仮想通貨じゃないです。イタリアのチーズです。
ビット
21世紀に造られているチーズとは思えないような、古~い伝統の香りがするチーズです。
チーズ作りは山の放牧地にいる夏の間のみで、熟成は最低70日から10年。
この、メイド・イン・イタリーの食材の中でもマイナーなチーズが、過去20年に渡って、一悶着あったなんて、知りませんでした。
『サーレ・エ・ペペ』によると、スローフードに支援された歴史的ビット派と、ジェローラ・アルタとアルバレードというヴァルテッリーナの小さな地域の何世紀にも渡る伝統に忠実で時代と共に変化してきた製法をとる飼育農家の間で、対立が起きていたのだそうです。
伝統と時代の変化というテーマを、このところのブログでは取り上げてきましたが、この問題は、イタリアでも深刻のようです。
古代ローマを侵略して一部がヴァルテッリーナの山奥に隠れ住んだガリア人(ケルト人)が伝えたと語り継がれているビット。
『1001スペチャリタ』によると、ビットの語源はケルト語で永続する、という意味のbitu。
放牧やチーズ造りのエスパートの彼らが長期保存を目的として造ったのがビットでした。
現在もガリア人の伝統を守って造られています。
歴史的ビット派は、昔ながらの製法を厳格に守るからこそ、あのビットの味は生まれるのだと信じています。
でも、現実的にはかなり厳しい話です。
ビット問題は結局、歴史的ビット派がDOPから抜けてチーズの名前もストリコ・リベッレStorico Ribelleと変えるということで決着したようです。
下の動画によると、放牧地の草だけでなく飼料を与えてもよい、人口のレンネットを添加してもよい、などのDOPの規定への拒否反応が原因のようです。
部外者の素人には、何のことだかわからないような点でも、大問題だったのです。
チーズが世界中に広まれば、部外者の素人はもっと増えて、伝統を多少変えてでも時代にあった作り方をするべきだという声が大きくなるでしょう。
大量生産を拒否して先祖代々の製法を守る、という決意は、相当なものだと想像できますが、伝統の製品を作っていて同様の決断を下す人がどれだけいるでしょうか。
イタリア人の伝統を守るという気持ちは、ほんと半端じゃない。
15軒の生産者が管理組合から分離したのが2006年。
熟成に最長で10年かける2006年のチーズが出来上がるのは、2016年。
伝統に忠実な頑固な造り手たちが、プライドをかけて造ったチーズが出回るのは、もうそろそろでしょうか。
10年ものビットのカット。
歴史的な製法を守るために、地元の団体から分離して新しいブランドを名乗るというスローフードの試みは今後、どうなっていくのでしょうか。
ビットと言えばピッツォッケリ。
来月の「総合解説」にはピッツォッケリの記事も登場します。
-------------------------------------------------------
“ビット”の記事の日本語訳は「総合解説」2017年1/2月号P.35に載っています。
クレアパッソの「書籍リスト」
[creapasso.comへ戻る]
=====================================
0 件のコメント:
コメントを投稿