2025年12月20日土曜日

イタリアワインの歴史を“ワインと階級”をキーワードで読み解く。農民のワイン、貴族のワイン、中産階級のワインはその誕生の背景からして全然違う。

(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)は、昔は「統合解説」という名前でした。多くのイタリア料理雑誌を訳していたので、こんな変な名前になってしまいましたが、長い年月を経て、取り扱い雑誌が変わるなどの変化もあり、結局、イタリアの地方料理に特化しした内容にすると決めて、名前も(CIR)に変えました。そして偶然見つけた2007年3月号の『ガンベロ・ロッソ』の記事、“ワインと階級”。『ガンベロ・ロッソ』はイタリアワインの格付け本を出すなど、イタリアの料理雑誌の中でも、飲食業界の情報がとても詳しい雑誌です。記事の内容もとても専門的で、料理よりワインに中心を置いていました。今回は、その記事の一つを紹介しています。
ガンベロ・ロッソのイタリアワインの格付け本、『ヴィ―ニ・ディタリア』のトレ・ビッキエーリの発表会。

“ワインと階級”というその記事は、イタリアワインの歴史にも触れた興味深い内容でした。イタリア目線で語っていますが、ヨーロッパワインの入門の知識も詰まってました。ここでざっと紹介します。

まず、最初のワインは農民のワインだった。畑を持つ農民は皆、地元のぶどうを育ててワインを造っていました。ルーツはフランスのブルゴーニュ地方。それがやがてイタリアやドイツへと広まっていきます。

ブルゴーニュ。

農民のワインのすぐ後に、貴族のワインも生まれた。農民と違って、貴族は自分たちで味わうためにワインを造った。売るのは必要な時だけで、しかも、しばしば最高のものは自分たちのために取っておいた。良いものを売って残り物を飲んだ農民とは正反対だ。しかし、彼らのワインも土地と強く結びついていた。自分たちの土地のぶどうを使い、最初は地元の品種を栽培していた。

最初の革命は、農民が畑を持つようになって起こりる。農民のワインは土地と強く結びつき、伝統的なぶどう品種と醸造技術を用いているのが特徴。ぶどうの出来は気候に左右され、農民の立場はもろく、リスクも大きかった。ワインの値段は流通業者によって決められた。1960年代まで、イタリアのほぼすべてのワインはこのようなワインだった。

 そこに徐々に変化が訪れる。中でもランゲのバローロ地区では、1900年代初めから、優れた作り手たち登場した。マッシャレッリ、ピーラ、コンテルノ、リナルディといったカンティーナが農民たちのエリートだった。さらにアメリが人がバローロボーイズと呼んだ新しい造り手たちが、地元の流通業者の手を離れて、自由な道を模索し始めた。エリオ・アルターレ、ドメニコ・クレリコ、レナート・チッリア―ティ、ロベルト・ヴォエルツィオといった人たちだ。ランゲ地方以外では、ヴァレンティーニ、クラヴネル、クインタレッリ、エウジェニオ・ロ―ジなどの造り手がいる。

ランゲ地方のバローロの村々。


バローロのベースのワイン、ネッビオーロ。



 ワインの流通業者が大きな力を持っていたんですね。考えたことなかったけど、商品を遠くに運ぶために、最適の容器が考え出され、瓶詰め業者が誕生し、鉄道が敷かれと、地方の産業も地方自体も発展していったのでしょう。
 そんな農民のワインに対して、自分で飲むために創る貴族のワインは、まったく別の社会を構築していきます。

ボルドーは貴族のワインから中産階級のワインになった。貴族の立場からすれば、中産階級にワインを提供するのには抵抗があることだった。しかし、時代は変わっていく。それと共にワインも変化する。

 ヨーロッパの地中海諸国には必ず貴族のワインが存在する。イタリアはシチリアやトスカーナ、スペインはリオハ。そしてその代表的な存在が、18世紀のボルドーだ。
農民のワインの元祖、ブルゴーニュのワインとは、成り立ちからして違うワイン。
ボルドーワインはその後、イギリスの中産階級という新しい市場を獲得する。

ボルドー。





映画『世界一美しいボルドーの秘密』予告編。



中産階級のワインの登場だ。
中産階級(ブルジョワジー)という言葉にはあまり良いイメージがない。この階級は、スノッブと形容されることが多いが、スノッブとは、実は「ノーブル(高貴)さがない」という意味だ。つまり貴族ではないのに貴族のように振舞うことを意味する。中産階級のワインとは、中産階級が造るワインではなく、中産階級のためのワインのことで、造り手は農民や貴族だった。

 最初のワイン、農民のワインは日々の糧を得るためのもの。すぐ後に生まれた貴族のワインは、自分たちで味わうためのもの。農民は良いものを売って残り物を飲んだ。
そして中産階級のワインは、なんと中産階級が造るワインではなく、中産階級のためのワインのこと。生産者と消費者の関係まで変わっていく。

 現在でも貴族のワインは存在する。イタリアではサッシカイア、ダルチェオ、サン・レオナルド、タスカ・ダルメリータ、テヌータ・ディ・カッペッツァ―ナなどがこれにあたる。これらのワインはカベルネ・ソーヴィ二オンを使うなどボルドーの影響が強く感じられる。“インターナショナルな品種”と呼ばれるぶどの分類は、こういった貴族のワインから誕生した。

ワインと階級の話、次回に続きます。
今日の話は(CIR2023年7月号)の記事、“プーリアのグルメガイド”のビジュアル解説です。記事の日本語訳と写真はP.16~。
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(CIR)は『クチーナ・イタリアーナ』という地方料理の本としては最高の雑誌のリチェッタと記事を日本語に翻訳した約50ページの小冊子です。毎月日本語に翻訳している力作です。イタリア発の地方料理の情報は、昔の有名書籍が売り切れて入手困難になっている昨今ではとても貴重です。
価格は1冊\900(税・送料込)、1年12冊の定期購読だと15%引きの\9200(税・送料込)になります。紙版と、ネット上にupするPDF版があります。PDF版の価格は\800/号、定期購読は\7700/1年12冊です。

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