アブルツッォのクレープのティンバロに続いて、今度はナポリのティンバロの話。
そうそう、イタリアにはもう1つ、有名なティンバロがありますよね。
シチリアのティンバロ。
ヴィスコンティの映画『山猫』でも有名になりました。
『山猫』のティンバロを再現するのは、レストランの人気イベントの一つ。
↓
リッチなパスタを詰めたパイのような料理。
ナポリのティンバロはチキンライスのようなお米のティンバロ。
↓
アブルツッォのティンバロはクレープのラザーニャ。
写真
これらどれにも共通しているのが、ルーツが上流階級の料理ということ。
庶民の食文化のメッカのようなナポリ料理で、上流階級の料理というのはちょっと異色ですが、ナポリには、貴族と庶民の2つの食文化が育ったことの、明確な証拠の一品でもあります。
貴族料理という特徴から見ても分るように、どの料理にもフランスが絡んでいます。
ナポリのお米のティンバロは、サルトゥ・ディ・リーゾsatrù di risoと言います。
なんとなく、お米のソテーという意味かなあ、ぐらいに思っていたのですが、サルトゥはフランス語の
surtoutのナポリ訛りでした。
surtoutは、イタリア語に訳すと、sopra a tuttoという意味だそうです。
すべての上にあるもの、「至高」といったところでしようか。
そう思ってサルトゥ・ディ・リーゾという名前を改めて見直すと、何とも、謎を秘めた名前であることに気がつきます。
まず、「総合解説」にも紹介したとおり、『ヴィエ・デル・クスト』誌では具の上をお米ですっぽり包むからと解釈しています。
ナポリには、お米料理のイメージがあまりありませんが、米はスペインから伝わりました。
当然、お米料理もありました。
えー、そうなのーと思って、ナポリ料理の集大成、『マッケローニ』を見てみると、“アマルフィレモンのリゾット”とか、“ブローヴォラ入りバターライス”とか“トマトライス”とか、美味しそうなお米料理が一杯載ってますよー。
サルトゥだけでも、3種類あります。
ところが、パスタの人気とは反比例して米はあまり広まらず、高級品になってしまいました。
薬のように万能な貴重品として扱われていたようです。
そこに登場するのがフランス人の支配階級です。
ご存じのとおり、ナポリの歴史はやたら複雑で、アンジュー家やらスペインブルボン家やらフランスブルボン家やらオーストリアハブスブルグ家やらと、いつも他国に支配されていました。
スペインが力を持った時代に伝わったお米を使って、その後、ナポリ料理に絶大な影響を与えたフランス人のお抱え料理人が考え出した料理、それがお米のサルトゥだったのです。
“ラ・グランデ・クチーナ・レジョナーレ・イタリアーナ”シリーズ「カンバーニア」では、“サルトゥ”とは、料理の中で至高の一品、つまり、最高にリッチな料理という意味と解釈しています。
この料理が生まれた経緯を考えると、貴重で最高の食材をたっぷり使ったご馳走、という意味も納得です。
アブルツォのクレープのティンバロはクリスマスや新年に食べるご馳走でした。
シチリアのティンバロは貴族の優雅な晩餐会に登場する料理。
ナポリのお米のティンバロは、スペイン・フランス・イタリアの洗練された食文化の融合。
お米のサルトゥ
↓
おまけの動画
じゃがいものガットー。
ガットーはフランス語のガトーのナポリ訛り。
サルトゥと同じような経緯で生み出された料理。
-------------------------------------------------------
“サルトゥ・ディ・リーゾ”を含むナポリ料理のリチェタは、「総合解説」2012年5月号に載っています。
[creapasso.comへ戻る]
=====================================
2014年8月28日木曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
ゴルゴンゾーラのリゾットにブルーベリーを加えると、味だけでなく、色も衝撃的。
今月の(CIR)プリーモの2品目は、おそらく今月号の中で一番色が鮮やかな料理。 “ブルーベリー、桑の実、ゴルゴンゾーラのリゾット”です。 もちろんベースはゴルゴンゾーラのリゾット。 ゴルゴンゾーラはミラノが誇るチーズ。そもそもミラノはチーズの産地。 米もこの地方の名物。 なのでゴ...
-
グラナ・パダーノの話、その2です。 イタリアで流通しているハードチーズの50%近くを占めるグラナ・パダーノ(AC Nielsen調べ)。 2008年の生産量は、435万5347個でした。 平均的な販売価格は11.05ユーロ/㎏。 イタリアの硬質チーズの平均価格は12.70ユーロな...
-
今日はブラザートの話。 『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の記事の解説です。 バローロのブラザート, photo by Silvio 記事によると、 ブラザート brasato は、イタリア語で「炭」という意味の“ブラーチェ brace ”の古い呼び方、“ブラーザ brasa ”が...
-
今日のお題はプリーモピアット。今月の「 総合解説 」P.5の料理です。 スパゲッティなんですが、料理名がやたらカッコイイ。 “アサシンのスパゲッティspaghetti all'asssassina”だって。 初めて聞きました。 聞いたこともない料理だったのに、逆にnetに...
0 件のコメント:
コメントを投稿