統的なぶどう品種と醸造技術を用いているのが特徴。ぶどうの出来は気候に左右され、農民の立場はもろく、リスクも大きかった。ワインの値段は流通業者によって決められた。1960年代まで、イタリアのほぼすべてのワインはこのようなワインだった。
そこに徐々に変化が訪れる。中でもランゲのバローロ地区では、1900年代初めから、優れた作り手たち登場した。マッシャレッリ、ピーラ、コンテルノ、リナルディといったカンティーナが農民たちのエリートだった。さらにアメリが人がバローロボーイズと呼んだ新しい造り手たちが、地元の流通業者の手を離れて、自由な道を模索し始めた。エリオ・アルターレ、ドメニコ・クレリコ、レナート・チッリア―ティ、ロベルト・ヴォエルツィオといった人たちだ。ランゲ地方以外では、ヴァレンティーニ、クラヴネル、クインタレッリ、エウジェニオ・ロ―ジなどの造り手がいる。
ランゲ地方のバローロの村々。
バローロのベースのワイン、ネッビオーロ。
ワインの流通業者が大きな力を持っていたんですね。考えたことなかったけど、商品を遠くに運ぶために、最適の容器が考え出され、瓶詰め業者が誕生し、鉄道が敷かれと、地方の産業も地方自体も発展していったのでしょう。
そんな農民のワインに対して、自分で飲むために創る貴族のワインは、まったく別の社会を構築していきます。
ボルドーは貴族のワインから中産階級のワインになった。貴族の立場からすれば、中産階級にワインを提供するのには抵抗があることだった。しかし、時代は変わっていく。それと共にワインも変化する。
ヨーロッパの地中海諸国には必ず貴族のワインが存在する。イタリアはシチリアやトスカーナ、スペインはリオハ。そしてその代表的な存在が、18世紀のボルドーだ。
農民のワインの元祖、ブルゴーニュのワインとは、成り立ちからして違うワイン。
ボルドーワインはその後、イギリスの中産階級という新しい市場を獲得する。
ボルドー。
映画『世界一美しいボルドーの秘密』予告編。
中産階級のワインの登場だ。
中産階級(ブルジョワジー)という言葉にはあまり良いイメージがない。この階級は、スノッブと形容されることが多いが、スノッブとは、実は「ノーブル(高貴)さがない」という意味だ。つまり貴族ではないのに貴族のように振舞うことを意味する。中産階級のワインとは、中産階級が造るワインではなく、中産階級のためのワインのことで、造り手は農民や貴族だった。
最初のワイン、農民のワインは日々の糧を得るためのもの。すぐ後に生まれた貴族のワインは、自分たちで味わうためのもの。農民は良いものを売って残り物を飲んだ。
そして中産階級のワインは、なんと中産階級が造るワインではなく、中産階級のためのワインのこと。生産者と消費者の関係まで変わっていく。
現在でも貴族のワインは存在する。イタリアではサッシカイア、ダルチェオ、サン・レオナルド、タスカ・ダルメリータ、テヌータ・ディ・カッペッツァ―ナなどがこれにあたる。これらのワインはカベルネ・ソーヴィ二オンを使うなどボルドーの影響が強く感じられる。“インターナショナルな品種”と呼ばれるぶどの分類は、こういった貴族のワインから誕生した。
ワインと階級の話、次回に続きます。
今日の話は(CIR2023年7月号)の記事、“プーリアのグルメガイド”のビジュアル解説です。記事の日本語訳と写真はP.16~。
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