アックア・パッツァの話、その2です。
シンプルな魚料理には似つかわしくない、「狂った水」というその名前。
いったいなぜこんな名前がついたのか。
もっともよく知られているのは、「アックア・パッツァとは海水(塩辛い水)のこと」という説。
そしてもう1つ、こんな説もあります。
影響力の大きいこちらの英語のサイトから。
2004年に出版されたCarole Counihan著『Around the Tuscan table』という本が引用元です
「アックア・パッツァという料理のルーツは、ナポリの漁師がその日に捕った魚を海水、トマト、オリーブオイルで煮た料理だが、アックア・パッツァという名前のルーツはトスカーナにあると思われる。
トスカーナの小作農たちは、造ったワインの大部分を地主に納めていたので、自分たちで飲むワインはわずかしかなかった。
その代わり、ワイン造りで残ったぶどうの枝や種、搾りかすをたっぷりの水で煮て、テラコッタの壺に入れて発酵させたものを飲んでいた。
この飲み物は、アックエレッロacquerelloとか、アックア・パッツァと呼ばれた。
その実態は、ワインでかすかに色をつけた水のようなものだったが、漁師が、トマトとオリーブオイルで煮汁に軽く色がついた料理を見て、この名前を思い浮かべたのだろう」
なるほど、薄く色がついた飲み物ですか。
すごくもっともらしいですねえ。
でも、ナポリの漁師料理に、トスカーナの飲み物の名前をつけるというのは、なんだか不自然な気もします。
うーん、どうなんでしょうねえ。
個人的には、海水がしょっぱすぎて、思わず「It's crazy!」と言っちゃった説が好きですが。
こちらのサイトでは、確たる証拠はないけれど、と断って、独自の海水説を唱えています。
それによると、これは塩の専売に対するナポリ人の抗議の現れなんだとか。
かつてイタリアでは、塩は政府の専売品で、高い税金が課せられていました。
人は塩がなくては生きていけません。
南部の貧しい農民にとって、塩の専売は貧しさの元凶とも言えるものだったのです。
漁師は昔から塩の代わりに海水を使うことがよくありました。
ところが、政府は塩を専売にするだけでなく、海水を使って料理することも禁じました。
だから、南部の人たちは、料理に海水を使ったこの料理を「狂った水」風と呼んで無言の抗議をした、というのがこの説です。
海水は海塩とは違ってさまざまなものが含まれているため、実際に料理しても、美味しくはないのだそうです。
それで結局は、海水ではなく塩を使うようになって、名前だけが残った、と言うわけです。
うーん、この話ももっともそうですねえ。
どれを信じたらいいんだか。
とにかく、質素な漁師料理だったアックア・パッツァは、1960年代にカプリに観光客が押し寄せるようになってメジャーになり、売れない魚ではなく、タイやスズキなどの高級魚を使った一品となっていったのでした。
漁師料理の話、次回に続きます。
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関連誌;『サーレ・エ・ペペ』2007年9月号
“ホウボウのアックア・パッツァ”を含む「漁師料理」のリチェッタは、「総合解説」'07&'08年9月号に載っています。
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2 件のコメント:
こんにちは。いつも楽しく拝見させてもらってます。私、大分昔に南イタリアに住んでいましたが、アクア・パッツァに限らずイタリア料理の由来は、まじめな説からくだらない説まであり面白いですよね。
アクア・パッツァに関して、以前enciclopediaに“ワインを水で割ったもの”と書いてあった気がしますが、何とも説得力がなく???でした。今回のトスカーナの話もワインと水絡みで何となく似ていますし興味深いです。
crasy程塩辛いと食べられないでしょうし、漁師ならケース単位でワインを船に持ち込んでいそうなので、“海水をワインを割ったもの”を、その様に呼んだのかなぁ?とも想像していました。日本の漁師なら“日本酒を湯飲みでグビグビッ”と言ったイメージで、船上料理に豪快に加えそうですよね。
petrusinoさん
コメントありがとうございます。
ひょっとしてお名前はナポリ弁?
ケース単位でワインを船に持ち込んでいそうって、面白すぎます~(笑)
考えてもみませんでした。
アックア・パッツァでワインを使うリチェッタは、現代になってからのアレンジのようですが、言われてみれば、漁師さんなら、船の上でとびきり新鮮な魚をつまみに一杯やっていても不思議はないですよねえ。
最近は、ペスカトゥーリズモとか、それを売り物にした商売もあるようですし。
あっ、でも料理に使う分が残らないかも、あっ、だからケース単位か。
勝手に納得(笑)
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