今日はアランチーニの話の続き。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の解説です。
島の東側ではアランチーニ、西側ではアランチーネと呼ばれているこのライスコロッケ。
個性的で愛嬌のあるしずく型(コーン型)のアランチーニは、東だけで作られているもの。
この形、エトナ山の形、とも言いますよね。
エトナ山は、シチリアの東側にあるヨーロッパ最大の活火山。
東側の人たちがそうたとえたくなる気持ちも分かります。
その一方で、そう自慢されては、西の人も意地になって、しずく型なんて邪道、と言いたくなるというもの。
これはしずく型だから、東のもの。
つまり、アランチーニ。
アランチーニがシチリア生まれ、ということはよく知られていますが、では、シチリアのどこで生まれたのか、となると、確かなところは分かっていません。
東の代表はカターニア、西の代表はパレルモで、お互いに、こっちが元祖、と固く信じています。
でも、そのルーツはアラブにある、と考えられていることは共通しています。
アランチーニの主要な材料の米は、アラブからイタリアに伝わったと言われているし、そもそも、アランチーニと言う名前の元になったオレンジも、アラブ人がシチリアに伝えたもの。
ところが実は、米がどのようにしてイタリアに伝わったのか、はっきりしたことは分かっていないのです。
アランチーニの歴史を知るには、まず米の歴史を知る必要がありそうです。
アジアでは7,000年前、日本では2,500年近く前から栽培されていたとされる米ですが、イタリアでは、いつ頃栽培が広まったと思いますか?
ちなみに、聖書にはパンは登場しますが、米は出てこないのだそうです。
当時のキリスト教圏では、米はまだ知られていなかったんですねえ。
イタリアで米の栽培が広まったのは、15世紀頃。
わずか500~600年ほど前です。
米がどうやってイタリアに伝わったのかは、諸説あります。
シチリアを征服したアラブ人が伝えた。
十字軍がエルサレムから伝えた。
東方貿易のヴェネチア人やジェノヴァ人が伝えた。
アジアからギリシャ経由で伝わった。
ナポリのアラゴン家がスペイン経由で伝えた。
などなど。
まず、アレキサンダー大王がインドまで遠征した時に、地中海世界に米の存在が伝わったと言われています。
その後、インドなど南アジアとアラビア半島の間で、米と小麦の物々交換が始まりました。
古代ローマや中世のヨーロッパでは、米は貴重な輸入品で、こしょうなどと同じ薬や香辛料として扱われていました。
よく言われるのが、シチリアが9世紀にアラブ人に征服された時に米が伝わった、という説ですが、実際には、すでにそれ以前に貿易品として米は伝わっていました。
現在イタリアは、ヨーロッパでもっとも米の生産量が多い国ですが、よく考えてみると、シチリアで米の栽培が盛んという話は聞かないですよね。
イタリアの主要な米作地帯は、ピエモンテやロンバルディアなど、北イタリアのポー河沿いの水が豊かな平地です。
サボテンが雑草のように生い茂るシチリアの乾いた風景には、米のイメージはありません。
シチリアに米が伝わったといっても、栽培が盛んになったということではないようですね。
15世紀に米の栽培が広まったのは、現在の米の主要産地と同じ地域でした。
中世のイタリアは、飢饉やペストの流行などに苦しみます。
そこで、生産性の高い米が注目されて、領主たちによって大規模な水田が作られ、栽培が広まっていったのでした。
小麦の代わりに飢えをしのげる食べ物。
そうなると、高級品というそれまでの米のイメージは一変します。
とうもろこしやじゃがいもと同様、米は庶民の食べ物となっていきました。
イタリアで米がどういう存在なのか少し分かってきたところで、次回は話をアランチーニに戻します。
↓しずく型のアランチーニ。
この動画のコメント欄、案の定、アランチーニだ、いやアランチーネだという論争で盛り上がってます。
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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
アランチーネを含む“パレルモ”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年3月号に載っています。
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