地中海式ダイエットの話の続きです。
「地中海式ダイエット」は世界的に知れ渡りましたが、一番影響を受けたのは、当のイタリアかも知れません。
なにしろ、自分たちの食生活が世界的に見ても優れていて、健康で長寿の元である、というお墨付きをもらったのですから。
自分たちの食生活を再評価しようという気も起きると言うものです。
それに、地中海以外に住んでいる人には、地中海式ダイエットを取り入れるのは少々困難な場合もあります。
なによりお金がかかります。
日本ではオリーブは簡単には育たないし、羊飼いもいません。
地中海式ダイエットを文字通り真似しようと思ったら、輸入品だらけの食生活になってしまいます。
つまり、地中海式ダイエットが最も身近で現実的なのは、地中海の人々、という訳です。
地中海式ダイエットの概念の生みの親とも言えるアンセル・キーズ博士はアメリカ人ですが、彼が引退後に南イタリアに移り住んだのは、ある意味、象徴的です。
地中海以外の場所で、地中海式ダイエットで長生きするのではなく、地中海で長生きする道を選んだのですから。
ただ、『ヴィエ・デル・グスト』によると、最近はイタリアでも、地中海式ダイエットはお金がかかる、という意見が多いようです。
web上で行ったアンケートでは、約半数の人が、地中海式ダイエットはお金がかかる、と答えています。
実際に、地中海式メニューとコンチネンタルメニューの食事の費用を試算したところ、
地中海式は、トマトとバジリコのスパゲッティ、白身魚のオーブン焼きとズッキーニのグリル、フルーツのマチェドニア、ワインで、約26.5ユーロ。
コンチネンタルは、サラミの盛り合わせ、ハンバーガーとフライドポテト、ジェラート、ダイエットコーラ、ミネラルウオーターで、約15.5ユーロ。
という結果に。
やはり、地中海式ダイエットは、ユネスコの無形文化遺産にでもならないと、消えてしまうんでしょうか。
アンセル・キーズ博士は、母国アメリカでは、コレステロールや飽和脂肪酸の役割の解釈を巡って風当たりがきつそうですが、イタリアではとても高く評価されています。
彼の業績の中で、地中海ダイエット以外に、もう一つ知られているものがあります。
それは、「K-レーション」というものです。
レーションとは、軍用の携帯食のこと。
カロリーが補給でき、日持ちがして、コンパクトで、手間がかからず、食べやすく、さらに食事をする楽しみも与える、そんな役割を持った食糧です。
フランス軍のコンバットレーション
K-レーションのKは、アンセル・キーズAncel KeysのK。
栄養と人体の関係を生理学的に研究するという分野では、20世紀を代表する科学者の一人だったキーズ博士は、第二次大戦時に、このKレーションを考案しました。
K-レーションのパッケージ
K-レーションの詳細な解説はこちらのページ。
こういうものを背負って、空挺部隊はパラシュートで飛び降りて行ったんですかねえ。
栄養価など、様々な研究の結果、作られているものなんですね。
実はこの補給食は、第二次大戦時にイタリアに上陸したアメリカ軍も持っていました。
当時のイタリアでは、米兵からこのK-レーションをもらって飢えをしのいだ人も、少なくないのだそうです。
以前、小麦の品種改良をして、「世界で最も多くの人命を救った」としてノーベル平和賞を受賞したノーマン・ボーローグ博士のことを紹介しましたが、食の分野と言うのは、時として、大勢の命を救うことができる分野でもあるんですねえ。
物理学や医学にだって匹敵する、奥の深い分野です。
さて、地中海式ダイエットは、ユネスコの無形文化遺産になるのでしょうか。
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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2008年9月号
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2010年11月4日木曜日
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