パスタについて、イタリア料理アカデミーとは違う視点でまとめたスローフードの大力作の本、『パスタ・フォルメ・デル・グラノ』。
イタリア料理の歴史的な研究にかけては、右に出るものがいないほど、徹底的に研究し尽くすイタリア料理アカデミー。
そして、地方料理や地方の特産物など、地方の暮らしや社会との結びつきの知識なら、唯一無二のスローフード。
『スパゲッティ・アモーレ・ミオ』が、会長が好きなパスタのリチェッタを集めたとても小さくて手軽で読みやすい本で、その一方でイタリア料理史に残る歴史的なリチェッタの紹介もさりげなくあり、とても勉強になる本です。
それに対して、スローフードの『パスタ』は、大型で、情報や知識がたっぷり詰まった、装丁も立派な、一生モノの本です。
膨大な情報が詰まった本ですが、例えば、こんなことが書いてあります。
世界中の人がもっとも多く食べている食物は、2016年のGoogleの調査によると、パスタ、肉、米、野菜、果物で、複数の国でパスタは1位だったそうです。
イタリアは世界一のパスタ生産国で、一人あたりの消費量も世界一。
パスタが1国の主食になるには、パスタ製造業が確立して大量生産が可能になっている必要があります。
そのためには多額の投資が必要で、それが製品の値段に反映とされると価格もそれなりに高くなり、それを買うことができる経済力も必要です。
産業の市場は世界規模ですが、19世紀半ば以降は、規模が縮小し、メーカーごとの品質の差が大きくなる傾向が見られます。
貧しい大衆の食べ物だったパスタは、近代的な洗練された食べ物として、役目が大きく変化しました。
地方の小さなパスタメーカーの市場は、世界的な大企業に移りました。
かつて一般的だったアルティジャナーレなパスタメーカーは、イタリア産の有機栽培の硬質小麦を厳選し、ブロンズのダイスを使い、コントロールの行き届いた生産をしていましたが、徐々に忘れ去られていきました。
80、90年代に、市場は、早くてかんたんな製品の生産に舵を切りました。
調理時間ももったいない。
広告などを通してこうした考えが定着します。
パスタだけでなく、米も同様でした。
こうして、小さな造り手と一緒に、イタリアの素晴らしい伝統が消えていきました。
そんな時代、90年代始めに誕生して、食品生産に一つの指針を示したのがスローフードです。
パスタの世界では、小さな造り手が、既存の販路を徐々に広げるようになりました。
消費者が望む製品を作るという革命が起き、価値のあるタンパク質を含み、アルデンテにゆで上がるパスタが開発されました。
しかし、生産量は限定的でした。
もっと大きな変化は、ダイスがテフロン製からブロンズ製へと変わったことです。パスタの質は大幅に向上しました。
ゆっくり時間をかけて製造することで生地の痛みが減りました。
こうして機械化からアルティジャナーレな製法への明らかな回帰が起き、40~60℃だった乾燥温度は一時100℃以上まで上がっていましたが、もっと低温で乾燥させることによって栄養価や風味も増加しました。
質の高くないセモリナ粉を使うと、高温の乾燥によって、麺の色は濃くなり、ゆでても煮崩れしにくくなります。
ところが多くの研究の結果、タンパク質が失われることがわかりました。
セモリナ粉に含まれる必須アミノ酸、リシンは、最大40%減少します。
アルティジャナーレのパスタはゆで時間が長くても、ソースをたっぷり吸い込む事ができるという利点もある。
アルティジャナーレのパスタメーカー
ピサのアルティジャナーレのパスタメーカー、アンティコ・パスティフィーチョ・モレッリ
プーリアのベネデット・カバリエーリ
パスタイ・グラニャーノ協同組合
どのパスタメーカーも、興味深いですねー。
スローフードの『パスタ』の翻訳、次回にづきます。
「総合解説」
0 件のコメント:
コメントを投稿