2018年7月18日水曜日

イワシのチェタレーゼ、カルピオーネ、スカペーチェ、イン・サオール

キリスト教の四旬節の断食は、キリストの厳しい修行に思いを馳せて行う修行で、肉などの動物性脂肪を断つ、というもの。
金曜日もdi magroの日でした。

そもそも古代や中世の習慣ですが、キリスト教が広まった当初の掟はもっと厳しく、9世紀になって、魚を食べることが許されました。
魚でも、高価でゴージャスなものでは修行にならないし、四旬節は40日も続くので、質素な魚を使った日持ちのする料理が求められました。
大トロやキャビアは論外です。

21世紀になっても断食を守る人なんているのでしょうか。
四旬節の間に魚の消費量が増えるという事実が、みんな守っているということを物語っています。

でも、イタリアの断食の魚料理は、ポレンタとニシンなど徹底的に質素なのです。
総合解説」2016年3月号P.14~で訳した料理は、確かに質素な断食の魚料理ですが、野菜をたっぷり組み合わせるなどとてもボリューミーでよく工夫されています。

1品目のイワシのチェルタレーゼは、コラトゥーラの産地として知られるチェターラのイワシ料理です。
アマルフィ海岸沿いの、カタクチイワシの魚醤を現代に伝える漁業の町の断食料理は、パン、ペコリーノ・ロマーノ、卵、フィノッキエット・セルヴァティコというボリュームたっぷりな具をイワシにはさんでワインをかけてオーブンで蒸し焼きにした1品。

2品目のタコのブッリダは、サルデーニャの伝統料理。
ブッリダはリグーリアやプロヴァンスの魚のスープがルーツ。
タコのブッリダはタコとじゃがいもを一緒に蒸し煮にした料理。

リグーリア料理のコウイカのブリッダ



1001スペチャリタ・デッラ・クチーナ・イタリアーナ

によると、リグーリアのブリッダBuriddaは、
リグーリアのズッパ・ディ・ペッシェで、数種類の魚を使います。
最も伝統的なのはストッカフィッソだけを使ったストッカフィッソのブリッダ。
陶器の鍋に入れて、野菜、トマト、アンチョビ、きのこ、松の実、じゃがいもなどを加えて3~4時間かけて煮込みます。

やはり断食の魚料理の代表的な魚は干ダラのバッカラやストッカフィッソ。
さらに、カルピオーネは、魚を日持ちさせるという点からもぴったりの調理方法です。
カルピオーネはピエモンテやロンバルディアの料理として知られていますが、スカペーチェとイン・サオールも、同じ調理方法です。
上述の『1001スペチャリタ・デッラ・クチーナ・イタリアーナ』によると、
スカペーチェはスペイン語のescabecheが語源。
スペイン料理がルーツだとしたら、南蛮漬けと訳した日本語は、まさにぴったり。
イン・サオールはヴェネチア料理の代表的な前菜。
トリエステ湾で捕れた新鮮で若いイワシの料理を使ったトレエステ料理としても知られています。



北イタリアのカルピオーネ、南イタリアのスカペーチェ、北東イタリアのイン・サオール。
どれも夏にぴったりです。

カルロ・クラッコの本、『カルロ・クラッコの地方料理

の中に、サルデ・イン・サオールのリチェッタがありました。
訳してみます。

SARDE IN SAOR/サルデ・イン・サオール

伝統的な庶民料理で、ヴェネチアのオステリア、バカーロでは必ず出す1品。
“カルピオーネ”や“スカペーチェ”同様、とても歴史の古い料理で、ルーツはわかっていないが、魚をマリネして日持ちさせる料理として世界中に広まっている。
手をかけて作れば美味しい料理になる。

材料/4人分
 イワシ・・24尾(1人6尾)
 玉ねぎ・・2個
 サルタナ・レーズン・・40g
 煎った松の実・・40g
 ローリエ・・1枚
 ジュニパー・・2粒
 白ワイン(ゲヴュルツトラミネル)・・100g
 バター・・70g
 赤ワインビネガー・・100g
 コルベッツォロ(ヤマモモ)の蜂蜜・・大さじ1(約30g)
 塩、こしょう

・玉ねぎを同じ幅の薄切りにしてバターでしんなり炒める。
・しんなりしたらローリエ、ジュニパー、サルタナレーズン、松の実を加える。
・白ワイン、赤ワインビネガーの順でかける。蜂蜜を加えて水で覆う。
・弱火で玉ねぎがジャム状になるまで煮る。
・塩、こしょうで調味し、甘味より酸味をひきたたせる。
・イワシの鱗、頭、背骨を取り除く。
・よく冷えたガス入りミネラルウオーター、小麦粉、卵で日本式の天ぷらの衣を作る。
・イワシに衣をつけてたっぷりの高温の油で揚げる。(イワシはよく冷やしておき、火が通り過ぎないで、フリットの香りがつきすぎないようにする。イワシの温度が低いと外側はカリッと、中はやや柔らかく揚がる)
・衣でなく小麦粉をまぶすだけでもよい。
・フリット用のシートを敷いた皿に盛り付ける。玉ねぎのジャムは小皿に入れて添える。
ここに手で取った魚を浸して食べる(またはイワシにのせる)。

クラッコシェフは、私が知る限り、日本のテンプラにこだわることを文字にした最初のイタリア人シェフでした。


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“断食の魚料理”の記事の日本語訳は、「総合解説」2016年3月号に載っています。
1001スペチャリタ・デッラ・クチーナ・イタリアーナ
カルロ・クラッコの地方料理
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