2021年9月4日土曜日

詰め物入りパスタ、芸術と手工業が結びついたアルティジャナーレな食品はコムーネの時代の産物。

イタリアのクリスマスに欠かせない料理、ということで、七面鳥のローストの次は詰め物入りパスタです。
『クチーナ・イタリアーナ』2005年12月号には、こんな記事がありました。
一説によると、詰め物入りパスタは、王族の家で、宴会の残り物のロースト肉を再利用するために考え出されたそうです。
パスタは中の詰め物を保護するためだけの役割だったので、料理した後は捨ててしまい、中身だけを食べたらしいです。ケチなんだか贅沢なんだか・・・。その一方で、平民が貧しいながらも手に入る少しは良い食材のあれこれを四角いパスタに包んで一つにまとめた料理という説もあります。
詰め物入りパスタのルーツはポー河流域のパダナ平野だそうです。
最近のブログに頻繁に登場している地方です。
蛮族の侵入の時代が終わると、人々は森を捨てて町に集まり、芸術と手工業が結びついて新しい製品が生まれる時代になります。別名、コムーネの時代と呼ばれている時期です。
詰め物入りパスタはイタリア中にありますが、本場といえば、エミリア・ロマーニャ州。
この地方では町によって形や具が違う様々な詰め物入りパスタが作られています。
有名なのは、ボローニャ(諸説あり)のトルテッリーニ、パルマのアノリーニ、フェラーラのカペラッチ、ロンバルディアのベルガモからブレッシャにかけてのカソンセイ、ランゲ地方のアニョロッティ・デル・プリン、フリウリのチャルソンズなど。

ボローニャのトルテッリーニ↓

パルマのアノリーニ↓

フェラーラの大型でカボチャ入りのカペラッチ↓


半月型のカソンセイ↓


これらは、大まかに北イタリアのパスタということができる。
ポー河沿岸の平野には、有史以前から軟質小麦が生えていた。

ポー河沿岸の軟質小麦の収穫↓

南イタリアなど地中海全域では、主に硬質小麦が栽培されているが、イタリア北部の気候は硬質小麦には適さない。
その結果、イタリアの北と南では、大きく違う食文化が普及した。
軟質小麦はパンにすると美味しいが、粘り気がありすぎて小麦粉と水を混ぜた乾麺には向かない。
軟質小麦は硬質小麦と比べるとデンプンの量が多く、グルテンを始めとするタンパク質、ミネラル、ビタミン、脂肪が少ない。
そこで北イタリアの人々は、動物性タンパク質を加えることによって腰のある生地を作り出した。
軟質小麦にない性質を補う動物性タンパク質、それは卵だった。
こうして硬質小麦粉の麺より栄養価が高く、ゆでても煮崩れないでアルデンテになり、チーズや肉などの動物性の食材とよく合う麺ができた。
やがて具をこの麺で包むようになる。
こうして詰め物入りパスタが生まれる。

詰め物入りパスタのキーワードは麺、詰め物、ブロードの3つ。
詰め物は、肉が入っているかいないか、あるいは肉の量が多いか少ないかでマーグロmagroとグラッソgrassoに分かれる。
ローマ時代に農業と羊飼いの文化が広まった地域では、リコッタなどのフレッシュチーズと野菜の具が一般的で、その後ロンバルド族に支配された地方では牛と豚の飼育が義務づけられたため、パスタの詰め物にも牛肉や豚肉を使う。
北と南は経済的な格差もあり、多くの移民を生んだ南イタリアの料理は、世界中にイタリア料理として広まっていった。

ボローニャのトルテッリーニは、畜産業が盛んで、パルミジャーノのようなチーズや、去勢鶏のブロードのような濃厚なブロードを作り出す事ができ、麺棒でパスタ生地を薄く伸ばす伝統があるエミリア地方ならではの料理だった。
今月の(CIR)にも詰め物入りパスタのリチェッタはあります(リチェッタはP.7)。珍しく、エビが主役のシーフードの詰め物のパスタです。

マーグロとか、グラッソという発想があるキリスト教では、クリスマス・イブは肉を断ち、魚と野菜を食べる代表的なマーグロの日。

イブのディナーのリチェッタ(P.21)も訳しましたが、マーグロなクリスマス料理は想像以上に質素。
イブのマーグロな料理の食材の代表選手はウナギです。
ウナギの生態が謎なのは、日本もヨーロッパも同じ。
詳しくは次回に。

お勧め地方料理書はイタリア・イン・クチーナ

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