スパゲッティの歴史編、その7。
パスタの歴史を知れば知るほど、乾燥パスタと生パスタは、まったく違う歴史を持っていることが分かりますねえ。
作ったらすぐに食べる生パスタと違って、乾燥パスタは保存と輸送が可能です。
つまり、大量生産に適しています。
大量生産すれば価格も安くなる。
ということは、人口の多い都市部にはぴったりの食べ物です。
麺を乾燥させるには、風通しと日当たりのよい場所が必要です。
ただ日当たりがよいだけだと、麺は外側から乾燥していくので表面だけがカチカチに固まり、中の水分が蒸発できなくなってしまいます。
そのため、湿気を含んだ海風によって表面の乾燥を防ぎながら暖かい空気で全体を乾燥させる、ということが必要になります。
つまり、海風が吹いて太陽の日差しがたっぷりある場所なら最適です。
さらに、出来上がった製品を大量に運ぶには、港も必要です。
これらの条件にぴたりと当てはまった町がナポリでした。
ナポリはその昔シチリア王国の一部で、一時は王国の首都がパレルモからナポリに移ったこともあります。
シチリアから乾燥パスタが伝わって、広まっていく条件は整っていました。
ただ、昔の乾燥パスタは、現在のものとはちょっと違っています。
まず、スパゲッティという名前。
この単語が辞書に初めて載ったのは1800年代半ばのこと。
それ以前は、マッケローニ、ヴェルミチェッリなど、様々な名前で呼ばれていました。
ナポリ人が「マンジャマッケローニ(マカロニ食い)」と呼ばれていたのはよく知られた話。
ナポリでは、“マッケローニ”はパスタ全般のことを意味し、ショートパスタのマカロニもスパゲッティもブカティーニも、全部マッケローニと呼んでいました。
そして、現在のスパゲッティからは想像もできないのですが、昔は乾燥パスタ用の生地は素足でこねていました。
1833年にナポリ王のフェルディナンド2世が「もっと衛生的な方法を考えるように」と命じるまで、この方法でこねていたのだそうです。
王様の命を受けて、チェーザレ・スパダッチーニという人が考え出したのが、“ブロンズの足”を持つ機械。
ただ、これは実用化はされなかったようで、実際には水力でこねる機械が導入されました。
麺を通すダイスは、最初は木製でした。
やがてブロンズのものが作られ、さらにテフロン製のものができます。
大量生産の申し子である乾燥パスタは、新しい技術が開発されて生産量が増える度に、テリトリーを広げていきました。
まず、水力を利用して機械を動かす技術が普及すると、ナポリで“マッケローニ”が定着しました。
19世紀になって乾燥過程を人工的に行う設備が考え出されると、乾燥パスタの大規模工場がイタリア各地に作られました。
これによって、乾燥パスタはイタリア中に広まります。
そしてついには世界中に広まって、イタリアを象徴する食べ物へとなっていきます。
乾燥過程が人工的にできるようになった時点で、ナポリの役目は終わってしまったのでしょうか。
ある意味、そうとも言えます。
ところが、19世紀以前の技術は消えなかったのです。
スパゲッティの話、次回に続きます。
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関連誌;『クチーナ・エ・ヴィーニ』2008年6月号
“パスタ”の記事の解説は「総合解説」07&08年6月号に載っています。
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