2010年11月29日月曜日

きのことじゃがいものティエッラ

南イタリアのきのこ料理編。
今日は、プーリアのきのこ料理の話、その2です。


プーリアの名物料理の1つ、ティエッラ。
一番有名なのは、じゃがいも、お米、ムール貝のティエッラ。
プーリア人が愛してやまない料理ですよね。

作り方の動画はこちら

この料理、スペインのパエリアに似ているので、スペインから伝わったと思いがち。
ですが、“ティエッラtiella”とは、テラコッタのオーブン皿のこと。
それが転じて、オーブン皿に材料を積み重ねて焼く料理のことを、ティエッラと呼ぶようになりました。

ティエッラは、プーリアやカラプリアでは、“ティエッダtiedda”となまります。
同じテラコッタのオーブン皿でも、イタリアの標準語だと一言でズバッと言える言葉がなく、“テガーメ・ディ・コッチョtegame di coccio”と、長ったらしくなります。
それほどこの鍋は、南イタリアでは必需品、ということなんですね。

ティエッラ(ティエッダ)は、プーリア料理を作るなら、欠かせない道具。
タジン鍋もいいけれど、イタリア料理ならティエッラ、ですね。


さてこのティエッラ、材料の名前ではなく、土鍋の名前なので、どんなものでもティエッラで調理すれば、ティエッラという名前の料理になります。
だから、お米やムール貝が入っていないティエッラもあります。
ただし、じゃがいもは必ず入ります。

ちなみに、じゃがいも、お米、ムール貝のティエッラの場合、3者のうちどれか一つだけが目立ってはいけないんですねー。
どの材料も、味のバランスは均等にするのがポイント。


きのこのティエッラの場合も、基本はきのことじゃがいもです。
これに米が加わる場合もあります。


Giovanna Quaranta著『LA CUCINA PUGLIESE』から、きのことじゃがいものティエッラのリチェッタをどうぞ。


きのことじゃがいものティエッラ』Funghi e patate
材料:4~6人分
 カルドンチェッリ(エリンギ)・・1kg
 じゃがいも・・700g
 おろしたペコリーノ・・80g
 プレッツェーモロ
 パン粉
 にんにく・・1かけ
 EVオリーブオイル
 塩、こしょう
・じゃがいもは皮をむいて厚さ0.5cmの輪切りにする。
・オーブン皿に油を塗り、じゃがいもを1段敷いてオイル、塩、こしょうをかける。
・きのこで覆い、プレッツェーモロとにんにくのみじん切り少々、パン粉、ペコリーノ、オイル、塩、こしょうを散らす。
・残りのじゃがいもで覆ってオイルと塩をかけ、残りのきのこで覆う。
・パン粉、ペコリーノ、オイル、塩、プレッツェーモロのみじん切りを散らし、200度のオーブンで1時間焼く。




米も加える場合はじゃがいもときのこの間に散らし、最後に水をかけてから焼きます。



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関連誌;『サーレ・エ・ペペ』2007年9月号
関連記事「ポルチーニ」のリチェッタ(「ポルチーニ、豚肉、じゃがいものカラプリア風ティエッラ」を含む)は、「総合解説」'07&'08年9月号に載っています。

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2010年11月25日木曜日

カルドンチェッリ

南イタリアのきのこ料理の話です。

今日はプーリア編。

きのこ料理でプーリア色を出すなら、使うきのこはイタリアのエリンギ、カルドンチェッリ。

エリンギは日本では自生していないきのこで、日本では柄を太く改良した人工栽培のものが出回っていますよね。
イタリアに自生するエリンギ(つまりカルドンチェッリ)は、かさが大きいタイプ。

産地の中心地は、プーリアからバジリカータにかけての丘陵地帯、ムルジャ地方です。
栽培ものもあります。


ルーヴォ・ディ・プーリアのカルドンチェッロの収穫祭。
今年は11月13~14日でした。
きのこ料理のほかにも、ムルジャ地方の名物が勢ぞろいするお祭りです。





さて、このカルドンチェッリをプーリアではどう調理するのか。

まずは、カルドンチェッリの大手栽培業者、デ・ビアージのwebサイトに載っているリチェッタをご紹介。

デ・ビアージのwebページはこちら

余談ですが、なんとこの会社、カルドンチェッリを自宅で栽培できるキットを通販してます。
水をやって2週間ぐらいで最初のきのこが生えきて、10月から5月頃まで、新鮮なカルドンチェッリを食べることができるんだそうです。

こちらがその、カルドンチェッリ栽培通販セット。


そしてリチェッタの原文はこちらこちら


まずは一番シンプルなリチェッタ。

カルドンチェッリのフンゲット』Cardoncelli al funghetto
材料:6人分
 カルドンチェッリ・・600g
 乾燥オレガノ
 オリーブオイル
 にんにく
 塩
・きのこを小角切りにする。
・浅鍋にオリーブオイルとにんにを入れてソッフリットにする。
・ここにきのこを入れて塩、こしょうをし、強火で水気がなくなるまで炒める。
・オレガノ一つまみを散らし、蓋をして25分蒸し煮にする。



フンゲットとは、きのこ風味ということ。
きのこがきのこ風味というのは奇妙ですが、きのこの味がさらに強まる、というような意味があるようです。

オレガノではなくプレッツェーモロを散らせば、カルドンチェッリのトリフォラーティ(cardoncelli trifolati)になります。



次はクリーム煮。

カルドンチェッリのクリーム煮』Cardoncelli alla panna
材料:6人分
 カルドンチェッリ・・600g
 生クリーム・・200g
 牛乳
 バター
 塩、こしょう
・きのこをスライスして耐熱皿に並べ、塩、こしょうをする。
・小片にしたバターをのせる。
・生クリームを牛乳少々で伸ばしてきのこにかけ、きのこを覆う。
・耐熱皿に覆いをし、余熱したオーブンに入れて高温で25分焼く。



カルドンチェッリは生で食べることもできます。


カルドンチェッリのカルパッチョ』Carpaccio di Cardoncelli
材料:6人分
 カルドンチェッリ・・500g
 エメンタール
 オリーブオイル
 レモン
 プレッツェーモロ
 塩、こしょう
・きのこを掃除して洗い、薄くスライスする。
・きのこをボールに入れてプレッツェーモロのみじん切りを散らす。
・オリーブオイル、レモン汁、塩、こしょうをホイップしてシトロネットにし、きのこにかけて和える。


原文では材料にエメンタールと書いてあるのですが、仕上げにかけるんでしょうかね。



今回はシンプルなリチェッタを集めてみました。
次はもう少しプーリア色の濃いリチェッタを取り上げます。




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関連誌;『サーレ・エ・ペペ』2007年9月号
関連記事「ポルチーニ」のリチェッタは「総合解説」'07&'08年9月号に載っています。

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2010年11月22日月曜日

きのこのマルサラ煮

きのう、何かの番組の再放送を見て、唖然としましたよー。
何と、クラテッロのことを「イベリコ豚の生ハム」と紹介してるじゃあーりませんか。
耳を疑うとはこのことだあ!
さらに、「乾燥パスタはグラニャーノで400年前に発明された」、と言い切ってますよー。
いったいどこの学会で発表されたんですかあ。

「ミートソースはイタリア語ではボロネーゼ」とか(ボロネーゼは日本語か英語だがね。イタリア語ならボロニェーゼだがね)、bucoを「ブッコ)」と言っている(ブーコですだよ)のは大目に見るとしても、こんなに超適当なことを、再放送までして日本中に広めているとは(日曜夜8時の番組だって!)、見ているこっちの方が恥ずかしくなってくるじゃないかあ。

ふう、これだけ書いたらちょっとすっきりしました。



それでは気を取り直して、元のお題に戻ります(汗)。
横道にそれまくったので、もう忘れ去られているかもしれませんが、きのこの話ですよ~。
今回も、南イタリアのきのこ料理の続きです。


シチリアのきのこ料理をもう1つ。
『IL DIAMANTE DELLA GRANDE CUCINA DI SICILIA』から。

シチリア人だったらきのこをどう料理するか・・・。

前回紹介したその答えの1つは、パン粉とアンチョビでしたね。
そしてもう1つは・・・。

なるほどそうきたか、マルサラです。


きのこのマルサラ・ヴェルジネ煮
Fungi cu Marsala/Funghi al Marsala vergine
・きのこを薄く切って陶器の鍋に入れ、バターとオリーブオイルで炒める。
・約5分炒めたらマルサラ・ヴェルジネ1/2カップをかけて30分煮る。
・小麦粉少々を少量のブロードで溶いて加える。
・火を止める直前に、もし水分が足りなくなっていたらマルサラを振りかける。




マルサラ・ヴェルジネですか。

ここで少し、マルサラの種類の話でも。

マルサラは、やたらと種類の多いワインですよねえ。

まず、色は3種類。
 オーロoro(白ぶどうを使用)
 アンブラambra(白ぶどう+モスト・コット)
 ルビーノrubino(黒ぶどう+白ぶどう)

(モスト・コットはぶどうの果汁を煮詰めたもの)


甘さ辛さも3種類。
 セッコsecco
 セミセッコsemisecco
 ドルチェdolce


熟成期間は5種類。
 フィーネFine(最低1年、アルコール度は最低17%)
 スーペリオーレSuperiore(最低2年、18%)
 スーペリオーレ・リゼルヴァSuperiore Riserva(最低4年、18%)
 ヴェルジネ、またはソレーラスVergine/Soleras(最低5年、18%)
 ヴェルジネ、またはソレーラス・ストラヴェッキオ、またはリゼルヴァVergine/Soleras Stravacchio/Riserva(最低10年、18%)


これを組み合わせて・・・
 フィーネ・オーロ
 フィーネ・ルビーノ
 フィーネ・セッコ
 フィーネ・セミセッコ
 スーペリオーレ・オーロ
 スーペリオーレ・アンブラ
 スーペリオーレ・リゼルヴァ・アンブラ
 スーペリオーレ・リゼルヴァ・セッコ
 ・・・
と、この調子で永遠に続きます。



20090330 Marsala di Florio
左はヴェルジネ、右はスーペリオーレ・リゼルヴァ・セミセッコ


マルサラ・ヴェルジネは、熱く乾いた味で、バランスが取れているのが特徴。
子牛のスカロッピーネや豚肉にも合います。


また話が脱線しましたねー。
きのこの話でしたねー。


次は、プーリアのきのこ料理の話です。



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関連誌;『サーレ・エ・ペペ』2007年9月号
関連記事「ポルチーニ」のリチェッタは「総合解説」'07&'08年9月号に載っています。

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2010年11月19日金曜日

地中海式ダイエット、ユネスコの無形文化遺産に

きのこの話の途中ですが、ここで地中海式ダイエットの話です。

例の、スペイン、イタリア、ギリシャ、モロッコが共同で、地中海式ダイエットのユネスコの無形文化遺産登録に立候補、という話ですが(このブログの記事はこちら)、先日、決まりましたよ。
登録だそうです。


登録決定を伝えるイタリアのニュース。





登録決定を祝して、ローマのカンピドーリオ広場では、イタリア産のスパゲッティ、オリーブオイル、トマトを使ったスパゲッティがふるまわれました。
インタビューに答えているのは、イタリアで立候補の中心となった団体、コルディレッティ(全国自営農業者連盟)の会長。







スペインも盛り上がっているようです。
スペインはフラメンコも無形文化遺産に登録が決定しましたよ。


ユネスコの無形文化遺産に食文化が登録されるというのは初めてのことですが、実は、今回登録された食文化は、地中海式ダイエットだけではないんですねえ。
フランス料理(フランスの美食文化)も、登録されることが決定しました。
いや~ヨーロッパ勢は積極的ですねえ。
日本はどうするんですかね。


今はめでたい気分で盛り上がっている地中海式ダイエットですが、将来の展望は、やや厳しそう。
こちらの記事によると、数日前のウオールストリートジャーナルで、「地中海式ダイエットは消滅の危機にある」と書かれていたそうです。

地中海式ダイエットが健康に良い、という根拠となったのは、1960~80年代のデータです。
先日のブログにも書きましたが(こちら)、現在のイタリアの食生活は、当時とはかなり変わってきています。
イタリア人でさえ、地中海式ダイエットはお金がかかる、と実感しています。

これは、イタリアの話とばかりも言っていられません。
地中海式ダイエットに次いで健康的と評価され、世界で最もご長寿の国、日本でも、ハンバーガーやフライドポテトに代表される大量生産型、無地域型の食生活は、着実に勢いを増しています。

地中海式ダイエットがユネスコの無形文化遺産に登録されたことは、スペイン、イタリア、ギリシャ、モロッコの人々自身が、伝統の食生活を守ることへの責任を認識するきっかけになっているのではないでしょうか。
これによって農業製品の輸出が増えるのでは、という皮算用より、自国の食文化にプライドを持つことができる、ということこそが、おそらく最大の効果ですね。



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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2008年9月号
「地中海式ダイエット」の記事の解説は、「総合解説」'07&'08年9月号に載っています。

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2010年11月15日月曜日

きのこのスフィンチョーネ風

きのこ料理の話、続けます。

前回は、ピッツァのパレルモ版、“スフィンチョーネ”の話でした。
炭水化物×炭水化物の中でもかなり高度な、パン×パンという、ある意味関西的なパンでしたねえ。
トマトソースも、アンチョビーとカチョカヴァッロ入り。
パルミジャーノやモッツァレッラなんて入れませんよー。
この食材選びのセンスが身につけば、あなたもシチリア人!

さて、いよいよ本題の「きのこのスフィンチョーネ風」。
大元のパンのスフィンチョーネのリチェッタが分かれば、ある程度は想像できますね。

出典は『IL DIAMANTE DELLA GRANDE CUCINA DI SICILIA』です。
『Il diamante della grande cucina di Sicilia』


きのこのスフィンチョーネ風
Fungi a sfinciuni/Funghi "a sfincione" alla palermitana
・オーブン皿に油を塗る。
・たっぷりのパン粉、にんにくとプレッツェーモロのみじん切り、フレッシュのオレガノ、塩、こしょう、オリーブオイル少々を混ぜる。
・きのこを粗く切ってオーブン皿に入れ、パン粉をかける。
・これをオーブンで焼く。
・レモン汁にアンチョビーペースト少々を溶いてきのこに添える。



やっぱりねえ。
トマトソースやチーズをかけなくても、パン粉をたっぷり散らせば、立派に“スフィンチョーネ風”という訳ですね。
きのこにアンチョビーというのも、地中海風ですねえ。


そうそう、このパン粉、あのシチリアの美味しいパンの粉、というのもポイントですね。

リチェッタを引用した本、『IL DIAMANTE DELLA GRANDE CUCINA DI SICILIA』では、一番最初に、シチリアのパンについて語られています。
「6千年前からシチリアの主食はパン」なのだそうです。
実は、著者のPino Correntiは、シチリアのパン屋兼パスタ屋の生まれ。
だから、粉物料理はDNAにしみ込んでいます。

イタリア語には、companatico(コンパナーティコ)という言葉があります。
「パンのおかず」という意味です。
シチリアの人にとって、究極のパンのおかずは、“ナイフ”なんだそうです。
「パンとナイフpani e cutieddu」という言葉まであります。
究極にもほどがありますねー。


ついでですから、そんなシチリアのパンのリチェッタも紹介しておきます。
『IL DIAMANTE DELLA GRANDE CUCINA DI SICILIA』からです。

シチリアの基本のパン生地
Pane speciale di pasta lievitata siciliana dai molteplici usi
材料:
 硬質小麦粉(rimacinato)・・500g
 00タイプの小麦粉(maiorca)・・500g
 生イースト・・25g
 新鮮な卵・・1個
 油脂(ラード、またはオリーブオイル、バター、マーガリン)・・100g
 細粒の塩・・大さじ1弱(塩気が弱いパンの場合は10g)
 砂糖・・5g
・イーストを37度(唇の温度)のぬるま湯1カップで溶く。
・2種類の小麦粉を混ぜて台に盛る。中央をくぼませ、小片にした油脂、塩、砂糖、イースト、卵を入れて手早くこねる。
・生地を丸くまとめ、打粉をしたボールに入れて表面に十文字のクープを入れる。
・軽く粉を散らし、半分に折った布巾をかぶせて1時間発酵させる。
・生地が2倍に膨らんだら完成。



シチリアのパーネ・カゼレッチョ

パレルモの脾臓のパニーニ

シチリア内陸部で、ノヴェッロ・ワインと一緒に食べる塩気のないパン、ムッフリエッテ
具をはさんで食べます。



次回はまたきのこの話に戻ります(汗)。



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関連誌;『サーレ・エ・ペペ』2007年9月号
関連記事「ポルチーニ」のリチェッタは「総合解説」'07&'08年9月号に載っています。

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2010年11月11日木曜日

パレルモのスフィンチョーネ

きのこの話の続きです。
今回のお題は「南イタリアのきのこ料理」。


まずは、基本を押さえておきましょうか。

そもそも、イタリア風のきのこ料理とは?

やはり、オリーブオイル、にんにく、プレッツェーモロで炒める“トリフォラート trifolato”ですかね。

トリフォラートは、ロンバルディアの方言でトリュフという意味の「trifola」が語源で、トリュフのような香りがするところから、こう呼ばれるようになったと言われています。

きのこの他に、腎臓にもよく使われる調理方法です。

腎臓のトリフォラートはこんな料理


下の動画はフンギ・トリフォラーティ Funghi Trifolatiの作り方の一例。
オリーブオイル大さじ4、バター20g、にんにく2かけにきのこをたっぷり(600g)入れて強火で10分炒める。
塩とたっぷりのプレッツェーモロのみじん切りを加えてさらに5分炒める。




これを手打ちパスタのソースにしても美味しいし、肉や魚のコントルノにしたり、バールではサンドイッチの具にしていますよね。



では、きのこはどう調理すれば南イタリア風になるのでしょうか。

南イタリアの有名なきのこ料理・・・。
うーん、ちょっと思い浮かばない。

そこで、南イタリアのきのこ料理を本で探してみました。


まずはシチリア料理。

シチリア料理のリチェッタ集として最も評価されている本の一つ、『IL DIAMANTE DELLA GRANDE CUCINA DI SICILIA』から、きのこのリチェッタを紹介します。

この本の著者、ピーノ・コッレンティ氏は、シチリアの食文化の研究家としても知られる作家で、イタリア調理師協会(Federazione Italiana Cuochi)シチリア支部(Unione Regionale Cuochi Siciliani)の名誉会長。
ちなみに、会長は別の人です。



まずは、FUNGHI A SFINCIUNI(フンギ・ア・スフィンチューニ)という一品。

この料理名、イタリアの標準語で言うと、Funghi “a sfincione” alla palerminata(フンギ・ア・スフィンチョーネ・アッラ・パレルミターナ)となります。
つまり、「パレルモのスフィンチョーネ風きのこ」。


スフィンチョーネとは、パレルモのストリートフードで、トマト、玉ねぎ、アンチョビー、チーズ、パン粉のトッピングのフォカッチャの一種。

イタリアのWikipediaのこちらのサイトによると、ラテン語で“スポンジ”という意味のspongiaか、アラビア語の“sfang”が語源だとか。
発酵させた柔らかいパンだったから、こう呼ばれるようになったと考えられているそうです。


Sfincione fatto in casa
スフィンチョーネ


スフィンチョーネは、パン屋、ロスティッチェリーア、パスティッチェリーア、家庭など、様々な場所で作られていて、リチェッタも色々あります。

スフィンチョーネの屋台


きのこのスフィンチョーネ風を理解するには、まず、パンのスフィンチョーネのリチェッタを知っておく必要があります。

バリエーションは様々ですが、とりあえず一例を動画でどうぞ。
家庭料理バージョンです。






そして、『IL DIAMANTE DELLA GRANDE CUCINA DI SICILIA』から、ロスティッチェリーア版のリチェッタです。


材料:
 発酵させたパン生地・・500g
 ソース用トマト・・400g
 細くおろしたカチョカヴァッロ・・150g
 おろしたペコリーノ・・50g
 パン粉・・50g
 塩漬けアンチョビー・・6尾
 玉ねぎ・・50g
 プレッツェーモロ
 オレガノ
 レモン汁・・1個分
 オリーブオイル
 塩、こしょう
・レモン汁を熱し、オリーブオイル1/2カップを加えながらホイップする。
・パン生地、ペコリーノ、ホイップしたレモン汁とオイル、塩、こしょうをこねてまとめ、中央にクープを入れる。布巾で覆って数時間休ませる。
・玉ねぎを薄く切って油でしんなり炒め、プレッツェーモロ、皮と種を取って小さく切ったトマト、塩、こしょうを加えて煮る。
・丸いオーブン皿に油をたっぷり塗り、生地を厚さ約3cmになるように敷き込む。火を入れたばかりのオーブンに入れ、通風口を開けたまま温める。
・トマトソースにアンチョビー(骨を取る)の半量とカチョカヴァッロを加えてさらに煮る。
・生地が温まったら指で深い穴をあける。
・ソースの半量を生地にかけながら穴にも詰める。熱くなったオーブンに入れて焼く。
・パン粉をフライパンに入れてオリーブオイルをたらし、炒める。
・生地を30分焼いたところで残りのソースをかけ、残りのアンチョビーを小片にしてのせる。パン粉をかけてオレガノを散らし、再びオーブンに入れて焼く。




どうですか、スフィンチョーネ。
パンの上にパン粉ですよ!
いかにもシチリア、と言うか、いかにもパレルモですねえ。

パレルモの人は、パン粉のことを貧乏人のチーズとか言ってスパゲッティにかけますが、パンをパン粉で調味するとは、男前な料理が多いパレルモならではの発想。
スフィンチョーネがパレルモの外に広まらないのは、このあたりのセンスに原因があるのかも(笑)。

チーズはモッツァレッラではなくカチョカヴァッロ、というのもシチリア風。

このスフィンチョーネ、ルーツはサン・ヴィートの修道院で作られていた古いフォカッチャです。
サン・ヴィートのスフィンチョーネは、中にラグーが詰まっていて、パレルモの大晦日の定番。


きのこの話をするはずが、すっかり横道にそれてしまいました。
次回こそは、スフィンチョーネ風きのこの話です。



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2010年11月8日月曜日

今年のきのこ

今日はきのこの話。

今年は松茸が大豊作だそうですね。
イタリアでは、こちらのインタビューによると、今年のきのこは「去年と同じくらい豊作」だったそうです。







mediocre pasta with porcini
きのこ料理の定番の一つ、ポルチーニのパスタ


Porcini e Fegato di Vitello al Burro e Rosmarino
こちらは3つ星店、ダル・ペスカトーレの“ポルチーニと子牛のレバー”。




イタリアのきのこと言えば、ポルチーニ。
もうすぐ配本予定の『サーレ・エ・ペペ』では、ポルチーニの地方料理を紹介しています。

ポルチーニは、松茸と同じで、人工的に栽培することができないきのこですが、北から南まで、イタリア中で採れます。
記事の中では、カラプリアのポルチーニ料理も紹介されています。


こちらはシチリアのポルチーニ。
もっと採れる、と言ってますねえ。


南イタリアのきのこの代表格は、カルドンチェッリ cardoncelli。
プーリアの名物きのことして知られています。
学術名はPleurotus eryngii。
エリンギです。


下はカルドンチェッリを紹介する動画。






Funghi Cardoncelli gratinati con patate
カルドンチェッリとじゃがいものオーブン焼き



と言う訳で、次回はシチリアとプーリアのきのこ料理をご紹介。



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関連雑;『サーレ・エ・ペペ』2007年9月号

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2010年11月4日木曜日

地中海式ダイエットとイタリア

地中海式ダイエットの話の続きです。

「地中海式ダイエット」は世界的に知れ渡りましたが、一番影響を受けたのは、当のイタリアかも知れません。
なにしろ、自分たちの食生活が世界的に見ても優れていて、健康で長寿の元である、というお墨付きをもらったのですから。
自分たちの食生活を再評価しようという気も起きると言うものです。

それに、地中海以外に住んでいる人には、地中海式ダイエットを取り入れるのは少々困難な場合もあります。
なによりお金がかかります。
日本ではオリーブは簡単には育たないし、羊飼いもいません。
地中海式ダイエットを文字通り真似しようと思ったら、輸入品だらけの食生活になってしまいます。

つまり、地中海式ダイエットが最も身近で現実的なのは、地中海の人々、という訳です。

地中海式ダイエットの概念の生みの親とも言えるアンセル・キーズ博士はアメリカ人ですが、彼が引退後に南イタリアに移り住んだのは、ある意味、象徴的です。
地中海以外の場所で、地中海式ダイエットで長生きするのではなく、地中海で長生きする道を選んだのですから。


ただ、『ヴィエ・デル・グスト』によると、最近はイタリアでも、地中海式ダイエットはお金がかかる、という意見が多いようです。
web上で行ったアンケートでは、約半数の人が、地中海式ダイエットはお金がかかる、と答えています。

実際に、地中海式メニューとコンチネンタルメニューの食事の費用を試算したところ、
地中海式は、トマトとバジリコのスパゲッティ、白身魚のオーブン焼きとズッキーニのグリル、フルーツのマチェドニア、ワインで、約26.5ユーロ。
コンチネンタルは、サラミの盛り合わせ、ハンバーガーとフライドポテト、ジェラート、ダイエットコーラ、ミネラルウオーターで、約15.5ユーロ。
という結果に。

やはり、地中海式ダイエットは、ユネスコの無形文化遺産にでもならないと、消えてしまうんでしょうか。


アンセル・キーズ博士は、母国アメリカでは、コレステロールや飽和脂肪酸の役割の解釈を巡って風当たりがきつそうですが、イタリアではとても高く評価されています。
彼の業績の中で、地中海ダイエット以外に、もう一つ知られているものがあります。

それは、「K-レーション」というものです。

レーションとは、軍用の携帯食のこと。
カロリーが補給でき、日持ちがして、コンパクトで、手間がかからず、食べやすく、さらに食事をする楽しみも与える、そんな役割を持った食糧です。

French Combat Ration
フランス軍のコンバットレーション


K-レーションのKは、アンセル・キーズAncel KeysのK。

栄養と人体の関係を生理学的に研究するという分野では、20世紀を代表する科学者の一人だったキーズ博士は、第二次大戦時に、このKレーションを考案しました。


K Rations
K-レーションのパッケージ


K-レーションの詳細な解説はこちらのページ。


こういうものを背負って、空挺部隊はパラシュートで飛び降りて行ったんですかねえ。
栄養価など、様々な研究の結果、作られているものなんですね。

実はこの補給食は、第二次大戦時にイタリアに上陸したアメリカ軍も持っていました。
当時のイタリアでは、米兵からこのK-レーションをもらって飢えをしのいだ人も、少なくないのだそうです。


以前、小麦の品種改良をして、「世界で最も多くの人命を救った」としてノーベル平和賞を受賞したノーマン・ボーローグ博士のことを紹介しましたが、食の分野と言うのは、時として、大勢の命を救うことができる分野でもあるんですねえ。
物理学や医学にだって匹敵する、奥の深い分野です。

さて、地中海式ダイエットは、ユネスコの無形文化遺産になるのでしょうか。




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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2008年9月号

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2010年11月1日月曜日

地中海式ダイエットとアンセル・キーズ博士

地中海式ダイエットの話の続きです。

地中海地域の食スタイルは健康で長生きの元、という考えは、世界各地の食事と健康の関係を科学的に分析することで生まれました。

もっと細かく言うと、アメリカ人の死因の第1位である心臓病を減らすには、どうすればよいのか、という研究がそのベースにありました。

さらに具体的に言うと、そもそもは、アンセル・キーズというアメリカ人博士が、第二次大戦直後に、当時世界で最も栄養状態が良いと思われるアメリカのビジネスエリートと比べて、食糧不足に直面していたヨーロッパ人は、心臓病の発生率が急激に減少している、ということに気付いたのが、始まりでした。


ミネソタ大学の教授だったキーズ博士は、栄養と健康の関係を生理学的に分析するという学問の開拓者です。
当時はまだ、この分野は確立されていはなかったのです。


戦争直後の心臓疾患の発生率について興味を持った博士は、これはコレステロールレベルと関係があるのではないかと考えて、大学で研究を開始します。

それは、7カ国をピックアップして、心臓疾患の状況を調べるというものでした。
選ばれた国は、アメリカ、イタリア、ギリシャ、フィンランド、オランダ、ユーゴスラビア、そして日本。
40歳から59歳の約12000人を、20年に渡って調査しました。

その結果、心臓血管系の病気の発生率と血中コレステロール値、飽和脂肪酸の摂取量の間には、強い関連性があるということが分かります。


これ以降、コレステロールは下げた方がよい、という考えが急速に広まります。

1960年代には、不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸を減らし、血中コレステロールを減らす、という考えがアメリカで広く受け入れられるようになりました。
さらに、動物性のものには飽和脂肪酸、植物性のものには不飽和脂肪酸が含まれる、というイメージが徐々に固まっていきます。
実際には動物性、植物性で単純に分けられるものではないのですが。


調査の結果は、1980年に本になって出版されました。
人々は、地中海地域では、脂肪分はたっぷり摂るのに心臓病の発生率は低いということ、それに対してアメリカでは発生率が10倍も多いということを知ります。
そしてそれは、野菜と果物とオリーブオイルをたっぷり取る、一昔前の地中海地域の食生活のおかげ、ということをすぐに受け入れました。

ちなみに、この調査では、日本は地中海地域に次いで2番目に心臓病の発生率が低い国となっています。


コレステロールが人体に及ぼす影響については、いまだに議論が絶えませんが、アンセル・キーズ博士の研究がなければ、地中海式ダイエットという食スタイルがこれほど広まることはなかったでしょう。


アンセル・キーズ博士は、戦後に一度ナポリに滞在していますが、1975年から2003年までの約30年間、カンパーニア州南部のピオッピという町で暮らしました。
そして2004年に、100歳と10カ月で亡くなっています。
まさに、身を持って地中海式ダイエットを証明したかのようなご長寿でした。


アンセル・キース博士と地中海式ダイエットの動画。




アンセル・キース博士の業績を紹介する動画は、圧倒的にイタリアで作られたものが多いですねえ。
やはりイタリア人には強く支持されています。
博士は地中海式ダイエット以外にも有名な業績があるのですが、それはイタリアとも少なからず関係がありました。
次回はその話です。



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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2008年9月号

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