前回は、イタリア料理のルーツは、ケルト、ラテン、ギリシャの3つの文化だ、という話でした。
確かにこれは、イタリア料理は地方料理の集まりで、1つではない理由を、ずばり説明しています。
イタリアと日本は、縦長の海に囲まれた地形や緯度など、地理的に比較的似ています。
でも、日本の食文化では、北はバターと肉、南はオリーブオイルと野菜、といった大きな違いは見られません。
イタリアではなぜ、地方ごとにこんなにも食文化が違うのでしょうか。
それを説明するためにも、イタリア料理の歴史は、ローマ料理以前から始めなくてはなりません。
ケルトとは、ブリテン諸島からドナウ河一帯の中央ヨーロッパに勢力を広めた民族です。
イギリスやフランスの歴史でも、ケルトの文化は主要な存在でした。
ちなみに、スコットランドのサッカーチームの名前、セルティックは、「ケルト人」という意味。
イタリアから見ると、ケルトは北からやってきました。
彼らは、紀元前400年頃、ミラノ、ヴェローナ、アンコーナなどパダナ平野(ポー河流域)に定着します。
紀元前387年にはローマに侵略し、町をほぼ壊滅状態にしています。
ラテンは、後のローマ文明のルーツです。
青銅器時代にイタリアにやってきて、イタリア中部を本拠地として発展しました。
ギリシャは、ローマ建設とほぼ同じ頃、シチリアやイタリア半島南部に都市を築きました。
ケルト、ラテン、ギリシャ、この3つの文明の食文化は、イタリア北部、中部、南部に、それぞれ定着します。
外からやってきた異なる民族。
そのそれぞれの食文化が、イタリアの地方料理のルーツなんですねえ。
もし日本でも、北、中、南で異なる民族が住みついていたら、個性的な地方料理が生まれていたかもしれません。
そしてローマ時代。
ラテンを元祖とするローマは、イタリア中部から領土を拡大して、地中海とヨーロッパを手中に収めました。
でも、ローマに支配された国々には、どこもみなローマ料理が広まったでしょうか?
確かに少なからず影響は与えたでしょうが、各国の食文化が大きく変わることはなかったはずです。
北イタリアでも、その食文化が完全にローマ化することはありませんでした。
逆に、ローマには各地から食材や食文化が入ってきました。
帝国拡大の影響をもっとも多く受けたのは、ローマの食文化だったのです。
やがて、余りにも巨大になったローマ帝国は、西と東に分裂します。
イタリア中部が帝国に及ぼす影響力は、どんどん小さくなっていきました。
以下は『L'ITALIANO È SERVITO!』から。
当時知られていた世界を統一し、各地からの産物と食文化をイタリアにもたらしたローマ帝国は、約1,600年前に崩壊しました。 イタリアは、極貧状態になります。 人口は減少し、ゲルマン人や近隣からの侵略を受けて、村や町は、自分たちで戦わなくてはなりませんでした。 コムーネ 悲惨な貧困の時代は、約500年間続きました。 その後、いくつかの町でゆっくりと再建が始まります。 地中海地域では商取引が行われるようになり、商品の輸送と人の移動が再び始まりました。 こうして“コムーネ”が誕生します。 コムーネとは、住民の集会によって統治される自律的な都市のことです。 各都市は、近隣の都市に吸収されないように、防御を固めました。 軍事的防御(どのコムーネも、壁、塔、門で守られていました)だけでなく、文化的にもです。 コムーネごとに個性が強調され、祭りや伝統、そして料理も、各町ごとに特色のあるものが生まれます。 シニョリーア 1300~1400年頃、コムーネの中でも力のある都市は、小さなコムーネを吸収して、一つの地方としての勢力を持つようになります。 こうして、市民による民主制の時代は終わり、いくつかの一族がコムーネを支配するようになります。 血なまぐさい内乱の後、大きなコムーネは一つの一族が権力を握り、権力は世襲されるようになりました。 トリノのサヴォイア、ミラノのスフォルツァとヴィスコンティ、フェッラーラのエステ、マントヴァのゴンザーガ、フィレンツェのメディチなどが主なシニョリーアです。 そんな中でも、例外が3つあります。 ヴェネチアは、共和政を千年続けました。 ローマと中部イタリアの一部は、ローマ教皇領として残ります。 南部は、ノルマン人が支配し、さらにアラゴン王国、スペインと支配者が変わりました。 地方ごとに分裂したイタリアは、地方同士で戦いを繰り返しました。 当時のイタリアは、長く続いた古代ローマの後で、最も輝いていた時代です。 イタリアのシニョリーア制の都市は、ヨーロッパと地中海で強大な権力を誇りました。 それぞれが自立していて、ただ言語と文化だけが共通でした。 この時代に、イタリア地方料理の基礎ができます。 |
イタリア料理の歴史、次回に続きます。
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