スパゲッティの歴史編、その6。
イタリアで最初に乾燥パスタを大量生産した町と言われているシチリアのトラビーア。
前回も紹介しましたが、町のホームページにも載っている『パスタの絵』(下)には、年号が4つ記されています。
トラビーア1154年、ジェノヴァ1244年、ナポリ1295年、ボローニャ1338年。
これらは、現在発見されているパスタに関する最古の記録が書かれた場所と年です。
1154年、シチリアのトラビーアで、乾燥パスタと思われる麺が大量生産されているという記録。
1244年、ジェノヴァで、医師の処方箋の中に初めて「パスタ」という言葉が登場。
1295年、ナポリ王国のマリア王妃がパーティーのために乾燥パスタを購入し、初めて乾燥パスタの販売が記録される。
1338年のボローニャは、残念ながら不明(汗)。
一口にパスタと言っても、古代にはゆでて食べる習慣はなく、古代ローマのパスタとみなされている“ラザーニャ”は、かまどで焼いて食べるものでした。
麺よりパンに近いイメージです。
一方、トラビーアのパスタは“糸状”で、船に乗せて島の外に運んでいたところから、乾麺だったと考えられます。
ということは、ゆでて食べていたのでしょうか。
スパゲッティのイメージにかなり近くなりますね。
両者の違いは決して小さくありません。
はたして、古代ローマのラザーニャとスパゲッティは、同じルーツを持つ食べ物なのでしょうか。
イタリアでは、乾燥パスタはアラブから伝わったとする説が有力で、まず、アラブ人が支配していたシチリアに伝わったと考えられています。
アラブ人によるシチリアの侵略は9世紀前半に始まり、902年には全島が征服されました。
この後、1130年にノルマン人の王朝ができるまで、アラブの時代が続きます。
アラブ人は、パスタを乾燥させて保存食にしていたと言われています。
ご存知の通り、乾燥パスタと生パスタでは、使う小麦粉の種類が違います。
乾麺は硬質小麦粉(デュラム小麦粉)と水で作り、生麺は主に軟質小麦粉と卵で作ります。
軟質小麦粉でスパゲッティは作らないですよね。
硬質小麦は日当たりのよい乾燥した土地、つまり南イタリアでよく育ち、軟質小麦は穏やかで湿気のある場所、つまり北イタリアのポー河流域でよく育ちます。
と言う訳で、シチリアのパスタは硬質小麦から作ったものでした。
ということは、アラブから伝わったにせよ別のルートにせよ、乾麺だった可能性が高くなります。
乾麺なら、長期間保存できるので遠くまで輸送でき、シチリアの外に広まる重要な要因になります。
また、小麦や小麦粉の状態で硬質小麦を栽培していない北イタリアまで運び、そこで乾燥パスタを作ることもできます。
北イタリアの主要な港があったジェノヴァは、小麦の取扱高が地中海一でした。
この町でパスタの古い記録がたくさん発見されているのは、パスタ産業が発達していた証拠です。
医師の処方箋もその一つ。
製麺業も盛んになり、1574年にはパスタ職人の組合が結成されています。
スパゲッティの歴史にはまずシチリアが登場し、次に遠く離れたジェノヴァが登場しました。
両者の間には小麦という共通項があった訳です。
そして次はいよいよナポリの登場です。
スパゲッティの故郷ではないにも関わらず、スパゲッティの本場として世界中が認めるナポリ。
そこには一体、どんな歴史があったのでしょう。
スパゲッティの歴史編、次回に続きます。
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関連誌;『クチーナ・エ・ヴィーニ』2008年6月号
“パスタ”の記事の解説は「総合解説」07&08年6月号に載っています。
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