トマトがイタリアに広まったのは、比較的歴史が短いのはよく知られた話。
(CIR)8月号の“トマトのスパゲッティ”の記事によると、トマトのスパゲッティをイタリアの家庭に広めたのは、度々登場する統一イタリア料理の父、ペレグリーノ・アルトゥージかも知れない、そうです。
この記事によると、トマトソースとパスタの理想の組み合わせは、太さが1.7㎜、ゆで時間が8分の麺だそうです。この太さの麺をこの時間ゆでると溶け出すでんぷんの量が理想的になるそうです。
量産型のパスタはテフロンのダイスを使っているので断面がつるつるで、アルティジャナーレのブロンズのダイスを通したパスタと違って、でんぷんが溶け出しません。
表面がざらざらでソースがよく絡み、ソースにはでんぷんのとろみが加わってつながる、というわけです。
美味しいパスタには欠かせない条件ですが、イタリア産パスタでないと、コストがかかるこの現象にこだわったパスタ作りは、残念ながらしないですよね。
でも、イタリアの食文化はアルティジャナーレな製品を尊重するので、みんな舌が肥えている。いいものはコストがかかるというのが当たり前。安ければいい、という発想は強くない。
バリラの新製品はその名もアル・ブロンゾ(ブロンズのダイスを通した)
両者の違いは一口食べると明確に違います。あと、アップにしてもよくわかるので、テフロンのダイスを通したパスタにレトルトのパスタソースをかけて美味しそうな演出をするのは逆効果。
さらに、太さ1.7㎜の麺に合わせるトマトは、果肉の甘味が一般的なサン・マルツァーノの場合だそうです。
甘酸っぱさが強いトマトの場合は、麺の太さは1.9~2.1㎜必要で、ミネラル分が強いピエンノロ・デル・ベズビオの場合は2.3㎜必要だそうです。
ピエンノロ・デル・ベスビオ。
ちなみにミニトマトを使ったトマトソースのパスタの代表は、
ナポリのパスタ・アル・スカルパリエッロPASTA ALLO SCARPARIELLO。
靴代をチーズでもらったナポリの靴屋が考え出したと言い伝えられているパスタ。
材料/2人分
ピエンノロ・デル・ベズビオ・・300g
バジリコ
にんにく・・1かけ
生唐辛子・・1本
ペコリーノ・ロマーノ・・30g
パルミジャーノ・・30g
アルティジャナーレのリングイーネかスパゲッティ・・200g
・にんにくと油、バジリコの茎をソッフリットにする。
・パスタをゆでる。
・にんにくとバジリコを取り除いてトマト(皮をとってもよい)を加えて潰す。
・手でちぎったバジリコと塩を加える。
・アルデンテにゆであがったパスタを加えてマンテカーレする。
・火を止めてパルミジャーノを散らす。ペコリーノでもグラナ・パダーノでもよい。
細いパスタや断面が四角い麺には、チェリートマトやダッテリーニのようなデリケートな甘い味で酸味が少ないトマトが合うそうです。
短時間でゆであがるスパゲッティーニは、ゆでている間に吸い込む塩の量が少ないので、それも考慮して調味します。
麺をゆでるというと作業に関して、日本人はイタリア人と比べると素人だなあ、と最近はよく気が付きます。特に、麺をゆでることはでんぷんをゲル化するという発想が日本人には欠如しています。
でんぷんは生では消化できないので、消化吸収できるように加熱する必要があります。
そもそもパスタをゆでるのはこのためなんです。
でも、でんぷんのゲル化には、沸騰させ続けた湯でグラグラゆでる必要はありません。
麺のでんぷんを愛するイタリアでは、近年でんぷんの研究が進み、パスタのゆで方にも変革が訪れています。
以前にも書きましたが、私たちが知っているパスタのゆで方は、今のイタリアでは“伝統的”、と言われる、一時代前の方法なんです。たっぷりの水をぐつぐつ沸騰させながらゆでて、ゆで汁を全部切る方法は、ガス代や水道代的にもサステナブルじゃないですよね。
今どきのパスタのゆで方。
リゾッタータで作るトマトソースのパスタ。
pasta risottataパスタ・リゾッタータ。
・鍋に湯を沸かして火から下す。
・アルミ鍋で油と玉ねぎのみじん切り少々をソッフリットにする。
・やや大きな鍋を火にかける。
・ソッフリットに皮をむいて小角切りにし、水気を切ったトマトと塩を加える。
・あらかじめ沸かした湯少々を加えて沸騰させ、パスタを直接入れて再沸騰させる。
・リゾットの要領で湯を少量ずつ足しながら煮る。
リゾッタータよりもっと新しいゆで方は、コットゥーラ・パッシバ。これは理系でない私は理解するのに時間がかかるので、詳細は次回。
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