2019年3月29日金曜日

広まることに抵抗しているサルデーニャ料理

“サルデーニャ風、鶏のリピエーノ”(こんな料理)を紹介する『サーレ・エ・ぺぺ』の記事は、こんな文章で始まります。
「総合解説」はP.24。

「サルデーニャ料理はサルデーニャ人気質のように古風で、まじめで、地味だ。
そしてその料理が広まることに今でも抵抗している」

なるほどーでしたよ。
「その料理が広まることに今でも抵抗している」
これ、料理書を売っていても、強く感じます。
せっかくいい本を作っても、売る気、まったくないんです。
サルデーニャ料理をイタリア料理に変えてもいいかも知れません。
どんなに素晴らしい本でも滅多に重版しないし、売る気あるんですか、と言いたくもなります。

イタリア料理は口伝の料理だということは、広く言われていますが、このことは、フランス料理と比べるとはっきりしてきます。
宮廷や天才料理人によって常にマニュアル化されてきたフランス料理は、料理を料理書に書き記して、文化として確立させ、後世に伝えてきました。
このあたりが家庭料理とそうでない料理の違いかも。
イタリアの主婦たちは、その料理を娘や息子に教えることには熱心でも、書き残すことには興味がなかったのです。
広めようとしなかったのではなく、逆に秘伝のものにして子孫に代々受け継がせることに情熱を注ぎました。

料理が広まることに抵抗している、という発想は、イタリア人じゃないと生まれないなあ。

家族の料理を教わる子どもたちにとって、母や祖母は神。絶対的存在。
この話を語る時、サルデーニャの羊飼いの親子の姿を描いた映画、『パードレ・パドローネ』を観ると、納得しやすいかも。


ちょっとだけトラウマものなので、心を強く持って観てね。(こんな映画by wiki)
父から自立していく息子が天才で、後に高名な言語学者になったというのは、感動的だけど非現実的(だけど実話だからすごい)。
息子を、文盲のまま育てて、家業の前時代的な羊飼いを継がせるというのは残酷なことだけど、親の権威に疑問を持ったら息子は結局独り立ちしてしまい、家業の羊飼いは途絶える、と考えるお父さんを責めることもできない。
これは、サルデーニャ料理を守るためには、広める必要はないという考えにつながるかも。

フランスでは革命が起こって王様を断頭台に送ったけど、親をギロチンにかける子供なんていないように、親の絶対君主ぶりは、強烈ですよ。
イタリアの地方料理のリチェッタは、うちの母親の料理が一番と無条件に信じる子どもたちによって次の世代へと受け継がれてきたのです。
だれの家の料理が一番とか正解なんて、決められるわけもなく、バリエーションを無数に増やしながら増殖してきました。

このことをふまえて今月の「総合解説」の“ティラミス”の記事P.26を読むと、一段と面白いですよ。

ご存知の通り、ティラミスは世界的に有名になったイタリアのドルチェ。
でも、誰が考え出したのかは不明です。
歴史の短いドルチェなので、イタリアだけでなく、地球規模で、この料理は私が、または私の関係者が考え出した、と主張する人たちがいます。
でも、数ある本家を名乗るレストランではなく、広まることに興味を持たない母親が考え出した料理が地球規模で広まってしまったと考えるほうが、納得できます。
この先も、永遠に謎のままでしょう。

ところで、サルデーニャ風鶏のリピエーノの記事は、最後まで衝撃的ですよ。
この料理に使う鶏は、2~6ヶ月齢の若鶏ですが、サルデーニャではこの種の若鶏は家で飼われているので肉屋で買うことはあまりないのだそうです。

鶏1羽を使い切る庶民の料理
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サルデーニャ料理
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すぐに売り切れになるサルデーニャ料理のお勧め本は、
トラディツィオーネ・グスト・パッシオーネ/2巻スッド・エ・イーゾレ
南伊と島の料理の2巻は、サルデーニャの文化遺産のような素晴らしい料理の数々から始まります。



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サルデーニャ風、鶏のリピエーノのリチェッタの日本語訳は「総合解説」2017年1/2月号に載っています。
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バッカラはノルウェーとイタリアを結ぶ干物貿易の主役で、この航路は1450年作成の世界地図にも記載されるほど重要でした。

(CIR12月号)によると、ヴィチェンツァでは、この料理はCが1つなんだそうです。普通はバッカラはbaccalàでも、ヴィツェンツァでは、Cがひとつのバカラ。んなばかな、と思ったけど、地元のこの料理の専門家たちは、C一つで呼んでました。会の名前の刺繍もC一つ。リチェッタはP.11...