2019年3月8日金曜日

マルケージシェフの残したもの

今日はグアルティエーロ・マルケージシェフの話。
このブログでも度々取り上げ、2017年12月に亡くなった時は、世界中で報じられたイタリアを代表するグランシェフ。
今月の「総合解説」では、ガンベロ・ロッソが創刊30周年に際して彼を取り上げた記事を訳しました。
おそらく世界で一番有名なイタリア料理人ですが、知らない人のために記事の冒頭をここで紹介。

「マルケージ・シェフは1970年~80年台にかけて、イタリア料理を変えた人物だ。
ガンベロ・ロッソの最初の格付け本では、彼のミラノの店はダントツの1位だった。
彼によって現代イタリア料理の扉は開いた。
マルケージはイタリア料理のブランドを作り、イタリアンスタイルの豊かなライフスタイルと美食を世界に広めた」

私に取っての彼のイメージは、バブリーの最先端なシェフ、でした。
せっかくミラノの店で食事したものの、卓上のアーティスティックなオブジェや店のゴージャスな雰囲気にのまれて、料理のことは見事に何も覚えていないのでした。

でも、今になって思うのです。
もし、当時一世を風靡していたマルケージシェフが、バブルの申し子でもう少しえげつない人だったら、イタリア料理は今とは違ったものになっていたかもしれない。
マルケージチルドレンを筆頭に、今のイタリア料理には、彼のナイーブでハイセンスな感性が受け継がれています。

彼の代表作、リーゾ・オーロ・エ・ザッフェラーノ。
初めて世に出たのは1981年。


彼はヌーベルキュイジーヌと一緒に語られることとが多い人ですが、記事には、彼自身はヌーベルキュイジーヌの限界をすぐに感じていた、という話もあります。
シンプルな料理の美しさと美味しさの関係に魅せられていたマルケージシェフは、食材自身が持つ美しさを、料理を遊びすぎてゆがめてはいけない、と語っています。
確かに、彼の代表作は、シンプルなのに強烈なインパクトをもつものばかり。
「総合解説」には代表作4品の写真も載せました(P.36)。
Raviolo Apertoも、Dripping di pesceも、料理を見れば誰もが彼の料理と知っているもの。
こんな人、世界中探してもそういません。

彼の功績を理解するには、ヌーベルキュイジーヌというキーワードを消し去る必要があるかもしれません。
イタリア人の代名詞だったラテン系の情熱に満ちたおふくろの味より、彼の知性や芸術性が溢れた料理に、世界中が魅せられたのでした。

これはそれまで、イタリア人の誰にもなしとげられなかったことでした。
母から娘へと受け継がれてきたとても曖昧で広大なイタリア料理の姿を、彼は自らの判断できっちりと整理して、アイデンティティーを確立させたのです。
でも、無名の母親ではなく、天才料理人の料理を弟子が受け継ぐというスタイルは、フランス料理の典型。
このあたりにヌーベルキュイジーヌをイメージさせる要素があるのかも。

イタリア料理にマンマ以上の影響を与えた唯一のシェフです。

マグロのグーラシュ(2011)



彼の目指した料理の思想を受け継ぐシェフたちの団体、レ・ソステの本、『グランディ・リストランティ・グランディ・シェフ





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“グアルティエーロ・マルケージ”シェフの記事の日本語訳は「総合解説」2016年11/12月号に載っています。
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