前回、あまり深く考えずに提案してみた問題、bollitoとlessoを日本語に訳す、という件ですが、考えれば考えるほど奥が深い問題だったことが分かってきました。
さらに、クラッコシェフのsbianchireの提案は、この疑問をもっと深く掘り下げる結果に。
クラッコ氏によると、スビアンキーレとは、ゆですぎを防いで過熱を止めるために、ゆで上がった食材を氷水にさらす、というテク二ック。
どうやら、イタリア語のゆでる、lessareには、歯ごたえを残すようにゆでる、という概念がないようです。
しかし、日本料理は、歯ごたえをかなり重視する料理で、ゆでると言ったら、歯ごたえを残す程度に、というのは暗黙の了解になっているはず。
ところが、bollitoとlessoの違いを探すと、イタリア料理のlessareにはあって、日本料理のゆでるにはない概念があることが分かってきました。
具体的には、「総合解説」P.30の3つのリチェッタを見てください。
ボッリートは、「この方法だと肉は味を保つがブロードの風味は弱い」という一文が。
さらにレッソは、「この方法だと肉が香味野菜の香りを吸い込む」
ブロードは、「この方法だと美味しいブロードが取れるが、肉はタンパク質を失う」とあります。
この3種類のゆで方には、このような違いがあるのです。
そこで問題になるのが、日本語のゆでるというテクニックの意味。
和食では、食材の臭みや脂を取って柔らかくするためにゆでます。
そこには味の概念はありません。
むしろ、この後で味を入れるための準備のような意味合いがあります。
味を加えるとなると、煮る、というテクニックになります。
でも、ボッリートもレッソも、加熱しながら味を加える、あるいは、味をなくさないゆで方です。
でも、煮るとは微妙に違います。
ちなみにイタリア語で煮るはcuocereです。
ゆでながら食材に味を加える、というのは、食材本来の味を活かすことを大命題とする和食の概念とは、ちょっと違います。
でも、肉を食べてきた食文化で、肉を柔らかくしながらさらに美味しくする、そのために考え出されたのがボッリートとレッソというテクニックではないでしょうか。
どうやて肉をもっと美味しくするのか、その点に注目しながら、前述の3つのリチェッタを読んでみると、なかなか面白い発見があるはずです。
最後に、クラッコシェフがその料理テクニックを簡潔、かつ詳細にまとめた本、『Dire, fare, brasare』では、lessareの章で、bollitoとlessoの違いを説明しています。
大雑把にまとめると、
lessareにはlessare "A FREDDO"とlessare "A CALDO"の2種類があります。
そして前者がlesssoで後者がbollito。
前者の“フレッドでゆでる"の概念を説明するなら、ブロードが完璧な例になります。
野菜のブロードなら、5リットルの水に玉ねぎ、にんじん、セロリ、ローリエ、イタリアンパセリ、セロリの葉、粒こしょうなど全部の材料を入れて沸騰させます。
そして2時間ゆでます。
“カルドでゆでる”の例としては、鶏のボッリートを挙げています。
この場合は、まず鍋にブロードとほぼ同じ香味野菜を入れて沸騰させます。
ここに鶏を入れて静かに沸騰させながら45分ゆでて取り出します。
そしてソースを添えて、または冷ましてサラダとしてサーブします。
ゆで汁は美味しくはないけれど、捨てずにリゾットやブラザートなどに使います。
フレッドの例としてブロードを挙げていますが、「総合解説」では、これをさらにレッソとブロードに分けています。
つまり、食材を美味しく食べるためのゆで方がボッリート、食材とゆで汁の両方を美味しくするのがレッソ、ゆで汁を美味しくするのがブロードのゆで方です。
中でも特徴的なのが、レッソのテクニック。
日本料理は素材の持ち味を活かす、というのなら、西洋料理はどうやって素材に味を加えるのだろう、という素朴な疑問を抱いていたのですが、つまりこいうことなのか、となんとなく納得しました。
そうそう大切なポイントがもうひとつ。
「総合解説」のレッソは、1㎏の牛の肩バラ肉を使っています。
ボッリートは1㎏の牛のブリスケ。
つまり、要は牛の塊肉を美味しく食べるためのテクニックですよね。
でも、牛肉の塊を調理する習慣のない日本では、代わりに薄~い切り身にしてしゃぶしゃぶする方法が考えだされたのでした。
イタリアでは、薄~い切り身なんて火を通すまでもなく、生で食べますわ。
肉食系なめんなよ、ですわ。
チプリアーニのカルパッチョ
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“ボッリート/料理のシリーズ、牛肉編”の記事の日本語訳は、「総合解説」13/14年1月号に載っています。
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2015年10月8日木曜日
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