2021年11月30日火曜日

パスタ入門編、その4、トロフィエは地元の人から教わるしか作り方が伝わらない不思議なパスタ。

パスタのお題中ですが、今月(3月号)の(CIR)に、お題にピッタリの記事がありました。
“各地の定番パスタP.20”です。
地方料理の定番を紹介する連載記事です。
イタリアの地方料理の定番に選ばれたパスタ・フレスカは、
トロフィーエTrofie、マッロレッドゥスMalloreddus、オレッキエッテOrecchiette、ピッツォッケリPizzzoccheri、ブジアーテBusiateという、よく考えられたラインナップでした。

トロフィーエ、マッロレッドゥス、オレッキエッテは、いずれもニョッキの一種です。それぞれ、少量取った生地の塊(ニョッキ)を、潰しながらねじる、潰しながら筋をつける、潰しながらくぼませる、という加工をします。
先端が細いショートパスタ、トロフィーエは、成形という点ではとても特殊なパスタです。
生地を厚さ○mmに伸ばして幅○mmに切る、といった万人に伝わるような客観的な製法がなく、見て覚えるしかないこのパスタは、発祥地と考えられているレッコReccoを中心に、リグーリアのリビエラ・レバンテ地方の主婦の技として受け継がれてきました。地元の人に教わらないと再現できない貴重なパスタです。

トロフィーエ

すべてのパスタの形は美味しく食べるためのもの。
リグーリアの人は、このパスタにペースト、じゃがいも、さやいんげんのソースを組み合わせました。
それは、奇跡的な相性の良さでした。そしてトロフィエと一緒に地元の外へ広まっていき、イタリアの地方料理の定番パスタと呼ばれるまでになり、トロフィエの乾麺も登場して、内外に広まりました。


リチェッタは今月の(CIR-P.20)にありますが、一応、上の動画のレッコのリストランテ(昔ながらの伝統料理を出す家族経営の老舗)、オ・ビットリオ ristorante da O' Vittorio (webページ)のものも訳してみます。

ペーストのトロフィーエTrofie al pesto
材料/
《トロフィエ》
00番の小麦粉・・500g
ぬるま湯・・200ml
セモリナ粉
《ペースト》
葉の小さいタイプのプラのバジリコ・・160g
ピザの松の実・・70g
EVオリーブオイル・・70ml
グラナかパルミジャーノ・・80g
ペコリーノ・サルド・・50g
にんにく・・1かけ

《トロフィエ》
・小麦粉をフォンタナに盛り、ぬるま湯を加えてこねる。
塩、卵、油は加えない。締まった生地になったら布巾で覆って30分休ませる。
・麺台に包丁で切り込みを数本入れる。生地を左手で少量取り、作業の間、乾かないようにずっと握っておく。
・右手で生地を少量つまみ取って台に置き、手のひらの指の付け根で転がしながら細く伸ばす。
片方の端を小指の側から出し、斜め45度下に向かって潰しながらねじる。
・トロフィエという名前の由来は諸説あるが、トロフィーではなく、ジェノバでは、こするという意味のストロフィナーレstrofinareが語源、という説が信じられている。
・レッコには親指の側でねじるというマニアックな技もある。

《ペースト》
・にんにくと松の実、粗塩少々をミキサーに入れて熱を持たないように数回に分けて撹拌する。バジリコ(熱を持たないように冷凍しておいてもよい。プラのバジリコがない時は下ゆでしてミント風味を飛ばしておく)とオリーブオイルを加えてミキサーをゆすりながら撹拌する。バジリコに熱が入りすぎるとペーストが黒ずむ。グラナ、パルミジャーノ、ペコリーノを加えてさっと混ぜる。
・じゃがいもは皮をむいて厚めにスライスし、塩ゆでする。2分ゆでたらトロフィエと下ゆでしたさやいんげんを加え、3分ゆでて水気を切る。
・ゆで汁少々で伸ばしたペーストであえてバジリコで飾ってサーブする。

作るのがとてもむずかしいパスタなので、乾麺が登場するまで広まらなかったというのは納得です。
逆に手作りできる人は才能に恵まれたラッキーな人、ということができるかも。

次回はオレッキエッテです。

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2021年11月29日月曜日

パスタ入門編、その3。道具を使って成形するパスタ。麺棒かダイスかで道は2つに別れます。

前回は小麦粉と水をこねる、という過程の話でした。
次はいよいよ、パスタ造りの醍醐味、成形です。
北イタリアの軟質小麦粉は、生地の特性を生かした麺棒で薄く伸ばす方法が普及しました。
南イタリアの硬質小麦粉は、パスタ・フレスカ(生麺)とパスタ・セッカ(乾麺)に別れます。
これまではパスタ・フレスカの話でしたが、ここで乾麺が登場します。
乾麺のパスタの作り方は、製粉sfarinareとこねるimpastareの次に、ダイスを通すtrafilare と乾燥essicareの過程が入ります。
小麦粉と水の生地は、そのままでは食べることができません。
湯に入れてゆでたり、ソースをかけて味をつけるといった作業が必要になります。
成形の目的は、生地を美味しく食べられる形にすることです。

生麺の成形方法の一番単純な方法は、ニョッキです。生地を少量取って豆粒大に丸めて筋をつければ完成です。

代表的なのはサルデーニャのマッロレッドゥスMalloreddus。
ちなみにリチェッタは今月の(CIR)の“各地の定番パスタP.20”の記事にあります。

パスタ・フレスカの基本の形、ニョッキの次は麺棒で薄く伸ばすパスタ・リッシャPasta liscia、指先や道具を使って成形するオレッキエッテやピチ、キタッラなど。
綿棒を使って薄く伸ばす技を追求したの結果生まれたのがボローニャのタリアテッレとスフォリーナsfoglina麺打ち職人という専門職。

この平らな生地から生まれるのはタリアテッレtagliatelleの他に、ピエモンテの細いタヤリンtajarinやトスカーナの太いパッパルデッレpappardelle、棒を使ってカールさせたシチリアのブジアーテbusiateなどがあります。
ブジアーテ

道具を使うパスタの大量生産用のアレンジが、ダイスを通すtriforaleです。
ディチェコのトラフィラーレ。

パスタの様々な形は、すべて美味しく食べるための工夫の結果です。
パスタ・リッシャは、ソースをかける食べ方のためのパスタ。
ソースは地元の特産物など身近な食材と食文化から生まれます。
パスタに詰め物をする方法もあります。ラビオリやトルテッリがそうです。パスタ・リッシャに対してパスタ・リピエーナpasta ripienaと呼ばれます。
詰め物をするパスタの生地は薄くて可塑性が要求されるので、軟質小麦粉が得意で硬質小麦粉の苦手な分野。特にボローニャなどポー河沿岸の地方では、この種のパスタの料理が普及しましたが、南イタリアでは放棄されたようです。

南イタリアでも、指先の器用さが要求されるパスタが普及しました。代表はオレッキエッテOrecchietteやカヴァテッリCavetelliなどです。北イタリアの器用さが要求されるパスタの代表はリグーリアのトロフィエTrofie

パスタ・リッシャからは小麦以外の粉のパスタや色付きパスタも誕生しました。
ロンバルディアのそば粉のパスタのピッツォッケリ


色付きパスタの代表はほうれん草入り緑のタリアテッレやラザーニャ。

参考にした本は、スローフードのスクオラ・ディ・クチーナシリーズのパスタ・エ・スーゴ』、

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2021年11月28日日曜日

パスタ入門編、その2。パスタとは、硬質小麦粉と水を練った食品。インパスターレimpastare=練る

今まで改めて考えたこともなかったけど、パスタとは、何でしょう。
辞書で調べれば、まあ大抵が、小麦粉と水を練った食品、という答えになります。
硬質小麦粉と水を練ったもの、と書いてある辞書はさすがに見たことないですが。
イタリアの、特に南イタリアの食の基本が(つまり日本人にとっての米ですね)パスタ、詳しく言えば、南イタリアのベースの食べ物は、硬質小麦粉semolaのパスタ・フレスカpasta frescaです。
硬質小麦粉semolaか軟質小麦粉farinaか、パスタ・フレスカfrescaかパスタ・セッカseccaかというのは、パスタの話をする前にはっきりさせておかなくてはならない点です。
硬質小麦粉と軟質小麦粉は、粒の大きさも、色も栄養価も栽培される地域も、パスタになる過程も歴史も違います。

さて、根っからの文系の私は、理系の話になると、途端にさっぱり頭に入ってこないという欠点があります。そんな私が、パスタの本を読む時にいつもすっ飛ばしていたのがグルテンの話です。でも、そんなことも言ってられなくなりました。
美味しいパスタはどうやってできるのかを知るには、グルテンのことを知らないわけにはいかないのです。とうとう観念しました。

硬質小麦粉と水を強くこねると、粉は可塑性のある物質になります。この生地impastoで成形したパスタは、ゆでても煮崩れずに形を保ちます。
ここで大きな役割を果たすのがグルテンです。
硬質小麦粉に水と力を加えるとグルテニン(可溶性タンパク質)とグリアジンがグルテンを形成します。
グルテンはパスタを安定させる網で、網の中には水の分子に溶け出た硬質小麦粉に含まれるデンプンが閉じ込められています。グルテンの網はパスタを頑丈にし、湯でゆでられても形を保つことができるようになります。

一方、軟質小麦粉にはグルテンが少量しか含まれていません。ゆでている間にデンプンは湯に溶け出てしまいます。なので小麦粉と水の生地は形を待つことができません。
ただし、水を湯にする(デンプンがゼリー化する)、卵を加える(卵黄のレシチンが網の形成を助ける)などの方法で、形を保つこともできます。

イタリアを代表する軟質小麦粉のパスタ、ボローニャのスフォリーナ協会のタリアテッレ。

薄〜く均一に伸ばすには熟練の業と腕力が必要。

硬質小麦粉と水の生地

こねている時から両者の違いは明白。硬質小麦粉のパスタは手だけで様々な形を作り出します。なので薄〜く伸ばすのは苦手。その代わり想像力豊かな様々な形のパスタになりました。
軟質小麦粉は2Dのパスタ向き、硬質小麦粉は3Dのパスタ。
こうして北と南では形の違うパスタが普及します。

参考にした本は、スローフードの『パスタ・フレスケ・エ・ニョッキ











2021年11月27日土曜日

地中海のシンボル、小麦。パスタ入門編、その1

プーリアの硬質小麦の話題が出たところで、大好きなテーマ、《パスタ》の話に入ります。
パスタの基本編、
小麦の収穫

小麦には硬質小麦grano duroと軟質grano tenero小麦があることは、皆さんとっくにご存知。
私達には麺を食べる食文化があるけれども、小麦を麺にするためには複雑な過程が必要とか、小麦には長い歴史があって品質も最高のものを目指して改良されてきたとか、あまり知らないかも・・・。
そもそも、パスタは生では食べられない。
小麦を食料にするための壮大な工夫がそこにはあるのです。
ちなみに私はラーメンのことは勉強不足で何も知りません。あくまでもパスタ限定の話です。
パスタの原料は硬質小麦。軟質小麦はパンやドルチェになります。

小麦は地中海のシンボルです。
イタリアは硬質小麦の栽培量は世界一ですが、昔はパスタ用硬質小麦はカナダ産の小麦が主流でした。現在、イタリアでは軟質小麦より硬質小麦の方が多く栽培されています。硬質小麦の栽培面積は軟質小麦の2.5倍です。
それが次第にカナダ産からイタリア産小麦にシフトし、今ではプーリアの小麦が注目されています。
南イタリアの経済に占める硬質小麦の重要性が高まり、プーリアでも品質改良の動きが活発です。
イタリアでは法律でパスタには硬質小麦を使うように定められています。
パスタの輸出量はもちろん世界一。
パスタの生産は、今や南イタリア全体の経済にも影響しています。
それと同時に、南イタリアの農家は、質か量かの選択を迫られているのです。

最初に栽培された小麦は、3種類あるファッロの一つ、triticum、籾殻に覆われた小麦でした。

5世紀末には籾殻がない改良された品種が普及して、小麦から粉を作ることが容易になります。
さらに風に強くて成長速度が早い外国の品種との交配も行われました。
こうして栽培の便利さが追求されていき、逆にこれらの改良が加えられていない小麦はほとんど姿を消すほど貴重になり、古代品種と呼ばれてその利点が注目されるようになりました。

硬質小麦の粉はパスタやパンに最適でしたが、気温が低く、夏の日照が少ない北イタリアでは、そもそも栽培できません。
北イタリアでは軟質小麦粉(farina)を使ったパスタが普及します。

プーリアの硬質小麦のパンの1つ、パーネ・ディ・アルタムーラ。

硬質小麦粉(semola)と水をこねた生地は、様々な形に成形ができて、熱湯に入れても崩れません。これは、グリアジンとグルテニンというタンパク質がグルテンになったおかげです。
ゆでている間に小麦粉(semola)のデンプンがゲル化すると膨張して柔らかくなります。
グルテンが少ない軟質小麦粉では、状況が違います。そのためにグルテンの代わりにレシチンが豊富な卵を加えました。

軟質小麦粉と水だけの生地は形を保つことが殆どできません。
デンプンが溶け出て、柔らかくてベタベタしたパスタになります。
このタイプのパスタはイタリアの伝統料理では殆ど見かけません。もっとも貧しい料理で、主に生地が溶け出ても問題がないスープに使われます。
卵を加えるとパスタの状態は大幅に変わります。レシチンを含むのは卵黄です。

次回は北イタリアのパスタ・フレスカの話。

参考にした本は、スロー・フードの“スクオラ・ディ・クチーナ”の『パスタ・エ・スーギ


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2021年11月26日金曜日

プーリアのオリーブオイルは海と畑の幸を結びつけた。

プーリアを代表するワイン、プリミティーボの話が出たところで、今日はプーリア料理の話でも。
イタリア料理の州別の料理書も、今となっては主なものは『グリバウド・グランデ・クチーナ・レジョナーレ』ぐらいです。
これも年月が経つにつれて出回る数が減り、幻の傑作となりつつありますが、ご注文があれば中古の良品を探し出して販売しています。グランデという名前にふさわしい大作ですが、本自体は小さくてコンパクトです。
州の食文化を知りたいなあ、という時にとても役に立つこのシリーズの『プーリア』

を読んでみました。

イタリアでも有数のオリーブの産地プーリアは、豊饒の象徴である粘土質で石灰質の赤い土に銀色のオリーブが実る。
プーリアのオリーブの収穫。

プーリアの風景は、金、銀、緑、青色に例えられる。
金は小麦、銀はオリーブ、緑はワイン、青は海だ。
プーリアにはイタリアで最大のタボリエーレTavoliere平野がある。
そこで栽培されているのが小麦だ。
「タボリエーレの小麦」

風が強くて乾燥したこの大地が、硬質小麦には最適だった。
プーリアはイタリア最大の硬質小麦の産地になった。
そしてその小麦から、パスタやパンが生まれた。

この平野の中央にはフォッジャの街がある。
昔から、移牧や小麦の売買の中心となってきた街だ。

トロイア(フォッジャ)の移牧祭り


dopオリーブオイル、テッラ・ディ・バリTerra di Bariは草やアーモンドのような香りが特徴のオイルで、味は熱く、フルーティーで辛口だ(産地による)。
テッラ・ディ・バリは。プーリアの地方料理のベースになるオイルだ。
さらに、プーリア料理は、オリーブオイル、小麦、野菜、チーズ、肉が海や大地の恵みと出会って生まれる。肉はハーブ風味のシンプルな調理の子羊肉、オイルはカルテッダーテの揚げ油など、ドルチェにも使われている。
野菜、豆、パン、パスタ、卵、きのこ、魚、子羊がこの地方の料理を作っている要素だ。

海と大地の味を結びつけるオイル、オリオ・ディ・ダウノDOPは、香ばしくてフルーティーなオイルだ。ベッラ・ディ・チェリニョーラBella di Cerignolaという品種の、皮が薄くて肉厚で、マイルドな味のオリーブから造られる。
ベッラ・ディ・チェリニョーラ

次回はプーリア料理。

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2021年11月25日木曜日

プーリアを代表するぶどうプリミティーボは、クロアチアから伝わり、ムルジャ地方の土壌と気候によく合った。

(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョイナーリ)3月号を発売しましたが、2月号のワインの話のビジュアル解説がまだ残っていたので、今日はワインの話。
プリミティーボPrimitivoです。

南イタリアを代表する品種の一つだそうですが、他にどんなぶどうが南イタリアを代表しているかというと・・・
ネロ・ダーボラNero d'Avola、アリアニコAglianico、ピエディロッソPiedirosso、ネレッロ・マスカレーゼNerello Mascalese、ガリオッポGaglioppoなどがあります。

プリミティーボのルーツは、プーリア中南部のジョイア・デル・コッレGioia del Colle地方。
ムルジャと呼ばれる地方です。
その100km北には、同じプリミティーボでも個性が違うプリミティーボができるマンドゥリアManduria地区があります。この地区のぶどうの栽培方法はアルべレッロと呼ばれる古い方式。
プーリアの魅力が詰まったアルタ・ムルジャ国立公園↓

この地方は海抜360mのアルカリ性で粘土と石灰岩の土壌の丘陵地。痩せた鉄分の多い赤土に覆われ、昼と夜の寒暖差が大きかった。渓谷や深い侵食があるカルスト大地で、洞窟が無数にある。気候は典型的な南イタリアのもの。高度の高い地方ほど気温が低い。この環境がプリミティーボにはよく合った。
ワインはジューシーで活発で、ボディーとコクがある。
エレガントな香りで強い組織があり、しなやかなボディーで控えめなタンニン、酸味とソフトさのバランスがよく、様々な地方の食文化と相性が良い身近なワインになった。
脂の多い料理にも、加熱時間の短い料理にも、サルシッチャや内臓の串焼き、豆のズッパ、ティンバロにも奇跡のように合う。
プリミティーボは次第に色が濃くなるワインで、ジョイア・デル・コッレのロゼは赤ワインの前身。
プリミティーボ・ディ・マンドゥリア↓

は、チェリーの香りがするワイン。ジョイアと比べるともっとフルーティーでソフトなワイン。

ムルジャ地方の名物巡りの旅↓


プリミティーボはカリフォルニアのジンファンデルと遺伝子が共通していると言われるが、本当のルーツはクロアチアの沿岸部。ムルジャ地方はクロアチアからイオニア海へと抜ける航路の途中にある。

2021年11月24日水曜日

(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)3月、発売しました

(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)3月号、発売しました。
定期購読分も発送しました。

イタリアの料理雑誌『クチーナ・イタリアーナ

と『サーレ・エ・ぺぺ

の記事とリチェッタを日本語に翻訳した解説書です。
イタリア料理の今が分かる雜誌と併せてご利用ください。定期購読がお得です。
ご要望があった記事やリチェッタは率先して翻訳します。
リクエストはお気軽にどうぞ。

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2021年11月23日火曜日

ノルチャ風ストランゴッツィは基本のサルシッチャのパスタ。ウンブリチェッリはウンブリア版ピチ。

今月のグルメガイドはペルージャPerugiaです(CIR200年2月号P.26〜)。
オリーブオイル、ワイン、チョコレート、トリュフ、豚肉など、美味しいものがいっぱいあるウンブリアの州都。
ペルージャの名物から一つを決めて、それを追求する旅を計画すると、それだけでも特別な旅ができます。

ペルージャの中心、9月4日広場。
下の動画の背景がその広場。

この街のベースにあるのはエトルリア文明。

ペルジーナのチョコレートやポルケッタなど、取り上げたい話題はたくさんあるのですが、今日のお題はウンブリアのパスタです。
ウンブリアのパスタは黒トリュフによく合います。
まずは平らな太麺のストロンゴッツィstrongozzi。
タリアテッレの仲間ですが、もっと厚くて細い麺。


ノルチャは豚肉加工の技でイタリア中に知られる街。ノルチーノは肉屋の代名詞になっています。
ノルチャ

ノルチャ風ストランゴッツィStrangozzi alla Norcina。
基本のサルシッチャのパスタです。
バリエーションは多数あります。

材料/4人分
《パスタ》
セモリナ粉・・125g
00番の小麦粉・・125g
塩、水・・130ml
《ソース》
ノルチャのサルシッチャ・・4本
EVオリーブオイル・・大さじ2
にんにく・・2かけ
乾燥ポルチーニ・・10g
ペコリーノ・・大さじ2
生クリーム・・200g

・粉、塩、水を10分こねてなめらかな生地にする。ボールに入れて覆いをして休ませる。
・油大さじ2で潰したにんにくを炒める。
・サルシッチャは皮(腸)を取ってほぐす。ノルチャのサルシッチャはすでに塩、こしょう、にんにくで調味済み、油に加えて軽く潰しながら炒め、にんにくを取り除く。
・戻したポルチーニの水気を軽く絞って加え、戻し汁少々も加えて弱火で20分煮る。
・打粉をした麺棒で生地を伸ばす。タリアテッレより厚めになるよう、薄くしすぎない。
・セモリナ粉をまぶして端から中央に向かってたたんでいき、細めにカットする。包丁を差し込んで持ち上げ、広げて台に並べて打ち粉をする。
・油少々を加えた湯でパスタをゆでる。
・サルシッチャに生クリームを加える。パスタとペコリーノを加えてなじませる。皿に盛り付けてペコリーノを散らす。

ストランゴッツィは別名ウンブリチェッリumbricelliとも呼ばれます。語源はミミズだって。
もうちょっと美味しそうな名前にしようと思ってストリンゴッツィにしたのかと思ったら、こっちは首を絞める、という意味だって。
ウンブリア人のネーミングセンス、中世感半端ない。
作り方はピチに似てる。ピチは棒にする、という意味だったっけ。

ペルージャのお勧め店の一つ、オステリア・ア・プリオーリ。
下の動画の料理はキアニーナのラグー・ビアンコとグリーンピースのクリームのタリアテッレは、(CIRP.29にリチェッタが載っています。)

(CIR)3月号は明日発売の予定です。


2021年11月22日月曜日

イタリアのそば栽培の中心地はアルプスのテーリオ(ロンバルディア)。

(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)2月号
の地方料理は“ピッツォッケリ”です。
スキーヤーに人気のヴァルテッリーナ地方の名物料理のそば粉のパスタです。

ヴァルテッリーナの食文化はオーストリアやスイスのアルプス地方の影響を受けています。
この地方のそばは17世紀に栽培が始まりました。
そばは寒さに強く、手間があまりかからず、ライ麦や大麦を収穫した後の畑で夏の短い間に成長し、アルプス地方の経済を支える産物になりました。
戦後は生産量が減りますが、栄養価やグルテンを含まないことが注目されて再評価されています。

ピッツォッケリなどそば料理の中心地として知られるのはテーリオTeglio。ピッツォッケリのアカデミー協会があります。
アカデミーでは、“テーリオのピッツォッケリ”を本場のピッツォッケリとして全面的にプッシュしています。
毎年夏にはピッツォッケリ祭りが開催され、9月には金のピッツォッケリという地元のリストランが参加するコンクールも開催しています。
テーリオのピッツォッケリのリチェッタは(CIR 2020年2月号 P.24)。
テーリオのアカデミーのピッツォッケリ↓



アカデミーの会長の店は、ホテル・レストラン・コンボロ。

ピッツォッケリはいわゆる平麺、つまりタリアテッレの一種で、トスカーナのパッパルデッレ同様やや幅の広い面です。
小麦粉のパッパルデッレとそば粉のピッツォッケリの共通点は、どちらもソースに地元産の上質食材を使うという点。
ピッツォッケリにはアルプスのバターとチーズ(ヴァルテッリーナ・カゼーラ)が欠かせません。

ヴァルテッリーナ・カゼーラ



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「総合解説」
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お問い合わせ
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2021年11月21日日曜日

白トリュフの香りを味わうための極薄パスタ、タヤリンの対局にあるのはジビエの獣臭にまけない幅広のバッパルデッレ。

ここのところのお題の“ピチ”ですが、今月の(CIR)のリチェッタのプリーモ・ピアットはピチでした(P.6)。“サルシッチャのラグーとチーメ・ディ・ラパのピチ”です。
ピチはトスカーナのパスタ。チーメ・ディ・ラパという南イタリアの食材との組み合わせは、ある意味以外。
とは言え、プーリアではチーメ・ディ・ラパとサルシッチャのオレッキエッテは代表的パスタ。

上の動画の料理がベーシックなサルシッチャのオレッキエッテです。
今月の(CIR)では、サルシッチャの皮をむかないでぶつ切りにします。
皮をむむくとサルシッチャが細かく崩れます。むかないと、炒めてもサルシッチャが崩れないので大きな一口大のまま残ります。
これがピチとオレッキエッテの違いを生かしたポイントです。
ジビエにも合うパスタと、地元の風味豊かな野菜に合うパスタでは、サルシッチャの調理方法も変わります。

典型的ジビエのパスタ
猪のラグーのパッパルデッレPappardelle al ragù di cinghiale

材料
パッパルデッレ・・400g
猪肉・・500g
セロリ・・1本
にんじん・・2本
玉ねぎ・・1個
グアンチャーレ・・100g
オリーブオイル、塩、こしょう
トマトのパッサータ・・2ビン
グラナかペコリーノ

《マリネ液》
白ワイン、ジュニパー
にんにく、ローリエ、好みのスパイス

・肉から余分な脂身(くさみが強い)を切り取り、スライスして細く切る(マリネ液に触れる部分を多くするため)。容器に入れてワインで覆い、ローリエ2枚、ジュニパー数粒、にんにく、スパイスを加える。ラップで覆って冷蔵庫で最低12時間マリネする。
・マリネした肉を一口大に切る。
・セロリ、にんじん、玉ねぎをみじん切りにする。グアンチャーレ(こしょうがついた皮を取る)を細く切る。
・油少々で香味野菜とグアンチャーレ(猪肉は脂が少ない)をソッフリットにする。猪肉を加えてよく炒め、ローズマリーとトマトのパッサータ、塩、こしょうを加えて強火で水気を飛ばしながら煮る。
・水少々を加えて弱火で最低2時間煮る。
・ゆでたパスタを加えてなじませ、皿に盛り付けてパルミジャーノかペコリーノを散らす。

パッパルデッレはトスカーナの家庭で昔から作られていた平麺のパスタ。他の地方の麺(例えばタリアテッレ)より幅広なのが特徴。
元々家庭料理なので幅何cmという決まりがあったわけではなく、
あくまでもトスカーナの人々の好みの幅。
さらに言えば、トスカーナ料理はジビエと組み合わせることが圧倒的に多く、細くて薄い麺ではバランスがとれなかったのでは。
香りを味わうピエモンテのトリュフのタリオリーニは、できるだけ薄い麺が好まれましたが、何時間もかけて肉の臭みを消す猪肉のラグーには、パッパルデッレのような頑丈な骨格のパスタが好まれました。

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2021年11月20日土曜日

アリオーネのピチはハンディミキサーが普及した時代のモダンなにんにくとトマトのパスタ。

今日のお題はトスカーナのパスタ、ピチpici。
スローフードの地方料理のパスタの本、パスタ・フォルメ・デル・グラノ

には、“アリオーネのピチpici all'aglione”のリチェッタが載っています。
アリオーネとは、バルディキアーナ地方特産の大きなにんにく。
にんにくの香りのもととなる酵素を含まないので、キスができるにんにくと呼ばれ、大きくてもデリケートな味のにんにく。

にんにくは農民のソースの定番食材です。
料理するものがなにもないときには、にんにくをオリーブオイルでソッフリットにしてパスタソースにします。
ピチの定番ソースとしても知られています。

アリオーネのピチ。

ハンディミキサーを使う今どきの方法ですね。
家電を使わないと、時間がもっとかかります。

上記のスローフードの本のリチェッタを訳してみます。
アリオーネのピチPici all'aglione
材料/2人分
《パスタ》
小麦粉・・500g
セモリナ粉・・2握り
EVオリーブオイル、塩
《ソース》
アリオーネのにんにく・・1かけ(約50g)
ホールトマト・・600g
EVオリーブオイル、塩、こしょう
《仕上げ》
おろしたペコリーノ・トスカーノ

・陶器の鍋に油大さじ数杯とにんにくのみじん切りを入れてとろ火で10分熱して溶かし、裏漉ししたトマトを加えて塩、こしょうし、1時間煮る。
・その間に小麦粉、塩少々、油大さじ2、ぬるま湯200mlをこねてなめらかな生地にし、丸めて布巾で覆って30分休ませる。アッピッチャーレappiciareする(手のひらで転がして長さ40cm、直径5mm弱の1本の棒にする)。できたピチはセモリナ粉をまぶしたバットに広げる。
・たっぷりの塩を加えた湯で2〜3分ゆでて取り出し、ソースのソテーパンに入れてなじませる。
・皿に盛り付けておろしたペコリーノを添えてサーブする。

ピチの語源はappiciare=棒にする、だったんですね。
リチェッタを提供した店、ristorante il grillo è buoncantore, chiusi(SIENA)
webページ


2021年11月19日金曜日

森の落ち葉の下に隠れているポルチーニは人間をおびき寄せるためにあんなに美味しくなったのかも。

トリュフと共に貴重なきのことして人気があるのがポルチーニ。
ルニジャーナ地方やガルファニャーナ地方(どちらもトスカーナ)が上質ポルチーニの産地として有名。収穫は夏と秋です。
ちなみにガルファニャーナはファッロ(スペルト小麦)の産地としても有名。
トスカーナの森のポルチーニ。
動物の嗅覚より人間の視覚で探し出されることを選んだポルチーニは、胞子を広げるために人間が好む味のきのこになったのでは。美味しいはずだよね。

ポルチーニはソースにするととても美味しいきのこ。
落ち葉の下に生えているポルチーニはトスカーナでは最も貴重な森の実りとみなされてきました。
逆に栗は、豊富に落ちているものをただ拾えばいいだけなので、最も貧しい人々の食べ物とみなされ、その栄養価の高さから、栗の樹はパンの樹と呼ばれていました。
でも、両者はなかなか相性が良かったようで、トスカーナには栗とポルチーニのズッパという秋ならではの料理もあります。
粉質の栗にはズッパのつなぎとしての役割も。
栗とポルチーニのズッパZuppa di castagne e funghi porcini。


材料/2人分
栗・・400g
ポルチーニ・・中〜大1個
水か野菜のブロード・・150ml
2度焼きしたパン・・200g
にんにく・・1かけ
EVオリーブオイル、塩
飾り用ローズマリー
パルミジャーノ

・栗に塩少々を加えて40〜45分ゆでる。
・栗の皮をむく。
・ ポルチーニを角切りにし、油と塩少々で炒める。
・栗に水か野菜のブロードをかけて塩を加え、大きな栗は潰してクリーム状にしながら15分煮る。
・ポルチーニ(少量残す)を加えて5分煮て、塩味を整える。
・パンを崩してスープ皿に入れ、その上に熱いズッパをかける。
・取っておいたポルチーニをのせてローズマリー少々を散らし、油を回しかける。


さらに、なんでもフリットにするトスカーナの人々がポルチーニをフリットにしないわけがありません。セージのフリットと共にトスカーナの名物です。

フンギ・フリッティfunghi frutti。

材料
ポルチーニ大
レモン汁、塩、こしょう
卵・・2個
イタリアンパセリ、にんにく、パン粉

・ボールににんにくをこすりつけて卵を割り入れ、イタリアンパセリのみじん切り、塩、こしょうを加えて溶く。
・ポルチーニを縦にスライスしてレモン汁をかける。
・余分な水気をシートで取り、溶き卵とパン粉をまぶして油で揚げる。


セージのフリット。salvia fritta

衣は00番の小麦粉150g、生イースト3g、ビール175g、塩小さじ1/2を混ぜて30分休ませる。
揚げる直前に角氷を加えて冷やす。

もう一つ、トスカーナのパスタと言えばピチですが、ポルチーニのソースのピチもあります。
ポルチーニのピチpici coi porcini

秋の農民の料理は質素なもの、というイメージが出来上がりつつあるところに。ピチの登場。
トスカーナのパスタソースは実はあまり多くはありません。
それというのも、トスカーナのはパスタは軟質小麦粉と水のパスタで、ボローニャのタリアテッレと同じですが、ボローニャ風のミートソースはトスカーナではあまり一般的でないからかも。
トスカーナのミートソースはボロニェーゼと違って牛肉ではなく、猪、野ウサギ、鴨、ガチョウのソースなのです。そのベースにはフランス料理があります。
ピチの他にポピュラーなトスカーナのパスタ、パッパルデッレも、ジビエのソースをかけるために生まれたパスタ。
というわけで、ピチの話をする時は普通のパスタのイメージは一度しまっておきましょう。

・ポルチーニをスライスする。
・にんにくのみじん切り少々を油で軽くソッフリットにし、ポルチーニを入れてマジョラムとタイムを散らす。野菜のブロード小さじ1をかける。火を止めてバターを加える。
・00番の小麦粉と水をこねてパスタの生地にし、30分休ませる。
・生地をやや伸ばし、手に油をつけて生地に塗る。細く切り、1本ずつ転がしながら伸ばす。
・打ち粉をしてバットに広げる。
・ピチを5分ゆでる。
・ポルチーニにピチのゆで汁を加えて煮詰める。ピチを加えてなじませる。

もちろんスパゲッティもそうですが、ピチはつるつるかっこむパスタではないのでした。

トスカーナのパスタを調べていたら、なかなか面白そうなことがわかってきました。
ピチの話、次回に続きます。

参考にした本は、『クチーナ・トスカーナ』、

ルフィーノのトスカーナ

などです。
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2021年11月18日木曜日

アルバの伝統の白トリュフのタヤリンvsアメリカの量産型の黒トリュフのフェットゥチーネ。

トリュフの旬の時期、11月。世界中のグルメが目指すのは、アルバ(ピエモンテ)の白トリュフの見本市。
そして味わう白トリュフ料理は、トリュフをたっぷり散らしたタリエリーニ、生肉、フォンドゥータ、バターで焼いた目玉焼きなど。

大抵の観光客がめざすのが、エンリコ・クリッパ(ピアッツァ・ドゥオモ)とジェンマ(オステリア・ダ・ジェンマ)のバターであえて白トリュフを散らしたアルバのタヤリン。
この二人のことは毎年トリュフの季節になると取り上げているので、今回はそれ以外、というのがテーマ。
クリッパとジェンマシェフのタヤリン。


この2大巨頭以外にも、白トリュフのタヤリンがおいしいと評判の店は、世界的な有名店ばかり。どうやらアルバを離れない限りはみんな同じ料理を食べる結果になりそう。
本物のランゲ料理をあじわうことができると言われている店の1軒、トラットリア・デッラ・ポスタの白トリュフのタヤリン。

もちろんアルバ以外でも白トリュフはとれる。
例えば、トスカーナのサン・ミニアート、シエナ県中部のクレーテ地区。中心地はサン・ジョバンニ・ダッソ。マルケは、トリュフの販売促進に力を入れており、一年中トリュフが採れる街、 アックアラーニャ以外にも、サンタガタ・フェルトリア、サンタンジェロ・イン・ビード、モンテフォルティーノなど数多い。
ウンブリアは黒トリュフの王国。
ノルチャ、バルネリーナ、スポレートなどがあるが、白も採れる。

余計な味は一切加えずに香りを味わうトリュフ料理は、    客の前の卓上で料理するアッラ・ランパダの料理に最適の1品。

Ristorante Al Grassiの白トリュフのタリオリーニ。
材料/
タリオリーニ・・100g
バター・・20g
EVオリーブオイル
セージ・・2枚
卵黄
ブロード・ディ・カルネ
トリュフ
塩、こしょう

・ソテーパンにオイルとバターを熱し、セージを加える。
・卵黄に塩、こしょうする。
・ソテーパンを火から下ろしてアルデンテにゆでたパタを加える。
・再び火にかけ、ブロード少々をかけて卵黄を加える。セージを取り除いてあえる。
・皿に盛り付けてトリュフを削りながらかける。
・バルベーラと一緒にいただきます。

アルバの白トリュフのタヤリンの要素がないトリュフ料理。
黒トリュフのフェットゥチーネ↓

フェットゥチーネはローマのアルフレードで生まれてアメリカで大ヒットしたパスタ。そういえばこれも卓上で調理する。
材料/
黒トリュフ・・50g
EVオリーブオイル・・50g
にんにく・・1かけ
バター・・40g
塩、こしょう

・トリュフをスライスする。
・フライパンに油とバター、にんにくを熱する。
・パスタをゆでる。
・にんにくを取り除いてトリュフ(加熱して香りを出す黒トリュフはこの料理に最適)を加えて塩、こしょうする。飾り用に少量残す。
・パスタのゆで汁少々を加えてバターとオイルが沸騰しないようにする。パスタを加えてマンテカーレする。
・皿に盛り付けて取っておいたトリュフを散らす。


個人的にはウンブリアのトリュフ料理が面白そうです。
黒トリュフが名物の街、ウンブリアで最も高貴で美しい街と言われるスポレート。
最上質の黒トリュフ、ネロ・プレジャートが出回るのは12月から3月。

スポレートのトリュフハンティング。トリュフ犬がかわいすぎる。



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2021年11月17日水曜日

トリュフは料理のダイヤモンドbyブリア・サバラン

話が前後しましたが、季節の食材の話題に戻ります。
この時期は、トリュフの最盛期です。
よく高価で貴重な食材は、○○の金、というふうに言われます。先日登場したピスタチオは緑の金でした。
ところがトリュフは格が違うのです。
よく引用されるのが、ブリア・サバランの言葉。
彼はトリュフのことを料理のダイヤモンドと呼んだのです。

トリュフの中でも特に貴重なのが、栽培ができず、イタリアにしかない、最上級のトリュフ、タルトゥーフォ・ビアンコ・プレジャートtaartufo bianco pregiatoです。
エジプトのファラオやアレキサンダー大王も食べていたトリュフですが、これがきのこと認識されたのは16世紀以降のことでした。
トリュフとポルチーニの最大の違いは地面に出てくるきのこではなく、すべての成長サイクルが地中で展開される、ということ。
きのこの組織は菌糸が大量に集まった菌糸体によって成り立っています。
菌糸は地中に広がって木の根の達し、条件が合えば一種の共生を始めます。
胞子は光合成をしないので、成長に必要な物質を自ら作り出すことができない。
そこで木の根から栄養をもらい、樹には地中から吸い取った水分と有機物を与える。
胞子を作るための再生器官が子実体、つまりトリュフです。
十分に熟すとトリュフは胞子を放出します。トリュフは熟したものだけがあの強烈な香りを発します。香りは土の表面にまで達し、嗅覚の発達した動物を強力に惹きつけます。
動物は地中を掘って、トリュフを探し出して食べます。
こうして胞子の運び手になるわけです。

アルバの白トリュフハンティング

イタリアではトリュフ犬に適しているのはラゴット・ロマニョーロという犬種だと言われている。
黒トリュフは加熱に適し、白トリュフは適さない、というのはトリュフ料理の基本ですが、
さらに、トリュフを料理する時は、薄く、かつ表面積をできるだけ広くスライスして強い香りを発散させる、というのも基本。だからトリュフスライサーが必要。
トリュフの本体は香りですもんね。
トリュフは、持続する心地よいほろ苦さのある香り、と言われたり、にんにく風味とか言われています。
料理に加えるトリュフの適量は9〜10g。
触ったときに締まっていて適度に熟しているものを選ぶ。中の筋がはっきりしているものは熟している。購入後は1週間以内に食べる。
すぐに食べない場合はキッチンペーパー数枚で包んで密閉容器に入れ、冷凍庫で保存する。

イタリアで上質トリュフの産地として知られるのはピエモンテ南部のアルバとマルケのアックアラーニャ地区。 
天然物しかないタルトゥーフォ・ビアンコが育つことで知られるのはピエモンテのアルバ、アスティ、アレッサンドリアにまたがるランゲ他方の丘陵地。
ところが、この地方はワインの産地としても有名で、実は、トリュフを取るよりぶどうを栽培したほうが儲かるらしいのです。ランゲの土地は金に値する、と言われているそうです。つまり、ランゲ地方(特にバローロ地区)ではぶどう畑が増えて森や林が消えているそうです。
白トリュフはアルバ以外でもイタリア各地で採れます。

アックアラーニャ

2021年のアルバの白トリュフ国際見本市は10月9日から12月5日まで開かれるそうです。例年だと11月末ぐらいまで。

アックアラーニャの白トリュフ見本市。


アックアラーニャはトリュフの街で、住民のの1割がトリュフの採取許可を持っています。毎年トリュフの出荷量は600トン。
トリュフは一年中取れます。
まず黒トリュフ、次にビアンケット、またはマルツオーロ、そして黒のサマートリュフ(スコルゾーネ)、と続きます。
白トリュフは学名でマニャトゥム・ピコと呼んで区別しています。

トリュフの話、次回に続きます。

地方料理の本、『イタリア・イン・クチーナ

『ピエモンテ』、

『マルケ』



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2021年11月16日火曜日

イタリアでおなじみの硬質チーズ

そろそろ今月の(CIR/クチーナ・イタリアーナ・レジョナーレ)の記事の話に戻ります。
今月の食材は硬質チーズです(P.18〜)。
それではイタリアで硬質チーズとして広く知られる7種類のチーズを動画で紹介します。
北国や北イタリアの代表的硬質チーズです。

北イタリアには偉大な硬質チーズがあります。
パルミジャーノ・レジャーノparmigiano reggianoDOPとグラナ・パダーノgrana padano DOPです。
どちらもイタリアの最も古いチーズの一つ。
定期的に聞きたくなるパルミジャーノのCMソング。パ、パ、パ、パルミジャーノ♪

パルミジャーノは世界中の料理に使われています。管理組合の主な仕事はコピー製品が出回るのを防ぐこと。
コピーの量産型パルミジャーノと本家の厳しい規定を守って造るパルミジャーノの大きな違いは、すりおろしてからの時間の経過。量産型はこの間にアロマが飛んでいる。

リチェッタを紹介したチャルディーネcialdine(P.21)はパルミジャーノ料理の基本中の基本の薄焼きパルミジャーノ。

ペルレ・ディ・パルミジャーノperle di parmigianoもパルミジャーノの簡単なアペリティーボ。

材料/
パルミジャーノ・・150g
コーンスターチ・・15g
卵白・・45g
こしょう

・パルミジャーノをおろしてコーンスターチとたっぷりのこしょうを加え、なめらかな生地にする。
・少量ずつ丸めてパン粉をまぶし、170℃のピーナッツ油で揚げる。


さて、この2種類以外の硬質チーズとなると、イタリアで広く認知されているのは、まずはスイスのエメンタールementaler dop。
CMを見ると、どんなイメージを伝えたがっているのかよくわかりますねー。パ、パ、パ・・・。

次はアルト・アディジェのステルビオstelvioDOP

アルファロメオのSUVはステルビオというそうで、このチーズがスポーツカーのメインキャラクターになってます。

次はドロミテのチーズ、ピアーべpiave dop。

次はスイスから、グリュイエールle gruyère dop。
穴があるチーズでしょ、と言うシニョーラ。勘違いしてるね、とそっとエメンタールじゃないと主張するグリュイエールの生産者。
穴がぼこぼこ開いてるエメンタールと違って、スイスのチーズでもグリュイエールには穴はなくて平らです。
グリュイエールといえば、チーズ・フォンデューfonduta Savoyarde。下の動画はサボイアルディ風だそうです。
材料/2人分
チーズ(グリュイエール、エメンタール、フォンティーナなどアルプスのチーズ最低2種類)・・400g
白ワイン・・100g
コーンスターチ・・大さじ1強
スライスしたパンかゆでたじゃがいも・・4枚(一人2枚)

・パンのクラムを小角切りにする。
・チーズは溶けやすいように皮を取って小角切りにする。
・鍋にワイン100ml、コーンスターチ、チーズを入れてかき混ぜながら溶かす。チーズはサーブされるとすぐに冷めて固まる。
・チーズが溶けたらアルコールランプに火をつけて鍋をかける。
・フォンデュー用の長いフォークにパンを刺し、チーズをたっぷりまぶしていただきます。

2021年11月15日月曜日

収穫が終わっても枝に残されたぶどうからは冬に甘いパッシートが造られる。

今日のお題はサグランティーノsagrantino
ウンブリアの人が愛してやまないワインになる黒ぶどうです。
栽培の中心地はモンテファルコ。
このぶどうの特徴はポリフェノールの含有量が多いこと。つまりタンニンが多くてアロマが強く、長期熟成が可能です。
セッコの他に、ぶどうを収穫後干して造るパッシートもあります。
パッシートはぶどうの収穫が終わっても冬の間樹に残して干したぶどうから造ります。
上質ぶどうの産地では、収穫の後にパッシート造りの作業があるんですね。
風味が濃縮された甘いぶどうは様々な料理に使うことができます。
モンテファルコ・パッシート

モンテファルコ
動画にトレードマークのオーバーオール姿で登場しているのはウンブリアの人気シェフ、ジョルジョーネ。



今日は彼の本、『ジョルジョーネ・オルト・エ・クチーナ

から、
鴨のサグランティーノソースAnatra al sagrantinoを訳します。

材料/
鴨の胸肉・・2枚
小麦粉・・一握り
サグランティーノ・パッシート・・2房
カンナーラの赤玉ねぎ・・1個
ハーブ風味のラルド・・2枚
白ワイン・・1/2カップ
EVオリーブオイル、塩、こしょう
ブランデー

・皮を取った胸肉の肉の面に小麦粉をまぶしてその面を油で焼く。
・サグランティーノの粒を外して皿に広げる。
・胸肉1枚を皮の面から入れて裏表に汁をまぶす。
・玉ねぎのみじん切り少々と叩いて刻んだラルドを胸肉に加えて香りを立てる。胸肉を取り出し、フライパンに油少々を足して残りの胸肉も同様にする。
・白ワインをかけてアルコール分を飛ばし、塩、こしょうする。胸肉を肉の面を下にして入れて3分熱し、裏返してブランデーをかける。
・オーブン皿に胸肉を入れてサグランティーノで覆い、塩と焼き汁をかける。200℃のオーブンで10分焼き、150℃に下げて1時間焼く。胸肉は焼きすぎないようにする。
・胸肉を取り出してスライスし、サグランティーノの焼き汁の上に盛り付ける。

収穫の女王、ぶどうの収穫が終わり、パッシート造りが始まったら、次は森の下生えの季節。トリュフとポルチーニのシーズンがやってきます。
ウンブリアにはサグランティーノのほかにも、自慢の特産物がたくさんあります。その1つがトリュフです。

トリュフの話は次回に。

2021年11月14日日曜日

ギリシャ人はぶどう畑に覆われたイタリアのことをエノトリア(ワインの大地)と呼んだ。ぶどうの収穫は農家の秋のビッグイベント。

イタリアの田舎では、収穫の女王はぶどう。
下のぶどうの収穫の動画では、早起きしておじいちゃんを忘れないこととか、蜂が寄ってくるので気をつけようとか、なかなかガチなアドバイス。

ルフィーノのトスカーナ』によると、トスカーナにぶどう栽培を広めたのはエトルリア人で、ワインは神の儀式と結びついて神聖なものになり、トスカーナはイタリアの主要なぶどう栽培地だった。やがてワインはイタリア中に広まり、ギリシャ人はぶどう畑に覆われたイタリアのことを“エノトリアEnotria”ワインの大地terra del vinoと呼んだ。
ぶどうは神に奉納されてワインになった。最初はワインを飲むということは、神聖な儀式だった。やがてバッカス神への信仰的意味が強くなり、やがてワインは大衆的な飲み物になり、下層階級へと広まり、飲み屋の乾杯の酒にもなっていった。

トスカーナでは収穫の時期にスキアッチャータschiacciataというぶどうのドルチェを造る伝統がある。ドルチェというか、薄焼きパンだ。
昔の家庭では、パン生地をスキアッチャータ用にいつも少量残しておいたそうだ。そして9月になるとぶどうのスキアッチャータを作った。
トスカーナでは、ぶどうはサンジョベーゼのことで、スキアッチャータにもサンジョベーゼを使った。

2020年のトスカーナのサンジョベーゼとメルローの収穫。

ぶどうのスキアッチャータschiacciata con l'uva

材料/
小麦粉・・500g
水・・250ml
ビンサント・・50g
生イースト・・15g
砂糖・・30g
EVオリーブオイル・・25g
ローズマリー・・3枝
ぶどう・・700g

・ぶどうを茎から外して洗い、乾かす。
・小さなソテーパンにローズマリーと油を熱し、ビンサントと砂糖を加える。
・イーストを湯で溶かして小麦粉に加える。ローズマリー風味のオイルも加えてこね、10分休ませる。
・型に油を塗る。
・生地に油をかけて手で広げながら型に敷き込む。
・表面にぶどうを広げて軽く埋め込み、砂糖を振りかける。1時間発酵させる。
・180℃のオーブンで50分焼く。

ジョルジョーネ

彼もぶどうを栽培しているようで、本にはぶどうの料理のリチェッタがあります。
ただし、彼の場合は畑や店はウンブリアにあります。
キアンティ地区にあるルフィーノとは、身近なぶどうが違います。
ウンブリアでぶどうといえば、サグランティーノです。

サグランティーノの話には説明が必要なので、次回に。

2021年11月13日土曜日

今日の木の実は松の実とピスタチオ。木の実の油を使うソースならリグーリア料理。くるみのソースはパスタにも野菜や魚にも合う。

イタリア料理の舞台が地中海からアルプスへと移り変わる季節、秋。
森では、硬い殻に包まれた木の実が熟します。
栗、くるみ、ヘーゼルナッツと見てきましたが、イタリアの木の実、まだありますよ。
有名なのは、松の実pinoliやピスタチオpistacchiあたり。

松ぼっくりから松の実↓

松といえば『ローマの松』でしょ。というわけで、
全然関係ないけどおもしろかったのでおまけ。秋のローマ。

木の実は油をたっぷり含んでいます。
ということは、食材をつなぐ働きがあるのでソースに使いやすい、という特徴があります。
木の実の油を使ったソースがたくんあるのは、リグーリアです。

スーゴとソース
によると、リグーリアのソースは、パスタだけでなく、野菜や魚にも合います。
ペースト・ジェノべーぜは、リグーリアだけでなく、今や世界的なソース。このソースには松の実が欠かせません。
材料をすりつぶす、あるいはミキサーで撹拌するペーストはバリエーションが自由自在で、あっという間に広まりました。
ペースト・ジェノベーゼ
くるみのソースもリグーリアの名物で、トレネッテ、トロフィエ、ニョッキ、ラザーニャなどと組み合わせます。
リグーリアのもう一つのソース、“くるみのソースsalsa di noci”
くるみのソース/材料
くるみ・・150g
牛乳・・150ml
松の実・・20g
にんにく・・1かけ
パルミジャーノ・・30g
EVオリーブオイル・・大さじ3
パンのクラム・・30g、塩

・小鍋に水を張ってくるみを加え、火にかけて34分ゆでる。
・パンのクラムほぐして牛乳をかける。
・くるみを布巾に広げて乾かし、熱いうちに薄皮をむいて冷ます。
・くるみ、水気を絞ったパン(牛乳は濃度を調整する時に必要なら加える)、にんにく、松の実、パルミジャーノ、塩をミキサーにかけて油を加える。必要なら牛乳を好みの量加える。

ミキサーで作るペーストの本。

州ごとの料理の本、
ピスタチオはアラブから伝わった落葉樹で、エトナ山のふもと、ブロンテの名産品。

車が入らない凸凹な土地で育てるので栽培がとても大変な樹で、収穫(9月)は手作業。しかし、イタリア唯一のピスタチオとしてとても貴重で、緑の金と呼ばれるほど。特徴はその輝くような緑色と強い香り。
パスタのソースとしてよりも、シチリアのドルチェには欠かせない食材。

ブロンテのピスタチオ祭り


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