ラグー・アッラ・ボロニェーゼは、イタリア料理アカデミーによって、1982年に公式リチェッタがボローニャ商業会議所に登録されています。
家庭料理がルーツのイタリア料理の世界で、公式リチェッタなるものが存在する料理は、かなり異色な存在。
とはいえ、公式のリチェッタは、あくまでもボローニャ以外の誰かが本家を名乗らないようにする商標登録のようなもの。
ボローニャのレストランや家庭では、シェフやお母さんが独自のリチェッタのラグー・ボロニェーゼを作っています。
なので、公式リチェッタが絶対というものではありません。
さらに、ボローニャ商業会議所は、手に入りにくい食材は現代人でも作りやすいように、代用案も加えるなどしていますが、現実には、時代は大きく変わっています。
食材だけでなく、もっと根本的なものが変わっているのです。
まず、公式によると、ラグーのベースとなる肉は、地元ではcartellaと呼ばれる牛の横隔膜のそばの(肺と腸の間)赤身肉。
横隔膜というと、以前segnalibroさんがイタリア便りでハラミのことを取り上げていました。
カルテッラは手に入れやすい部位ではないようで、手に入らなければばら肉、肩肉、うで肉でも代用可と公式はアドバイスしています。
でも、前回も引用したカルロ・カンビ氏は、目の付け所がちょっと違います。
まず、昔は、農家で食べる牛肉は、畑での労働に適さなくなった高齢の牛の硬い肉だったと指摘しています。
2003年の光景
↓
そのため、長時間煮込む必要がありました。
昔はラグーは、とろ火で煮れば煮るほど濃厚な味になる、と言われていました。
どれくらい時間をかけていたかと言うと、1~4時間です。
公式のラグーを作ろう思ったら、かなりの覚悟が必要ですよ。
昔の農家の主婦は、朝ラグーの鍋を火にかけて畑に出かけました。
農家の主婦でないと作れない料理だったんですねー。
さらに、ここで注目なのが、カルテッラと言う部位です。
カルテッラというのは、元々水分が多くてとても柔らかい部位なんだそうです。
少しでも時短が可能な、農家の主婦に優しい部位でもあったのですね。
ただ、太い血管があって酸化しやすいので、空気に長時間触れないようにします。
使う直前に挽くというのはこのあたりが理由でしょうか。
というわけで、公式が言うとおりにカルテッラを使ってラグーを作ろうとしたら、かなりの経験が必要になります。
現代人の生活に適した部位ではないので、高齢の牛の肉が手に入る人以外は、カルテッラにこだわる必要はないと、公式が発表されて35年後の私たちは言い切れそうです。
19世紀のイタリアの農家は、ちょっと衝撃的。
キッチンでは、料理する女性陣とは別に、男性は火のそばでワインを飲んでいます。
家長は至れり尽くせりのお世話をされていました。
でも、水浴びをするのは家畜小屋で、牛と一緒。
カードをするのも家畜小屋。
その横で女性は編み物。
↓
21世紀の生活や料理は、大きく変わっていて当然。
ラグーにも、牛挽肉だけでなく、豚挽肉、パンチェッタ、サルシッチャ、生ハムと、様々な肉が加わっています。
リチェッテ・ディ・オステリアシリーズの『クチーナ・レジョナーレ』には、フォルリのカンティーナ・ディ・ヴィア・フィレンツェという店のラグーのタリアテッレが載っていました。
それによると、ラグーの材料は、豚肩肉、生ハム、牛肉、鶏の砂肝、うさぎのレバー、白玉ねぎ、にんじん、セロリ、トマトノコンセルヴァ、トマト、サンジョヴェーゼ、ラード、塩、こしょう。
本でリチェッタを探せば他にも見つかりますが、リチェッタは見事にばらばら。
80年前のイタリアの暮らしが面白い動画
↓
イタリア人の生活は。短期間で大きく変わりましたね。
でも、お母さんが「プレイステーションなんかやってないで手伝いなさい!」と叫ぶ姿は、日本とおんなじ。
今じゃ、アメリカ兵が食べたがったミートソースのスパゲッティは、ボローニャよりアメリカの方が本場の味になっている気がします。
料理は時代と共に変わっていくものだから、ラグーからミートソースになったこのソースが、今後、どう変わるか、ちょっと楽しみです。
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“ラグー・アッラ・ボロニェーゼ”の記事の日本語訳は、「総合解説」2015年2月号に載っています。
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