ティラミスの謎、その2。
ティラミス, photo by Byron Wee
ティラミスはトレヴィーゾのリストランテ・ベッケリーエで考え出された、という説は、昨日も書いたとおり、その誕生にかかわったとされる女主人自らが、そう語っています。
でも世の中には、それは違う、という人もいる模様。
その代表が、トレヴィーゾに本店があるトゥーラ(エル・トゥーラ)グループ(hp)の会長、アルトゥーロ・フィリッピーニ氏。
kataweb.itによると、エル・トゥーラの創業者のアルフレード・ベルトラーメ氏が、フィリッピーニ氏に、ティラミスは、1930~40年代に、トレヴィーゾのいわゆる赤線地区で、娼館の女性が作っていたドルチェだと語っていたそうです。
それを食べた人が、「desso ve tiro su mi」と言ったとか。
また、トレヴィーゾのホテル・バリオーニで誕生した、という説もあります。
このホテルは1944年に爆撃を受けてなくなってしまったそうですが、ここのシェフ、ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアゼンティン氏が、息子のジュゼッペと一緒に結婚披露宴の料理を作っていた時のこと。
息子が、ズッパ・イングレーゼ用のスポンジケーキを焦がしてしまいました。
作り直す時間がなかったので、スポンジ生地を濃いコーヒーに浸し、マスカルポーネで覆ってビターココアパウダーを散らして出してみたところ、大好評!
これが元祖ティラミス、と主張するのは、シェフの甥のジャンニ・トゥルケット氏。
ちなみに、偶然にもピアゼンティン氏は赤線地区の生まれでした。
また、トレヴィーゾのホテル・レストラン、アル・フォーゲルでは、ティラミスにそっくりなドルチェを、トルタ・インペリアーレという名前で出しています。
シェフのジャンニ・ガラッティ氏の母親が、1950年代に某王女がトレヴィーゾを訪れた際に考え出したドルチェだとシェフは言っています。
暗に、ベッケリーエはそれの名前を変えただけ、と主張している訳ですね。
ガラッティさんはトレヴィーゾの観光促進団体の会長さんでもあります。
(この人)
でも、何と言っても最近一番物議をかもしているのが、アメリカはボルチモアに住む、カルミナントニオ・イアンナッコーネ氏。
この人、ティラミスは自分が考え出した!と、宣言したんです。
WashingtonPost.comによると、イアンナッコーネさんは、アヴェッリーノ(カンパーニア)のパスティッチェリーアで9歳から働きはじめ、14歳の時に仕事を探してミラノに移りました。
1962年に結婚して、1969年にはトレヴィーゾ郊外のポンテ・ディ・ピアーヴェで、ピエディグロッタというレストラン兼パスティッチェリーアを始めます。
そこで彼が作ったのが、この地方では一般的な味、濃いコーヒー、マスカルポーネ、卵、マルサラ、サヴォイアルディを組み合わせたドルチェ。
完成するのに2年かかったそうです。
ところが、店でこのデザートを食べた人たちが次々にコピーしだし、あっという間に様々なバージョンで世界中に広まってしまいました。
イアンナッコーネさんは、「リチェッタはめちゃくちゃになってしまったけれど、それがあなたのおばあさんが作った味で、あなたが好きならそれでいいですよ。
ただのデザートですからね」
と、すっかりあきらめモード。
ティラミスという名前が本や雑誌に登場するようになったのは、1980年代になってから。
それは、レ・ベッケリーエとエル・トゥーラ、この2軒の店のデザートとしてでした。
彼によると、エル・トゥーラは彼の後にティラミスを出し始めたのですが、こっちは無名であっちは有名。
当然マスコミは、あっちの店を取り上げるでしょう。
こっちは無視ですよ。
ただし、すでに書いた通り、エル・トゥーラ側は、自分たちはティラミスが広まるのに影響を与えたが、考え出したのは娼館の女性、と言っています。
レ・ベッケリーエに対しては、イアンナッコーネさんはこう言っています。
「何の証拠も残っていないけれど、弟のジュゼッペがレ・ベッケリーエにあのドルチェを売ったら、それを自分たちのデザートとして出すようになったんですよ」
レ・ベッケリーエ側は、とんでもない話、と反論しています。
現経営者で、ティラミスの考案者とされるアンナ夫人の息子、カルロ・カンペオール氏は、イアンナッコーネ氏には会ったこともないし、ピエディグロッタという店は聞いたこともない、と言っています。
レ・ベッケリーエのティラミスは、子供も食べられるようにと、アルコールは加えません。
一方、イアンナッコーネさんのティラミスにはマルサラが入り、手の込んだクリームを作ります。
この違いを、イアンナッコーネさんは、安く簡単にできるように彼らがアレンジしたのだと言っています。
1995年にアメリカに渡ったイアンナッコーネさん。
現在、ボルチモアでピエディグロッタというベーカリーを営んでいます。
店のhpには、ティラミスが完成した日付まで書かれてますよー。
さーていったい、誰の話を信じればいいんでしょうねえ。
次回は、両者のティラミスのリチェッタ比べです。
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関連誌;『ア・ターヴォラ』2006年5月号(クレアパッソで販売中)
“ティラミス~誕生の物語”は「総合解説」P.9に載っています。
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2008年5月27日火曜日
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