2019年7月29日月曜日

ヌーベルキュイジーヌは高級料理を庶民に開放したけど階級格差も生まれて革命が・・・

『パスタ・レボリューション』
を紹介する時は、いつも前半のパスタの歴史の話にハマってしまって、後半の有名シェフたちのリチェッタを紹介する所までたどり着きません。
一流シェフたちのパスタのリチェッタも、力作ばかりでとても興味深いのですが。
今月の「総合解説」で取り上げているシェフ、アンドレア・ベルトン氏の紹介がてら、この本で取り上げている彼のパスタのリチェッタでも、訳してみましょうかね。
ちなみに、本の最後のリチェッタ(P.152)は、マリアンナ・ヴィターレシェフの料理、プッタネスカ・ラーメン。
最近では、イタリア人シェフにもラーメンに出会った人が大勢いるようで、料理書の中にもラーメンという文字を頻々に見かけるようになりました。
でも、正当派ラーメンを作る人はまったくいなくて、パスタが全面に出ることが多いようです。
このリチェッタもナポリのプッタネスカに忠実で、日本人にはちょっと作り出せないようなラーメンです。

ベルトンシェフの話に戻って、
まずは、「総合解説」の『サーレ・エ・ぺぺ』の記事から、ベルトンシェフのこと。
1970年フリウリ生まれ。
1989年にミラノのマルケージシェフの元でキャリアをスタート。

ベルトンさんがマルケージ氏に面接を直談判した時のエピソードは、強烈ですねー。
19歳でこれだけ自己主張したら、日本では敬遠されるだろうけど、イタリアのトップシェフには気に入られたようです。
というわけで、マルケージ・ボーイズの一員としてデビューしました。


当時の同僚は、クラッコ、クナム、オルダーニ、ロプリオーレといった豪華な面々。

その後の経歴も、まあ、素晴らしいこと。
ロンドンのモシマン、フィレンツェのピンキオッリ、モンテカルロのデュカスと一流店を渡り歩いた後に1997年から2001年までシェフを努めた店で、最初のミシュランの星を獲得。
その後マルケージに戻って総料理長になり、
2005年にはスカラ座広場のリスランテのシェフになって、
2008年にミシュラン1つ星、
2009年に2つめの星を獲得。
2010年にはガンベロ・ロッソでトレ・フォルケッテ、
2011年にはエスプレッソでトレ・カッペッリ。
2012年にはピサッコ・リストランテ・エ・バールオープン
2013年、カクテル&ピッツァ、ミラノにリストランテ・ベルトンオープン
2014年、ベルトンが星獲得。
2016年、コモ湖畔にベルトン・アル・ラーゴオープン・・・。

ため息が出そうなくらい順風満帆なキャリアですね。
10代でのビッグマウスぶりも納得です。


さて、『パスタ・レボリューション』によると、
「・・・アンドレア・ベルトンシェフが乾麺のパスタへの愛に目覚めたのは比較的最近のこと。
それまではミラノのベルトンでは米や詰め物入り生パスタが主流だったそうですが、乾麺の魅力に気づいて以来、それをアルタ・クチーナに取り入れる研究を始めました。
その成果の一つが貝のパスタです。
イタリア料理の定番の一つですが、貝の扱い方を知らなければ失敗するパスタです」

本のリチェッタは、“アサリとムール貝、イタリアンパセリのクリームのリガトーニ”です。
ベルトンシェフは、むき身のムール貝とアサリとファゾラーリを選びました。
さらに魚のブロードとピーナッツ油を加えてホイップした魚のマヨネーズ(濃度がマヨネーズ状なのでシェフはこう呼んでいるが、卵は入らない)、下ゆでしたイタリアンパセリ、魚のフメット、マルドンの塩をサーモミックスで撹拌したイタリアンパセリのクリームを添え、
仕上げにポロネギの粉(さっとゆでてからフライパンでローストし、70℃のオーブンで10時間乾燥させてサーモミックスで撹拌して粉にする)を散らして貝を戸外でグリルしたような料理にしている。
リガトーニはゆでてから、パンを70℃で4時間乾燥させてにんにくをこすりつけ、サーモミックスで粉にしたパン粉、魚のフメットと一緒にオイルで炒める。
イタリアンパセリのクリームを皿に敷き、パスタを盛り付けてポロネギの粉を散らし、貝をのせる。
イタリアンパセリのマヨネーズの緑色とファゾラーリのコライユの赤色がとても鮮やかな1品です。
料理の写真は本のP.81を御覧ください。

よく似た応用編のパスタの動画がありました。

彼以外にも、大抵の有名シェフの力作が集められています。

パスタの革命は、グランシェフたちがアルタ・クチーナと出会って始まったというスタンスのこの本。
アラブ人が作り出した乾麺がシチリアを経由してナポリという大都市で大量生産されて、イタリア移民と共に家庭の味として世界中に広まり、ヌーベルキュイジーヌによって地方料理という足かせが外れると、料理人が自由にパスタ料理を作るようになり、それに伴ってパスタも自由になりました。
ラーメンも取り込もうとしているパスタの勢いは、まさに革命のよう。

本の中でさらっと紹介されているバリラの1985年のCM、その名も『上流階級』をどうぞ。
庶民派で知られるフェリーニ監督のCMです。
高級そうなフレンチの店で、メートルがフランス語のお勧め料理を慇懃に並べ立てるけど、マダムが「リガトーニ」、と一言ささやくと、店中がバリッラと反応しまうという、上流階級を強烈におちょくったCMです。


ベルトンシェフのリガトーニのアルタ・クチーナも、フェリーニ監督にかかれば強烈な皮肉の対象になるかも。
革命って、こういう階級格差への怒りから生まれるのかなあ、と考えてしまうCMでした。




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“アンドレア・ベルトン・シェフ”のリチェッタの日本語訳は「総合解説」2017年5/6月号に載っています。
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