今日は、「歴史上最も多くの命を救った人」に影響を与えたイタリア人の話。
『ヴィエ・デル・グスト』の記事の解説です。
農業の分野で初めてノーベル平和賞を受賞したノーマン・ボーローグ博士。
彼の偉業は、小麦の新品種を開発したことがきっかけで達成されました。
小麦は人間が古くから栽培してきた作物。
そして世界で最も生産量の多い穀物なんだそうです。
だから、丈夫で収穫量の多い小麦を作り出せば、それが世界を食糧危機から救うことにつながる訳です。
今の日本では食糧危機と言う言葉はあまりピンときませんが、200年前のイギリスの経済学者が、そのうち世界の人口が食糧の供給量を上回るだろうと予想していたそうじゃないですか。
つまり、ボーローグ博士の小麦がなかったら、私たちみんな、飢えていたかもしれない。
実際、ボーローグ博士の作り出した小麦は、数億人の命を救ったと言われています。
確かに、歴史上で具体的にこんなに大勢の命を救った人は他にいません。
ボーローグ博士がこの研究に取り組んだのは1960年代のことでした。
実は、小麦の本格的な品種改良が成功したのはそれほど昔のことではないんです。
メンデルの遺伝の法則が知られるようになったのも、20世紀に入ってからのことですからね。
世界で初めて小麦の本格的な交配に成功したのは、イタリア人のナザレーノ・ストランペッリという人物でした。
20世紀初めのことです。
彼のことは、以前にこのブログで紹介したことがあります。
“セナトーレ・カッペッリ小麦”のパスタの話をした時でした。
(こちら)
イタリアのwikiによると、ナザレーノ・ストランペッリ氏は「20世紀前半のイタリアの農業学と遺伝学の分野で最も重要な研究者」。
彼が作り出したのは、重い小麦がたっぷり実る品種でした。
世界中の小麦のほとんどは、彼が作り出した小麦を改良したものなんだとか。
ただ、この小麦の弱点は、背が高いために雨風の影響を受けやすかったこと。
それを改良して背を低くしたのが、ノーマン・ボーローグ博士です。
小麦の交配に世界で初めて成功したことは、ノーベル賞にも値する快挙。
ところが、彼のことはイタリアでもあまり知られていません。
その理由が、『ヴィエ・デル・グスト』の記事で明かされています。
彼は、ムッソリーニの時代の人だったのですね。
時代が悪かった・・・。
収穫量の多い小麦の開発は国益につながります。
そこでムッソリーニは、ストランペッリ博士を政治的に利用しようと考え、上院議員の座を提供します。
けれど博士はそれを断りました。
表舞台に立つことを拒んだ彼は、イタリア各地の農村を回って農業改革のために生涯を捧げたのでした。
彼が作り出した20種類以上の小麦のうち、一番有名なのはセナトーレ・カッペッリ小麦。
ラティーニというパスタメーカーが、セナトーレ・カッペッリ小麦100%の高級パスタシリーズを販売しています。
ラティーニのセナトーレ・カッペッリのパスタシリーズはこちら。
ストランペッリ博士の生涯は、過去に2回映画になっています。
2008年の作品、『L'Uomo del Grano(小麦の男)』のPV。
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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2008年5月号
関連記事「マルケのパスタ」の日本語解説は、「総合解説」'07&'08年5月号、P.27に載っています。
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2010年2月27日土曜日
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