2011年12月29日木曜日

サルデーニャのパスタ;ロリギッタス

サルデーニャのパスタの話の続きです。

パスタの形は想像力次第で無限に広がるもの。

オリスターノ県モルゴンジョーリという村の伝統パスタ、ロリギッタスlorighittasは、硬質小麦粉と水の麺を細長く伸ばし、指に巻きつけてリング状にし、さらにねじる、という手間暇かけたパスタ。
地元の人でも1kg作るのに4~5時間かかるそうです。
これをさらに数日乾燥させます。

伝統的には11月1日の諸聖人の日に食べるパスタですが、クリスマスや新年の料理にもピッタリです。

サルデーニャの言葉でリングという意味の“ロリガloriga”が語源。


こんな形


↓ロリギッタス作り





↓地鶏のトマト煮のロリギッタス





↓ヤリイカ、アサリ、ズッキーニ、ボッタルガのロリギッタス





ブオン・アッペティート!

というわけで、2011年はサルデーニャのパスタでしめくくり。
今年も一年、ありがとうございました。
また来年も、よろしくお願いします!



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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2009年6月号
“サルデーニャのパスタ”の解説は、「総合解説」'08&'09年6月号に載っています。

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2011年12月26日月曜日

サルデーニャのパスタ、フレーグラ、etc.

サルデーニャのパスタの話の続きです。

サルデーニャで、マッロレッドゥスの次に有名なのは、フレーグラfregula(またはフレーゴラfregola)あたりでしょうか。

uncooked
フレーグラ

フレーグラは硬質小麦粉に水(卵やサフランを加える場合もあります)を吸わせながら掌で混ぜて小さな粒状にし、仕上げにトーストしたもの。
その形からクスクスの一種とも言われますが、クスクスよりは大粒です。

フレーグラの語源は、ラテン語で「こする」という意味の“フリカーレfricare”だと考えられています。
この言葉、魚が産卵の時に、砂利に腹をこすり付けながら卵を産む姿も意味します。
つまり、そうやって産み落とされる魚の卵と、粉と水をこすり合わせながら作られるパスタの粒がそっくりで、こう呼ばれるようになったというわけです。


↓フレーグラ作り





サルデーニャには、個性的なパスタがまだまだたくさんあります。


↓アンダリノス。
成形してから数日乾燥させます。





次の動画には、フレーグラ、詰め物入りパスタのマッカロッネスmaccarrones、鳩の形のカオンバザcaombasa(復活祭の時期に、子供たちのために作られるパスタ)などが登場。
いずれも芸術的に美しいものばかり。





『ガンベロ・ロッソ』で紹介している本、『Sardegna. Le paste della tradizione』では、この他にもまだまだ美しいパスタが紹介されています。


こんな内容の本です。




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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2009年6月号
“サルデーニャのパスタ”の解説は、「総合解説」'08&'09年6月号に載っています。

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2011年12月22日木曜日

ひっかくパスタ、パスタ・ストラッシナータ

マッロレッドゥスの話の続きです。

マッロレッドゥスは、通称“ニョッケッティ・サルディgnocchetti sardi”。
サルデーニャの小さなニョッキ、という意味ですね。

ニョッキと言えば、ゆでて潰したじゃがいもと軟質小麦粉をこねた生地の、“ニョッキ・ディ・パターテgnocchi di patate”が一般的。

Gnocchi, una domenica mattina
じゃがいものニョッキ



ニョッキの語源は、くるみや結び目のような小さくてころんとしたものを意味するランゴパルド族の言葉、knohh、という説が有力です。

ニョッキとは、粉をこねて小さな団子状にしてゆでた物のこと。
じゃがいもがヨーロッパに伝わったのは18世紀半ば以降で、それ以前のニョッキは、穀物の粉と水だけをこねた生地でした。
もっとも原始的なパスタの一つです。

じゃがいもが伝わって、粉(主に小麦粉)の生地にじゃがいもが加わるようになると、ニョッキはそれまでよりずっと軽く、食べやすくなり、やがてこちらのほうが主流になりました。

でも、サルデーニャのニョッキことマッロレッドゥスには、じゃがいもは入りません。
硬質小麦粉と水をこねた生地です。

軟質小麦の産地である北イタリアにはじゃがいもと軟質小麦粉のニョッキが広まって、硬質小麦の産地の南イタリアでは硬質小麦粉と水のニョッキが広まったというわけですね。


Malloreddus
マッロレッドゥス


サルデーニャのマッロレッドゥスは乾麺として全国的に流通しているので、ニョッケッティ・サルディという標準語の名前も広まりました。

でも、硬質小麦粉と水をこねた生地を小さな粒状にしてくぼませたパスタは、南イタリア各地にあります。
特にプーリアは、この種のパスタの宝庫。

たとえば、カヴァテッリcavatelli。

cavatelli
カヴァテッリ


マッロレッドゥスもカヴァテッリも、硬質小麦粉と水の生地を棒状に伸ばして短く切るところまではまったく一緒。
違いは、その後カールさせる時に、筋をつけるかつけないかぐらいです。


マッロレッドゥスやカヴァテッリは、“パスタ・ストラッシナータpasta strascinata”と呼ばれるパスタです。
ストラッシナータとは、引きずるというような意味。
つまり、指やナイフでひっかいてくぼませるパスタのことです。
よく知られているのはオレッキエッテ。


↓カヴァテッリ





このタイプのパスタは南イタリア各地にあって、カヴァティェッリcavatielliやカヴァティエッダcavatieddaなど、呼び方も様々です。

↓シチリアやカラブリアでは、ナイフではなく指でひっかくのが一般的だったりもします。





↓そしてマッロレッドゥス。
日曜や祝日はサフラン入りの生地にします。






↓おまけの動画。
マッロレッドゥスメーカー。





サルデーニャのパスタの話、次回に続きます。



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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2009年6月号
“サルデーニャのパスタ”の解説は、「総合解説」'08&'09年6月号に載っています。

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2011年12月19日月曜日

サルデーニャのパスタ;マッロレッドゥス

今日はサルデーニャのパスタの話。
『ガンベロ・ロッソ』の記事の解説です。

サルデーニャのパスタと言えば、もっとも代表的なのは、ニョッケッティ・サルディgnochetti sardiことマッロレッドゥスmalloreddus。


Malloreddus
ニョッキ型の小さなパスタ、マッロレッドゥス


これは巻きすを使ったマッロレッドゥス。

Malloreddus


Malloreddus



巻きすでも立派にマッロレッドゥスになるものなんですねえ。

普通は筋付きの板を使いますが、元々は、チュリーリciuliriと呼ばれる細いイグサを編んだざるを使っていました。
イグサとは、畳やござに使われるあれです。

チュリーリ


↓筋付き板を使ったマッロレッドゥス作り(音声なし)





マッロレッドゥスとは、サルデーニャの方言で小さな子牛という意味。
なんでも、マッロレッドゥスのおなかがほっこり膨らんでコロコロした姿が、まるで子牛のように見えたところからこの名前がついた、と言われているようです。

えー、そうかなあ、と思ったけど、見てみたら、なるほど子牛のおなかに似てますよ!
ぷっくり膨らんでいて、しかもあばらの筋なんか見えたらマッロレッドゥスにそっくり。

E tu cosa vuoi?



マッロレッドゥスの話、次回に続きます。


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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2009年6月号
“サルデーニャのパスタ”の解説は、「総合解説」'08&'09年6月号に載っています。

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2011年12月15日木曜日

クリスマスのドルチェ

前回のウエディングケーキからの流れで、今回はクリスマスのドルチェ。


↓まずは恒例、バウリのバンドーロのCMでクリスマス気分に。
BGMはイタリアの定番クリスマスソング、A Natale puoi。





↓こっちも負けてません。





↓定番、パンドーロのクリスマスツリー。





↓ジェノヴァではパンドルチェpandolceが伝統的。





↓カンバーニアではストゥルッフォリstruffoli。





↓プーリアはカルテッラーテcartellate。






Putizza Triestina
フリウリのグバーナgubana


アルト・アディジェのツェルテンzelten。


まだまだたくさんありますが、今回はこのへんで。


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2011年12月12日月曜日

ウエディングケーキ

今日はウエディングケーキの話。

『サーレ・エ・ペペ』の“小さな披露宴”の記事に載っていた小さなウエディングケーキがあまりにも可愛かったので、イタリアのウエディングケーキをもっと見てみたくなりました。


sposi sulla vespa
ベスパのカップルのケーキトッパー



la torta nuziale
パヴィアの新婚さんの初めての共同作業。



↓おされでゴージャスな披露宴。





↓そしてケーキカット。






↓ケーキデザイナー、フィオレッラさんのウエディングケーキ






↓ミラノのパスティッチェリーア、パン・ディ・ズッケロのウエディングケーキ






↓10月にボローニャで行われた“ケーキショー2011”。
イタリア初のシュガーアートとケーキデザインがテーマの展示会。





大盛況だったようです。

それにしても、あきらかに日本とはデコレーションの傾向が違いますねえ。
イタリアでは、シュガーペーストでケーキを覆うイギリス系のウエディングケーキが主流。



↓おまけの動画。
サレルノの結婚式で。






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関連誌;『サーレ・エ・ペペ』2008年5月号
“ウエディングケーキ”のリチェッタは、「リチェッタ・ダイジェスト」2008年5月号に載っています。

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2011年12月8日木曜日

樽の製法

樽の話を続けます。

樽はどうやってできるのか。

まっすぐな板を組み合わせて、おなかがふっくらと膨らんだ形を作り出すのは、よく考えてみれば不思議。

Barriques in the sun
ランゲ地方のバリツク



樽を造るには、まず、木材を調達することから始めます。
というか、樽造りでもっとも大切なのは、木材。
だから、木を選ぶ目が重要です。

しかも、その木材となる木(バリックの場合は主にフランス産オーク)が生える土壌の違いによって、肌理の細かさやタンニンの量などが違ってきます。
だから、どこの森の木材か、ということも重要です。

しかもその木材、切ってすぐ使えるわけではありません。
樽にする前に熟成させる必要があります。

熟成中の木材

熟成具合によって色が違います。
灰色になったらバリックに使用可能。


イタリアを代表するバリックメーカー、ファッブリカ・ボッティ・ガンバによると、ワインメーカーが、このワインにはバリックを使おう、と決めると、まず、希望するワインに仕上げるためには、どんな特徴の木材が必要かを考えるのだそうです。

ワインとは、なんとも手間暇かけて造られるものなんですねえ。


木材が適切な熟成具合になったら、樽材用に細くカットします。
この時、中央はやや太く、両端は細くなるように削ります。

さらに、樽材を組み合わせて枠にはめたら、木材選びと同じくらい重要な過程、イタリア語でトスタトゥーラと呼ばれる焼き入れです。

火によって温められた樽材は、柔らかくなってカーブさせることができるようになります。
さらに、バニラの香りを始めとする様々なアロマが、この過程によって生まれます。


↓フランスのセガン・モロー社のワインの樽の焼き入れ




焼き入れは、樽メーカー各社が独自の方法を考え出して、工夫を凝らしています。


樽を使うのはワインだけではありません。
たとえば、バルサミコ酢は、さまざまな木材の大きさの違う樽を使います。
↓サレルノの樽メーカー、レンツィの職人たちを紹介する動画。




きついし、タンニンなどで汚れる仕事だけれど、自らの手で何かを作り出す仕事に満足している、と話しています。



↓一方、こちらはオートメーション化された樽工場の、ウイスキー用の樽の製造工程。




なんだか、職人の仕事とはかなり印象が違いますねえ。


ワインから樽の香りがしたら、白いポロシャツを着たレンツィの若い樽職人たちのことを思い出すかも・・・。


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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』
“イタリア製バリック”の記事は、「総合解説」'08&'09年5月号に載っています。

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2011年12月5日月曜日

イタリア製樽

今日は樽の話。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の解説です。

ワインの樽と言えば、イタリアでも、フランス産がもっとも優れている、というのが定説。

そんな中で、ガヤやブルーノ・ジャコーザ、バンフィ、フロリオなど、有名ワインメーカーがこぞって使っているイタリア産の樽があります。
正確に言えば、木材はフランス産で、加工をイタリアで行っている樽。

その樽を作っているのが、ファッブリカ・ボッティ・ガンバ。
イタリア産バリックの先駆者です。

ガンバのバリック

ガンバは、イタリアを代表するワインの産地の一つ、モンフェッラート(ピエモンテ)にある老舗の樽メーカー。

バリックを造るようになったのは、1979年に、アンジェロ・ガヤが、フランスではなくイタリアで、しかも彼のワイナリーの近くで、質の良いバリックを造れるメーカーはないかと探していたのがそもそものきっかけなんだそうです。

ガンバのwebページはこちら


余談ですが、2011年の1月に、ランゲ、ロエーロ、モンフェッラート地区は、ワインの産地としてユネスコの世界遺産に立候補しました。
イタリアで、ワインの産地として世界遺産に登録されている場所はまだないと思いますが、果たしてどうなるでしょうか。


バリックに話を戻します。
そもそもバリックとは、ワインを発酵、熟成させるためにフランス人が考え出した木の小樽ですよね。
ボルドーは容量225リットルで、ブルゴーニュは228リットル。
大樽よりワインが酸素と触れ合う比率が多く、その分、ワインのアロマをより引き出すことができます。
また、トースト香、バニラやキャラメルの香りなど、木由来の香りをワインに加えます。


↓フランスの樽メーカーのバリック。





今ではイタリアでも、バリックを通したワインはすっかり定着しました。
ガンバでは、一日に60個のバリックを造り、そのうち1/3を輸出しているのだそうです。

ところが最近は、大分事情が変わりました。
今は、小樽より大樽が注目されています。
なんと、不況のせいかワインの消費量が減って、ワイナリーでワインを貯蔵するための大樽が必要になったというから皮肉なものです。

けれどこれは、樽メーカーにとっては、大きなチャンス。
ガンバでは、大手ワイナリー(バンフィ)のために、木とステンレスを組み合わせて、最大で容量17,500リットルというタンク型の樽、その名も“ホライズン”を開発しました。

有名樽メーカーがステンレスメーカーと組んだ画期的な製品です。
伝統とテクノロジーが融合したハイブリッドタンク、なんて呼ばれています。


↓ガンバと組んだステンレスメーカー、ディ・ツィーオ社のホライズンのPV。





ステンレスメーカーの視線で見ると、なんだかすごいハイテク製品ですねえ。

でも、樽造りは職人の技が命のローテク品。

次回はバリックの造り方の話です。



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』
“イタリア製バリック”の記事は、「総合解説」'08&'09年5月号に載っています。

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2011年12月2日金曜日

ラ・ブーカ

クラテッロの話、続けます。

生ハムとクラテッロの違いがざっと分かったところで、もう少し詳しくクラテッロを見てみましょうか。

クラテッロは、クラテッロ・ディ・ジベッロCulatello di ZibelloというDOP製品でもあります。

ジベッロは、バッサ・パルメンセの町の1つ。
バッサ・パルメンセには12のコムーネがあり、そのうち西側の8つがクラテッロ・ディ・ジベッロDOPの産地です。

管理組合によると、現在、クラテッロ・ディ・ジベッロDOPの作り手は21軒。
原料となる豚のももは、エミリア・ロマーニャ州とロンバルディア州で飼育された豚のものだけを使用しています。
生産量は、年間約5万個。

ちなみに、パルマのDOP生ハムの作り手は約200軒で、豚のももは中~北部10州で飼育された豚のものを使用。
生産量は、年間約1000万本。


クラテッロは一見普通の生ハムのように見えるのに、食べるともっとしっとりしていて甘みがあります。
これは、ポー河沿岸特有の霧と湿気のおかげ。
ポー河から20km離れれば、もうクラテッロはできません。
さらに、豚の膀胱で包み、その上をカビが覆うという二重の防御で、しっとりさを保ちながらゆっくり熟成させていきます。


『ラ・クチーナ・イタリアーナ』で、ジベッロを代表するレストランとして紹介されているのが、トラットリーア・ラ・ブーカTrattoria La Buca。
店のwebページはこちら

100年前に開業して、5代にわたって母から娘へとすべて女性に受け継がれてきた店です。


↓下の動画、3:34あたりからラ・ブーカが登場します。




シェフのミリアムさんの若かりし頃の写真が、壁に飾ってあります。
昔はとっても美人だったんですねえ。


↓上の動画の続きです。




クラテッロには、ほのかに甘いランブルスコがぴったり。
サルーミが続々登場したの後は、名物のパスティッチョ・ディ・マッケローニ。
さらに、クラテッロのタリアテッレとカボチャのトルテッリ。
そしてコテキーノ、牛舌、トリッパ、エスカルゴ、鴨のもも。
54か月熟成のパルミジャーノ、洋梨のモスタルダ。
ドルチェ4種類。

ここら辺の人は野菜は食べないんでしょうかねえ。




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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年5月号
“バッサ・パルメンセ地方”の解説は、「総合解説」'08&'09年5月号に載っています。

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2011年11月29日火曜日

クラテッロ

バッサ・パルメンセ地方の話の続きです。

エミリア・ロマーニャ州パルマ県北部の、ポー河南岸の平地、バッサ・パルメンセ。

パルマと言えば生ハムが有名。
ところが、バッサ・パルメンセ地方はポー河があるため、パルマの中でも独特な気候(多湿、霧)と地形(低地、平野)です。
そのため、DOPの生ハムの産地には含まれていません。

つまり、バッサ・パルメンセで生ハムを作っても、プロッシュット・ディ・パルマDOPと名乗ることはできないわけです。

ちなみに、パルマのもう一つの名物、パルミジャーノ・レッジャーノは、パルマ県全体がDOPパルミジャーノの産地なので、バッサ・パルメンセでも作っています。
ポー河のおかげで牧草が豊富に生え、それを餌にして牛を育て、牛乳からパルミジャーノを作ったら、その残りで豚を育てる、というサイクルです。


皮肉なことに、生ハムの産地に入れてもらえなかったバッサ・パルメンセの名産品は、サルーミの王様と言われるクラテッロです。

サルーミとは、生ハムやサラミなどの総称。
その王様ということは、生ハムもサラミも全部ひっくるめて、その頂点に君臨するもの、ということ。
すごいですねえ。


クラテッロもパルマの生ハムも、豚のもも肉を塩漬けして熟成させたものです。
いったい、サルーミの王様と生ハムは、どこが違うのでしょうか。


CULATELLO DI ZIBELLO D.O.P. CON MOSTARDA DI FICHI
モデナのホテル・リアル・フィーニのクラテッロ・ディ・ジベッロDOPといちじくのモスタルダ



Buonissimo, sehr gut, Yummy
スイスの家庭のパルマの生ハムとメロン



↓まずは生ハムはどうやって作るのかを、プロッシュット・ディ・パルマDOP管理組合のPVで確認してみましょうか。




一番最初に、
「パルマの生ハムの生産地区の境界は正確に決まっていて、北限はエミリア街道から5km南です。
それは、ポー河の霧と湿気から十分に離れるためなのです」
と、地図まで示してきっぱりと言っています。



↓そしてこちらがクラテッロ。




生ハムは骨付きなのに対して、クラテッロは骨を外した肉のみ。
さらに、クラテッロは肉を豚の膀胱で包みます。


↓こちらもクラテッロの作り方を説明している動画ですが、アメリカ人向け(?)のせいか、目の付け所が少し違います。
英語です。




クラテッロのことを、「世界で一番高価なハム」と紹介しています。
また、「生ハムもほぼ同じ作り方だが、需要に答えて大量生産しているし、熟成期間も短いので、値段が安く、スーパーでも売っている」と、かなり歯に衣着せない言い方。

クラテッロ・ディ・ジベッロDOPの熟成期間は10か月から18か月程度で、平均14か月。
大きさが違うので単純には比べられませんか、プロッシュット・ディ・パルマDOPとそれほど違いません。

やはり最大の違いは、霧に包まれながら熟成する点。

そのあたりの話は次回に。



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年5月号
“バッサ・パルメンセ地方”の解説は、「総合解説」'08&'09年5月号に載っています。

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2011年11月24日木曜日

バッサ・パルメンセ

今日はバッサ・パルメンセ地方の話。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の記事の解説です。


バッサ・パルメンセBssa Parmense。

あまり聞きなれない名前ですよね。
でも、クラテッロの産地に行ってみたいと思っている人なら、知っておいたほうがよい名前です。

バッサは「低い」という意味で、パルメンセは「パルマの」という意味。
つまり、パルマ県の中で一番標高の低い地域、という意味です。

パルマ県の地形は、はっきりと3つに分かれています。
一番北が平地でもっとも低く、中間は丘陵地帯、そして南は山地。
この3つの中でもっとも低い平地のことを、バッサ・パルメンセと呼びます。

パルマ県の地図

具体的には、パルマ県北部の、ポー河とエミリア街道にはさまれた部分がバッサ・パルメンセです。
上の地図でいうと、一番上の水色の線がポー河で、その下のまっすぐな緑色の線がエミリア街道。
この2つに挟まれた地区です。


101212_01_Il Po
バッサ・パルメンセのポー河



バッサ・パルメンセの中でも最も低い河沿いは、たびたび洪水に見舞われています。
さらに、河に近い地区ほど湿気が多く、冬は霧に覆われます。

『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の記事にもある通り、
「バッサ・パルメンセに君臨するのはポー河で、気候も、歴史も、苦しみも、豊かさも、すべてポー河によってもたらされてきた」訳です。


↓ポー河周辺の霧







そして、このバッサ・パルメンセを代表する産物が、クラテッロculatello


クラテッロ・ディ・ジベッロCulatello di ZibelloはDOP製品です。

クラテッロは、豚のもも肉を塩漬けにして熟成させたもので、いわば生ハム。
でも、プロッシュットとは呼びません。

そもそも、パルマと言えば、イタリアを代表する生ハム、プロッシュット・ディ・パルマprosciutto di Parmaの産地。

ところが、パルマの生ハムの生産地区には、こんな決まりがあります。

「エミリア街道より最低5km南に離れていること」

つまり、エミリア街道より北にあるバッサ・パルメンサは、丸ごと全部、プロッシュット・ディ・パルマの生産地区から除外されているのです。

パルマの生ハムの生産地区


これはおそらく、ポー河の霧のせいだろうと想像はつくのですが、ここまではっきり分けられると、まるであからさまないじめみたいですねえ。

クラテッロの話は次回に。


実は、『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の記事では、バッサ・パルメンセを象徴する人物として、“ペッポーネPeppone”と“ドン・カミッロDon Camillo”という二人を紹介しています。
この二人のことを説明すると長くなるので、「総合解説」には載せませんでした。

なのでここで、少し解説。


ペッポーネとドン・カミッロは、バッサ・パルメンセ出身でイタリアを代表する作家、ジョヴァンニーノ・グアレスキGiovannino Guareschi(1908-1968)の作り出した人物です。

二人はバッサ・パルメンセのある町の、町長と司祭。
ペッポーネが町長で、ドン・カミッロが司祭です。
幼馴染ですが、政治的信条が正反対で、町も真っ二つに分かれて大騒動。
けれど、人のつながりは政治とは別のもの。
そんなテーマが、笑いと人情に包まれて語られます。

イタリアでは、ドン・カミッロとペッポーネと言えば、敵で友人、という関係の代名詞。
小説は大人気になり、1952年にはフランスと合作で映画化されました。
映画もヒットして続編が作られ、さらに1983年にはリメイクもされました。
日本でも『陽気なドン・カミロ』という名前で1953年に出版されています。
映画の撮影が行われたブレッシェッロという町には、ドン・カミッロの銅像も造られました。

小説も映画も、とても高く評価されています。
『陽気なドン・カミロ』と『ドン・カミロ頑張る』というタイトルで、日本語字幕付きフランス語版のDVDも出ています。


↓ドン・カミッロシリーズ4作目の一場面



鐘の中から出てきたのがペッポーネ。



↓現代版リメイクのオープニング。
オリジナルとはかなり違いますが、バッサ・パルメンセの雰囲気は伝わります。







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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年5月号
“バッサ・パルメンセ地方”の解説は、「総合解説」'08&'09年5月号に載っています。

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2011年11月21日月曜日

ピッカータ

今日はピカタの話。
『ガンベロ・ロッソ』の記事の解説です。

『ガンベロ・ロッソ』のロンバルディア特集で紹介されていた料理の中に、こんな一品がありました。

フリットゥーラ・ピッカータFrittura piccata。

日本風に言えば、“ピカタ”です。

そう言えば、イタリア料理だったんですねえ、ピカタって。
正確には、ロンバルディア州ミラノの伝統料理。


実はピカタは、イタリアより外国でのほうが、イタリア料理としての認知度が高い料理。

ミラノに40年以上住んでいるイタリア人が、「ドイツの結婚披露宴で、メニューにミラノ風ピッカータと書いてあったが、こんな名前の料理は、ミラノで見たことも食べたこともなかった」なんてネットで語っています。

イタリアの場合、ピカタのような肉の薄い切り身の料理は“スカロッピーネ”と呼ぶのが一般的なので、ピッカータもスカロッピーネと呼ばれているケースが多いのかもしれません。

フリットゥーラ・ピッカータの“フリットゥーラ”は、揚げるというより、バターで焼くことを意味しています。


そもそも、イタリアのピッカータは、日本で知られているピカタとは違って卵を使いません。
というか、日本以外ではピカタ(英語ではピカータ)は卵で覆わないほうが一般的。


Scaloppine Piccata
サンフランシスコのイタリア料理店のピッカータ



『Grande enciclopedia illustrata della gastronomia』によると、オリジナルのミラノのピッカータのリチェッタは次のようなもの。

フリットゥーラ・ピッカータのマルサラ風味 Frittura piccata al Marsala

・子牛肉の切り身2人分で350gを軽く叩いて楕円形にし、縁に2~3か所切り込みを入れて縮まないようにする。
・ソテーパンでバター60gを赤くなるまで熱する。
・切り身に薄く小麦粉をつけ、バターで強火で片面1分ずつ焼く。
・塩をし、マルサラ・セッコ大さじ4をかけて片面3分ずつなじませる。
・その間にイタリアンパセリ一握りと潰したにんにくの薄切り1枚をみじん切りにし、肉が焼き上がる2分前に加える。バターが焦げないように揺すりながら片面1分ずつなじませる。
・肉を取り出して温めた皿に盛りつける。
・焼き汁を煮詰めて肉にかけ、白こしょうを散らす。サーブする直前にレモン汁1/2個分をかける。



オリジナルのピッカータはマルサラ入りでが、今では、マルサラを加えない“フリットゥーラ・ピッカータ・アル・リモーネFrittura piccata al limone”のほうが一般的。
その場合はマルサラの代わりにブロードをかけます。


卵で覆われたチキンピカタに慣れていると、ちょっと物足りないくらいシンプルです。
シンプルなだけに、アレンジもしやすい。
世界中に広まる過程で様々なバージョンが考え出されて、現在のインターナショナル料理としてのピカタができ上がったのでしょう。


動画“子牛のピッカータの白ワイン風味





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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2009年5月号
“ロンバルディアの伝統料理”の解説は、「総合解説」'08&'09年5月号に載っています。

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2011年11月17日木曜日

ボラのボッタルガ

ボッタルガの話を続けます。

恒例、ガンベロ・ロッソ誌が選ぶベスト10。
ボラのボッタルガの第一位に選ばれたのは、サルデーニャのコープ・ポンティスCoop Pontisの、カブラス産ボラの卵のボッタルガ。

これ

カブラス産のあかし、“ウンギア”が付いています。

コープ・ポンティスのwebページはこちら


ガンベロ・ロッソではこのボッタルガのことを、

「十字軍の騎士の強さとイギリスの領主のようなエレガントさを併せ持つ」

と形容しています。
いったいどんな味なのでしょうねえ。

コープ・ポンティスは、11軒の漁師が集まった協同組合で、カプラス湾の漁業権を持っています。


カブラスのボラは高く評価されますが、この潟のボラだけで、世界中のイタリア産ボッタルガの需要をまかなうことは不可能です。
コープ・ポンティスを始めとするたいていのボッタルガメーカーは、輸入物のボラの卵も使っています。


ガンベロ・ロッソが2位に選んだのも、輸入物のボラの卵を使ったボッタルガ。
サルデーニャのステファノ・ロッカStefano Roccaというメーカーです。

この会社は、webページ(こちら)で輸入物を使う理由をこう説明しています。

「現在、サルデーニャでのボッタルガの消費量は年間150トン。
ボラの卵はボラの重さの12~15%で、ボラの卵をボッタルガにすると、重さが40~50%減ります。
ということは、年間150トンのボッタルガを作るには、毎年2,300トンのメスのボラが必要です。
でも実際には、そんなことは不可能です」

確かに。


3位は、サルデーニャのボッタルガメーカーが1990年にローマで開業したサルデーニャ食材の店、ラ・ペオニアLa Peoniaのボッタルガ。

店のwebページはこちら


コープ・ポンティスとラ・ペオニアのwebページにボッタルガのリチェッタがあるので、いくつか訳してみました。


まずはコープ・ポンティスのスパゲッティ。

原文はこちら

ボッタルガのスパゲッティ Spaghetti alla bottarga
材料:4人分
 スパゲッティ・・350g
 ボラのボッタルガ・・60g
 にんにく・・1かけ(好みで)
 イタリアンパセリのみじん切り
 黒こしょう
 EVオリーブオイルと塩・・適量

・スパゲッティをゆでる。
・にんにくを半分に切ってフライパンにこすりつける。ここにオリーブオイルを入れて火にかける。
・油が熱くなったらボッタルガの2/3、イタリアンパセリのみじん切り、こしょうを加える。さらにレードル2杯のスパゲッティのゆで汁を加える。
・スパゲッティも加え、乾かないようにしながら強火で2~3分なじませる。
・皿に盛り付け、仕上げに残りのボッタルガを散らす。



原文には書いてありませんが、ボッタルガは多分おろしたもの。
仕上げ用は薄い小さなスライスでもいいですよね。


次はラ・ペオニアのリチェッタ。

ボッタルガバター Burro alla bottarga

・室温のバター250gとボラのボッタルガパウダー50gを混ぜる。
・少量ずつアルミホイルに包んで冷蔵庫で2日程度固める。



ボッタルガバターのカナッペ Sfizi alla bottarga

・トーストしたパンやクラッカーにボッタルガバターを塗る。
・ボッタルガの薄切り、種抜きオリーブ、小さく切ったアンチョビをのせる。



セロリのボッタルガ風味 Sedani alla bottarga

・セロリのくぼみにボッタルガバターを塗り、おろしたボッタルガを散らす。
・冷やしてサーブする。



ボッタルガのサラダ Insalata di bottarga

・セロリを薄く切り、薄く削ったボラのボッタルガをたっぷり加える。
・削ったグラナ・パダーノ少々も加え、EVオリーブオイルをかける。



トマトのボッタルガがけ Insalata rossa di bottarga

・ミニトマト(パキーノ)を4つに切り、削ったボラのボッタルガをたっぷり散らしてEVオリーブオイルをかける。





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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2009年5月号
“ボラのボッタルガ、ベスト10”と“マグロのボッタルガ、ベスト10”の解説は、「総合解説」'08&'09年5月号に載っています。

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2011年11月14日月曜日

ボッタルガ

今日はボッタルガbottargaの話。
『ガンベロ・ロッソ』の記事の解説です。

ボッタルガとは、ご存じの通り魚の卵巣を塩漬けして干したもの。

ボッタルガを最初に作ったのはフェニキア人、名前の語源はアラビア語で魚卵の塩漬けという意味のbatārikh、というのが有力な説。
代表的な産地はイタリアのサルデーニャや地中海沿岸の一部ですが、南米でも作られています。
また、サルデーニャ産のボッタルガと言っても、魚の原産地が必ずしもイタリアという訳ではありません。


↓ブラジル産のボラとボッタルガ






イタリア産のボラを使ったボッタルガは、そう大量には生産されていません。
国産ボラの中でも、サルデーニャのカブラスという潟で獲れたボラのボッタルガは最上品とみなされます。
原材料がカブラス産と明示されていないものは、輸入品のボラの卵巣を使った可能性大。
ただし品質的には、輸入品でも上質のものはカブラス産に引けを取りません。

カブラスのボッタルガには、“ウンギア”がついているものがあります。
ウンギアとは“爪”という意味ですが、実際には、2つの卵巣をつないでいる部分にかぶさっている、なすのヘタのような白い部分のこと。
卵巣を切り離す時に、卵巣の先端に続く皮や身の一部も一緒に切り取るとウンギアができます。
これは卵巣を傷付けずに取り出すための方法で、ウンギアが付いていると、伝統的な手法で作られたカブラスのボッタルガのあかし。


ウンギア付きボッタルガ



↓カブラスのボッタルガ。
04:33あたりを見ると、ウンギア付きの取り出し方がわかります。






マグロのボッタルガの場合は、“トンノ・ロッソtonno rosso”、つまりタイセイヨウクロマグロのものが最上品とされますが、これは数が少なく、実際にはほとんどが、“ピンナ・ジャッラpinna gialla”と呼ばれるキハダマグロの卵巣です。
ところが、そもそもキハダマグロは地中海では獲れません。


ボラやマグロだけでなく、ある程度大型の魚であれば、どんな魚の卵巣もボッタルガにすることができます。
比較的知られているのは、タラやスズキの一種のボッタルガ。

様々な魚の卵で作ったボッタルガ


この写真のボッタルガを作った人によると(webページはこちら)、手作りボッタルガの第一段階は、卵巣を岩塩で覆って重石をのせ、水分を出すこと。
塩が水でぬれたら新しい塩に換えながら、水分が出なくなるまで、数日から一週間程度塩漬けます。

次は乾燥。
昼間はガーゼで覆うなどの虫よけをして天日で干し、夜はキッチンペーパーに包んで板ではさんで型押しします。

釣った魚の卵巣をボッタルガにする時は、開いてみるまで卵があるかどうかわからないのが難点なんだそうです。


↓こちらは自家製のボラのボッタルガの作り方。





新鮮な卵巣を洗い、水1リットルにつき塩15gを加えた塩水に約1時間漬けます。
これを布の上に並べ、虫よけの網をかぶせて天日干し。
毎日裏返しながら4~6日乾燥させます。
重さが約40%減ったらでき上がり。
最後に油を塗って食品用の蝋で2~3回コーティング。
イタリアでは真空パックにしますが、そうすると一度開けたらそれきり。
でも蝋だと、使う分だけ蝋をはがせばいいので便利、と説明しています。
教えているのはユダヤ系の人。


ボッタルガの話、次回に続きます。



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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2009年5月号
“ボラのボッタルガ、ベスト10”と“マグロのボッタルガ、ベスト10”の解説は、「総合解説」'08&'09年5月号に載っています。

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2011年11月11日金曜日

ビステッカ

牛肉の話を続けます。

キアニーナは牛としても世界的に有名で、多くの国に輸出されて、地元品種との交配が行われました。
ブラジル、アルゼンチン、カナダ、オーストラリアといった牛肉大国が、こぞってキアニーナを輸入しています。

そもそも、キアニーナをここまで有名にしたのは、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナbistecca alla fiorentinaという料理。
この“ビステッカbistecca”という言葉は、19世紀後半にフィレンツェに大勢住んでいたイギリス人が使っていた英語、ビーフステーキbeefsteak(ビーフステイク)が語源、と言われています。
ただし、日本語のビフテキのようにフランス語のbifteck(ビフテック)が語源、という説もあります。

いずれにせよ、キアニーナは、世界中の人が認める美味しい肉であることは間違いありません。

日本では、牛肉は脂のサシのトロトロの美味しさがもてはやされますが、そのせいか、初めてキアニーナのフィオレンティーナを食べると、赤身でも十分に柔らかくて味が濃い、ということを知ってカルチャーショックを受け、新しい味覚に開眼する、というパターンが多いですよね。
小さな切り身を箸でつまんでポイと口に入れる民族と、分厚い塊をナイフでガシガシ切ってフォークでグサッと刺して食べる民族とでは、育んできた文化がこうも違うんですねえ。


↓1.4kgのフィオレンティーナ。





↓この人のモットーは、「to beef or not to beef」(笑)





↓キアニーナを飼育している農園のアグリトゥーリズモなら、こんな豪快な光景を見ることができます。






フィレンツェで誕生した“ビステッカ”という言葉は、やがてイタリア中で使われるようになりました。

ビステッカはフィオレンティーナだけではない、という訳で、フィオレンティーナ以外のイタリア風ビステッカのリチェッタを、ちょっとご紹介。

出典は『Grande enciclopedia illustrata della gastronomia』です。

ビステッカ・アッラッビアータ Bistecca all'arrabbiata

・フライパンで焼くので、ロースかランプの薄くカットした肉が向いている。
・2枚の場合、フライパンにEVオリーブオイル大さじ1、にんにく1~2かけ、赤唐辛子2片(または小2本)を熱し、にんにくに色がついたら取り除く。
・火を強め、油が十分に熱くなったら唐辛子も取り除いて肉を入れる。焦げ付かないようにすぐにフライパンをゆする。
・火を弱め、40秒焼く(厚さ1cmの肉の場合)。
・再び火を強め、肉を裏返して同様に焼く。
・仕上げに塩をする。



ビステッカ・アッラ・ピッツァイオーラ Bistecca alla pizzaiola

・厚さ2~3cmのリブロースかランプが理想的。
・完熟トマトを刻み、EVオリーブオイル、にんにく(肉1枚につき1かけ)、塩、こしょう(または赤唐辛子)で10分煮てソースにする。仕上げにドライオレガノ一つまみを加える。
・ソテーパンを熱してEVオリーブオイル少々を入れ、肉を強火で片面1分半ずつ焼く。
・肉に塩をし、ソースで覆う。
・火を弱め、途中で一度裏返しながら3分なじませる。




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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2009年4月号
キアニーナを含む“ヴィテッローネ・ビアンコ”の記事は「総合解説」'08&'09年4月号に載っています。

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2011年11月7日月曜日

キアニーナとその仲間

今日は牛の話。

イタリアを代表するブランド牛と言えば、キアニーナChianina。

大昔から存在するイタリア在来種で(正確に言えば、世界中の牛の祖先、野生のオーロックスが新石器時代に家畜化されたものがルーツという説が有力)、2500年以上前のエトルリア人や古代ローマ人も、キアニーナを飼育していました。
ただし、本来は労働用の牛で、食用に飼育していた訳ではありません。

この牛は、トスカーナのヴァル・ディ・キアーナ地方が飼育の中心地。


↓キアニーナの品評会。





優勝した牛は、審判がお尻をぺしっと叩いて発表するんですねえ。


キアニーナ牛の外見の特徴は、その美しい白磁色。
ローマ時代は、この白さが神聖に見えて、神への生贄としても用いられました。
そういえば、日本には「黒毛和牛」はあっても「白毛和牛」はないですねえ。

キアニーナは他の牛より胴が太くて足が長く、世界一大きな牛なんだそうです。
ローマ軍は、この大きなキアニーナを力のシンボルとして凱旋パレードなどに使っていました。
ローマのフォロ・ロマーノのセプティミウス・セウェルスの凱旋門(紀元203年建造)に彫られたレリーフの中にも、キアニーナ牛があるのだそうです。


↓2007年に世界一背が高い牛としてギネスブックに載ったキアニーナのフィオリーノ号。
2m05cmです。






この大きさのせいで、キアニーナは他の牛より成長するのに時間がかかります。
解体した後の熟成にも時間がかかります。
その代わり、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナに代表されるように、大きくて赤身で柔らかくて味の濃い肉ができます。


キアニーナはIGP製品なので、熟成期間を含めて様々なことが法律で定められています。

このキアニーナと、あと2品種を加えた計3品種が、ヴィテッローネ・ビアンコ・デル・アッペンニーノ・チェントラーレVitellone Bianco dell'Appennino Centrale・IGPというブランド。

残りの2品種とは、マルキジャーナMarchigianaとロマニョーラRomagnola。


↓マルキジャーナの品評会。




キアニーナとよく似ていますねえ。
この牛の前身は、6世紀ごろイタリアに伝わったマルケの品種にキアニーナをかけ合わせて、もっと筋肉を発達させたもの。
19世紀半ばに生まれたこの品種に、さらに20世紀初め、ロマニョーラ種をかけ合わせて、農耕用に背を低くしたものが現在のマルキジャーナ。



↓そしてこちらはロマニョーラの品評会。





ロマニューラはキアニーナやマルキジャーナとは外見が少し違いますね。
これは、6世紀ごろ、中央~東ヨーロッパの草原から、ロンバルド族の侵入に伴ってイタリアに伝わった品種がルーツと考えられています。
白毛牛の中ではもっとも気候の変化に強く、放牧に向いているのだそうです。


IGPの規定では、出荷できるのはこれらの品種の12~24ヶ月齢の牛。
メスより脂肪分が少なくて肉が固いオスの場合、熟成は前半身が4日以上、後半身が10日以上。
普通は、0~4度、湿度85~90%で10~14日熟成させるのだそうです。
ちなみに、キアニーナのようなブランド肉でない場合は24~48時間。



キアニーナの話、次回に続きます。


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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2009年4月号
“ヴィテッローネ・ビアンコ”の記事は「総合解説」'08&'09年4月号に載っています。

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2011年11月4日金曜日

黒トリュフのリチェッタ

トリュフの話の続きです。

今日は、黒トリュフの話。

黒トリュフと言えばフランス、特にペリゴール産。
そしてイタリアなら、ウンブリア州ペルージャ県のノルチャ産。

といったところが、世界的に知られる黒トリュフでしょうか。
でも、イタリアの黒トリュフは、ノルチャ産だけではありません。
実際、イタリアでは、ヴァッレ・ダオスタとフリウリ=ヴェネチア・ジューリア以外のすべての州で、何らかのトリュフが採れ、栽培されています。

特にネーロ・プレジャートに関しては、最近ではピエモンテ州が強力に売り出しています。


↓ノルチャで年に一度開かれる町を挙げてのイベント、“ネーロ・ノルチャ”。





毎年2月の週末に行われています。
来場者は約2万人。
トリュフだけでなく、生ハム、腸詰めなど、ノルチャやウンブリアの名物を満喫できます。
ノルチャは鉄道も通っていない標高600mの町。
気軽にぶらっと立ち寄る、という訳にもいきません。
どうせ行くなら、こんな機会にじっくり滞在してみたいもの。

ネーロ・ノルチャのwebページはこちら


↓ノルチャと同じペルージャ県の人口500人弱の町、スケッジーノでもトリュフ祭り、“ディアマンテ・ネーロ”を開催。
2011年3月の祭りでは、卵1000個、黒トリュフ30kgを使って世界最大のトリュフのフリッタータを作りました。




ちなみにトリュフのフリッタータは、卵におろしたトリュフと塩を加えてオリーブオイルで焼きます。



イタリアの伝統料理の中でトリュフを使ったものというと、ピエモンテの白トリュフを使ったパスタや目玉焼きあたりがよく知られていますが、黒トリュフとなると?

・・・。

イタリアの黒トリュフの伝統料理は、主に中部のリチェッタなのですが、今ひとつ思い浮かばないですねえ。

そこで、ノルチャの黒トリュフのwebページから、リチェッタをいくつか訳してみることにします。


まずは前菜。
原文はこちら

タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャートのブルスケッタ Bruschette al tartufo nero pregiato
材料:
 スライスしたパン
 EVオリーブオイル
 にんにく・・1かけ
 赤唐辛子
 タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャート・・100g
 骨を取ったオイル漬けアンチョビ・・1尾
 塩、こしょう

・トリュフは土をきれいに取り除き、細かくおろす。
・オリーブオイル1/2カップににんにく、唐辛子少々、塩、こしょう、フォークで潰したアンチョビを入れて熱し、にんにくに色がついたら火から下ろす。
・粗熱を取ってトリュフを加える。
・これをトーストしたパンにかけ、必要なら塩をする。



つぎはスパゲッティ。
原文はこちら

タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャートのスパゲッティ Spaghetti con il Tartufo Nero Pregiato di Norcia
材料:
 スパゲッティ・・500g
 骨を取った塩漬けアンチョビ・・1尾
 タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャート・・90g
 にんにく・・1かけ
 EVオリーブオイル・・100ml

・オリーブオイルににんにくを入れてソッフリットにする。
・アンチョビを塩抜きしてオイルに加え、フォークで潰して溶かす。
・トリュフを粗くおろし、火から下ろしたオイルに加える。
・すぐにゆでたてのスパゲッティにかけてあえる。
・イタリアンパセリやトリュフのスライスで飾ってもよい。




↓イタリアの食文化研究家で農学者のアウグスト・トッチ氏が教えるタルトゥーフォ・ネーロ・ディ・プレジャートのスパゲッティ。
上のリチェッタとまったく同じです。





もう一つパスタ。
原文はこちら

タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャートとサルシッチャのタリアテッレ Tagliatelle con Tartufo e Salsiccia Tartufo
材料:
 卵入り麺のタリアテッレ・・500g
 生ソーセージ・・3本
 EVオリーブオイル
 タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャート・・90g
 塩、黒こしょう

・オリーブオイルににんにくのみじん切りを入れてソッフリットにする。
・生ソーセージは皮をむいて崩し、オイルに加えて炒める。必要ならタリアテッレのゆで汁をかける。
・タリアテッレをゆでる。
・トリュフを粗くおろしてソーセージのソースに加え、1分なじませる。塩、こしょうで調味する。
・タリアテッレをソースであえる。



次はセコンド・ピアット。
原文はこちら

アニェッロ・タルトゥファート Agnello Tartufato
材料:
 子羊の肩肉・・1.5gj
 EVオリーブオイル
 フェンネルシード・・1つまみ
 ローズマリー・セージ・ローリエを束ねる・・2束
 赤ワイン
 黒トリュフ
 塩、こしょう

・肉を切り分け、オリーブオイル、塩、こしょう、フェンネルシード、香草1束で2時間マリネする。
・肉の油をきり、浅鍋で表面を焼く。
・赤ワインと残りの香草の束を加え、肉に火を通す。
・出来上がる少し前に香草を取り除き、トリュフをおろしながら加える。
・蓋をして数分置く。




香りが全ての白トリュフは、表面積が広くなるようにスライサーで薄~くスライスして、そのまま料理に散らすだけで、一日中香りの余韻が残るぐらい堪能できます。
一方、黒トリュフは香りだけでなく、歯ごたえも味わうトリュフです。
短時間の加熱もOK。
オリーブオイル、塩と一緒にすり潰してペーストにすることもできます。



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関連誌;『V&S』2009年4月号
“タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャート”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年4月号に載っています。

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2011年10月31日月曜日

トリュフの戦略

トリュフの話の続きです。


↓ピエモンテ州のトリュフ研究センターが作った渾身のPV。





最初に、雷が落ちて、そこにトリュフが出来た、という映像がありますが、これを解説するとこんな話になります。

この雷、ローマ神話の一番偉い神様で、雷神でもあるジョーヴェ(英語だとジュピター、ギリシャ神話でいうところのゼウス)が落としたもの。
そばにあったのは、神聖な木とされるオークの木。
雷が落ちた土の中から生まれたのが、最初のトリュフ、というのが有名な言い伝えです。

PVでは、雷の後、ドラマ仕立ての話が始まります。

語り手が子供の頃、9月末のある日、ランゲ地方のおじいさんの家に遊びに行きました。
夜中、おじいさんが犬を連れて森に出かけるのを見かけて、不思議に思った少年。
翌朝、父親に聞いてみると、夜の森なんて野生の動物がいて危険なんだから、子供は興味を持たなくていい、と怒られます。

でも、余計に好奇心が募った少年は、祖父がいない間に納屋に入って、あるものを見つけます。
なんだかきのこのようで、変な形で、強い香りがします。
これをポケットに忍ばせて、その晩、少年はおじいさんの後を追いました。
ところが足をすべらせて捻挫してしまい、暗い森の中で動けなくなってしまいます。
懐中電灯の電池も切れてしまいました。
そしてそのまま眠ってしまい・・・。

そして、予想通りの展開が。

結局、少年はトリュフに命を救われたと信じてイケメンに成長し、今ではピエモンテ州のトリュフ研究センターの仕事を立派にPRしているのでした。
めでたしめでたし。



この少年は、トリュフというか、トリュフ犬に命を救われたんですねえ。
トリュフの収穫には、訓練を受けたトリュフ犬が大活躍。
どんな犬種でもトリュフ犬になれますが、イタリア土着のラゴット・ロマニョーロという犬は、トリュフ犬として特に有名。


↓ラゴット・ロマニューロのトリュフ犬





イタリアでも、以前はトリュフを探すのに豚を使っていましたが、戦後、トリュフの需要が増えて訓練しやすい犬を使うようになり、トリュフ豚(?)は完全に姿を消しました。

豚の場合、メスの方が従順でオスに従うが性質があるので、トリュフ探しには向いているのだそうです。
ただし、半分野生の状態で放し飼いで育てた“森の豚”であることも条件。


そもそも、トリュフのあの香りは、トリュフが生き延びて種を増やしていくための生存戦略なんだとか。
外から見える他のきのこと違って、木の根に共生するトリュフは、土に埋もれて成育します。
土の下で育つトリュフは、何の必要があってあんなに強い香りを放つのでしょうか。
まるで、嗅覚の鋭い動物に、ここにいるから掘り出して!と教えているみたいではないですか。

そう、そうなんですよ。
あの匂いは、特定の動物にはとても美味しそうとか、とてもセクシーとか、そんな風に感じるように出来ている訳ですねえ。
その香りに誘われたキツネやアナグマやイノシシが、トリュフを掘り出す。
するとトリュフが地表に出て、胞子が空中に拡散する。
そして新しい木の根までたどり着き、そこで新たに共生を始める、という訳です。

考えてみれば、トリュフの香りに引き寄せられるのは、何も豚やキツネだけではないんですよねえ。
そう、人間だって、トリュフの戦略にまんまとのせられている口です。
何しろトリュフは、イタリアから地球の裏側の日本まで移動することに成功しているんですから。
トリュフに大金を払う人間は、むしろどんな動物よりもトリュフの戦略にはまった生き物に違いありません。

次は黒トリュフの話。



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関連誌;『V&S』2009年4月号
“タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャート”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年4月号に載っています。

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2011年10月28日金曜日

トリュフ

今日はトリュフの話。
『V&S』の解説です。

秋が深まって、トリュフが恋しくなる人も出てくる季節ですねえ。

イタリアのトリュフと言えば、トリュフの王様、白トリュフ。


Alba white truffle
2010年12月のサンフランシスコの某店のセールでは、白トリュフは1オンス187ドル。
つまり1g6.6ドル!




Oregon white truffle and black winter truffle
え!左の白トリュフが1オンス18.75ドルで、右の黒トリュフが1オンス100ドル?
黒トリュフの1/5の値段の白トリュフ?



白トリュフはイタリア産だけ、と思っていると、失敗します。
上の写真、よく見ると、白トリュフは“オレゴン・ホワイト・トリュフ”と書いてあります。

オレゴン・ホワイト・トリュフって何?

さらによーく見ると、オレゴン・ホワイト・トリュフの下には“TUBER GIBBOSUM”と書いてあります。
これは、このトリュフの学名。

イタリアの白トリュフ、つまりトリュフの王様と呼ばれているものの学名は、TUBER MAGNATUM。

つまり、白トリュフと呼んでいても、実際にはまったく違う品種のトリュフなんです。

オレゴン・ホワイト・トリュフはアメリカ産のトリュフ。
Tuber magnatumが見つかっているのは、今のところ、イタリアと、イタリアの東の地続きのイストリア半島(スロベニアとクロアチア)のみ。



トリュフは、ヨーロッパだけでも30種類以上あるのだそうです。
イタリアでよく知られているのは、ざっと10種類。
中には、外見だけでは見分けがつかないものもあります。

トリュフを買う時は、白トリュフ、黒トリュフ、ウインタートリュフ、サマートリュフなどの略称だけでなく、学名をチェックすることが必要です。


イタリアの主なトリュフ

白トリュフ

・Tartufo bianco pregiato(タルトゥーフォ・ビアンコ・プレジャート)/Tuber magnatum(写真

・Tartufo bianchetto o Marzolino(タルトゥーフォ・ビアンケット、またはマルツォリーノ)/Tuber borchii(写真

タルトゥーフォ・ビアンコ・プレジャートが、いわゆるトリュフの王様の白トリュフ。

ビアンケットは外見はビアンコ・プレジャートとよく似ています。
特に若いうちは色が白く、ビアンコ・プレジャートと間違えやすいそうです。
でも、香りが全然違います。
ビアンコ・プレジャートのシーズンは10月~12月で、ビアンケットは2月~4月。


黒トリュフ

・Tartufo nero pregiato(タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャート)/Tuber melanosporum(写真

・Tartufo nero invernale(タルトゥーフォ・ネーロ・インヴェルナーレ)/Tuber brumale(写真

・Tartufo moscato(タルトゥーフォ・モスカート)/ Tuber brumale var. moschatum(写真

・Tartufo nero estivo, Scorzone(タルトゥーフォ・ネーロ・エスティーヴォ、またはスコルゾーネ)/Tuber aestivum(写真

・Tartufo nero liscio(タルトゥーフォ・ネーロ・リッショ)/Tuber macrosporum(写真

タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャートは、フランスのペリゴール産が有名な最上質の黒トリュフ。
中の白い筋は、空気に触れると赤っぽく変色します。
シーズンは11月~3月。

タルトゥーフォ・ネーロ・インヴェルナーレは、いわゆるウインタートリュフの一種。
プレジャートと比べて中の白い筋がやや太く、まばら。
プレジャートと違って、筋の色は空気に触れても変わりません。
シーズンは1月~4月。

タルトゥーフォ・モスカートもウインタートリュフの一種で、麝香の香りが特徴。
シーズンは12月~3月。

タルトゥーフォ・ネーロ・エスティーヴォは、いわゆるサマートリュフ。
外が黒くて中がハシバミ色、そして夏に熟すのが特徴。
シーズンは6月~9月。

タルトゥーフォ・ネーロ・リッショは、いわゆるスムースブラックトリュフ。
他の黒トリュフと比べて皮がなめらかなのが特徴。
シーズンは7月~12月。


上の写真の黒トリュフは、ヨーロッパ産のTuber melanosporumと書いてあります。
つまり、タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャートです。
それなのに、商品名はウインタートリュフ(ネーロ・インヴェルナーレ)。
いったいどっちなんでしょうねえ。

これはおそらく、ネーロ・プレジャートをサマートリュフと区別するために、大雑把にウインタートリュフと呼んでいたことから生まれた混乱と思われます。
ネーロ・プレジャートとネーロ・インヴェルナーレが違う種類である以上、ウインタートリュフと表示する時は、Tuber melanosporumかTuber brumaleか、はっきりさせる必要がありますよね。


栽培できない白と違って、栽培ができる黒は値段も比較的手ごろ。
ただし、栽培と言っても椎茸のように原木に菌を植えて育てる訳ではありません。
むしろ、トリュフが育つ木を育てるのがトリュフの栽培方法です。
だから、トリュフ畑は林のような姿をしています。


↓トリュフ畑




この畑の木は、苗をトリュフ菌を混ぜた土に植えて育てたものです。
土はあらかじめ殺菌してあって、余分な菌を取り除いてあります。
こうすると、根にトリュフ菌が寄生した木が育ち、数年後にはトリュフができます。
その後、毎年トリュフができるようになります。



↓トリュフ栽培用の苗





イタリアでは、天然もののトリュフが減る一方で、トリュフの栽培は年々盛んになっています。
栽培されている品種は、ネーロ・プレジャートが約60%で、続いてサマートリュフが約26%。


トリュフの話、次回に続きます。


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関連誌;『V&S』2009年4月号
“タルトゥーフォ・ネーロ・プレジャート”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年4月号に載っています。

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2011年10月25日火曜日

アッチューゲ・リピエーネ

今日は生のアンチョビのリチェッタです。


Bruschetta di Monterosso
これは前回紹介したモンテロッソの塩漬けアンチョビのブルスケッタ


アンチョビ(カタクチイワシ)料理が店のメニューにあって、しかも人気料理、という店は、いかにも地元人御用達のディープな地元料理の店、というイメージ。

Acciughe = Anchovies
メニューの一番上がアンチョビ!


↓看板料理の一つがアンチョビのフリットというジェノヴァの人気トラットリーア、ウーゴUgo。






生のアンチョビの代表的な料理は、マリネ、フリット、グラティナート、スカペーチェ、リピエーネなど。
どれも余りにシンプルすぎて、敢えて紹介するまでもないのですが、今回は少しは手の込んでいそうなものを選んでみました。
上の動画でもお客さんたちが盛んに美味しいと言っていた“アッチューゲ・リピエーネ”です。
リグーリアの名物料理でもあります。

基本は、開いたアンチョビ2枚で具をはさんで揚げる、という料理ですが、地方や店によって詰め物が少し違います。


まずはリグーリアのアッチューゲ・リピエーネ。

“リチェッテ・ディ・オステリーエ・ディ・イタリア”シリーズの『ペッシェ』から、ラ・スペツィアのオステリーア・ヴィーコロ・インテルノOsteria Vicolo Inthernoのリチェッタです。

アッチューゲ・リピエーネ Acciughe ripiene
材料:4人分
 生のカタクチイワシ・・40尾
 モルタデッラ・・150g
 フレッシュのタイム・・1枝
 卵・・1個
 パン・・150g
 パルミジャーノ・・60g
 牛乳・・1カップ
 オリーブオイル

・カタクチイワシは開いて骨を取る。
・パンは牛乳に浸してから細かく崩す。モルタデッラは細かい小角切りにする。
・パン、モルタデッラ、おろしたパルミジャーノ、タイムのみじん切りを混ぜ、溶いた卵を加えてつなぐ。
・魚の半量に詰め物をのせ、残りをかぶせてサンドする。
・油を塗ったオーブン皿に並べ、オーブンで30分焼く。
※ジェノヴァのアッチューゲ・リピエーネの詰め物は、パン、卵、パルミジャーノ、オレガノ、油でソッフリットにして骨を取ってすり潰したカタクチイワシかゆでたビエトラ(ふだん草)。
※オーブン焼きでなくフリットにする時は溶き卵とパン粉をつけて油で揚げる。



次はプーリア。
Giovanna Quaranta著、『La cucina pugliese』から。

アリーチ・リピエーネ Alici ripiene
材料:4人分
 生のカタクチイワシ・・800g
 おろしたペコリーノ・・150g
 卵・・2個
 レモン・・1個
 イタリアンパセリ
 小麦粉
 EVオリーブオイル
 塩

・カタクチイワシは開いて骨を取る。
・卵、ペコリーノ、イタリアンパセリのみじん切り少々、塩を混ぜる。
・魚2枚で詰め物をはさんで軽く押し固め、小麦粉をつける
・たっぷりの油で揚げ、皿に盛り付けてレモン汁をかける。



次はカラブリア。
Alba Allotta著、『La cucina calabrese di mare』から。

アリーチ・ファルチーテ Alici farcite
材料:4人分
 生のカタクチイワシ・・1kg
 硬くなったパンのクラム(白い部分)・・250g
 イタリアンパセリ・・1枝
 卵・・1個
 小麦粉
 EVオリーブオイル
 塩、チリペッパー

・カタクチイワシは開いて骨を取る。洗って水気をふき取り、塩をする。
・パンを水に浸して絞り、崩す。
・パン、イタリアンパセリのみじん切り、溶いた卵、塩、チリペッパー少々を混ぜる。
・魚の半量の身の側に詰め物をのせ、残りの半量をかぶせて軽く押し固める。
・小麦粉をつけてたっぷりの油で揚げる。



最後はサルデーニャ。
Laura Rangoni著、『La cucina sarda di mare』から。

アッチューゲ・リピエーネ・フリッテ Acciughe ripiene fritte
材料:4人分
 生のカタクチイワシ・・800g
 卵・・2個
 イタリアンパセリ・・1枝
 にんにく・・2かけ
 小麦粉・・100g
 レモン・・1個
 塩漬けアンチョビ・・8~10尾
 パン粉・・たっぷり一握り
 EVオリーブオイル・・大さじ4
 揚げ油
 塩、こしょう

・カタクチイワシは開いて骨を取る。塩漬けアンチョビは塩を洗い落として骨を取り、4枚の切り身にする。
・カタクチイワシに塩漬けアンチョビを1枚ずつのせて閉じる。
・卵、塩、こしょうを混ぜる。
・魚に小麦粉、溶き卵、パン粉の順でつけてたっぷりの油で揚げる。
・皿に盛り付け、プレッツェーモロとにんにくのみじん切りを散らしてレモン汁をかける。



なんと、生のアンチョビに塩漬けアンチョビを詰めるという、かなり奇想天外な一品。



acciughe impanate ripiene
動画で紹介されていたジェノヴァのウーゴのアッチューゲ・リピエーネ。



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年4月号
カタクチイワシを含む“青魚”の記事の解説は、「総合解説」08&09年4月号に載っています。

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2011年10月20日木曜日

塩漬けアンチョビ

カタクチイワシ(アッチューゲ/アリーチ)の話の続きです。

カタクチイワシ(アンチョビ)は、大量に獲れるので値段が安く、しかも塩漬けにすれば長期間保存できるので、イタリア中に広まりました。
ピエモンテのような海のない北の地方でも、バーニャ・カウダのように、アンチョビの塩漬けを使う伝統料理があったりします。
イタリアでこれほど広まった魚は、他にはタラ(バッカラ)ぐらいです。

という訳で、イタリアのアンチョビの基本は、塩漬けです。
オイル漬けもありますが、伝統料理に使うのは塩漬けです。
塩漬けアンチョビは、オリーブ、ケッパーと共に、イタリア料理、特に地中海のイタリア料理の基本の食材でもありますよね。

タラは北ヨーロッパの冷たい風で干してからイタリアまで運ばれてきますが、アンチョビはイタリア沿岸で獲れて、獲ったらすぐに塩漬けにします。

家庭で塩漬けにする時は、ガラスか、釉薬で覆われている陶器の筒型の容器を用意します。
塩は海塩の粗塩。
アンチョビは頭と内臓を取ります。
40~50日程度漬けると食べられるようになります。


↓アンチョビの塩漬けの動画を2つどうぞ。











アンチョビは獲ったらすぐに産地で塩漬けにするので、いわゆるご当地の味になります。
いくつか有名な産地がありますが、最近はチンクエ・テッレ(リグーリア)のモンテロッソのアンチョビが有名。


↓アッチューゲ・ディ・モンテロッソ



食べる時は、洗って余分な塩を落とし、開いて骨を取って水気をふき取ります。
調味は、オリーブオイル、にんにく、オレガノが最適、と言っています。


では、“リチェッテ・ディ・オステリーエ・ディ・イタリア”シリーズの『ペッシェ』から、モンテロッソの塩漬けアンチョビの作り方をどうぞ。

アッチューゲ・ディ・モンテロッソ・イン・サラモイア Acciughe di Monterosso in salamoia
材料:
 新鮮なカタクチイワシ・・1kg
 塩
 サラモイア(塩水の漬け汁)用塩・・水1リットルにつき300g
調味用
 にんにく・・1かけ
 オレガノ・・少々
 EVオリーブオイル

・カタクチイワシは氷に触れないようにする(氷は血を固めるので、後で臭うようになる)。
・頭と内臓を取って手早く洗い、水気をよく切る。
・ガラスの容器に塩を1cm程度敷き、その上に魚を間を開けずに1段並べる。
・1段ごとに押しながら塩と魚を交互に重ねていき、容器一杯に詰める。最後は塩で終わる。
・天然スレートの板で栓をし、その上に重石をのせる。
・漬けてから数日間は魚から茶色い汁が出てくるので時々取り除く。
・汁が出なくなったらサラモイアを作る。水と塩を20分沸騰させて完全に冷ます。
・サラモイアで容器を満たす。残ったサラモイアは瓶に入れて保存し、減ったら足す。
・60~90日後に食べられるようになる。
・洗って開きながら骨を取り、水気をふき取る。
・EVオリーブオイルをかけてにんにくのみじん切りとオレガノを散らし、30分マリネしてからサーブする。
※モンテロッソでは、にんにくは加えずに調味したものをバターを塗ったパンにのせて食べる。




リチェッタで紹介しているマリネ以外にも、塩漬けアンチョビはさまざまな料理で使いますが、塩漬けアンチョビが主役という料理は滅多にないので、リチェッタを紹介しにくい、ということに今、気が付きました。


とりあえず、塩漬けアンチョビのソース、アッチュガータのリチェッタをどうぞ。

同じく“リチェッテ・ディ・オステリーエ・ディ・イタリア”シリーズの『ペッシェ』からです。

アッチュガータ Acciugata
材料:4人分
 塩漬けアンチョビ・・4尾
 にんにく・・1かけ
 イタリアンパセリ・・1本
 EVオリーブオイル・・1/2カップ
 塩、こしょう

・アンチョビは洗って骨を摂り、水気をふき取る。
・陶器の鍋にオイルとにんにくを入れて炒める。
・にんにくに色がついたら取り除き、アンチョビを入れて木べらかき混ぜながら溶かす。
・イタリアンパセリのみじん切り、塩少々、こしょうを加えてクリーム状に煮詰める。
※ゆで肉やパスタのソースに。仕上げにケッパーのみじん切りや、トマトのパッサータ大さじ2~3を加えてもよい。




次回は生のアンチョビのリチェッタです。


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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年4月号
カタクチイワシを含む“青魚”の記事の解説は、「総合解説」08&09年4月号に載っています。

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2011年10月17日月曜日

カタクチイワシ

今日はカタクチイワシの話。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の解説です。

カタクチイワシの英名はアンチョビー。
イタリア語では様々な名前で呼ばれますが、代表的なのは、“アッチューガacciuga”(複数形はアッチューゲacciughe)、または“アリーチェalice”(複数形はアリーチalici)。

イタリア人でも魚に詳しくない人は、アッチューゲとアリーチは同じもの、ということを知らなかったりします。

マイワシは、イタリア語では“サルダsarda”(複数形はサルデsarde)、またはサルディーナsardina(複数形はサルディーネsardine)ですが、サルデとアッチューゲの違い、つまりマイワシとカタクチイワシの違いを知らない人は、日本人にだっていますよね。


Swimming in Alici (Anchovies)
ヴェネチアのリアルトの魚市場のアリーチ(カタクチイワシ)


Sarde
パレルモの市場のサルデ(マイワシ)


カタクチイワシとマイワシの見分け方は、イタリアでも、下あごが短いのがカタクチイワシ、というのが一般的。

カタクチイワシは、イタリアを囲む地中海全域で獲れます。



↓カラプリアのターラント湾(イオニア海)の人力のカタクチイワシ漁。





↓こちらも同じくイオニア海、シチリアのカターニア湾。
船と網を使うメナイデmenaideと呼ばれる伝統的なカタクチイワシ漁の一部。





↓現代的なカタクチイワシ漁。
場所は不明。






カタクチイワシは、イタリアでは「漁師のパン」とも呼ばれます。
網にかかった魚の中で一番価値が低く、毎日テーブルに上るパンのような存在、という訳。


San Sosti (CS), 1975, mercato in località Madonna del Pettoruto.
1975年のカラプリアの市場の風景。
樽や陶器のかめに入っているのは、自家製の塩漬けアンチョビ。


Anchovies from Sicily packed in salt
こちらは現代のフィレンツェ。
サン・ロレンツォ市場のシチリア産塩漬けアンチョビ。


大衆魚の中の大衆魚。
アッチューゲ、またはアリーチの話、次回に続きます。


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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年4月号
カタクチイワシを含む“青魚”の記事の解説は、「総合解説」08&09年4月号に載っています。

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2011年10月13日木曜日

コルク栓ができるまで

コルクの話の続きです。

今日は「コルク栓ができるまで」。

コルクはコルクガシの皮から作ります。
コルクガシは、樹齢20~25年たって、幹の円周が30~40cm以上になって初めて皮を“収穫”することができます。
一度収穫すると、再び30~40cm以上になるまで約10年間をあけます。

若いコルクガシから初めて収穫したコルクは肌理が粗いので、砕いてプレス加工用などにします。
コルク栓には、2回目以降の収穫のコルクが用いられます。

コルクは、木からはいだらまず乾燥・熟成させます。
その期間は6ヶ月から2年。

次に、100度よりやや高めの湯で1時間煮沸して、寄生虫、水溶性の物質、タンニンなどを取り除きます。

これを乾かして平らにしたら、今度は硬くするためにもう一度煮沸。

そして成形、洗浄。

スパークリングワイン用には、上部はプレス加工したもの、ワインに接する一番下の面は高い気圧に耐えられるようにプレスしていないコルクと、種類の違うコルクを使います。

最後に厳しい品質チェックをして出荷。


↓コルク栓ができるまで





コルクの最大の敵は、カビ臭を発生させる2,4,6-トリクロロアニソールという揮発性物質。
イタリア最大のコルクの産地サルデーニャでは、これを取り除くための研究も進んでいます。



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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2009年4月号
“サルデーニャのコルク”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年4月号に載っています。

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2011年10月11日火曜日

コルク

今日はコルクの話。
『ガンベロ・ロッソ』の解説です。

このブログを見ている人は、おそらく、毎月かなりの数のワインの栓を抜いているはず。
コルク栓の数も、相当なものになるんでしょうねえ。

A box of corks


さてこのコルク、いったい何からできているのでしょう。

そう、木の樹皮ですよね。

その名もコルクガシという木の、皮を厚くはいだものが原料です。

コルクガシが生えているのは、ヨーロッパ南西部とアフリカ北西部、つまり地中海の西側一体(地図)。
この地域には、大昔からコルクガシが自生していました。

コルク生産の中心はポルトガルで、コルクの約半分がポルトガルで作られています。
この他に、スペイン、イタリア、フランス、モロッコ、アルジェリア、チュニジアなどが主な生産国。

地中海沿岸では、年間約30万トンのコルクが生産されています。
イタリア産は約15,000トン。
そのうち12,000トンがサルデーニャ産。


Alberi imbottigliati
サルデーニャのコルクガシ。
下の赤茶色い部分が皮をはいだ跡。



はいだ跡のアップ
なんとなくコルクの面影が・・・。


Sughero
はいだ樹皮、つまりコルク。
これを加工してコルク栓にします。



コルクの約70%はコルク栓になります。
その数、年間約150億個。

ところが最近は、合成コルクやスクリューキャップがすごい勢いで天然コルクに取って代わっています。
このまま行けば、天然コルクの販売数は激減しかねません。

コルクは木を伐採して作るから環境破壊につながる、というイメージがあるかもしれません。
ところが実際には、木を伐採して作るのではないし、逆に天然のコルクを使わないことによる環境破壊の方が心配されているんですねえ。

冷静に考えてみれば、確かにコルクは、木を切り倒して作る訳ではありません。
使うのは皮だけですから。
だから、地中海西部の沿岸部には、昔からコルクガシの豊かな林がありました。

コルクガシにはドングリがなります。
ドングリは、野生動物の貴重な食糧。
スペインのイベリコ豚も、コルクガシのドングリを食べているのだとか。
さらに、コルクガシの枝には鳥が巣を作ります。
コルクガシの林は、貴重な生態系の一部なのです。
これがなくなれば、環境に大きなダメージを与える可能性があります。

ても、今後、合成コルクやスクリューキャップの勢いが減るとは思えません。
代替品が増えれば、天然のコルク栓の売り上げが減る。
 ↓
すると、コルクガシの利用価値が下がる。
 ↓
コルクガシの林がなくなる。
という訳です。

WWFは、今後10年で地中海西部のコルクガシの75%が失われる、と予想しています。
WWFの数字がどれだけ信用できるものかは別にしても、少なくともサルデーニャのコルクガシの林は姿を消しつつあるそうです。

コルクガシをもっと有効に使う方法を考えないと、コルクガシの林は地中海から消えてしまう運命に・・・。
そうなったら、天然のコルク栓は貴重品になってしまうのかもしれませんねえ。


↓ポルトガルのコルクの収穫(英語)





コルクの生産が主要産業になっている地方もあるポルトガルにとっては、コルク栓の売上減少は死活問題。

↓天然コルク栓を支持します、というアメリカのワインメーカーたち(英語)





↓もっと過激に天然コルク栓をアピール。
合成品は環境を破壊する、とラップで訴えてます。






ところで、コルクをどうやってコルク栓にするか、知っていますか?
次はその話。


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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2009年4月号
“サルデーニャのコルク”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年4月号に載っています。

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2011年10月7日金曜日

イタリアのランチボックス、スキッシェッタ

今日はお弁当の話。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の解説です。

“ベントー”がニューヨークあたりで人気、という話は、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
弁当箱を売っている日系の店もあったりして、かなり本格的なお弁当を作るニューヨーカーもいるようですね。

でも、これはあくまでもインターナショナルな大都会、ニョュ―ヨークの話。
食に関しては保守的で、昼食に長い時間をかけるイタリアで、お弁当はどう受け止められているのでしょうか。

『ラ・クチーナ・イタリアーナ』によると、お弁当はイタリアでも静かに広まりつつあるようです。
ただし、中に詰めるのはご飯ではなく、フリッタータや生ハムなどイタリア式。

ランチにお弁当を食べると言う習慣が広まってきた背景には、都会では昼食の時間が短かったり、不景気で節約志向、というだけでなく、最近のバールやレストランの並のランチには満足できない、というグルメな理由もあるようです。

ただ、イタリアの最近流行りのお弁当は、日本のものとはかなりイメージが違います。
弁当箱が飯盒(はんごう)なんです!
しかも、ロンドン、パリ経由でミラノに入ってきたトレンドだとかで、なかなかお洒落な飯盒なんです。


アンティークの飯盒



どうも日本人としては、飯盒はご飯を炊くためのもののような気がしてしまいますが、そもそも飯盒は、ヨーロッパで生まれたものなんだそうです。
それなら、ヨーロッパの人が飯盒にランチを詰めたところで、なんの不思議もありません。
元々ヨーロッパでは、飯盒は兵隊や肉体労働者の食事を詰めたり作ったりする容器として使われていました。
彼らが飯盒の蓋を閉める時、食べ物をぎゅうぎゅう押し込んだところから、ミラノでは飯盒のことを“スキッシェッタ schiscetta”(標準語ではスキアッチャータ schiacciata)と呼んでいました。
それが最近のお洒落なトレンドによって復活し、ミラノ以外でもお弁当のことをスキッシェッタと呼ぶようになりました。

イタリアの“飯盒”はこんなイメージ


ちなみに、ミラノでは最近の学校給食の質の低下がひどく、保護者による“スキッシェッタ・デイ”という抗議活動が行われました。
学校へは食べ物の持ち込みが禁止されているのですが、給食があまりにまずいので、家からお弁当を持っていかなくてはならないほどなんだそうです。


↓スキッシェッタ用のインサラータ・ディ・リーゾ。
最初に、「ミラノでは“スキッシェッタ”、オリエントでは“ベントー・ボックス”と呼びます」と言っていますね。





材料は、ゆでた黒米とインディカ米、トマト、アスパラガス、フェタ、ペスト・ジェノヴェーゼ、マグロの小角切り。




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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年4月号
“ランチボックス”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年4月号に載っています。

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2011年10月3日月曜日

イタリアのアルタ・クチーナの現状

今日はミシュランの話。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の解説です。

2011年版のミシュランの3つ星店、日本は東京と大阪合わせて26軒でした。
この数はご本家のフランスと同じ。
すごいですねえ。
というか、ミシュランの販売戦略が露骨に出た結果なんでしょうか。


Michelin Guide party
↑サンフランシスコ版の3つ星は2軒。
アメリカはこの他に、ニューヨーク、シカゴを合わせても9軒。


さて、それではイタリアは何軒でしょう。

答えは・・・6軒です。

毎年、ミシュランが発売になるたびに、イタリアのマスコミからは不満の声が噴出します。
しかも、ドイツがイタリアより多い9軒、という事実が、イタリア人のプライドをますます傷つけています。
イタリアとフランスはやっぱり天敵同士なんだ、というけんか腰の意見は、当分消えそうもありません。
さらに、3つ星店のメンツが毎年ほとんど変わらないということも、業界の停滞ぶりを象徴しています。

『ラ・クチーナ・イタリアーナ』誌では、この数字を冷静に分析しています。

「勢いを失っているのはイタリア料理ではない。
むしろイタリア料理は、ヘルシーな料理として世界中に認められている。
勢いを失っているのはレストラン業界なのだ」

「イメージとは逆に、フランス人はイタリア料理の神髄、つまり、家庭やトラットリーアのイタリア料理をとても高く評価している」

「外国でこんなに愛されている私たちの料理を、今のイタリアの高級レストランで見つけることができるだろうか」

「現代イタリア料理は、フランスやスペインで生まれたトレンドの後を追うだけになっている。
ルーツである地方料理を切り捨てて、しっかりした土台のない道を歩んでいるのだ」

「豊かな地方料理こそがイタリアの切り札だ。
グアルティエーロ・マルケージは、常にパダーナ地方の料理に忠実だった。
金箔のリゾット、ラヴィオリ・アペルト、コトレッタ・ミラネーゼのパズルといった彼の料理は革新的だが、ベースはこれ以上ないほどイタリア的だ」

「このまま行くとアルタ・クチーナは、美食家のためのものではなく、好奇心と流行を追う人のためのものになってしまうだろう。
この傾向は逆に、ドイツなど突出した美食文化のない国には追い風だ」


すべてがごもっとも。
冷静で鋭い分析。
言われてみれば日本の外食産業も、特に西洋料理やエスニック料理は、流行、話題、珍しさを追う人のためにある店がかなり多いのでは。


おまけの動画。
↓ヨーロッパでもっとも若い33歳の3つ星シェフ、アンドレアス・カミナーダ氏。
ドイツのレストラン。







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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
“ミシュランとイタリア料理”の記事は、「総合解説」'08&'09年3月号に載っています。

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2011年9月29日木曜日

タコのパスタ

タコの話、今日はパスタのリチェッタです。

タコのパスタというと、トマト煮をスパゲッティのソースにする、というのが定番。
さらに、オリジナルのタコのパスタも色々あります。

↓ヴェローナのリストランテ・アッラ・フィエーラRistorante alla Fieraは、新鮮な魚がスペチャリタ。
動画で紹介しているのは、タコの肝のフジッリ。
オリーブオイルに塩少々を加えて熱したところにタコの肝を入れて溶き、これでパスタをあえます。
パスタはブロンズのダイスに通して作ったフジッリ。
パスタの上にはタコのカルパッチョをトッピング。
タコのカルパッチョはタコをミンサーで挽き、-20度で24時間冷やし固めてからスライス。
仕上げにパルミジャーノの柔らかい部分を散らします。




後半のイカ墨のパスタは、墨と刻んだイカのワタを混ぜて玉ねぎのソッフリットに加えています。


次は、“リチェッテ・ディ・オステリーエ・ディ・イタリア”シリーズの『パスタ』から、タコのコルゼッティ。
ジェノヴァのトラットリーア・バリゾーネTrattoria Barisoneのリチェッタです。

タコのコルゼッティ Corsetti al polpo
材料:6人分
 コルゼッティ・・500g
 タコ・・1杯
 トマト・・500g
 にんにく・・2かけ
 ローリエ・・3枚
 イタリアンパセリ・・1枝
 タッジャスカオリーブ・・50g
 松の実・・50g
 辛口白ワイン・・1カップ
 バター・・50g
 EVオリーブオイル
 塩、こしょう
 砂糖・・小さじ2

・にんにくのみじん切り、松の実、ローリエ、オリーブをオリーブオイルでソッフリットにし(しんなり炒める)、ワインをかけてアルコール分を飛ばす。
・タコは小さく切る。トマトは小角切りにする。
・ソッフリットにタコ、トマト、水500mlを加えて蓋をし、とろ火で約1時間煮る。
・タコが十分柔らかくなっていない時はさらに煮る。必要なら水を少量足す。
・柔らかくなったら塩、砂糖、イタリアンパセリのみじん切り、バターで調味する。
・コルゼッティをアルデンテにゆで、タコのソースのフライパンに加えてソースをしっかり吸わせる。
・仕上げにオリーブオイルを回しかけてこしょうを散らす。



コルゼッティはリグーリアの伝統的なパスタですが、タコのソースとの組み合わせはオリジナル。


↓コルゼッティの型職人。






次はサルデーニャの伝統料理の本、『La cucina sarda di mare』から。

タコのマッロレッドゥス Malloreddus con il polipo
材料:4人分
 マッロレッドゥス・・400g
 タコ・・500g
 塩漬けアンチョビ・・1尾
 EVオリーブオイル
 イタリアンパセリ・・1枝
 玉ねぎ・・2個
 完熟トマト(ポモドーリ・サルディ種)・・250g
 塩、こしょう

・タコは輪切りにする。玉ねぎも輪切りにする。
・鍋にタコ、オリーブオイル1/2カップ、玉ねぎ、イタリアンパセリのみじん切りを入れて煮る。水や塩は加えない。
・トマトを薄い輪切りにし、オリーブオイル大さじ2で強火で焼く。塩抜きして骨を取ったアンチョビを加えて溶かす。
・タコをトマトのフライパンに加えて10分なじませる。
・パスタをアルデンテにゆでてソースに加え、なじませる。皿に盛り付けてイタリアンパセリのみじん切りを散らす。



↓マッロレッドゥス。
時々音声が消えてます。





同じ本からサルデーニャ料理をもう1品。

タコのラグーのリングイーネ Linguine al ragù di polipo
材料:4人分
 リングイーネ・・400g
 タコ・・1杯
 にんにく・・1かけ
 白ワイン(ヴェルメンティーノ・ディ・サルデーニャ)・・1/2カップ
 EVオリーブオイル・・大さじ4
 塩漬けアンチョビ・・1尾
 チリペッパー・・少々
 トマトのパッサータ・・1/2カップ
 白ワインビネガー・・大さじ2
 塩

・タコはたっぷりの水で柔らかくなるまでゆで、粗く刻む。
・オリーブオイルににんにくのみじん切り、チリペッパー、塩抜きしたアンチョビを入れて炒め、タコを加えて8~10分炒め煮にする。
・ワインをかけてアルコール分を飛ばし、トマトのパッサータを加えてビネガー少々をかけながら煮る。
・パスタをアルデンテにゆで、ソースに入れてなじませる。



最後はカラプリアのタコのスパゲッティ。
カラプリアの伝統料理の本、『La cucina calabrese di mare』から。

タコのスパゲッティ Spaghetti al sugo di polpo
材料:4人分
 スパゲッティ・・400g
 タコ・・1杯(600g)
 トマトソース・・500ml
 玉ねぎ・・1個
 イタリアンパセリ・・1束
 辛口白ワイン・・1/2カップ
 EVオリーブオイル
 塩、こしょう(またはチリペッパー)

・タコは小さく切る。
・玉ねぎのみじん切りをオリーブオイル大さじ5でしんなり炒める。タコを加えて弱火で炒め、水気がなくなったらワインをかけてアルコール分を飛ばす。
・トマトソース、イタリアンパセリ1枝のみじん切り、こしょうかチリペッパーを加え、蓋をして約1時間煮る。途中でレードル1杯の湯を加える。
・塩味を調えて火から下ろす。
・パスタをアルデンテにゆでてソースであえる。皿に盛り付けてイタリアンパセリのみじん切りをたっぷり散らす。







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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
“イカ、タコ”の記事の日本語解説は、「総合解説」08&09年3月号に載っています。

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2011年9月26日月曜日

タコのアッフォガート・アッラ・ルチャーナ

モスカルディーニの話をしたついでなので、今日はタコの話。

タコは歯ごたえがあるので自然とよく噛んで食べることになり、そうすると満腹中枢が刺激されて、食事の量が減るんだそうですねえ。
しかもカロリーが低い。
血圧を下げて肝臓の働きを助けるタウリンや、コラーゲンも豊富と、かなり魅力的な食材です。


100_1344.JPG
シチリアのゆでダコ


Polpo candito e insalata di panee pomodori ciliegino
フィレンツェのホテル・ブルネレスキのレストラン、サンタ・エリザベッタの“タコのカンディート”



イタリアのタコ料理の代表的なものは、タコのサラダInsalata di polpoや、タコのアッフォガートPolpo affogatoといったところでしょうか。
サラダにする時は、じゃがいもやセロリが定番の組み合わせ。

このブログでもタコ料理は、こちら(ゆでダコとタコのカッチャトーラ)やこちら(タコのサラダとカルパッチョ)で紹介しています。

ちなみに、以前『タコ』のブログで吸盤が1列の砂場のタコについて書きましたが、これはモスカルディーニの一種のモスカルディーノ・ビアンコ(moscardino bianco/Eledone cirrosa)のこと。
写真
いわゆる普通のモスカルディーニ(ジャコウダコ)は、Eledone moschataという種類。
モスカルディーノ・ビアンコをマダコ(ポルポ)と間違えるケースも多いそうですが、そんな時は吸盤の列をチェック。


タコのアッフォガートは、ポルポ・アッラ・ルチャーナPolpo alla Lucianaとか、ポルポ・アッフォガート・アッラ・ルチャーナとも呼ばれます。
ルチャーナとは、ナポリの漁師町、サンタ・ルチーア地区のこと。


Polpo alla Luciana
ポルポ・アッラ・ルチャーナのスパゲッティ


実は、伝統的なタコのアッラ・ルチャーナとは、タコの蒸しゆでの一種で、トマト煮ではありません。
でも、タコのトマト煮、つまりタコのアッフォガートのことをアッラ・ルチャーナと呼ぶ人が増えて、今ではトマト煮としてほぼ定着しているようです。

“タコのルチャーナ”はその名前からしてナポリ料理ですが、タコのアッフォガートは南イタリア各地にあります。
リチェッタも様々。
基本は、生のタコをタコから出た水分とトマトで蒸し煮にする、というもの。
アッフォガート(溺れた)という名前の通り、蓋をする前は溺れていないのに、料理が出来上がって蓋を取ったらタコが溺れていた!


↓タコのアッフォガートAffogato di polpo。
材料を鍋に入れてとろ火で3時間蒸し煮。





↓こちらのタコのアッフォガートは、まずオイルとにんにくでタコを炒めてからトマトを加え、35~45分煮ます。





↓そしてこちらは、アッラ・ルチャーナという名前のアッフォガート。
にんにくとプレッツェーモロをオリーブオイルでソッフリットにしてトマトのパッサータを加え、そこにタコを入れて30分煮ます。






タコのアッフォガートは煮汁も大切。
あぶったパンを添えてもいいし、スパゲッティのソースにしても美味しいですよね。
次回はタコのパスタのリチェッタです。




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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
“イカ、タコ”の記事の日本語解説は、「総合解説」08&09年3月号に載っています。

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2011年9月22日木曜日

モスカルディーニ料理

今日はタコの話の続き。

地中海固有のタコ、モスカルディーニ。
イタリア沿岸では、アドリア海を中心に、北から南まで各地で獲れます。
イイダコにそっくり。

その名前はジャコウの香り(モスカート)のタコ、という意味で、生きているモスカルディーニは実際にジャコウの香りがするんだそうです。
料理も、この香りを消さないようにシンプルに調味します。

料理には、軟らかい小型のものが好んで使われます。
ゆでるとリアルタコさんウインナー。


HPIM0439
モスカルディーニのマファルデ(パスタ)


モスカルディーニのスパゲッティ


真っ赤なトマト煮のモスカルディーニとあざやかなポレンタの黄色が食欲をそそるモスカルディーニのジェノヴァ風


同じグリーンピース入りトマト煮でも、あぶったパンを添えると一段と地中海風



↓モスカルディーニの下ごしらえの仕方






↓モスカルディーニのサンタ・ルチア風(ナポリ料理)。






↓フラスカーティのレストランの“モスカルディーニのネロ風”






モスカルディーニ・アッラ・ピッツァイオーラ

ケッパー、オリーブ、トマト、オレガノ入り。
付け合わせはチーメ・ディ・ラーパ。




“リチェッテ・ディ・オステリーア・ディ・イタリア“シリーズの『ペッシェ』から、モスカルディーニのリチェッタをどうぞ。


まずは、アドリア海に面したアブルッツォ州ヴァストという町の料理。

漁師のモスカルディーニ Moscardini del pescatore
材料:4人分
 モスカルディーニ・・800g
 にんにく・・2かけ
 玉ねぎ・・1/2個
 イタリアンパセリ・・一握り
 トマトソース・・大さじ1弱
 白ワイン・・1/2カップ
 オリーブオイル
 塩、こしょう

・モスカルディーニは掃除する。
・にんにくと玉ねぎをみじん切りにしてオリーブオイルで炒める。色が付いたら溶いたトマトソースを加える。
・モスカルディーニを加え、中火で蓋をせずに煮る。
・塩、こしょうで調味してイタリアンパセリのみじん切りを散らす。
※モスカルディーニは10cm以下の若いものが最適。




次はナポリ料理。
リストランテ・ア・リドッソ(webページはこちら)のリチェッタ。

モスカルディーニのトマト煮 Moscardini in cassuola
材料:4人分
 モスカルディーニ・・800g
 ミニトマト・・12個
 にんにく・・2かけ
 イタリアンパセリ・・1枝
 赤唐辛子・・1片
 ブロード・・レードル1杯
 EVオリーブオイル・・1カップ
 塩

・モスカルディーニは掃除する。
・にんにくと唐辛子をみじん切りにしてオリーブオイルで炒める。
・モスカルディーニを加え、にんにくが焦げ付かないようにブロード少々をかける。
・半分火が通ったら(約7分)半分に切ったミニトマトを加えてイタリアンパセリを散らし、塩とオイルを加えてさらに約7分煮る。
・まだ柔らかければブロード少々をかけて数分煮る。
・あぶったパンのクロスティーニを皿に置き、その上にモスカルディーニを煮汁ごと盛り付ける。






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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
“イカ、タコ”の記事の日本語解説は、「総合解説」08&09年3月号に載っています。

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2011年9月20日火曜日

モスカルディーニ

イカの次はタコの話。

タコ(マダコ)は、イタリア語ではpolpo(ポルポ)。
piovra(ピオーヴラ)と呼ぶこともあります。


Polpo (octopus) and latte di pesce (soft roe / milt)
ヴェネチアのリアルト市場のタコ


最近のイタリアでは、イカの消費量は増えて、タコの消費量は減る傾向にあるようです。
ISMEAの統計によると、イタリアのマダコの漁獲高は年々減り続け、2007年は約3,700tでした。
ちなみに、日本のタコの漁獲高は約5万t。

逆に冷凍品の輸入は増えて、2008年は50,900t。
これは日本(44,700t)より多く、EU諸国の中では1位。
2位はスペインで42,600t。

イタリアへの輸出量が多いのは、モロッコ、スペイン、ベトナム、インドネシア、セネガル、タイ、メキシコ、モーリタニア、チュニジアの順。
中国の名前がないことを除けば、日本とだいたい同じです。
冷凍品に関しては、日本もイタリアも、同じようなタコを食べているようですね。

日本人は世界で獲れるタコの半分以上を食べているそうですが、イタリアではポピュラーなのに日本ではお目にかかれないタコもあります。

それは、モスカルディーノmoscardinoというタコ。
地中海固有の種です。
学名はEledone moschata
日本では、英名のmusky octopusを訳してジャコウダコと呼ばれたりするようです。
小型のものはイイダコにそっくりですが、イイダコは東アジア固有のタコ。


モスカルディーニは主に泥地に棲み、マダコより小型。
見分けるコツは吸盤で、マダコは2列なのに対してモスカルディーニは1列です。
イイダコも太い部分は2列。


↓モスカルディーニは根元も吸盤は1列。






↓これも吸盤が1列なのでモスカルディーニ。
新鮮なタコやイカの見分け方は、指でつついた時にその部分の色合いが変わるものはとても新鮮、と説明しています。







Moscardini e patate

↑足の切れ端しか見えなくても、吸盤が1列なので、これはモスカルディーニだと分かりますね。

トマト煮にすることが多いモスカルディーニ。
次回はリチェッタです。



↓おまけのビデオ。
イカの見分け方。
イカの話の時に説明しましたが、動画があったのでどうぞ。
コウイカとスルメイカの見分け方は、ヒレの大きさと位置。
seppie/セッピエ=コウイカ、calamari/カラマーリ=ヤリイカ、totani/トータニ=スルメイカ







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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
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2011年9月15日木曜日

イカ墨のスパゲッティ

イカ墨の話の続きです。

イカ墨の美味しさを世界中に広めたのは、何と言ってもイタリア人の功績。
しかも、イタリアの代名詞でもあるスパゲッティとの組み合わせは鉄板。

イカ墨料理と言えばヴェネト州が有名ですが、ヴェネトの代表的なイカ墨料理は、イカ墨のリゾットイカの墨煮

Risoto al Nero di Sepia
ヴェネチアのRistorante Da Ivoのイカ墨のリソット


イカの墨煮



パスタの種類をスパゲッティに限定すれば、スパゲッティは歴史的には南イタリアの伝統食材なので、イカ墨のスパゲッティも南部の伝統料理。
中でもシチリアは、イカ墨スパゲッティの元祖、と主張する声が多いようです。
もちろん例によって確たる証拠は何もありませんが、例えば・・・

「昔からシチリア人は、何も無駄にしないでどんなものでもうまく料理に使った。
イカ墨だって例外ではない。
イカ墨がシチリア人の豊かな想像力によって生まれ変わったのが、イカ墨のスパゲッティだ」


でも、イカ墨スパゲッティの伝統料理は、サルデーニャやカラプリアにもあります。
リチェッタの基本はほぼ同じです。


↓シチリアのジョイオーザ・マリーナという海辺の町で、町一番のイカ墨パスタ名人が教えるリチェッタ。




 
実は上の動画は、45分番組(こちら)の一部。
番組は料理名人を探すところから始まっています。
そして選ばれた料理名人の家(テラスから海が見える素敵な家)に泊めてもらって、数日滞在しながら調理過程を撮影。

長いですが、温かいシチリア人のもてなし方がよーくわかる動画です。
コウイカは、魚屋さんで墨袋を外してもらうんですね。

材料と作り方の説明は26:30から。


それでは、南イタリア各地のイカ墨スパゲッティのリチェッタをどうぞ。

イル・ディアマンテ・デッラ・グランデ・クチーナ・ディ・シチリア』のカターニア(シチリア)風イカ墨のパスタ。

カターニア風イカ墨のスパゲッティーニ Pasta col nero delle seppie (Catania)
材料:
 スパゲッティーニ・・600g
 墨袋付きコウイカ・・500g
 玉ねぎ・・1個
 トマト・・300g
 ローリエ・・1枚
 イタリアンパセリ
 ペコリーノ・スタジョナート・・100g
 オリーブオイル
 塩、こしょう

・イカは墨袋を外して細く切る。
・玉ねぎの薄切りとイタリアンパセリをオリーブオイルで炒め、皮をむいて小さく切ったトマト、イカを加えて煮る。
・ソースが煮詰まったらイカ墨を加える。
・パスタをゆでてソースであえ、おろしたペコリーノ・スタジョナートを散らす。





『La cucina calabrese di mare』(Alba Allotta著)より、カラプリア風イカ墨のパスタ。

イカ墨のスパゲッティ Spaghetti al nero di seppia
材料:4人分
 スパゲッティ・・400g
 コウイカ・・2杯
 トマトソース・・1カップ
 にんにく・・1かけ
 イタリアンパセリ・・1束
 EVオリーブオイル・・大さじ6
 塩、赤唐辛子

・イカは墨袋を外して細く切る。
・にんにくとイタリアンパセリをみじん切りにしてオリーブオイルと唐辛子少々で炒める。
・イカを加えて数分炒め、トマトソースと塩を加えて10分煮る。
・ソースが煮詰まったらイカ墨を加えてよく混ぜる。
・レードル1杯の水を加える。蓋をして、時々かき混ぜながら弱火で45~50分煮る。
・パスタをアルデンテにゆでてソースであえる。





『La cucina sarda di mare』(Laura Rangoni著)より、サルデーニャ風イカ墨のパスタ。

イカ墨のスパゲッティ Spaghetti con seppie, pomodoro e pecorino
材料:4人分
 スパゲッティ・・400g
 小コウイカ・・450g
 EVオリーブオイル・・大さじ4
 ヴェルメンティーノ・ディ・サルデーニャ・・1カップ
 ドライトマト・・8~10個
 玉ねぎ・・1個
 おろしたペコリーノ・・50g
 塩、こしょう

・イカは墨袋を外して細く切る。
・玉ねぎの薄切りをオリーブオイルで炒め、イカ、小さく切ったドライトマト、塩、こしょうを加える。
・蓋をして、時々かき混ぜながら弱火で40分煮る。途中でワインの3/4をかける。
・イカ墨と残りのワインを加えて煮詰める。
・パスタをアルデンテにゆでてソースであえる。皿に盛り付けておろしたペコリーノを散らす。



シチリアのイカ墨パスタは、シチリアのペコリーノ・スタジョナートを散らすのがポイントですかね。
動画ではフィノッキエット・セルヴァティコを加えていたので、これで文句なくシチリアの香りになります。

カラプリアのイカ墨パスタは、やはり唐辛子入り。

サルデーニャのイカ墨パスタは、地元の白ワイン、ヴェルメンティーノ・ディ・サルデーニャ入り。

トマトは、パッサータ、トマトソース、生トマト、ドライトマト、トマトピューレと、様々なバリエーションがあります。



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
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2011年9月12日月曜日

イカ墨

今日はイカの話。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の解説です。

イタリア語と比べると、日本語の“イカ”というのはとても便利な言葉です。
ヤリイカもスルメイカもコウイカも、全部イカですもんね。

でも、英語やイタリア語には、“イカ”という言葉がありません。
ヤリイカ類とコウイカ類では、まったく別の名前がついています。


cuttlefish squid

上の2種類のイカ、日本語では左はコウイカ、右はヤリイカ
英語では、左はcuttlfish、右はsquid。
イタリア語では、左はseppia/セッピア、右はcalamaro/カラマーロ

この他に、スルメイカはイタリア語では、totano/トータノ

日本ではおなじみのスルメイカですが、イタリアではヤリイカの方が一般的。
イカを総称する時は、カラマーリと呼ぶケースが多いようです。
イタリアでヤリイカとスルメイカを見分ける時は、ヒレ(エンペラ)の位置と長さを見たりします。
ヒレが長くて頭の半分以上あるのがヤリイカ。
頭の先端部分にあるのがスルメイカ。

スルメイカ



イカの総称にはカラマーリが使われることが多くても、“イカ墨”と言う時だけは、「ネーロ・ディ・セッピアnero di seppia」と言います。
イカ墨のスパゲッティは、“スパゲッティ・アル・ネーロ・ディ・セッピアSpaghetti al nero di seppia”。

このとこからも分かるように、料理に使うイカ墨はコウイカのものが一番、というのがイタリアの定説です。


セッピアという言葉は、「セピア色」の語源。
つまり、セピア色とは、コウイカの墨から作った絵具で描いた色のこと。
黒みのある茶色です。

Piazetta San Marco
セピア色のサン・マルコ広場(ヴェネチア)



L1140309
ヴェネチアのイカ墨のスパゲッティ


“イカ墨色”だと真っ黒い色を想像しがちですが、セピア色は、イカ墨で描いたものが色あせた時の暗褐色のことなんだそうです。

ちなみに、墨汁などの墨は、イタリア語ではネーロ・ディ・セッピアとは言いません。
こちらは“インキオストロ・ディ・キーナinchiostro di china”(中国のインク)と言います。
英語では“チャイニーズ・インクchinese ink”です。


墨は、ヤリイカにもスルメイカにもあります。
英語では、イカ墨のことをsquid ink(ヤリイカのインク)と呼びます。
これはおそらく、コウイカが手に入りにくいため、イカ墨と言えばヤリイカの墨、ということなのでしょう。

もちろんイタリアにも、コウイカが手に入らない場所もあるし、ヤリイカの墨を使ったスパゲッティだってあります。
では、ヤリイカの墨を使ったイカ墨のスパゲッティ、と言いたい時は、なんと呼ぶのでしょうか。

答えは、“スパゲッティ・アル・ネーロ・ディ・カラマーリSpaghetti al nero di calamari"。
でも、実際にレストランでこういう名前の料理を見ることはまずありません。
ということは、イカ墨のスパゲッティは、全てコウイカの墨を使っているということなのか・・・。
それとも、ヤリイカやスルメイカの墨を使っていても、習慣的にネーロ・ディ・セッピアと呼んでいるのか・・・。
おそらく後者ですね。


とにかく、日本ではあまりなじみのないコウイカやコウイカの墨。
イタリアに行ったら食べてみるに越したことはありません。


↓コウイカの墨袋の外し方






イカ墨の話、次回に続きます。




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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
“イカ、タコ”の記事の日本語解説は、「総合解説」08&09年3月号に載っています。

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2011年9月8日木曜日

サルデ・ア・ベッカフィーコ、リチェッタ編

シチリアのもどき料理の話の続きです。

同じ島の中でも、西のパレルモと東のカターニアでは少し違う料理、サルデ・ア・ベッカフィーコ。

パレルモ風


カターニア風


それぞれのタイプの動画は前回のブログでどうぞ。


この料理、バリエーションがたくさんあるのでリチェッタをあれこれ集めてみました。

まずはおなじみ、『イル・ディアマンテ・デッラ・グランデ・クチーナ・ディ・シチリア』から、伝統的なリチェッタ。

カターニア風サルデ・ア・ベッカフィーコ(フリット) Sarde a beccafico fritte alla catanese
材料:
 小さすぎないイワシ・・1kg
 パン粉・・100g
 こしょう入りペコリーノ(おろす)・・100g
 にんにくとイタリアンパセリのみじん切り
 溶き卵・・3個分
 衣用溶き卵・・2個分
 小麦粉・・100g
 強いビネガー
 オリーブオイル
 塩、こしょう

・イワシは開いて骨を取り、ビネガーでマリネする。
・パン粉、ペコリーノ、にんにくとイタリアンパセリのみじん切り、溶き卵を混ぜて塩、こしょうで調味する。
・混ぜた材料を少量ずつまとめて平らにし、イワシ2枚ではさむ。
・溶き卵、小麦粉の順でつけてオリーブオイルで揚げる。
・熱いうちに、または冷めてからサーブする。



メッシーナ風サルデ・ア・ベッカフィーコ(トマトソース煮) Sarde a beccafico al sugo

・カターニア風と同様に下ごしらえして揚げる。
・玉ねぎの薄切り、イタリアンパセリ、ホールトマトをオリーブオイルで炒めて塩、こしょうで調味する。
・ここに揚げたイワシを入れ、水を加えてひたひたに覆う。
・蓋をして煮る。
・イワシを取り出してセコンド・ピアットにし、煮汁はスパゲッティのソースにする。




パレルモ風は、トラットリーアのリチェッタをどうぞ。

リチェッテ・ディ・オステリーア・ディ・イタリア”シリーズの『ペッシェ』から。

パレルモ近郊のトラットリーア・ドン・チッチョ(webページ)のリチェッタ。


サルデ・ア・ベッカフィーコ Sarde a beccafico
材料:6人分
 中型のイワシ・・1.2kg
 玉ねぎ・・大2個
 ローリエ
 サルタナレケーズン・・100g
 松の実・・50g
 パン粉・・100g
 レモン・・2個
 カチョカヴァッロ・・200g
 オリーブオイル
 砂糖
 塩、こしょう

・玉ねぎ1個はみじん切りにし、レーズン、松の実、おろしたカチョカヴァッロと混ぜてオリーブオイル、塩、こしょうで調味する。
・ここにパン粉を加え、均質の詰め物にする。
・イワシは掃除して開く。
・イワシに詰め物を少量ずつのせて巻く。
・ローリエと玉ねぎの薄切りを1枚ずつはさみながらイワシをオーブン皿に詰める。
・オリーブオイル、レモン汁、砂糖をホイップしてイワシにかける。
・200度のオーブンで10~15分焼く。




最後はパレルモ風の現代版家庭料理。

“Gli illustrati”シリーズ『ラ・クチーナ・シチリアーナ』から。


サルデ・ア・ベッカフィーコ Sarde a beccafico
材料:4人分
 中型のイワシ・・500g
 パン粉・・約100g
 松の実・・大さじ2
 パッソリーナ(小粒で黒いシチリアの料理用レーズン)・・大さじ2
 にくにく・・1かけ
 レモン汁
 EVオリーブオイル
 塩、こしょう
 ローリエ

・イワシは開く。
・パン粉を焼き色がつくまで炒めてボールに移し、オリーブオイル(少しずつ)、にんにくのみじん切り、松の実、ぬるま湯で戻したレーズンを加える。
・イワシは皮目を下にし、詰め物を少量のせて巻く。
・オーブン皿に油を塗る。間にローリエをはさみながらイワシを詰める。焼いている間に開かないようにきつく詰める。
・レモン汁を搾って塩、こしょう、オリーブオイルを加える。これをイワシにかける。
・高温すぎないオーブンで10~15分焼く。冷めても美味しい。







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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
サルデ・ア・ベッカフィーコを含む“パレルモ”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年3月号に載っています。

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2011年9月5日月曜日

サルデ・ア・ベッカフィーコ

シチリア料理の話、続けます。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の解説です。

モンズーによって独特の貴族料理が生まれたシチリア。
その料理は、モンズーの見習い料理人などを通してシチリアの庶民の間にも知られていきました。

モンズーが活躍した時代は、フランス革命やナポレオン戦争を経て、イタリアが統一に向かっていた時期です。
古い貴族社会には斜陽の兆しが漂い、平民からは裕福な新興ブルジョワジー層が誕生して、新しい時代の担い手となっていこうとしています。

庶民にはパワーがありました。
それが、シチリアならではの大らかさ、自由な発想、ユーモア、そして貴族への憧れと結びついて生まれたのが、シチリアの「もどき料理」です。

そんなもどき料理の代表的な一品が、サルデ・ア・ベッカフィーコSarde a beccafico。
今や、イタリアを代表するイワシ料理の1つです。

こんな料理

“ベッカフィーコ”とは、ニワムシクイという野鳥。
体長14cm、重さ16~22gというスズメ程度の小鳥です。

日本語では「庭の虫を食べる鳥」という意味ですが、イタリア語では、“ベッカ”は「ついばむ」、“フィーコ”はイチジク。
つまり、「イチジクを食べる鳥」という意味。
しかも、熟したイチジクだけを食べるグルメな鳥なんだそうです。


↓ベッカフィーコ






この小鳥を、シチリアの貴族は狩りでしとめて食べていたわけですが、なかなか美味しかったようで、その料理は貴族の間ではとても人気がありました。
そして庶民がその外見をコピーしたのが、サルデ・ア・ベッカフィーコです。
ただし、この料理にも諸説あって、たまたま外見が似ていたから、後付けで名付けたと言う説もあります。

いずれにしても、貴族しか食べることが出来ない高級料理を、よりによって超格安なイワシとパン粉で再現するとは、シチリアの庶民はなかなかユーモアの分かる人たちです。

貴族たちは、ベッカフィーコの尾をつまんで食べたのだそうです。
だから、オリジナルに忠実に作るなら、この料理はイワシの尾をつけて作るのが正統派。

ところが、この料理もアランチーニと同じで、パレルモ派とカターニア派に分かれているんですねえ。
パレルモ派とカターニア派では、同じサルデ・ア・ベッカフィーコという名前でも、見た目がまったく違います。
パレルモ派は1枚のイワシに詰め物をのせて巻き、カターニア派は2枚の平らな切り身で詰め物をはさみます。


↓カターニア派のサルデ・ア・ベッカフィーコ






↓パレルモ派(英語)







では、次回はサルデ・ア・ベッカフィーコのリチェッタです。



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
サルデ・ア・ベッカフィーコを含む“パレルモ”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年3月号に載っています。

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