2022年10月31日月曜日

レッチェの甘いもの職人たちが一丸になって売り出すことにした美味しいのに無名のドルチェ、パスティッチョット。



サレントのストリートフードの話題、その震源地はプーリアのパン屋さんだと思うのですが、サレントには、他にも美味しい食べ物が生まれる場所がありました。
パスティッチェリーアです。
そして名物は、“パスティッチョットpasticciotto”。
ストリートフードではなくスイートフード。

プッチェよりは言いやすいし、パスティッチェリーアは個人的にはなぜかパン屋さんより注文しやすい。
パスティッチョットはパスタ・フロッラでカスタードクリームを包んだタルト。
ココア入りパスタ・フロッラや、クリームにアマレーナのジャムを加えたものなどのバリエーションがあります。
パスティッチェリーアやバールでレッチェのナンバー1パスティッチョットを食べ歩く動画↓

パスティッチョット


イタリア・イン・クチーナ

には、レッチェのリリス農園のリチェッタが載っていました。
材料/
《生地》
0番の軟質小麦粉・・500g
重曹・・少々
卵・・3個
砂糖・・250g
レモン・・1個
ラード・・250g
塩・・少々
《クレーマ・パスティッチェリア》
牛乳・・1ℓ
0番の軟質小麦粉・・120g
卵黄・・4個
砂糖・・250g
レモンの皮・・2~3片

・ラードと砂糖、卵、レモンの皮のすりおろし、塩、重曹と一緒に振るった小麦粉を練り、均質の生地にする。冷蔵庫で2時間休ませる。
・その間に鍋で卵黄と砂糖をホイップし、ダマにならないように小麦粉を少しずつ加える。牛乳とレモンの皮も加える。火にかけて沸騰させ、かき混ぜながらクリーム状に煮詰めて冷ます。
・生地を型に敷き込み、クリーム補流し入れて別の生地で覆う。
・250と℃のオーブンできつね色になるまで焼き、冷ましてサーブする。


コロナ禍の2021年6月1日、ジェラテリアやパスティッチェリアが主催したパスティッチョットの日というのが制定されました。



パスティッチョットを食べ歩くのも楽しいけど、復活祭の時期だと、南イタリアのパスティッチェリーアはちょっとした美術館みたいになります。ショーウィンドウに、超可愛いくて芸術的なマジパンの子羊が登場するのです。


その名もペコレッレpicorelle。


パスティチッチェリーアの職人が作ったパスクアのペコレッレは超絶可愛いので、パスティチョットを買うついでに店内のペコレッレもじっくり鑑賞。
食べる気満々で詰め物をしてますが、さすがにこれは食べれない。

生まれたての子羊ちゃん。

地元では超有名だけどプーリア以外では全然知られていない美味しいレッチェ名物、パスティッチョット。
地元のパスティッチェリーアやジェラテリーアなど甘いものの職人の店が団結してパスティッチョットデイを6月1日に制定。



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イタリアの料理月刊誌の日本語解説『(CIRクチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)
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2022年10月29日土曜日

レッチェのパン屋でのツンデレ店員さんの笑い声は一生の思い出になりました。

サレントのストリートフードの話、続けます。
今日はピッツィPizziとプッチェpucceです。
プーリアのパンがおいしいのは有名だったので、レッチェに行く時、事前にパン屋さんとピッツィとプッチェというパンの情報は仕入れておきました。
でも、いざパン屋で注文するときになって、ピッツィとプッチェという名前がすんなり出てこないのです。ピッツィぐらいなら問題なく言えるのですが、プッチェが出てこないのです。嘘だと思うなら、言ってみてください。ピッツィとプッチェ。
言えないから。で、私も当然プッチェが言えなくて、たぶんプッツとか言ったんだと思います。
 その時、思いがけず、素敵なことが置きました。店員の女の子二人が、ぷっと噴出してクスクス笑ったのです。よく芸人さんが芸人になったきっかけは子供の頃、クラスのみんなの前でやった漫才が思いのほか受けて気持ちが良かったから、という話を聞きますが、この時はそれがよく理解できました。
定員が笑ったくらいで?と思うかもしれませんが、南イタリアの職人さんは基本怖いのです。にこりともしないし、お客に愛想なんて絶対ふりまかないし、なんなら商品の取り扱いについて素人に説教しそうな勢いなんです。
 芸人を目指していたわけでもない、イタリア語もよくできない普通の観光客だった私の心は、たぶん、初めて行った街で発音がちょっとやっかいなパンを注文するためにピーンと張っていたのだと思います。それがこの楽し気な笑い声で、すーっと溶けて行きました。
心がほっこりしながら、このお店が一瞬で好きになっていました。
しかも、後で食べたプッチェのおいしかったこと。ワインによく合って、最高でした。このパン屋での小さな経験は、それからだいぶたった今でもよく覚えています。

南イタリアではパン屋の注文も楽し気。

テレビの取材には驚くほど無愛想。でもこれがデフォルト。このガチガチつんな女の子が笑ってくれると、南極の氷も解けちゃう。レッチェのパン屋のピッツィとプッチェ作り↓
プッチェのリチェッタは(CIR11月号)P.43。


プッチェ

正直言って南イタリアの職人さんを笑わせたことは一生の自慢です。


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2022年10月28日金曜日

素朴なのにどうしてこんなに風味豊かなのか。サレントのストリートフード、ペットレはクリスマスイブに食べる揚げ生地。

プーリアのストリートフードの話、今日は、記事を訳しながら食べたことのないものだったので気になっていた“ペットレPettole”についてです。
(CIR)の記事P.41には、発酵生地のボールのフリットで、具によってalla pizzaiolaやminoscia(稚魚)などのバリエーションがある、とあります。
下の動画ではプーリアの陽気なお母さんが57年前の嫁入り道具の鍋でペットレを作ります。クリスマス・イブに食べます。

リチェッタの日本語訳は(CIR)P.45にあります。

ぺットレ・アッラ・ピッッァイオーラ↓


他にオリーブやアンチョビ、バッカラ、ケッパー、野菜入りなどもあります。
生地は天然酵母のものも。
天然酵母のペットレ↓具が入らないので生地を味わうタイプ。

下の動画ではプーリアで観光客が食べたいと思うものを全部食べてます↓


タコ焼きみたいだな、と思ったけど、タコは別に揚げるんですね。
生の貝は当たると悲惨なので気を付けてくださいね。

オイルと小麦の産地のプーリアでは、スーパーの食材でこんなスペシャルなパニーノができます↓

プーリアのパンの美味しさは、プーリアのストリートフードを含むすべての食べ物の原点。
プーリアを代表するパン、パーネ・ディ・アルタムーラ↓
パーネ・ディ・アルタムーラは香りが素晴らしい天然酵母のパン。一度あのパンの香りを嗅いだら忘れられなくなります。




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2022年10月27日木曜日

グローバリゼーションに抵抗する伝統文化の象徴で、フランスの貴族料理と地中海の味が結びついたのがプーリアのストリートフード。

今日のお題はグルメ旅、プーリアのサレント地方です。
ブーツの形のイタリアのヒールの部分の半島。中心地は南イタリアのフィレンツェと呼ばれる美しい都、レッチェ。
(CIR)の記事(P.41)にもあるように、人によってサレントのイメージは様々ですが、私には食べ物がとびきり美味しくて人がいいというイメージ。
特にこの地方はストリートフードが絶品なのですが、『サーレ・エ・ぺぺ』の記事によると、ストリートフードはグローバリゼーションに抵抗している伝統の食文化、と北イタリアの人には映るようです。

レッチェのストリートフード

でも、プーリアのストリートフードは確かに伝統文化。ガイドブックでちらっと見た名物の知識をたよりにプーリアを食べ歩きして、適当に入った店で適当に買った惣菜が、どれもこれもとびきりおいしくて、すっかりプーリア料理のとりこになりました。
記事によると、サレントのストリートフードのベースは農民料理ではなく、貴族のお抱え料理人、モンズ―が作る貴族の料理。
まさに、フランスの貴族料理と地中海の味という無敵のコラボだそうです。
それがよく分かる料理がルスティコ・レッチェーゼrustico leccese↓

ヴォロヴァンのストリートフード版。3段のパイ生地でトマト、モッツァレラ、ベシャメルがベースのソースを挟んだミニパイです。

レッチェ↓

レッチェのストリートフードはナポリとの共通点がたくさんある。そのルーツはパン、フォカッチャ、ピッツァ、スキアッチャータ。
パンツェロッティ・プリエージ↓





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2022年10月26日水曜日

家禽の内臓が主役の宴会料理、フリット・ミスト。

今日のお題は“フリット・ミスト・アッラ・モンフェッリーナ”fritto misto alla monferrina。
フリット・ミストはイタリア料理の代表的な1品ですが、一人で食べる料理ではなく、宴会料理なので、どこかのお祭りにでも潜り込まないと無理と、イタリアで食べることはほぼあきらめている幻の料理。ピエモンテの料理で、北イタリアで一番ボリューミーで陽気なフリットだそうですよ。
ピエモンテのホテル・レストランのデリバリー用フリット・ミスト↓


ピエモンテ風フリット・ミストの材料。

内臓が多いので農民料理がルーツということを思い出させます。というか家禽を捌いた時に作る料理で、内臓が主役の内臓を無駄にしないために作る料理。家禽を捌いた時に傷みやすい内臓はすぐに調理する必要があったのです。
ピエモンテのフリット・ミストは9種類の肉と野菜、5種類のドルチェ、2種類の付け合わせからなります。シーフードが入らないのが特徴。さらに暑い季節には、どこを探してもお目にかかれない。上質の肉も入りますが、どちらかと言うと、主役は肉だそうです。ただし、材料の基本は造る人次第。

リチェッタは、今月の(CIR)P.34にあります。

フリットの信者会のレストランが造るフリット・ミスト↓

甘いフリットの一つ、セモリーノは、ピエモンテ風フリット・ミストのドルチェの一つ。


バニェット・ベルデもピエモンテ風フリット・ミストに欠かせないグリーンソース↓



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2022年10月25日火曜日

アマローネはキアンティに匹敵するけど知名度が低くてとんでもグルメ映画『ハンニバル』には採用されなかった(ホッ)。

まだ多少こんがらかっているので、ちょっと整理。
ヴァルポリチェッラはヴェローナ県にある地区の名前。
イタリア料理の百科事典『1001スペチャリタ・デッラ・クチーナ・イタリアーナ
によると、ヴァルポリチェッラというのは
ラテン語でカンティーナ(ワインリー)がたくさんある谷という意味のvallis polis cellaeが語源。昔からワイン造りで知られた地方でした。
アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラは、ヴァルポリチェッラと同じ品種のブドウから造る同じ地区の赤ワイン。
ぶどうは収穫後、1月までアッパッシメントappassimentoと呼ばれる水分を飛ばす作業を行う。
バルポリチェッラのアッパッシメント。

このワインを最高の料理と共に味わうなら、strada del vinoがお勧めだそうです(webページはこちら)。



『スペチャリタ・デッラ・クチーナ・イタリアーナ』にはこんな話も載っていました。
『ハンニバル』という映画はグルメなサイコパスが主人公なので、出てくる料理やワインがやたら通好みなのです。人喰い殺人鬼の話はちょっと手が出ないのですが、イタリア貴族の末裔という設定で、さりげないセリフの一言が、美食家たちが思わず納得しちゃうセリフばかりでぞっとします。例えばwikiにアメリカ映画の名セリフ100選に選ばれている「そいつの肝臓をソラマメと一緒に食ってワインのつまみにした」という不気味なセリフが取り上げられているのですが、21位だったということは、ちょっと美味しいかも、なんて考えたグルメがかなりいたようです・・・。
実はハンニバルが飲んだワインは映画では知名度の高いキアンティになっていましたが、原作ではアマローネだったそうです。

アマローネは濃いルビーレッド色、滑らかでボディーのある味、完熟した果実のアロマ、アマレーナジャムやラズベリージャムのアロマが感じられる。
タールの香りということもあるが、これはタールのような熱さや強さを感じるというポジティブな比喩。
料理は、ジビエ、ロースト、ブラザート、煮込み、熟成チーズなどと相性が良い。

今月の(CIR)のヴァルポリチェッラの記事には(P.37~)ヴァルポリチェッラに合う料理のリチェッタとお勧めのワインも載っています。
最初の料理は“ラディッキオ・ロッソ”とモンテ・ヴェロネーゼのリゾット。
モンテ・ヴェロネーゼはイタリアが誇る山のチーズです。この地方に食べ歩きに行くなら、チェックしておかないと。
モンテ・ヴェロネーゼ・ディ・マルガ↓

アマローネとモンテ・ヴェロネーゼのリゾット。


(CIR)でモンテ・ヴェロネーゼのリゾットに合わせたのはサルトリのマラー二Marani。
ガルガネガを軽く(40日間)アッパッシメントした蜂蜜の香りの白ワイン。クリーミーなチーズとほろ苦いラディッキオ・ロッソや冬野菜、きのこ、内臓料理、トリュフ、甲殻類によく合うそうです。

ヴァルポリチェッラ・リパッソ・レゴロは18~24か月樽で寝かせ、さらに6か月ボトルで寝かせたジビエに合うコクのある赤ワイン。軽い脂がある料理に合い、料理の脂を流す。なめらかなチェリーの香りがあるワイン。

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2022年10月24日月曜日

ヴァルポリチェッラなど北の上質ワイン造りの工夫は限界がない。リパッソは絞り粕を無駄にしないしワインのコクも増す製法。


今日のお題は今月のワイン。ヴァルポリチェッラvalpolicellaです。
先月のワイン、ソアーベがベネトの白ワインの代表だとしたら、これは赤ワインの代表。
ヴァルポリチェッラはヴェローナ県のコムーネです。
ワインロードもあるワインの銘産地。
ヴェローナからは数㎞離れていて、モンティ・レッシ―ニ、ネグラール渓谷、マラノ渓谷などに囲まれた上質ワインの産地。

ヴァルポリチェッラのワインロード。

ヴァルポリチェッラの旅の案内役は、カンティーナ・サルトリ。サルトリのワインは、800年代にカンティーナの創業者でレストランも経営するピエトロが顧客に出すために造り始めたワインがそのルーツ。本拠地は、ネグラール渓谷の700年代の館、ビッラ・マリア。
ヴェローナがライバル、ととらえてエレガントで個性的なワインを国際的なエノロゴのチームが創り出してきました。

カンティーナは順調に成長を続けてきた。現在カンティーナを代表するワインは、アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ“イル・レゴロ・ヴァルポリチェッラ・スーペリオ―レ・リパッソ・イル・マラー二”。
ヴァルポリチェッラ・リパッソ・スーペリオ―レ・レーゴロ↓
レーゴロはアマローネの絞り粕にヴァルポリチェッラを“リパッソ”して再び発酵させて造る。
ヴァルポリチェッラのワインの特徴と言えば、ぶどうを干すこと。

ぶどうをすだれ状に吊るして干している姿はナポリのミニトマト、ピエンノロを思い出させる。

よく考えてみると、北イタリアで上質ワインを造るのは、南で造るよりかなり難しいはず。これらの工夫でモストの糖度を凝縮させてアルコール度の高いワイン造りを可能にしたのですね。さらに、アルコール度が低くて甘いワイン、レチョートも造り出しました。
そしてリパッソは、ぶどうを春まで干してヴァルポリチェッラを造り、レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラの絞り粕を通して再び発酵させます。これによってワインはアルコール度が高くなり、色が濃くなります。


リパッソは節約にもなる世界でも類を見ないワインの製法。
エレガントで個性的なワインを目指してヴェネトのマスターブレンダーやエノロゴチームが取り組んで生み出しています。
でも、正直言って今日はいつにもまして理系な話だったので、あまりついていけてません。トホホでした。

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2022年10月23日日曜日

イタリアの伝統料理でコースが構成される初めての5つ星ホテル、ニコ・ロミートのミラノのブルガリ。

今月の(CIR)のシェフは、ニコ・ロミートシェフです。
アブルッツォ出身で、ミラノの5つ星ホテル、ブルガリのシェフになった人。
ブルガリホテルはロンドン、ドバイ、北京、上海と世界中にあり、ミラノはそのハブ店。
これらを率いるシェフはイタリア人の心を持つインターナショナルなシェフだそうです。
ミラノ店はイタリアの伝統料理で構成されたコース料理を出す世界で初めての店になるとか。
彼の名物料理、スパゲッティ・アル・ポモドーロを含むコース料理のリチェッタは(CIR)P.29にあります。
イタリアの伝統料理とミラノの5つ星ホテルのリストランテというすごいギャップ。
当然ながら、ミラノのブルガリで食事をする人が望むイタリア料理になっています。一見、ド定番が続きますが、少しでもイタリア料理を知っているグルメな人なら、その料理が選ばれた理由が分かって楽しめる構成。
イタリア料理の真髄は、伝統のトラットリアにあるとすると、ミラノの高級ホテルのレストランで出す料理は正反対。ところが彼のコースは、こてこての定番イタリア料理ばかりです。言い換えれば基本に忠実。盛り付けやプレゼンテーションはもちろん洗練されていますが、冒険的なアバンギャルドさはありません。つまり、高級ホテルでイタリアの伝統料理を出すこと自体がかなり先進的なので、あえて料理に斬新さを加える必要はない、と考えているのかも。さらに、世界中のブルガリホテルのシェフにも彼の考え方を徹底的に伝授したそうです。ダビデ・オルダーニシェフなどの若手の料理と比べると、かなりおとなしめ。これが今のイタリアの最先端と考えると、反動期に入っているのかな、と感じます。
今は基本が求められる時代かも。
ミラノの中心部にあるとは信じられない、ミラノ・ブルガリ・ホテル


2021年にはパリの一等地にブルガリ・ホテル・パリがオープン。

夢見ちゃうけど、ホテルは1泊十万円超。
そもそもブルガリは宝石店。

現実に戻っちゃうけど、ローマで昔から超人気のオステリア、ラ・ソーラ・レッラ。
私にとってはオステリア・フランチェスカーナより予約がとれない店。



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2022年10月22日土曜日

サル―ミが名物のエミリア・ロマーニャの農家の子供には、強烈な豚の思い出がある。

ピアチェンツァ名物のサルーミの話をした時、エミリア・ロマーニャ地方出身の料理人、ブルーノ・バルビエ―リの自伝的本、『ヴィア・エミリア・ヴィア・ダ・カーザ

という本を思い出しました。ボローニャの農家出身で祖父母に育てられ、料理人として成功した彼が、故郷の生活や料理のことを美しいイラストと共に語るほのぼのとした本です。
普段はどうしても南イタリアの野菜や魚料理を取り上げることが多いので、今日は珍しく、北イタリアのサルーミについてです。

《豚》という章にはこんなことが書いてありました。
ピアチェンツァのサルーミ↓

地元の多くの農家同様、祖父も家族用に常に豚を何頭か飼っていた。
豚は、その剛毛以外には何も無駄なところはなく、その肉よりも脂が高く評価される家畜だった。
豚は捨てる所がないとは、イタリア中の農家が言うことですが、剛毛以外というセリフは初めて聞きました。エミリア・ロマーニャの人が言うと説得力あるなあ。
当時はオイルの消費量は少なく、ラードが主だった。私たちは何か月も1頭の豚と一緒に暮らし、もう1頭いれば、注文を受けてサラミなどの腸詰めを作って売ることもできた。
冬の寒さが厳しくなる11月末から1月末になると、祖父と叔父で2~3日かけてこの豚をさばいて加工する。ワインとたぷりの料理が用意されて、祭りのような作業だった。量が多ければ近所の人や肉屋が、1杯のワインや温かい料理、サラミやサルシッチャ1、2本と引き換えに手伝いにきてくれたが、大抵は二人ですべてこなし、子供たちは何も手出しができなかったが、手伝いはなんでもやった。
豚を捌く作業は手順が決められている本物の儀式のようで、毎年やることは同じだった。朝早く始まり、中庭に大鍋で湯を沸かす。そして豚を豚舎から出す。豚はあらゆる手で抵抗したので、自分の番が来たことをわかっていたのだと思います。そして何が起きるのか理解すると泣くのです。悲鳴を上げて猛烈に抵抗します。
このあたりで辛くなって読むのをやめました。
でも、肉を食べるって、こういうことなんですね。残酷な辛い話はまだまだ続きました。サラミにする細かい作業は肉屋の職人がやります。

本の著者は、テレビのパーソナリティーで人気者。サルメリーアに行ったようです。
こんな話をした後になんですが、今日の料理は肉屋さんに敬意を払って、ローマのコーダ・アッラ・バッチナーラなんてどうでしょう。
料理を作るのは、畑を耕して家畜を飼って料理を出すシェフで、ガンベロ・ロッソのテレビ番組で人気が出たシェフ、ジョルジョーネ。
ジョルジョーネ/オルト・エ・クチーナ』は7代続くローマっ子でローマの内臓料理が大好きなんだって。本には詳しいリチェッタも載っています。

ジョルジョーネのコーダ・アッラ・バッチナーラ。

「煮る時間は4~5」と言ってから一休みして、早口でさらっと「時間」と言うとこ、この人っぽい。



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2022年10月21日金曜日

オステリアの味は、外国人向けになんの手心も加えていない。本物は、よそ者にはかなり敷居が高い。

『ラ・ピオーラ』の続きをもう少々。

時代と共に多少は変化するピオーラですが、変わらないのは何を食べるか、ということ。選択肢はわずかです。多くてもブリーモとセコンドが2品ずつ。ミネストローネかニョッキ、鶏かポークチョップ、といった具合です。セコンドについてくるコントルノも2種類。その選択は、おかみさんがします。そしてそれが間違いないのがお客たちを満足させる要因になっています。水戸黄門のようにこの後どうなるのかわかっていても、毎回その展開を期待して月9を見続けるようなもの。
今月の(CIR)には、イタリア地方料理界の月9のラインナップもあります。
“イワシとフィノッキエットのパスタ”(シチリア)、“ピザレイ・エ・ファゾー”(エミリア・ロマーニャ)、“トリッパ・アッラ・ロマーナ”(ローマ)、“ズッパ・グレガダ”(トリエステ)、“レタスのインボルティーニ”(トリノ)、“ヘーゼルナッツのトルタとザバイオーネ”(トリノ)といった料理です。
確かに、気取りのない素朴な地方料理。

イワシとフィノッキエットのパスタ↓

考えてみれば、それまでイワシのパスタなるものも日本で食べたことがなく、フィノッキエットという古代ローマでも栽培されていた植物の香りなんか、知るはずもなく、この料理がシチリアを象徴する料理だと単純に思い込んでいた私は、シチリアに初めて行った翌日にパレルモのトラットリアでなんの心の準備もなくこの料理を食べて、シチリア料理の洗礼を強烈に受けました。
それまで知っていたイタリア料理とはあまりにも違っていて、私が食べていたものは、外国人向けに大幅にアレンジしたものだったということをようやく知りました。シチリア人向けの伝統的な味付けは、外国人にとっては容赦がなさすぎるのですが、シチリアのトラットリアでは1㎜も手をゆるめません。かなりなトラウマ体験になりました。それ以来、地元の味に無防備に手を出したら火傷する、ということが身に沁みています。でも、あの緊張感やわくわく感は病みつきになるようで、ローマのユダヤ人街のレストランで食べたアーティチョークのユダヤ風とヘブライ語のラベルが貼られたコーシャーワインは、一生の思い出になりました。さらに言えば、その時の私はコーシャーフードの存在さえ知りませんでした。オステリアの醍醐味は、よそ者も家族のように受け入れる包容力の大きさにもあると実感しました。
きっとここに挙げたオステリアの月9料理がおふくろの味と思えるのはかなりあの種の味に慣れてる人ですよ。

(CIR)で訳したイワシのパスタのリチェッタを提供した店はパレルモのトラットリア・マフォーネMafone↓ドン引きしてるお客を横にすっかりパバロッティになりきっているのはこう見えて魚には詳しい店主。

ピサレイ・アンド・ファゾーはピアチェンツァの料理↓

地元の店ならどこでも出している料理。小麦粉とパン粉の小粒のニョッキにトマト、ラルド、玉ねぎ、いんげん豆がベースのソースをかけたもの。ルーツは修道女がローマへ行く巡礼のために作った料理。豆はいんげん豆より古い品種の黒目豆。新大陸が発見される前からヨーロッパにあった豆。ピザレイはニョッキ、語源はスペイン語のpigiare。“押す”という意味でニョッキを作る動作のこと。ファゾーはいんげん豆(ファジョーリ)のこと。

リチェッタを提供した店は、ピアチェンツァのアンティカ・トラットリア・カッティべッリ・イゾラ↓

ピアチェンツァはサルーミ造りが盛んな地方。
その元になっているのは豚肉。






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2022年10月20日木曜日

三銃士とピノキオはかつてのオステリアを知ることができる。

『ラ・ピオーラ』という本があります。副題は「ピエモンテのオステリアのヒーロー」とあります。作者はジャーナリストで作家のペッペ・ヴァルベルガという人。いったい、どんな本なのか、とりあえず読んでみました。ちらっと見る限り、リチェッタや写真、イラストの類はまったくなく、料理書ではありません。ピエモンテの食文化を記録するエッセイのようなもののようです。
《ピオーラ》

「ピオーラpiòlaとはどういう意味か」という章をちょっと訳してみます。
この言葉はどこから来たのか。oにアクセント記号が付いたこの言葉は、イタリア語では見ない言葉ですが、イタリア人やピエモンテ人には簡単に発音できる言葉です。ピエモンテ語の辞書によると、ピオーラとは現在も使われている昔ながらの木こりの道具だそうです。今ならチェーンソーといったところでしょうか。
別の説では、ピオーラとはトリノで広く使われているオステリアのおかみさんを意味する言葉だそうです。そしてオステリアのおかみさんは、たいていは友達なんだそうです。
どうやら語源はフランス語のようで、15世紀のパリでは気取らない庶民的な、安い値段でたっぷり飲んだり食べたりできるオステリアのことをpiauleと呼んでいたそうです。これはデュマの小説で三銃士のダルタニャンやアトス、ポルトス、アラミスたちが集った美味しいワインと料理で知られる店のようなものだそうです。
フランスはヨーロッパ最大のワイン消費国で、piauleはビストロの前身だったと考えられます。
三銃士の舞台のパリ。

かつてトリノはリトルパリと呼ばれていました。パリの文化はすぐに伝わり、ピオーラはピエモンテ中に広まりました。いくつかの店ではピオーラに“樽の蛇口”という意味も加わりました。要は、ピオーラはヴィーノ・スフーゾを出す、安くておいしいピエモンテの典型的なオステリアのことなのです。
とはいってもピノキオをだます狐や猫の存在に、イタリア人は敏感です。偽物には厳しく、三銃士の強い絆にもみられるように、ピオーラの中には一種の社会が出来上がっていました。ピオーラは大衆文化のメルティングポットで、ワインの中には真実があり、人と知り合うには最適の場所でした。
三銃士とピノキオには、どちらにもオステリアが登場し、後世に大きな影響を与えています。
確か、ガンベロ・ロッソもピノキオに登場したオステリアの名前じゃなかったっけ。

映画『ほんとうのピノッキオ』予告編


かつてはピエモンテ中にあったピオーラは、経営者の高齢化やライセンス取得の難しさなどでどんどん減っていきました。70年代の好景気も悪影響だったと言われ、流行を追うあまり、老舗が伝えていた精神が消えていきました。数十年の沈黙の後、ピオーラを復活させようという動きが実を結びだしました。再び客がやってくるようになり、今晩は、あのおかみさんがいるピオーラで夕食を食べよう、と人々が再び口にするようになりました。

トリノ↓

本の『ピオーラ』の内容はどんどん深くなっていきます。
今日はこの辺で。



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2022年10月19日水曜日

時代の変化は昔ながらのトラットリアを直撃している。

バーカロもピオーラもフラスケッテも、意味は同じ、オステリアです。
オステリアとほぼ同じ意味なのがトラットリア。
オステリアとトラットリアの違いは、イタリア人でも分からないようですが、古いトラットリアと新しいトラットリアの違いはかなりはっきりしてきたようです。
今日は、(CIR)11月号で訳した『サーレ・エ・ぺぺ』の記事(P.20)の解説です。
かつては、オステリアではワインは“ヴィーノ・スフーゾvino sfuso”と呼ばれるイタリアのオステリア独特の方法でサーブされていました。


4/3ℓか1/2ℓのカラフェに入れてサーブされるヴィーノ・スフーゾはワインの伝統的な販売方法。通常のワインはヴィーノ・イン・ボッティリアvino in bottigliaと言います。またはvino alla spina、“樽生ワイン”だそうです。エコバッグを持ち歩く時代になると、ボトルを持参する量り売りは最先端のエコかも、なんて感じます。でも、時代的に、ガラスのボトルからペットボトルやプラスティックの容器に代わり、それが禁じられて議論が噴出しているようです。
樽ワインが信仰されているイタリアで、プラスチックを使うヴィーノ・スフーゾは消えつつあるのかも。
 
 記事でもう一つ、新しいトラットリアの象徴として取り上げたのは、パスタです。古いトラットリアのパスタはスーパーで売られているものですが、新しいトラットリアのパスタはグラニャーノの小さな作り手のもの、と指摘しています。これは、オステリアやトラットリアという場所が、必要に迫られて外食しなければならない人に安く食事を提供する場所から、地元の伝統的な食材を味わうことができる場所と認識されるようになってきたことと関係があるようです。
 記事には、イタリアは、各地の良いところを取り入れるのが得意な国、とどこかで何度も聞いたようなセリフも出てきました。でも、トリノでアブルッツォ料理は出さない、といった地元溺愛主義は変わりません。
今でもかたくなに変わらないのは、料理人の腕がよく、温かい家庭的な雰囲気の店、という点です。
トラットリアが舞台のミステリーで知られる作家の言葉ピサーノ・マルコ・マルバルディPisano Marco Malvaldiの言葉は、納得です。代表作はbarlumeシリーズ↓。ピサ大学に在学し、デビュー作の舞台はトスカーナのビーチ。


彼にとってのトラットリアとは、木曜はニョッキ、土曜はトリッパを出す店で、料理上手のおばあちゃんが作る料理を家庭のような雰囲気で食べる店。トラットリアで食べる料理はお気に入りのテレビシリーズのようなもので、何が起こるか分かっていても、大好きなのだ。

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イタリアの料理月刊誌の日本語解説『(CIRクチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)
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