2008年11月4日火曜日

アルトゥージのクスクス

クスクスの話、その2。


Cuscús con pollo y verduras...
クスクス, photo by mabel flores


今日は、イタリアで最初に書かれたクスクスのリチェッタを訳してみました。

書いたのは、近代イタリア料理の父、ペッレグリーノ・アルトゥージ。
その本は、イタリア料理と言う概念をイタリアに広めた『la scienza in cucina e l'arte di mangiare bene』(1891年)。

それでは、アルトゥージのクスクスをどうぞ。


クスクス CUSCUSSÙ

クスクスはアラブ発祥の料理で、モーゼとヤコブの子孫たち(ユダヤ人)がその放浪の旅に携えていった料理だ。
長い年月と共に、どれほど姿を変えていったのかは知る由もないが、現在、イタリアではユダヤ料理のミネストラに使われている。
二人のユダヤ人が、親切にも私にこの料理をふるまい、作るところを見せてくれた。
それを私も自宅で作ってみたので、このリチェッタの信ぴょう性は保証する。
ただし、読者がよく理解できるかは保証の限りではない。

この偉大な料理を説明することは“とても難しく、子供の遊びではない”。
(この部分、原文ではダンテの『神曲』を引用しています)

材料は6~7人分。

子牛胸肉・・750g
子牛赤身肉・・150g
粗挽き小麦粉・・300g
鶏レバー・・1羽分
ゆで卵・・1個
卵黄・・1個
玉ねぎ、縮緬キャベツ、セロリ、にんじん、ほうれん草、ビエトラなどの香味野菜

・平らで大きな素焼きの鉢か、錫めっき銅の浅鍋に粗挽き小麦粉を入れ、塩とこしょうで調味する。
・水(カップに指2本分)を数滴ずつ加えながら手のひらでこね、水分を吸わせてふっくらさせる。
・水を全部加えたら今度は油大さじ1を同様にして吸わせる。水と油を加える作業は30分以上かかる。
・この粒をスープ皿に入れ、布で皿の下まで覆ってひもで縛る。
・水3リットルと胸肉を火にかけてブロードを取り、アクを取る。
・ブロードの鍋の口にスープ皿をのせる。プロートと皿の間に適度な空間を開け、鍋とスープ皿の縁がしっかり閉じて蒸気がもれないようにする。
・1時間15分蒸す。半ばで一度布を開いて混ぜる。

・赤身肉150gを包丁で刻み、ほぐしたパン少々、塩、こしょう少々を加える。これをヘーゼルナッツよりやや大きめに丸めて油で揚げる。

・香味野菜をみじん切りにする。まず玉ねぎを油でソッフリットにし、色がついたら他の野菜を加えて塩、こしょうで調味する。しんなり炒め、水分がなくなったら肉のスーゴかブロード、またはトマトソースかトマトのコンセルヴァ(トマトペーストの一種)で調味する。
・これに小さく切ったレパーと赤身肉のポルペッティーネを加えて煮る。

・小麦粉の粒を皿から鍋に移して火にかけ、卵黄を加えて固めずに溶かす。サルサの一部をかけて混ぜ、器に盛り付ける。
・ゆで卵のくし切りを加える。
・残りのサルサをブロードに加え、人数分の器に注ぐ。これをクスクスに添える。
・各自が皿にクスクスを取り、スプーンでサルサをかけて食べる。
・胸肉はクスクスの後に肉料理として食べる。

この長い説明で、読者は2つの質問をしたくなったのではないだろうか。
1つは、なぜ調味に使うのが油だけなのか。
2つめは、これだけ手間をかける価値があるのか。
1つめの質問の答えは、イスラエルの民の食べ物は、『申命記』(旧約聖書の一書でモーセの五書の一つ)14章21節にこう定められているからだ。
「子山羊をその母の乳で煮てはならない」
戒律にそれほど厳格でない人は、ポルペッティーネにパルミジャーノを少量加えてこくを出すこともある。
2つめの質問の答えは、あくまでも私の考えだが、この料理は大きな祝いごと向きの料理ではない。しかし、上手に作れば、この料理に馴染みのない人たちにも気に入られることだろう。



アルトゥージはクスクスのことを、ユダヤ料理の一つとして知ったんですねえ。
確かに、クスクスはユダヤ料理の中にも溶け込んでいる料理でした。
彼のリチェッタにしてはかなり長くて、クスクスをまったく知らない読者に、どうやったら伝えることができるか、苦労していることがうかがえます。
日本語に訳すのも苦労しましたよー。
なんで料理のリチェッタに、ダンテなんか引用するかなあ。

アルトゥージは、cuscussù としていますね。
アラビア語では kous kous (kuskus?)。
英語では cous cous 。
イタリアでも cous cous と書くことはありますが、シチリアでは cuscus が一般的。



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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2007年9月号


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4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

これは大変な労作ですね。プレッツェーモロさんの苦労も伝わってきますよ。でも、料理本という範疇を越えていろいろな知識がないと、料理も作れないんですね(笑)。

しかし、クスクスがそんなに大変なものとは知りませんでした。早い、手抜きが信条の自分には、作れそうにない。ところが近所のスーパーにクスクスの元なんて売っていたのをみつけてびっくし。やってみようかなぁ。

prezzemolo さんのコメント...

くるりさん
訳す苦労、分かってもらえますか~。
文字にしちゃうと悔しいくらいあっけないものなんですが、その言葉を見つけるまでの苦労は、実はすご~く大変なんでやんす。

クスクスは、粉から作ると大仕事ですよね。インスタントクスクスは素晴らしい発明だあ。
それにしても、アルトゥージさんが台所で30分間粉をこねているところを想像すると、なんだか可愛い~。

匿名 さんのコメント...

わかりますとも〜。思わず真剣に読み返しちゃいましたよ。翻訳に関しては全然わからなくとも、これは知識の厚みが違うなと感心しましたもん。

今アブルッツォの石の家のことを調べているんですが、イタリア語が2歳児並みの私には超厳しい(^^;

prezzemolo さんのコメント...

くるりさん
アブルッツォの石の家!
なにやら奥が深そうな分野だあ。

ジェラートはパンとの相性も良いデセール。シチリアとナポリの人のジェラートの食べ方は、ほんとに自由。

今日は、(CIR)7月号のリチェッタから、ジェラートの話(P.12)。 リチェッタのテーマは、シンプルにコーンやカップに入れるジェラートではなく、クロスタータやボンボローニ、はてはフォカッチャにのせるジェラート。 ジェラートのデセールの最高峰はトルタ・ジェラート。 パン・ジェラー...