2013年3月21日木曜日

豚の貯金箱

今日は豚の貯金箱の話。
『ヴィエ・デル・グスト』の記事の解説です。

豚の貯金箱、昔、持ってたでしょう。


Piggy Banks


子供のころ、誰もが1個は持っていた豚の貯金箱は、イタリアにも、もちろんあります。
イタリアでも、子供にとっての初めての貯金箱は、豚なんだって。

何で豚なのか。

記事には、この疑問の答えが記されています。

それは、「すぐ太るから」

なーるほど。
世間には、なぜ豚の貯金箱なのか、その理由に様々な説が挙げられていますが、すぐ太るから、という当たり前でストレートな発想を持った人は、そう多くはないんじゃないでょうか。
豚が身近にいないと、こういう考えにはなりませんよねえ。

しかも記事には、豚はすぐ太る説の根拠として、アリストテレスの名前まで引っ張り出しています。

哲学者なら、アリストテレスと豚の意味なぞを深く考えるんでしょうが、イタリア料理人は、ちょっと違います。
古代ギリシャの偉人が、豚をネタに哲学が語れるぐらい当時の豚は身近で偉大な存在だったと考えるんですねえ。

古代ローマ時代から第二次大戦直後までの長い間、肉体労働と戦いが続いたイタリア人にとっては、豚の脂身は貴重なカロリー源で、赤身は貴重な動物性タンパク源でした。
豚は雑食性で、家庭の生ごみや、森の草を食べていたので、餌もいらない。
しかもすぐ太る。

イタリア人は豚のすべてを利用するために、保存加工技術を高め、生ハムをはじめとして、イタリアの名物食材として世界中に知られるような製品を作り出しました。

脂身も大切なものだったので、ラルド、パンチェッタ、グアンチャーレなど、各地の気候条件に最適な様々なものに加工しました。
スペックやサウリの生ハムのようなスモークする保存方法は、太陽の光が不十分な北の地方で、太陽に代わる乾燥方法として用いられたんですねえ。

ところが・・・

第二次大戦後は、イタリアの食生活も大きく変わりました。
ラルドは、20世紀初めの農民に取っては貴重な食料でした。
でも、残念ながら、21世紀のイタリア人にとっては、厳密に同じ価値があるとは言えませーん。

様々な食材から過剰なまでにカロリーや動物性タンパク質が摂取できる現在、イタリア料理も変わりつつあります。

記事にも強調されているように、今どきのイタリアの若い子は、豚の脂身なんて食べたがらない。
今どき世代はハムの脂身を切り落としますが、熟年世代は、サラミに脂肪分が多いのは、昔の生活の名残だと冷静に認めても、味の点からすると、脂身を切り落とすなんて犯罪だ、と思ってしまう。
味を犠牲にしてまで脂身は捨てられない。

そこで彼らが取った手は、豚の脂身は健康に悪いという偏見を取り除くために、徹底的に栄養価を調べる、という方法。

豚の脂身は怖くない!
でも、栄養価の話は、かなり理系。
そうなんですよ。
豚の脂身より、理系の話のほうが頭痛い。
でも、私も豚の脂身を安心して食べたいので、次回はその話ですよー。


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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2011年8月号、“イタリア産サルーミ”の記事は、「総合解説」2011年8月号に載っています。

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