2021年12月7日火曜日

パスタのコットゥーラ・パッシバは、パスタのSGD'Sな調理方法。パスタをスプーンを使って巻く人を馬鹿にするのはコンプライアンス的にアウト。

パスタをゆでる時に加える塩には、ゆで汁の温度を上げる効果はない、という科学的な説明を聞いて、おそらく、イタリア人は日本人よりショックを受けていたはずです。
今まで信じていたことに、科学的な根拠がない、と知らされたのですから。
逆に、もっと科学的にパスタを分析しようとする動きがシェフたちの中から起きても不思議ではありません。
さすがに長い歴史のある国なので、伝統も最初は革新だった、ということをよく知っています。
だから、シェフたちは新しい考えを取り入れることをあまり躊躇しません。
そしてこの革新が広く受け入れられるには、長い時間が必要なことも知られています。
塩の次に疑問が持ち上がったのは、パスタをゆでる温度です。

パスタを科学的に分析することによって、パスタは生では食べることができない。小麦粉と水の生地はこねることによってグルテンが形成され、ゆでることによって小麦粉のデンプンがゲル化する。といったようなことがわかってきました。さらに、デンプンのゲル化には、ゆでている間に湯を沸騰させ続けるのは必ずしも必要でない、ということもかわかりました。

そして生まれたのが、受動的加熱la cottura passivaと低温調理la cottura a freddo という方法です。
コットゥーラ・パッシバなら節約もできる、という動画↓


提唱者はアメリカの調理化学者、ハロルド・マクギー氏。彼はこの方法なら大きな鍋にたっぷりの湯を沸かす従来の方法と比べて水も熱も節約できると提唱したのです↓

パスタはゆでたての熱々をサーブするもの、というのも論破されています。
この説が広まるきっかけは、イタリアのナンバーワンソムリエでイタリアソムリエ協会長のジュゼッペ・バッカリーニ氏の著書『Manuale degli abbbinamenti』を始めとする数多くの権威ある料理書で、パスタは 熱々をサーブスべし“servire fumante”と書かれていたため。
ジュゼッペ・バッカリーニ氏↓

ところが、今どきの若いシェフは、パスタを高温でぐつぐつゆでて熱々をサーブすることに異議を唱えているのです。なぜなら、小麦の微妙な風味をもっと味わいたいのだそうです。
これなどは、パスタメーカーが小麦の品質改良に取り組んで、イタリア産小麦が大幅に変化した結果でしょう。

さらに、イタリアよりも外国人、特にアメリカ人の間で広まっていたスプーンを使ってパスタを巻く食べ方、これに異議を唱えることは、異民族のプライド問題にまで発展します。
今やラブストーリーの定番になっている異なる食文化を持つ外国人同士の恋愛。
アメリカの2015年の映画『ブルックリン』は、アイルランド人とイタリア人(かなりの確率でトニーという名前)の移民家族の恋愛物語。映画の中では、イタリア人がアイルランド人にスパゲッティの“正しい”食べ方を教える、という鉄板のシーンがあります。
2015年の映画『ブルックリン』のスパゲッティのシーン↓

スパゲッティをスプーンで巻いたばかりに、ちょっとした口喧嘩が発生。
今ならコンプライアンス的にアウトなスパゲッティの食べ方の作法を押し付ける姑。
なんと昔はイタリアでもスプーンを使う習慣はあったそうです。
ただし、もっと徹底的に避けられるのがナイフを使う食べ方。
スパゲッティの食べ方に関しては、食事のマナーの本で、スパゲッティにスプーンは使うべからず、と書いた人はジュディス・マーティンというアメリカのマナーの専門家のジャーナリストだそうです。

これはもちろん科学的な根拠は皆無で、習慣の違いがすべて。
アルデンテは外国語に翻訳できないイタリア語となって世界中に広まっていますが、アルデンテの概念を外国人に押し付けるのもアウト、となる日は遠くはないかも。
とは言え、フォークが広まったのは、ロングパスタが広まったおかげとも言えるのです。
地中海全域は、フォークの食文化が広まった地域です。
フォークは中世までヨーロッパではまったく知られていなかったのです。
次回はこの話でも。
今回参考にした本は『パスタ・レボリューション


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