2023年9月30日土曜日

断食の間に魚を食べていると見せかけて肉を食べたい、という切実な思いから生まれたトンノという名前の料理はイタリア中の山の中にあった。

ピエモンテを象徴する料理、ヴィテッロ・トンナートの話が出たところで、今日は、今月の(CIR)の記事“うさぎのトンノ”の話(P.29)。
“うさぎのマグロ”という、これまた面倒くさい名前の料理ですが、確実なのは、この料理は肉料理で、マグロは一切入っていない、ということ。
これまでさんざんピエモンテでマグロは獲れないと言ってきましたが、この地方には、マグロ風に対する強い憧れがあったようで、各種のマグロ風料理が考え出されてきました。
これもその一つです。
うさぎのトンノ

うさぎや鶏などの白肉を魚のように見せ、マグロのオイル漬け風の味にした料理です。
そこまでして魚を食べたかったのか、とも思うのですが、これを考えだしたのはトリノの修道士。
キリスト教には肉を食べてはいけない日というのがあります。
有名なのは復活祭前の四旬節の断食。
キリストが荒野で断食をしたことに基づいています。その前にはカーニバルという断食前にごちそうを食べて騒ぐというお祭りがあります。
断食と言っても何も食べないのではなく、肉を断つ、という意味です。
この掟を破るというのは罪を犯すということ。その背後には肉を食べたいというかなり切実な思いがあったはず。

四旬節の断食。


もちろん、断食していたのはピエモンテだけではありません。
イタリア中の人たちが、知恵を絞って肉料理を考え出しました。
トスカーナには、“キアンティのマグロ”という料理があります。
豚ロースつまりロンザの料理です。
リチェッタには上質の豚肉を使う、とあります。そして長い時間をかけてマグロ風の味に生まれ変わらせます。

キアンティのトンノ。


念のために、キアンティはこんな場所。海はないです。


(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)次号、8月号は10月5日発売予定です。
もう少々お待ちください。

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イタリアの料理月刊誌の日本語解説『(CIRクチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)
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2023年9月29日金曜日

ヴィテッロ・トンナート風のロンザ・トンナータは、実は豚肉料理。その名前には、気づかれずに見栄を張るというすごい高度なテクニックが隠されていた。

今日のお題は肉料理のためのアンチョビソース。
そして料理はピエモンテの定番の冷製前菜、ヴィテッロ・トンナートです。ローストビーフに匹敵する料理。
子牛肉のマグロソースがけという、冷静に考えるとなんだか変な名前の料理。
アンチョビでさえ手に入れるのが大変な海のないピエモンテ州で、マグロのソースなんて、かなりなビックマウス。マグロはオイル漬けのことで、よく知られているアルトゥージのサルサ・トンナータは、オイル漬けマグロ100gとアンチョビ2尾、レモン汁、たっぷりのオリーブオイルというリチェッタ。リグーリア産のアンチョビとマグロのオイル漬けから生まれるソースです。
でもこの料理は、矛盾した料理名を巡る大喜利状態がとても楽しそうに繰り広げられるのが常なんです。
ジャンカルロ・ベルベッリーニシェフのヴィテッロ・トンナートは、アンチョビとツナを使います。マヨネーズを加えるのではなく、サイフォンでムース状にする軽いソースです。子牛肉は中がピンク色に仕上げてスカロップ状に切り、アンチョビをのせたゆで卵、ケッパーを載せたサルサ・トンナートと交互に盛り付けると、あれっ、マグロみたいに見えます。でも子牛肉、念のため言うなら牛肉です。

マグロのオイル漬け

材料/
マグロ・・2㎏
塩・・140g
ひまわり油・・3/4ml
EVオリーブオイル・・1/4ml
・マグロを筒切りにして水で覆い、2時間休ませる。途中で一度水を換える。
・水気をよく切って大きな鍋に入れ、水で覆う。塩140gを加えて沸騰させる。
・アクを取って火を弱め、1時間30分ゆでる。
・マグロをシートに取って24時間乾かす。
・骨と皮を取り除いて密閉瓶に入れる。
・ひまわり油とオリーブオイルを混ぜて瓶に注ぎ、口まで満たして蓋をする。
・切り落とした小片もびんに詰めてソースやクロスティーニに使う。
・びんのいくつかはぬるま湯200mlに塩大さじ1を加えた塩水で満たして塩水漬けにする。
・びんを鍋に入れて水で覆い、2分煮沸殺菌する。
・びんをふせて30分置く。

そもそも、肉をゆでずにローストする、という方法もあります。ローストビーフのマグロソースがけです。主役を豚肉にすれば、マイア―レ・トンナートになります。サルサ・トンナータは、子牛肉や鶏肉など味が軽めの肉に合うソースです。軽い肉とは、総称すると白肉です。豚肉だけじゃなくて、いろんな肉に合うはずです。
さて、ここから大喜利突入です。
そもそも子牛肉は高級な肉、庶民は簡単には手が出ないお高い肉です。ロンザは、直接豚肉とは言わないけど、豚のロースのことなので、ロンザ・トンナータと言うと、マイア―レ・トンナートより、ヴィテッロ・トンナートのフレンチ風高級感はそのまま、という高度なテクニックを用いています。ヴィテッロ・トンナータは、実はピエモンテではヴィテル・トンネと、思いっきりフランス料理っぽく呼びます。もちろん、フランスでは子牛のことはヴォ―veauと呼ぶのですが、そんなことはイタリア人も百も承知。フランス語っぽくしたいなら、ヴィテル・トンネてじゃなくヴォー・トンネが正解ですが、誰もそうは呼びません。先のサッカーワールドカップで日本がドイツに勝った時、イタリア人がお大喜びしたという困惑する話が伝わってましたが、お隣の国をライバル視する複雑な感情は、なかなか理解しがたいものがありますよね。
というわけで、イタリア人だけが知っている、豚ロースをフレンチ風にする裏技は、豚ロースをロンザと呼ぶ、でした。
ロンザ・トンナータLONZA TONNATA 

主婦の裏技満載のフライパンで作るロンザ・トンナータでした。ワインの栓の抜き方カッコいい。
バリエーションの1つ、七面鳥のトンナートTacchino tonnato


以上(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ7月号)P.32の“アンチョビ風味のリチェッタ”の解説でした。


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2023年9月28日木曜日

肉とアンチョビとバターが北の組み合わせなら、南はアンチョビとモッツァレラ。

リミニとガルファニャーナの間を結ぶ“ゴシックライン”は、古代ローマとガリアの文化圏。
イタリアを北と南に分ける線で、牛や豚の飼育が普及していた地方、つまり動物性脂肪が広まっていた地方の境界線でもあります。
植物性脂肪は地中海沿岸地方の食文化でした。古代ローマの動物性脂肪の一例は、イベリア地方発祥のガルムgarum。そしてロンバルディア人など蛮族に好まれたグラナチーズやバター、そして農村部にポレンタやパンと一緒に広まったラードなどが代表的。
バターは20世紀半ばにロンバルディアやミラノの貴族の間に広まりました。農家のバターは脂肪分が多く、麦わら色。露店で売っていました。一方、商店で売っている街のバターは脂肪分が少なく、白いバターです。ミラノのバターを味わえる料理は、“リゾット・アッラ・ミラネーゼ”や“コトレッタ・ミラネーゼ”

リストランテ・アイモ・エ・ナディアのアレッサンドロ・ネグローニシェフのサフランのリゾット。

ミラノ風リゾットは、サフランとバターだけでなく、牛の骨のブロードも使う料理。
バターをリゾットに混ぜ込む方法は、マンテカーレ。

クラウディオ・サドラ―シェフのコストレッタ・ミラネーゼ。
像の耳タイプの薄く広げるコストレッタは子供が好きだと言ってますね。アルタ・クチーナでは、広げない分厚い肉が好まれます。

アンチョビばかり見ていたので、これだけがっつりの肉料理はなんだか久しぶり。
肉とバターは当然ながら相性抜群。南の食材なら、モッツァレラやブッラータもアンチョビと相性がいいはず。
(CIR7月号P.32)のリチェッタ、“モッツァレッリーネのトマトとアンチョビ風味”は、アンチョビとそのオイル、りんご酢、ミントとバジリコのソースをモッツァレッリ―ネ・フィオルディラッテとミニトマトにかけたサラダ。

アンチョビ入りモッツァレラ・イン・カロッツァ。

これも一種のコトレッタですが、植物油で揚げます。

プーリアのパンツェロッティもモッツァレラの詰め物なのでアンチョビを入れても美味しいはず。

・小麦粉350g、セモリナ粉150g、EVオリーブオイル20ml、生イースト1/2.キューブ、砂糖大さじ1、ぬるま湯300ml(少しずつ加える)をこねてまとめ、ボールに入れる。打ち粉をして十文字のクープを入れ、覆いをして最低2時間発酵させる。
・詰め物を作る。モッツァレラ500g、トマト600gを小さく切って混ぜ、2時間水気を切る。塩、こしょう、おろしたチーズ一握りを加える。
・生地をガス抜きして50~60gずつに15個丸める。天板に並べて乾かないように布をかけ、30分発酵させる。
・生地を麺棒で薄く伸ばし、中央に詰め物大さじ1をのせて半分に折る。詰め物の周囲の空気を抜きながら閉じる。
・たっぷりのピーナッツ油で両面を揚げる。

次回はアンチョビの肉のソース。

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2023年9月27日水曜日

アンチョビバターのスパゲッティは、究極のモンテ・エ・マーレな料理だった。

アンチョビとパン粉という相性抜群のパートナー。
ここにオリーブオイルが加われば、三位一体級の至高の完成形。
ただ、オリーブオイルの座を危うくする存在があります。
バターです。
アンチョビバターは、フライパンにバターを熱し、流水で塩抜きしたアンチョビを入れて溶かし、バジリコとタイムのみじん切り少々と室温のバターを加えて混ぜます。これをオーブンシートに開けてひとまとめにし、潰したピンクペッパー数粒を散らして冷蔵庫で固めます。
パンのクロスティーニに塗ったり、ビアンコのパスタや薄切り肉の調味に使えます。

アンチョビバターのスパゲッティ。

シンプルで素朴な料理は素材を徹底的に吟味する、という鉄則通り、アルティジャナーレなバターにスペインのカンタブリア海のアンチョビ、ソレントのレモン、上質のパスタが材料。パスタは溶かしたアンチョビバターの中でリゾッタートの方法で煮ます。

下の動画では、カリカリのパンとイタリアンパセリ、アンチョビをミキサーにかけて溶かしたバターに加えています。バターの質は上の動画とは明らかに違いますねー

ジャンフランコ・パスクッチシェフ(al porticciolo/レッコ)のアンチョビバターのスパゲッティ。

・潰したアンチョビ、室温のバター、乾燥オレガノをホイッバーで混ぜ合わせます。
・昆布、青魚の骨、パルミジャーノの皮でとろ火で20分煮て濾してダシを取ります。
・パスタはスパゲット―ネを使います。
・ソテーパンにダシ少々、アルデンテにゆでたパスタを入れてなじませ、アンチョビバターを加えてマンテカーレします。仕上げに唐辛子風味のオイルを垂らします。

これは和風とイタリアンの見事な融合ですね。
もしバターがフランス産でアンチョビがスペイン産だったら、EU風も入ってますよ。


山小屋のバター。

バターとアンチョビのクロスティーニ。

バターはアルティジャナーレのもの。
・パンをトーストする。
・アンチョビは流水の下で開いて骨を取る。
・パンにバターを塗ってアンチョビをのせる。

バター・アルティジャナーレ。


アンチョビバターは海のアンチョビと山のバターの組み合わせ。究極のマーレ・エ・モンティな味。
ところで、動物性脂肪のバターは、イタリアでは少数派。オリーブオイルの国ですから。イタリアで動物性脂肪が普及した地方は、北です。

イタリアを北と南に分ける線は、リミニとガルファニャーナを結ぶ“ゴシックライン”です。
この線は、第二次世界大戦のドイツの主要防衛線でもありました。この防衛線へのドイツ軍の攻撃は、オリーブ作戦と呼ばれました。バター作戦よりは強そうだけど、アンチョビ作戦になってたかもね。

ゴシックライン。

こんな山の上で、戦争してたんですね。
それにしてもドイツ人のイタリア料理に対する深い理解には驚かされます。
動物性脂肪というテーマはなかなか面白いので、次はこの話。

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2023年9月26日火曜日

パン粉は日本製のpankoと西洋のpangrattatoの2種類に分かれた。独自のパン文化があるイタリアでは、その代用品の研究も行われている。

アンチョビの話、調べれば調べるほど、イタリア料理との深いつながりが分かって、どんどん横道に逸れてしまいましたが、そもそもは、(CIR/クチーナ・イタリアーナレジョナーレ2021年7月号)の記事、“アンチョビ風味”のリチェッタ(日本語のリチェッタはP.32)の話です。
今日の料理は“ペンネ・リピエーネ・グラティナ―テ”です。
普通はペンネ・リガ―テなのに、よく見ると、ペンネ・リピエーネ。
小さなショートパスタに詰め物?
まあ確かに、詰め物したくなるような穴は空いてるけど・・・。
見たことないです、ペンネ・リピエーネなんて。

この料理のリチェッタを見ると、まず気が付くのは、パン粉。
普通のパン粉はpangrattatoですが、このパン粉はpane panko。つまり日本製のパン粉です。
以前から見かけるようになりましたが、最近は、pankoの文字もよく見ます。

下の動画はイタリア語で聞くpankoの詳細な歴史。西洋のパン粉との違いも説明しています。


イタリアでもpankoは急速に広まっているようですね。
pankoの製造方法を研究し、なぜpankoは美味しいのか、そして美味しいpankoの造り方が徹底的に研究されているようです。
そして今回のリチェッタでは、pankoの代わりに砕いたグリッシーニを使うことを提案しています。

グリッシーニ。

グリッシーニはイタリアが誇るトリノ生まれの傑作です。日本製のパン粉と対決させるにはぴったりの素材かも知れません。
ただ、毎日膨大なグリッシーニが製造されていても、どれもありきたりの味で、ピエモンテで手作りされるグリッシーニとは、まったく違いうものだそうです。
おっといけない。
アンチョビ風味のペンネ・リピエーネの話をしているはずが、グリッシーニの話になりそうでした。

今回のリチェッタ、ペンネ・リピエーネ・グラティナ―テは、ペンネににんにく、ドライトマト、アンチョビ、アーモンド、オレガノ、イタリアンパセリ、ペコリーノの詰め物を絞り袋を使ってペンネに詰めて天板に並べ、パン粉、ペコリーノ、オレガノ、イタリアンパセリを混ぜてのせ、スライスアーモンドを散らしてオーブンでグラティナーレする、というもの。
南の食材のオンパレードの中、グリッシーニのパン粉や日本製のパン粉を散らすと、一段とインターナショナルで都会的な料理になりますね。

パン粉とアンチョビのスパゲッティというのがありました。
この2つは庶民的な食材の代表格。
そもそもスパゲッティは庶民の料理として、貴族など裕福な階級には受け入れられない料理だったことを思い出します。

何度も紹介しているフェリーニ監督のバリラのリガトーニの傑作CM。その名も上流階級。

アンチョビとパン粉のスパゲッティSpaghetti con le acciughe e il pangrattatoは典型的な庶民料理。アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノのアレンジ版。

・フライパンににんにく3かけとオリーブオイル20gを熱し、にんにくにを取り除く。アンチョビ30g、パスタのゆで汁少々を加えて10分熱して溶かす。
・パスタをゆでる。
・パン粉70gと油をフライパンでトーストする。
・フライパンにゆでたパスタとレードル1杯のゆで汁を加える。さらにパン粉とゆで汁を加えてマンテカーレする。皿に盛り付けてパン粉を散らす。

庶民が安く手軽にお腹を満たすことができたパスタは、マルケージが起こした革命とヌーベル・キュイジーヌによって上流階級の食べ物と認識されるようになりました。言ってみれば今日のリチェタ、ペンネ・リピエーネ・グラティナーレはアンチョビとパン粉のパスタの上流階級版。
来月の(CIR)には、マルケージが起こしたもう一つの革命、冷製パスタの記事もあります。お楽しみに。

さて、次回はグリッシーニの話に戻ります。

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2023年9月25日月曜日

マグロ消滅の危機から町を救い、塩のない山の上の村を救ったアンチョビの塩漬け。

リグーリアのアンチョビについて見てみましたが、地中海はアンチョビの豊かな漁場で、リグーリアでは水揚げも多いです。様々なリグーリア料理に使われてきましたが、売れ残ったアンチョビは塩漬けにして、行商人が、リグーリアと他の地方の物々交換に用いてきました。ピエモンテの山を越えてランゲやミラノへと運ばれていきました。クーネオ県のヴァル・マイア地方では農閑期の副業としてアンチョビの塩漬けの行商が普及していました。

ヴァル・マイアはどんなところなのか、見て驚きました。

こんなところです。
すんごい山の中。
ヴァル・マイア。

山の上の農家と言えば、放牧とチーズ作りですよね。


アンチョビとは無縁の山の中で、必要なのは塩でした。
塩、つまり海です。
リグーリアのモンテロッソの塩漬けアンチョビ。この漁村では男性が漁に行き、女性がそれを塩漬けにしていました。村の女性の仕事がアンチョビの塩漬けでした。

この山の中で牛を育てていた若者たちは、夏になると塩を求めてリグーリアまで行き、そこで塩漬けアンチョビを仕入れてピエモンテやロンバルディアに売りました。この行商はいつの間にか大きな事業になり、ピエモンテの伝統料理まで生み出しました。

バーニャ・カウダ。

ピエモンテのバーニャカウダも、山の中で造られる塩漬けアンチョビがあったから生まれた料理なんですね。
さらに、アマルフィ海岸のコラトゥーラで知られる町、チェターラは、そもそもはマグロ漁の村でした。ところがマグロの数が激減して、マグロ以外の魚で経済を立て直す必要に迫られました。そして選んだのがアンチョビです。現在は、伝統料理、飲食業、職人たちの、知力と行政力を総動員した食べ物と文化を結び付けたプロジェクトによって、アンチョビ産業がマグロを完全にカバーしている。

チェターラのマグロ漁。

チェターラと言えばコラトゥーラ。古代ローマ人がガルムと呼んでいた調味料の子孫で、現代人の食通にも人気がある。多分、これがチェターラを救ったのでしょう。
コラトゥーラには、3月末から7月初めに獲れた脂が少なくて塩漬けに最適のイワシを使います。イワシをオークの樽で4~5ヵ月塩漬けしてイワシから出る水分を集め、水気を飛ばして濃縮し、これを再びイワシにかけて味を強め、容器の底に穴をあけて集めた汁がコラトゥーラ。1年かけて作ります。

伝統的なコラトゥーラ造り。

アンチョビはアマルフィ海岸の漁村だけでなく、ピエモンテの山の上の牧畜の村まで救っていました。
リグーリアは海と大地を結び付けたマーレ・エ・テッラの土地だけでなく、ピエモンテやトスカーナといった近隣の地方とも強く結びついています。そのキーとなった食材は、例えば、ムール貝もそうです。この話は、来月の(CIR)で詳しく取り上げていますので、お楽しみに。

コラトゥーラのスパゲッティ。腕組みで料理を説明する料理人が完全にサッカー選手のスタイル。


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2023年9月22日金曜日

イタリアン・リビエラは、巨大な港ジェノバを中心に、内陸に広がった西海岸と海にむかった東西海岸に分かれる。東海岸は塩漬けアンチョビの産地。

(CIR7月号)のリチェッタから、今日のお題はアンチョビ風味(P.32)です。

アンチョビは春になると産卵のために沿岸にやってくる小さな青魚。
傷みやすいので、取りたてをすぐにいただくのがポイント。
イタリア語ではacciugaやaliciと呼びますが、どちらも同じもの。

コラトゥーラで知られるアマルフィ海岸のチェターラのアンチョビ。

リグーリアのリビエラ・レバンテも塩漬けアンチョビ造りの伝統がある地方。特にモンテロッソmonterossoはアンチョビの塩漬けが名物。

リグーリアの特産物、アンチョビ、オリーブオイル、バジリコ・・・、なんだかイタリア料理の基本の食材が全部ある。
リグーリアの沿岸部はリビエラと呼ばれる地方。ジェノバを中心に、東海岸と西海岸に分かれます。
ジェノバは巨大な港があり、海洋国家として世界中と貿易をしていた都市。西海岸は、内陸へとつながり、東海岸は漁師町が点在する海とのつながりが深い地方。

イタリアン・リビエラ。

この地方のアンチョビの名物料理“アンチョビのバニュンBAGNUN DI ACCIUGHE”。

かつてはリビエラ・レバンテの漁師が船の上で作る朝食でした。

グリバウド・グランデ・クチーナ・レジョナーレ・シリーズの『リグーリア』

のリチェッタによると、バニュンのリチェッタは、
材料/
アンチョビ・・800g
にんにく・・2かけ
玉ねぎ・・50g
完熟トマト・・4個
白ワイン・・1カップ
イタリアンパセリ・・1束
田舎パン・・4枚
バジリコ
EVオリーブオイル
塩、こしょう

・アンチョビは内臓と頭を取って開く。素焼きの浅鍋に油半カップと丸ごとのにんにく1かけ、玉ねぎのみじん切りを入れてソッフリットにする。
・玉ねぎがしんなりしたら皮と種を取って粗く刻んだトマトを加えて10分煮る。
・塩、こしょう、ワインの半量を加えてアルコール分を飛ばし、アンチョビを並べて残りのワインをかける。イタリアンパセリのみじん切りを散らして15分煮る。
・パンをトーストしてにんにくをこすりつけ、スープ皿に敷く。アンチョビと煮汁で覆い、バジリコのみじん切りを散らして5分休ませてサーブする。

アンチョビのズッパとも呼ばれています。ズッパ・ディ・ペッシェは盛り付けが美しいとワンランクアップして見えます。この料理はアンチョビの鮮度ももちろん大切だけど、トマトの赤とアンチョビを整然と並べのがポイント。

次回はパスタのリチェッタ。

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2023年9月21日木曜日

クロマグロの漁は、時代とともに消えていき、かつてはシチリアを象徴していたマグロ漁の文化も消えた。

シチリア西部のワインに組み合わせる、というテーマで選んだシチリア料理は、タコのサラダとなすのインボッティーティという、シチリアの特産物が主役の海の幸と野菜の組み合わせという、シチリアの家庭、農家、漁師から愛されている、さらには外国からの観光客も求めるシチリア料理のイメージにぴったりの料理ばかりでいした。(CIR)で取り上げた料理の最後の1品は、マグロのラグー・イン・ビアンコのスパゲッティです(リチェッタはP.39)。

かつて大西洋クロマグロの回遊ルートにあったシチリアではマグロが豊富に取れました。
マグロ漁は観光資源としても世界的に有名でした。
マグロ漁の村、ファビニャーナで行われていたマグロ漁、マッタンツァ。
クロマグロの数が激減し、漁自体もかなり残虐な前時代的な方法で、以前から消滅の危機にありましたが、今やシチリアのマグロ漁の文化は完全に消えてしまいました。
漁の次に消えるのは料理かも・・・。
かつてのファビニャーナのマッタンツァ。

残酷すぎて、現代のコンプライアンスで見ると、完全にアウト。
こういうの案外あります。
例えば、ぶどうを若い女性が足で踏む、というぶどう農家の習慣も、セクハラとして遠からず消えるのでは、と思っています。

かつての伝統的なぶどうの収穫。

缶詰のツナが普及して、日本では生のマグロのパスタは少数派になっていますが、シチリアでは、かろうじてマグロと言えば、生マグロ。
マグロのラグーのスパゲッティ。リチェッタは(CIR/P.39)。イン・ビアンコなのでリチェッタではトマトは入りません。

この料理をワインと組み合わせる時のポイントは、マグロの大きさ。上の動画では1cm角の角切りにしています。平均的な大きさです。
当然ながらマグロが小さいとマグロ以外の食材の風味が強くなり、大きいとマグロの中まで火が通りにくいので海の風味が残ります。


記事で勧めているのは、ポルタ・デル・ヴェントの“カタッラット”。

ポルタ・デル・ヴェントのオーナーは、15年前の開業時にシチリアの市場に受け入れられなくて悩んでいた彼の最初の顧客は日本のインポーターだったと語っています。それをきっかけに彼は新しい市場に目を向けるようになったのでした。

バイオダイナミック農法で栽培されている彼のカタッラットは、輝きのある活き活きとしたワイン。野菜のパスタにもよく会います。

このカタッラットはシチリアの名物ズッキーニ、テネルーミのスパゲッティにも合います。


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2023年9月20日水曜日

シチリアは家族経営の小規模ワインメーカーでも地元愛が強い。シチリアのなす料理に合うシチリア西部のワインは・・・。


シチリア料理とシチリアワインの組み合わせ、2品めの今日は、“なすのインボッティ―テ”です。

シチリア風なすのインボッティ―テ。なすの詰め物料理です。

なすはアラブから伝わった野菜。アラブ人によってシチリアに伝わったというのが定説だが、カンパーニアに伝わったという説もあり、カンパーニアでもなすは普及している。
 シチリアはイタリア最大のなすの産地で、パルミジャーナやカポナータ、ノルマ風パスタ、コトレッタ、フンゲッタ、ベッカフィーコなど、ナスを使った地方料理がたくさんある。

ナポリ風なすのリピエーネ。

ナポリとシチリアのなす料理の違いは使っているなすの違い。ナポリのナスは、Violetta di Napoliという有名な品種。

さらに、なすは詰め物料理としても活躍するが、野菜に野菜を詰める料理と言えば、リグーリア料理。
リグーリアの野菜は地中海の太陽ではなく、リヴィエラの太陽を浴びて育つ。この地方には、香りの高いオリーブオイル、バジリコ、松の実、きのこ、野草など、野菜と相性の良い食材もたくさんある。一説には、リグーリア人の野菜好きは、海洋国家だったころの名残だと言われている。つまり、海の上で過ごす時間が長かったので、保存食ばかり食べていて、新鮮な野菜に飢えていた、という説。私はアメリカを一人旅して高カロリーの保存食ばかり食べていたら、自分史上最高にパンパンに太って周囲を驚かせた経験があるので、この新鮮な野菜を欲しがる気持ちがよくわかります。

リグーリア風野菜のリピエーニ。

材料/小型のなす・・8個
ズッキーニ・・10本
ズッキーニの花・・数個
玉ねぎ・・1個
モルタデッラ・・100g
パン粉・・2握り
おろしたパルミジャーノ
マジョラム・・数枝
卵・・4~5個
じゃがいも・・大4個
堅くなったパニーニのクラム・・7個
にんにく、イタリアンパセリ
40㎝角の天板
牛乳、

・パンに牛乳を吸い込ませる。
・鍋にたっぷりの湯を沸かす。なすとズッキーニはヘタを切り落として縦半分に切り、ゆでる。ズッキーニの花も中を下処理する。新鮮なものはそのままでもよい。これらを熱湯で3~4分アルデンテにゆでる。取り出して冷ます。
・その間に玉ねぎを半分に切って外側の葉をむく。中心の葉は刻んでフライパンでソッフリットにし、パンに加える。
・ゆでた野菜をスプーンでくりぬき、刻んでパンに加える。
・詰め物を作る。刻んだモルタデッラ、マジョラムの葉、パルミジャーノ、卵、オイル少々、塩も加えて混ぜる。柔らかすぎる時はパン粉を足す。
・イタリアンパセリとにんにくをみじん切りにして天板に広げ、塩とオイル少々を加える。
・じゃがいもを薄く切って直接天板に広げ、オイルとイタリアンパセリをまぶす。その上に詰め物を詰めた野菜を並べる。
・詰め物が余ったら、パプリカに詰めてもよい。
・オイルを回しかけ、180℃のオーブンで55分焼いて表面に焼き色を付ける。

なす料理は、パルミジャーナのように重ねるものと、リピエーノのように器のように使うものに分かれます。

なすのパルミジャーナ。


なすのリピエーノは、なすと香ばしさを味わう器部分と、風味とジューシーさがある詰め物部分の組み合わせです。

そしててなすのリピエーノに組み合わせたシチリア西部のワインの一つは、マルサラ平野のシチリアで一番西という名前の樹家族経営のカンティーナ、ヴィ―テ・アド・オヴェストのカタッラット“リーナ”。


シチリアでもっとも広く栽培されている品種だけど、まだ開発中。分かっていないことも多い品種、カタッラット。


もう一つは、トレッビアーノ・ディ・グッチョ―ネ。
グッチョ―ネはパレルモ郊外の標高500mの畑でビオディナミカ農法でトレッビアーノを栽培しているカンティーナ。このワインは一部を樽で寝かせていて強さとエレガントさを兼ね備えたワインです。

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2023年9月19日火曜日

ドンナフガータと『山猫』

連休前は、シチリア西部のワインの記事から、(CIR/P.36~)タコのサラダに合うワインを紹介していました。ちなみにこの記事で取り上げた料理は、
・タコのサラダ、
・なすのインボッティ―テ
・マグロのラグー・イン・ビアンコのスパゲッティと、シチリアの庶民的な料理をピックアップしています。
タコのサラダは海の幸と畑の幸の組み合わせ。魚と野菜に合うワインが求められます。

相性の良いワインとして選ばれた1本目は、“ドンナフガータのダマリーノ”でした。
ドンナフガータと言えば、『山猫』です。
この映画は、シチリアの貴族の血筋の作家ランぺドゥーサが、シチリアの貴族の落日を描いた傑作小説で、ミラノの貴族の血筋のルキノ・ビスコンティ監督が映画化した芸術的傑作として実写化されています。
この映画を観たことのある人なら、ドンナフガータという名前は、忘れることができないものとして記憶に刻まれているはず。
バート・ランカスター演じるサリーナ侯爵が、アラン・ドロン演じるタンクレディなど一族を連れてガリバルディの赤シャツ隊から逃れるために、パレルモからドンナフガータに逃れます。市長の娘、Z世代的なクラウディア・カルディナーレとアラン・ドロンが恋に落ちます。ブルボン家がシチリアから撤退し、若者たちと新興階級による新しい時代の始まりを、芸術的に、品格高く描いた映画でした。まるで、何考えているのか全然理解できないギャルと科目で頑固な昭和の男の世代交代。
 ワインの造り手としてのドンナフガータは、シチリア西部の歴史のあるカンティーナ。マルサラのメーカーとしてスタートしました。やがてネロ・ダーヴォラ、カタッラット、アンソニカと言った当時は知られていなかったぶどうの栽培を始めます。さらにカベルネ、シラー、メルローのようなインターナショナルな品種も栽培し、シチリアワインの評価を高めるカンティーナの一つとなりました。ドンナフガータはワインのラベルにシチリアの風土を描いた独特のデザインを採用しているのも特徴です。

ドンナフガータ。

『山猫』で、サリーナ侯爵一家がパレルモからドンナフガータにやってくるシーン。

貴族が没落していく激動の時代を描いているのにすごく高貴。緊張に満ちたコルレオーネ村とはまた違った、でもどこまでもイタリア的な空気が流れてます。

さて、タコのサラダと相性の良いワインとして選んだワインの一つが、ドンナフガータのインゾリア、別名アンソニカ種のワイン、“ダマリーノdamarino”でした。

さらに、“グリッロ・ディ・モツィア・ディ・タスカ・ダルメリータ”も選んでいます。

タスカ・ダルメリータもシチリアを代表するカンティーナ。グリッロ・ディ・モツィアは塩田やカルタゴの遺跡で知られるモツィア島にある畑のぶどうから造ったデリケートな白。

モツィア。

『山猫』のクラウディア・カルディナーレは、ほんとにきれいでした。


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イタリアの料理月刊誌の日本語解説『(CIRクチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)
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