2008年12月24日水曜日

カチョカヴァッロ・ラグザーノとカミッレーリ

今日はラグザーノの話、その2。


ラグザーノDOP
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andreagraziano.wordpress.com

ラグザーノができるまで
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www.comune.ragusa.it


シチリアの牛乳のチーズ、ラグザーノDOPは、いわゆる“とろけるチーズ”で、カチョカヴァッロの一種。
とろけるチーズを使う料理にこのラグザーノを使えば、あっという間にシチリア風やラグーザ風の一品になる、という訳ですね。

とろけるチーズを使う料理と言うと、たとえば、アランチーニやなすのパルミジャーナなどにこのチーズを使っているリチェッタもあります。
古いリチェッタでは、スライスして溶き卵をつけて油で揚げる、なんていうのもあります。
前菜や食後の一品として食べるのも一般的。


有名シェフでは、ラグーザ・イプラのリストランテ・ドゥオモのシェフ、チッチョ・スルターノ氏は、さすがに地元だけあって、ラグザーノを使った様々な料理を出しています。

店のhpはこちら。
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ristoranteduomo.it


ラグーザ出身で、カターネ・パレス・ホテルのレストラン、イル・クチニエーレ(hpはこちら)のシェフ、カルメロ・キアラモンテ氏は、ラグザーノのメーカーが出した料理書にリチェッタを提供しています。

こんな本。
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vigata.org


この本には、イタリアの有名ミステリー作家、アンドレア・カミッレーリ氏が書いたカチョカヴァッロにまつわるエッセイも収録されています。

彼は、日本でも2冊出版されているモンタルバーノ警部シリーズで有名。
モンタルバーノ警部-悲しきバイオリン

イタリアではテレビシリーズにもなっているベストセラーで、以前、このブログでも取り上げたことがあります(こちら)。

シリチア料理に造詣の深いグルメとしても知られるカミッレーリ氏は、1925年にアグリジェント郊外の町で生まれています。
こんな人。
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flickr.com
 
その彼、カチョカヴァッロにはこんな思い出がありました・・・。


5歳の時のこと、ある朝私がマンガを読んでいると、母親から、「ナポリ人の店に行ってカチョカヴァッロを100g買ってきて」と使いを命じられた。
当時私の町では、食料品店はすべて「ナポリ人の店」と呼ばれていた。
彼らが皆ナポリ風のアクセントで話していたからなのだが、実際のところは、サレルノかアマルフィのなまりだったのかもしれない。
また、当時はまだ、100gのことを「ウン・エット」と呼ぶ習慣はなく、「チェント・グランミ」と呼んでいた。
「エット」は私がもっと大人になってから、「民主主義」や「共和国」、「投票」、プレゼーピオに取って代わった「クリスマスツリー」などと一緒に入ってきた言葉だ。

その時の私は、カチョカヴァッロなんて全然食べたくなかった。
そのカヴァッロ(馬)という名前から、私は馬肉の切り身を想像した。
しかも血が滴って皮も付いている生肉を。
カチョカヴァッロがチーズのことだとは知らなかったのだ。
父は「普通のチーズだよ」、と言いなだめるのだが、そんなのウソだと思った。
チーズは山羊や牛のお乳から作るもので、馬のお乳のチーズなんて、見たことない!
結局、母の命令に逆い通すことは難しく、私は憂鬱な気分でナポリ人の店に向かったのだった。

店で渡された包みを人気のない路地を通って家まで持って帰るのは、ちょっと怖かった。
私はふと立ち止まり、包みを開いて中の香りをかいでみた。
それは確かにチーズの香りだった。
しかもおいしいチーズの香りだった。
馬肉を想像させるものは何もない。
そこで私は思い切った行動に出た。
ちょっとなめてみたのだ。
少しピリッとしたが、おいしかった。

その日、母はカチョカヴァッロをテーブルに出した。
そしてなんと、父と二人で食べてしまった。
「えっ、僕の分は!?」
・・・・・。


小学2年生の時のこと、父がラグザーノを丸ごと一個持って帰ったことがあった。
当時一家は田舎の家で数ヶ月過ごしていて、私は彫刻を造ることに夢中になっていた。
ラグザーノが半分の大きさになったとき、私はこれを馬の形に彫ってちょっとした作品に仕立てることを思いついた。
まず一片を切り取って長方形にし、さらに四角にし、そして三角にし・・・。
出来はなかなかだった。

その晩、削りカスだけが残ったカチョカヴァッロの姿を見た父は怒り出した。
「誰がやったんだ」
「僕が馬の置物を作ってみたんだ」
「それはどうした」
「庭のベンチの上に飾ったよ」

翌朝、私の作品はなくなっていた。
絶望して泣き出した私に、母は、「きっとネズミが食べちゃったのよ」と言った。
だが、私は確信していた。
食べたのはネズミじゃない。
父さんだ!




イタリアの子供は、カチョカヴァッロと聞くと、やっぱり馬を想像するんですね。
大先生も昔は可愛かったんだなあ。
もちろん、カチョカヴァッロのカヴァッロは馬という意味ではなく、“またがる a cavallo ”という意味。
チーズ(カーチョ)を熟成させる時に、棒にまたがるようにチーズをかけて吊るしたことからついた名前ですよね。
馬のミルクのチーズではありません。
念のため(笑)。



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関連誌;『ア・ターヴォラ』2006年10月号(クレアパッソで販売中)
“ラグザーノ”の記事の解説は、「総合解説」'06&'07年10月号、P.323に載っています。


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3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

このエピソード、とってもかわいいけど、訳がみごとだからそう読み取れるんですね−。プレッツェーモロさん、素晴らしい! ラグザーノの形って面白いから削りたくなるのもわかるなぁ。しかし、昔カラブリアでお腹の調子が悪いと言ったら、メインで出してくれたのがカチョカヴァッロ焼き。それってお腹に良かったのだろうか、今も疑問(笑)

prezzemolo さんのコメント...

くるりさん
ぎゃは、うれしいこと言ってくれちゃいますねー。銀行口座に1億円振り込んどきます。でも、原文をそのまま訳しただけですよーん。
カラプリアでは、とろけたチーズはお粥も同然だったのかー!さすがは肉食の人たち。一緒にワインもたっぷり飲まないと、お腹で固まっちゃいますよね。

匿名 さんのコメント...

andrea camilleriのことを調べていて、あなたのサイトにたどり着きました。興味深く拝読。内容豊かでちょっと興奮しました。
シチリアは大好き、何度も通っています。

ジェラートはパンとの相性も良いデセール。シチリアとナポリの人のジェラートの食べ方は、ほんとに自由。

今日は、(CIR)7月号のリチェッタから、ジェラートの話(P.12)。 リチェッタのテーマは、シンプルにコーンやカップに入れるジェラートではなく、クロスタータやボンボローニ、はてはフォカッチャにのせるジェラート。 ジェラートのデセールの最高峰はトルタ・ジェラート。 パン・ジェラー...