2011年9月12日月曜日

イカ墨

今日はイカの話。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の解説です。

イタリア語と比べると、日本語の“イカ”というのはとても便利な言葉です。
ヤリイカもスルメイカもコウイカも、全部イカですもんね。

でも、英語やイタリア語には、“イカ”という言葉がありません。
ヤリイカ類とコウイカ類では、まったく別の名前がついています。


cuttlefish squid

上の2種類のイカ、日本語では左はコウイカ、右はヤリイカ
英語では、左はcuttlfish、右はsquid。
イタリア語では、左はseppia/セッピア、右はcalamaro/カラマーロ

この他に、スルメイカはイタリア語では、totano/トータノ

日本ではおなじみのスルメイカですが、イタリアではヤリイカの方が一般的。
イカを総称する時は、カラマーリと呼ぶケースが多いようです。
イタリアでヤリイカとスルメイカを見分ける時は、ヒレ(エンペラ)の位置と長さを見たりします。
ヒレが長くて頭の半分以上あるのがヤリイカ。
頭の先端部分にあるのがスルメイカ。

スルメイカ



イカの総称にはカラマーリが使われることが多くても、“イカ墨”と言う時だけは、「ネーロ・ディ・セッピアnero di seppia」と言います。
イカ墨のスパゲッティは、“スパゲッティ・アル・ネーロ・ディ・セッピアSpaghetti al nero di seppia”。

このとこからも分かるように、料理に使うイカ墨はコウイカのものが一番、というのがイタリアの定説です。


セッピアという言葉は、「セピア色」の語源。
つまり、セピア色とは、コウイカの墨から作った絵具で描いた色のこと。
黒みのある茶色です。

Piazetta San Marco
セピア色のサン・マルコ広場(ヴェネチア)



L1140309
ヴェネチアのイカ墨のスパゲッティ


“イカ墨色”だと真っ黒い色を想像しがちですが、セピア色は、イカ墨で描いたものが色あせた時の暗褐色のことなんだそうです。

ちなみに、墨汁などの墨は、イタリア語ではネーロ・ディ・セッピアとは言いません。
こちらは“インキオストロ・ディ・キーナinchiostro di china”(中国のインク)と言います。
英語では“チャイニーズ・インクchinese ink”です。


墨は、ヤリイカにもスルメイカにもあります。
英語では、イカ墨のことをsquid ink(ヤリイカのインク)と呼びます。
これはおそらく、コウイカが手に入りにくいため、イカ墨と言えばヤリイカの墨、ということなのでしょう。

もちろんイタリアにも、コウイカが手に入らない場所もあるし、ヤリイカの墨を使ったスパゲッティだってあります。
では、ヤリイカの墨を使ったイカ墨のスパゲッティ、と言いたい時は、なんと呼ぶのでしょうか。

答えは、“スパゲッティ・アル・ネーロ・ディ・カラマーリSpaghetti al nero di calamari"。
でも、実際にレストランでこういう名前の料理を見ることはまずありません。
ということは、イカ墨のスパゲッティは、全てコウイカの墨を使っているということなのか・・・。
それとも、ヤリイカやスルメイカの墨を使っていても、習慣的にネーロ・ディ・セッピアと呼んでいるのか・・・。
おそらく後者ですね。


とにかく、日本ではあまりなじみのないコウイカやコウイカの墨。
イタリアに行ったら食べてみるに越したことはありません。


↓コウイカの墨袋の外し方






イカ墨の話、次回に続きます。




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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
“イカ、タコ”の記事の日本語解説は、「総合解説」08&09年3月号に載っています。

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3 件のコメント:

あべべ さんのコメント...

prezzemoroさん、こんにちは。
以前にCREAPASSOのバックナンバーを購入させていただいたあべべと申します、いつもお世話になっております。
このイカ墨がセピア色だという記事がとても魅力的で印象に残っていたので、私のブログでイカ墨パスタの記事にprezzemoroさんの文献を引用させていただきました。
ご了承いただけますと幸いです。

prezzemolo さんのコメント...
このコメントは投稿者によって削除されました。
prezzemolo さんのコメント...

あべべさん
こちらこそお世話様です。
どうぞどんどん引用してください。
拙文でもお役にたてれば幸いです。
イカ墨のパスタ、久しぶりに食べたくなってきました

バッカラはノルウェーとイタリアを結ぶ干物貿易の主役で、この航路は1450年作成の世界地図にも記載されるほど重要でした。

(CIR12月号)によると、ヴィチェンツァでは、この料理はCが1つなんだそうです。普通はバッカラはbaccalàでも、ヴィツェンツァでは、Cがひとつのバカラ。んなばかな、と思ったけど、地元のこの料理の専門家たちは、C一つで呼んでました。会の名前の刺繍もC一つ。リチェッタはP.11...