2016年3月10日木曜日
聖ジョルジョと牛乳配達人
『総合解説』4月号のメニュー、2コース目は、“オルトレポーのパスクエッタ“というテーマのコース料理でした。
パスクエッタは、パスクアの翌日の月曜日のこと。
キリスト教の国々では祝日で、春の訪れを満喫するため、ピクニックなどに出かける習慣があります。
オルトレポーは、ポー河の向こう側の地方のことで、ロンバルディア州の南西部を横断しているポー河を、ミラノから見て河の向こう側(南)の地方。
逆三角形をしたパヴィア県の南半分にあたります。
エミリア・ロマーニャやジェノヴァに近く、地理的にも、食文化的にもその影響が感じられます。
ロンバルディアの人が、パスクエッタのピクニックに出かけたくなるような場所なんですね。
北国のロンバルディアというより、豊穣なエミリア・ロマーニャの雰囲気を漂わせています。
オルトレポー・パヴェーゼのスペチャリタ。
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コース料理のテーマは、“春の訪れを祝う”。
復活と春をイメージした食材と盛り付けを駆使します。
まず最初は、“ブッラータとうずらの卵のヴォロヴァン”。
最近は、北イタリアの料理でもブッラータを使うものをよく見るようになりました。
小さなパイ生地にうずらの卵と小さく切ったブッラータを入れ、オーブンで焼いて卵白だけ固めた巣仕立ての1品です。
鳥の巣と卵、フレッシュチーズは新しい命の象徴。
次はオルトレポーの特産品、米を使った地元の伝統料理、トルタ・ディ・リーゾです。
牛乳で煮た米を卵、グラナ・パダーノ、バターでつないでタルト生地に流し入れて焼きます。
プリーモ・ピアットもテーマは卵、カルボナーラです。
ただし、畑で採れたアスパラガス入りで、仕上げにグラナ・パダーノを散らしてオーブンで焼きます。
野菜料理は、畑の色とりどりな野菜のオーブン焼きですが、ペコリーノ入りのクランプルを散らして、香ばしさとボリュームをアップさせています。
セコンドは、生ハムのコトレッタと、子羊のコストレッタの蜂蜜焼き。
いやーどちらも美味しそうですが、生ハムのコトレッタ、つまり生ハムカツは美味しそうですねー。
厚切りの生ハムに小麦粉、溶き卵、パン粉をつけてバターで揚げるという、ありそうでなかった料理です。
子羊は、マローという、ペコリーノ入りのソラマメのクリームを添えます。
鮮やかな緑色がいかにも春。
これからの季節、ソラマメとペコリーノはイタリア料理には欠かせない食材。
乾燥ソラマメを使ったプーリアのリチェッタが知られていますが、生のソラマメを使ったリグーリア風のリチェッタをどうぞ。
↓
最後にドルチェですが、定番のコロンバはお客さんが持ってきてくれるから、それ以外の物を1品、と当然のように言っています。
なるほど、パスクアの時期に招待されたらコロンバは必携ですね。
という訳で、作ったのはパン・デ・メイ。
ロンバルディアの農家のお菓子と言えば、これです。
メイとはアワのこと。
昔は粟の粉で作ってサン・ブーコを散らしましたが、今はとうもろこしの粉で作って粉糖を散らすビスコッティです。
ロンバルディアでは、牛乳配達人の守護聖人、サン・ジョルジョの日(4月23日)に、このドルチェを作る伝統があるそうです。
サン・ジョルジョの日と言えば、本を贈るサン・ジョルディの日としても知られていますが、世界的には、聖ゲオルギオスの日と呼ばれるんですね。
イングランドの守護世人でもあります。
この日が祝日の国も多いようです。
それにしても牛乳配達人の守護聖人の日とは、どんだけ牛乳配達人リスペクトなのかと思ったら、聖ジョルジョさんは、ローマの軍人でドラゴン退治の伝説まであるすごい人だったんですね。
ドラゴンを退治するということは、現代でいえばスーパーヒーローだったわけで、多分、すごい人気だったんでしょうね。
それで、いろんな職業の守護聖人に祭り上げられたんだろうなあ、とは思いますが、それにしても、なぜ牛乳配達、なぜ、アワのビスコッティ。
なんでも、ロンバルディアでは牛乳配達人と酪農農家の間で毎年契約が行われたのですが、その日がたまたま聖ジョルジョの日でした。
それがきっかけで聖ジョルジョと牛乳配達人が結びつき、牛乳配達人の守護聖人となったもよう。
契約締結日は、農家にとって1年の収入が決まる日なので、めでたい日で、お祝いをしました。
その時に食べていたのがパン・デ・メイですが、このビスコッティは生クリームに浸して食べるものです。
そこで、牛乳配達人は生クリームを農家に贈ったのだそうです。
粋な計らいですねー。
実は、ロンバルディアの言い伝えでは、竜退治と聖ジョルジョの日には関係があって、サン・ブーコの花にまつわる伝説もあって、パン・デ・メイともかかわってくるのですが、一般的には聖ジョルジョの日は聖ジョルジョが殉教した日となっているので、ちょっと矛盾しちゃいますね。
とにかく、諸説あるのですが、伝説によると、聖ジョルジョはローマの騎士で、ドラゴンの生贄にされるブリアンツァのお姫様がサンブーコの木に縛り付けられていました。
そこでお菓子でドラゴンをおびき寄せてドラゴン退治に成功します
それを祝ってお姫様はパン・デ・メイにサンブーコの花を散らしたのだそうです。
その出来事を記念して、聖ジョルジョの日にパン・デ・メイを作るのだとか。
とにかくいろいろな説がありますが、半分伝説上の人物なので、一番気に入ったものを信じるしかないようです。
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“オルトレポーのパスクエッタ”のリチェッタの日本語訳は、「総合解説」13/14年4月号に載っています。
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