カルロ・クラッコの『クールにしたいならエシャロットを使う』より、
今回は、リチェッタの紹介。
まず、前回説明したとおり、彼にとって料理は、豊かな背景を持つ食材がたどりつく最終段階。
手に取る以前のことを知っていればいるほど、料理に込められるメッセージも強くなる、と信じています。
そこで、本に取り上げている料理は、彼のその料理に対する様々な思いを吐露するところから始まります。
最初の料理は“トマトソースのスパゲッティ”。
いったい、この超基本的な料理に、どんな思い入れを抱けるというのでしょうか。
実はこの料理は、彼にとっては、母親の料理そのものなんだそうです。
「学校から帰った私に、母親が毎日作ってくれたのが、トマトソースのスパゲッティでした。
当時、トマトの旬の時期は短く、6月から、長くても8月まででした。
旬の時期、母親はフレッシュトマトを、ただ小さく切って、生のまま使いました。
時にはトマトペーストを加えることもありました。
それ以外の時期は、夏の間に冬用に瓶詰にしたものを使います。
夏の間は、家族でよくガルダ湖に遊びに行きました。
その時、必ず、キャンプ用の調理道具を持参して、この、フレッシュトマトのスパゲッティを作ったものです。
これは、私にとって、一番美しい思い出です。
今思えば、ちっょとキッチュな思いで出てもあるんですけれどね。
母親はいつも出発前の朝早くソースを作っていたので、私には、どうやって作るのかを観る機会はありませんでした。
湖では、スパゲッティをゆでてソースをただからめるだけで、フライパンでソースとパスタを炒めることはしませんでた。
それからいつもプラスティックの皿に盛り付けて食べたんです。
皿はオレンジ色でした。
多分、トマトソースのスパゲッティの色に合わせたのでしょうねえ。
このリチェッタは、まさにトマトソースのスパゲッティの“湖”バージョンです・・・」
こんな回想から、レッスン1は始まります。
そういえば、私も若かりし頃、イタリアの下宿先で、毎日ランチに出たのがトマトソースのスパゲッティーニでした。
多分、多くのイタリア初心者さんにとって、トマトソースのスパゲッティは入門の一皿。
この料理に出会わずにイタリア料理と出会うことはないくらいですから、みんなそれぞれに印象的な思い出やエピソードを持っているはずです。
今やイタリアを代表するシェフの原点ともいえる料理は、やっぱりお母さんのトマトソースのスパゲッティなんだあ、と思うと、ありきたりのこの料理も、いったいどんな作り方をしているのか、とても興味がわいてきます。
実際、リチェッタには、トマトの品種、切り方、加えるタイミング、加熱時間、バリエーションに至るまで、事細かに説明されていて、ぜひ美味しい一品を作ってほしいという思いが伝わってきます。
レッスン1では、こういった基本的な料理を取り上げています。
よく知っている料理でも、その背景にあるカルロ・クラッコ氏の個人的な思いと組み合わせると、新鮮な一面が見えてきます。
シェフの料理本というと、難しい複雑なリチェッタと豪華な写真と装丁というのが定番ですが、この本は全く違います。
料理初心者にも伝わるようなわかりやすさと、プロの探究心も満足させる深い洞察。
そして手頃な値段。
派手さはないですが、手に取りやすい、とっつきやすい一冊です。
ベストセラーになるのも納得ですね。
別の著作『クラッコ・サポーリ・イン・モヴィメント』のPV
↓
次回は、動画界のカリスマの料理本を取り上げます。
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