2018年8月31日金曜日

フィリグラナのパスタ

今月の「総合解説」で一番気になったリチェッタは、“イースターのラザーニャ”の記事の1品目、
“ハーブの透かし模様のエビとズッキーニのラザニェッテ”です。

ハーブを生地に練り込んだパスタはマルケージが好みそうな、グラン・シェフのアルタ・クチーナのテクニックの一つ。
でも、このテクニックを何と呼ぶかはずっと謎でした。
このリチェッタ、イタリア語では
“Lasagnette con filigrana di erbe, gamberi e julienne di zuccchine”です。

filigrana/フィリグラナ を辞書で調べると、
フィリグリー、金線細工、銀線細工、透かし(模様)だそうです。
 ↓


これはお札の透かし模様そっくりですねー。
フィリグラナはヨーロッパ発祥のテクニックのようですが、これをパスタに応用すると、芸術的なパスタになります。

パスタといってもタリアテッレのような細い麺ではなく、板状のラザーニャ。
フィリグラナのテクニックをそのまま応用するのではなく、出来上がりのイメージが透かし模様になっています。

「総合解説」でイースターの春のパスタに使ったハーブはセルフィーユ、ヘンルーダ、ディル。
これを伸ばしたパスタの1枚に埋め込み、もう1枚パスタを重ねてパスタマシンで薄く伸ばします。
そうするとパスタの中に薄緑色のハーブの透かし模様が出来上がります。
特に難しいテクニックではないので、グラン・シェフでなくても作れます。

詳しいリチェッタは、ぜひ「総合解説」を御覧ください。

ハーブの透かし模様の入った薄いパスタの間に赤いエビと緑のズッキーニをはさんで、エビのビスクをかけたパスタです。

こちらはイタリアンパセリ入り

リグーリアのカンポ・リグレは銀線細工のフィリグラナで昔から有名。
 ↓



ため息が出るような美しさ。
さすがは伝統のイタリアの職人技。
動画まで芸術的。
カンポ・リグレはリグーリアのジェノヴァ近くの町だそうですよ。

パスタからは外れてしまいましたが、イタリアのトップシェフのパスタを集めた本
パスタ・レボリューション


もお勧めです。


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“イースターのラザーニャ”のリチェッタは、
総合解説」2016年4月号に載っています。
詳細・ご購入はこちら
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2018年8月27日月曜日

フライパンで調理する薄切り肉料理、グラッサーレ

今日のお題はグラッサーレglassare。
『クチーナ・イタリアーナ』の“スクオラ・ディ・クチーナ”の記事からです。

グラッサーレは料理をグラッサで覆って味を濃くして艶を出す調理方法のここと。
フライパンで肉や魚を調理することが少ないイタリア料理では少数派の、
フライパンで調理する基本のテクニック。

ベースは肉や魚の焼き汁。作り方の過程は、
・肉や魚の切り身を下ごしらえする。
・焼き汁をデグラッサーレdeglassareして焼き汁やメイラード反応した焦げを溶かす。
・小麦粉(繊維があるので不透明なソースになる)やデンプン(透明なソースになる)、生クリーム(脂肪分とソースの水分が乳化してとろみがつく)などを加えてつなぎながら煮詰めてボティーを出す。
・火を止めたら仕上げに香草や香料を加える。

と、基本中の基本。

この料理に適した食材は、薄切り肉や筒切りの魚。
子牛のスカロッピーネ、白ワインソース
 ↓



イタリア料理の初心者向き本を見ると、セコンドの入門は、まず鶏や鴨の解体から。
イタリア料理の入門書としてイタリアで昔から人気の本、『クチーナ・レジョナーレ・ソフィー・ブレイムブリッジ

によると、肉のセコンドは、まず鳥pollameから、
鶏、鴨、七面鳥、ガチョウ、鳩、うずら、ホロホロチョウ、雉の解体の仕方、
オーブン焼きやグリル用下ごしらえ
そしてブロードのとり方、
と続いていきます。
鶏の次がカルネcarneです。
薄切り肉の料理には、なかなかたどりつかない。

ロースト、牛肉のブラザート、オーブン焼き、ボッリート・ミストなどの地方料理が次々と紹介されて、初めて登場したフライパン料理は、レバーのヴェネチア風でした。

薄切り肉を使った伝統料理の代表はサルティンボッカ。
 ↓


かなり変形版ですが、基本はグラッサーレ。
子牛肉のマルサラ風味もそう。
 ↓


グラッサーレとはちょっと違うけれど、フライパンを使った薄切り肉料理の1つ、ナポリ料理の肉のピッツァイオーラ風。
鶏から豚肉までどんな肉にも合います。
動画は牛肉版。
 ↓


鋳鉄の鍋にトマトソースを入れてその中に薄切りの牛肉を広げて煮ています。
こ、これひょっとして、基本はすき焼きと同じではないですか。
学会に発表したくなるレベル。

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“グラッサーレ”の記事の日本語訳は、「総合解説」2016年4月号に載っています。
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2018年8月24日金曜日

フォカッチャのバリエーション

フォカッチャの話の続きです。
総合解説」のフォカッチャの記事を読み返して、フォカッチャには大きく分けて3つのタイプがあることに気が付きました。

元々は料理をのせる皿のような役割のパンから、
フォカッチャ・ジェノヴェーゼのように皿に特化して皿だけを味わうもの、
ピッツァ・シーマのように具を挟むタイプのもの、
スフィンチョーネのように具をトッピングするタイプのもの、の3つです。
この記事はタイプの違うフォカッチャをちゃんと選んで取り上げていたんですね。

フォカッチャは朝から夜中まで、一日中どんな機会に食べても合う食べ物です。
フォカッチャ・ジェノヴェーゼは朝食にぴったりのタイプに進化しました。
そう言えば私も、フォカッチャ・ジェノヴェーゼをジェノヴァのホテルの朝食で初めて食べた時、日本で何度も食べたことのあるフォカッチャとまったく違う、想像を超えた美味しさにびっくりしました。
食べる直前に軽く温めたフォカッチャは、カリッと香ばしいのに中はふんわり。軽い塩気とオリーブオイルの風味だけで十分にコーヒーに合います。
トッピングも具も排除して、生地だけで完結する美味しさを目指して造られている味でした。

これとは逆に、具を取り込んでナポリの特産品の数々を一緒に味わえるように進化したのがナポリのピッツァ。
姿も食べ方も全く違う両者ですが、食べた時の驚きには共通点がありました。
ちなみに、私が食べて衝撃を受けたパンは、あともう1品、プーリアのパーネ・ディ・アルタムーラです。
イタリアのパンの奥深さは素晴らしい。

ストリートフードのお勧め本『ストリートフード・アッラ・イタリアーナ』には、

フォカッチャ・・ジェノヴェーゼは、
「16世紀にサン・ロレンツォ大聖堂で結婚式や祭りがあるときにフォカッチャの香りが充満したので、大司教が禁止令を出したほど。ストリートフードというより教会の食べ物だった。各パン屋に秘密のリチェッタがあるが、重要なのは生地への愛だ」
と書かれています。
(諸説あり)

サン・ロレンツォ大聖堂
 ↓


具をトッピングするタイプのフォカッチャとして「総合解説」でリチェッタを紹介しているフォカッチャは、パレルモのスフィンチョーネです。

クリスマスに食べる名物で、ラテン語のspongiaが語源。
スポンジャ?というくらいだからスポンジのように高く発酵させたふわふわした柔らかい生地のフォカッチャです。



前述の『ストリートフード』によると、
スフィンチョーネを考え出したのはサン・ヴィート修道院の修道女だそうです。

この他に、生地に食材を練り込むタイプのフォカッチャもあります。
ぶどうのスキアッチャータ。
下の動画はボンチバージョン。
 ↓


ぶどうのスキアッチャータは、生地に練り込むタイプで、さらにもう1つのタイプのフォカッチャでもあります。
フォカッチャ・ドルチェです。
フォカッチャ・ドルチェについては2012年9月号の「総合解説」でリチェッタを訳しています。
ぶどうのスキアッチャータはキアンティとフィレンツェ地区で9、10月のぶどうの収穫期に作るフォカッチャ。
残ったパン生地、砂糖、フルーツが材料の質素な農民料理がルーツです。
いちじくもフォカッチャと相性がよいそうです。
生地は00タイプの軟質小麦粉が一般的ですが、発酵させやすいマニトバ粉を加えてもOK。
田舎風ならそば粉、とうもろこし粉、ファッロの粉など数種類の粉を混ぜます。

結局5つのタイプがありました。

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“フォカッチャ”の生地の日本語訳は、「総合解説」2016年4月号に載っています。
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2018年8月22日水曜日

『ピッツァ』から

クレアパッソで販売している本の翻訳をする水曜日。
今日は最近入荷したお勧め本、スローフードの『ピッツァ/グランデ・トラディツィオーネ・イタリアーナ』から。


エンツォ・コッチャさんの話は度々訳しましたが、彼は上質の食材を使って生地にこだわったピッツァを作って、新しいナポリ・ピッツァの一時代を築いた人です。

彼の後に続いてナポリ・ピッツァに大きな影響を与えた人物は、
まずはサルヴォ・ファミリー。
次男のチーロ・サルヴォは限界まで弾力のある生地を作りました。
これだけ水分の多い生地は、以前は適する粉がなかったので作れなかったそうです。

チーロ・サルヴォのピッツァ
 ↓



チーロの兄と弟のフランチェスコとサルヴァトーレのピッツェリア
 ↓


3代続くピッツェリアの家系で、ナポリでもこれほど大成功を収めたファミリーは他にいないそうです。

そして新しいナポリ・ピッツァの主役はダヴィデ・チビティエッロさん。
世界最大のナポリ・ピッツァの流派を作り上げてナポリ・ピッツァを世界中に知らしめた人。




ピッツァは庶民の食べ物ですが、ピッツァイオーリはとても尊敬される職業になりました。

ところで、今週のブログではフォカッチャの記事を取り上げています。
この本にはピッツァに関することがマニアックなまでに詳しく調べられています。
フォカッチャ・リグレについては、こんなことが書いてありました。

「フォカッチャ・ジェノヴェーゼは、方言ではフガッサfugassaとも言う。
主な材料は上質の小麦粉とエクストラヴェルジネのオリーブオイル。
特徴は、厚さは2cm以内。
外はこんがり焼けていて、中は柔らかい。

古代から広まっていたフォカッチャ・ジェノヴェーゼからピッツァ・ジェノヴェーゼは生まれた。
ルーツはリグーリア東海岸のオネッリア。
海軍大将のアンドレア・ドリアの生まれ故郷だ。
ピッツァ・アッランドレアは、彼に由来すると考えられている。
このピッツァはジェノヴァ県一体に広まった。
その結果、ピッツァとフォカッチャが混ざり合い、厚みのある生地のピッツァが生まれた。



ピッツァ・アッランドレアのトッピングはアンチョビ、イワシ、トマト、玉ねぎ、バジリコ、にんにく、タッジャスカの黒オリーブ。
別名サルデナイラとも呼ばれるが、これは昔、小イワシの頭だけで作っていた時の名残り」

ピッツァとフォカッチャがミックスされたことがよく分かるサルデナイラ
 ↓



どっちかと言うと、フォカッチャかなあ。



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総合解説
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2018年8月20日月曜日

地方料理のフォカッチャ

今月の「総合解説」、次の地方料理はフォカッチャです。

イタリア料理と出会ったばかりの頃は、フォカッチャというと、指でくぼませた穴が特徴の平らなパン、と思っていました。
これはフォカッチャ・ジェノヴェーゼ。



ピッツァのドウの伸ばし方に似ています。
というか、そっくりです。
引っ張ったり麺棒で押し潰したりしないので、結果的に指で押したくぼみがたくさんできます。
このくぼみは“オンブリサッリ(ombrisalli/へそ)”と呼ばれます。
ここにリグーリア産のデリケートなオリーブオイルがたまって、香ばしいシンプルな生地を一段とおいしくします。

ピッツァ生地の伸ばし方
 ↓


フォカッチャは、パンとピッツァの中間で、原料は小麦粉、オリーブオイル、水。
イタリア料理のエンブレムの一つです。
「総合解説」でも、これまでに度々取り上げてきました。
ここではスローフードのスクオラ・ディ・クチーナシリーズの『パーネ・ピッツェ・フォカッチェ』から、引用してみます。


そもそもフォカッチャは、一説ではパンより古く、発酵やかまどが発明される前のもので、熱した石板の上で焼きやすいように、生地を薄く平らに伸ばしたもの。
元々は皿の代わりに料理をのせて、最後には食べてしまえるものとして使われていました。
フォカッチャの語源は古代の焼いた食べ物という意味のfocusと言われています。
でも、どうも古すぎて、はっきりした証拠はみつかっていないようです。

「総合解説」“2015年3月号”では、フォカッチャの基本について少し詳しく解説しています。

フォカッチャに最適な粉は、イタリアの分類では00タイプでW270の小麦粉でした。
Wとは粉に含まれるタンパク質を表す数字で、含有量が多いと小麦粉は“強く”なります。
つまり、長時間の発酵に耐えて、卵やバター、砂糖を加えたリッチな生地に適します。
一般的にパンにはw150必要で、強力なカナダのマニトバ粉はw500あります。

生地に加える水分の量は、生地が水を吸い込む力にもよりますが、小麦粉500gにつき250~300mlが一般的。

十分発酵した生地は2倍に膨らみます。
発酵時間が長すぎると焼いている間にたるみ、酵母が不快な匂いを発します。

小麦由来の糖分、モルトを使うと他の砂糖より心地よいアロマが生まれます。

フォカッチャのバリエーションは、まず、詰め物をしたフォカッチャ・リピエーナ。
「総合解説」2012年6月号に“具をはさむフォカッチャ”のリチェッタを載せています。
主に野菜の具です。
さらに、“じゃがいも入り生地のフォカッチャ”があります。
じゃがいも入りの伝統的フォカッチャとして、「総合解説」13/14年7月号では、プーリアのフォカッチャを紹介しています。
これは、硬質小麦がプーリアに広まる前から造られていました。

じゃがいもというのは、飢饉の時の農民の命綱で、どこの村でも育てていました。
とても身近で、手に入りやすい、庶民料理には欠かせない食材だったのです。
さらに生地を柔らかくする効果もありました。

フォカッチャ・プリエーゼ
 ↓



今月の「総合解説」で紹介している地方料理のフォカッチャは、シチリアのスフィンチョーネと、アブルッツォのピッツァ・シーマです。
イーストを加えない、発酵させないパンです。
ルーツはユダヤの発酵させないパン、scemaシェーマと言われています。
 ↓



イタリア各地で個性的なフォカッチャが造られているんですね。
フォカッチャの話、次回に続きます。

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“フォカッチャ”の記事の日本語訳は、「総合解説」2016年4月号にのっています。
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2018年8月17日金曜日

パイヤータのリガトーニ

総合解説」2016年4月号発売しました。

今月の「総合解説」で取り上げた地方料理の1品目は、ローマのパイヤータのリガトーニ。

“パイヤータpajata”は、小腸のローマの方言(標準語はpagliataだけど、ローマ方言の名前のほうが一般的じゃないでしょうか)。

貧しい食材を美味しい料理に変えるという庶民料理の本質を守りながらも、
内臓という最近では食通に人気の食材が主役のこの料理は、
グルメな人々の心をがっちり捉えていました。

しかも、BSEの影響で15年に渡って販売が禁止され、解禁されたのは2015年と、まだ最近の話。
禁止されれば食べたくなるのが人間。
パイヤータは、伝説の食材になりかけていました。

小腸を食べたーいと熱望しているローマの人々に教えてあげたい。
日本にはこてっちゃんがあるよー。

でも、日本のこてっちゃんも一時は2年間販売を休止したというから、あの頃は、日本のホルモン好きも、振り回されたんだろうなあ。

腸の販売が禁止されたのは腸を食べる習慣がある国だけでした。
こてっちゃんの原料の腸はアメリカやオーストラリア産。
ということは、これらの国では食べる習慣がない。

こてっちゃん、BSE問題時にはこんな努力が・・・。

イタリアは、前回のブログで紹介したサルデーニャの羊の腸の炭火焼き、コルドゥーラなど、地方によってはよく食べていました。
地方どころか、ローマに関しては、小腸はトラステヴェレ生まれでない人には馴染みのない食材だそうですよ。
私も、こてっちゃんを使えばパイヤータのリガトーニができると考えてる時点で、食べる習慣がない人でしょうか。

パイヤータを見栄えの良い料理にするには、完璧な下処理が必要だそうです。
小腸を長さ20~25cmに切ってリング形に結ぶ
こんな面倒な作業があったんですねー。
知らなかったー。
ローマの肉屋さんはリクエストがあればこの下処理もやってくれるそうです。
馴染みの店が必要ですね。
こてっちゃんの会社なら、結んだこてっちゃんを売り出していたはず。

ローマの肉屋の教祖と言われているボッテガ・リベラーティのロベルト・リベラーティさんは、こんな人。
 ↓


もう1本どうぞ。



さすがに解禁されてまだ3年のパイヤータは、料理の動画がほとんどないですねー。
解禁されたとは言え、まだ豊富に出回ってはいないそうです。
この料理が消滅する前に戻ってきてよかった。




最後は、パイヤータのリガトーニがお勧めの店の1軒
フラヴィオ・アル・ヴェラヴェーヴォ・デットのフラヴィオさん。
 ↓


ローマの伝統的なオステリアのシェフです。


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“パイヤータのリガトーニ”の記事の日本語訳は「総合解説」2016年4月号に載っています。
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2018年8月13日月曜日

ダ・カイーノのヴァレリア・ピッチーニシェフ

今月の「総合解説」に登場した2店目のシェフは、ダ・カイーノのヴァレリア・ピッチーニシェフです。

かなり昔から活躍している女性シェフですよね。
個人的に一番印象に残っているのは、インパクトがあるその店名。
ダ・カイーノ。

たぶん人の名前だろうなあとは思っていたのですが、日本人には覚えやすい名前ですよね。

下の動画に最初に登場して店名の由来を語っているのは、ご主人でワイン担当のマウリツィオさん。
彼のお父さんのニックネームが店名だと語っていますが、なぜこの名前が生まれたかは息子にも不明だそうです。
かなりの腕白小僧だったみたいです。




勉強が嫌いだった彼は、学校を卒業すると、彼のお母さんが初めた店を手伝います。
その店は、やがて彼の妻が受け継ぎました。
なのでそれ以降、彼は妻を手伝っています。
それが同郷のヴァレリアです。
彼のスタンスは、強い情熱を持って料理を作っている母と妻を支える、というもの。
幸せなイタリア男だなあ。

ヴァレリアは夫とは違って化学の学位を持つ勉強好きな理系女子でした。
そのディプロマを店の厨房に飾ってあるそうです。
マウリツィオは、一生、妻と母親には頭が上がらないですね。

『ガンベロ・ロッソ』の記事では、ヴァレリア側の目線で店を取材しています。
70年台末に、プロとして何の経験もなしに、姑を手伝うために料理を始めたヴァレリア。
とにかく彼女も、姑に劣らない情熱の持ち主でした。
そしてオステリア・トラットリアだった店を、高級ホテル、ルレ・エ・シャトーグループのミシュラン2つ星レストランに作り上げます。

上の動画で素敵な客室のベッドメイキングをしているのがシェフですよ。
なんて働き者。

店があるマレンマ地方という場所柄か、彼女の狩猟肉料理は有名でした。
さらに今回の記事では彼女のもう一つの得意分野、内臓料理の腕前も披露しています。

内臓料理について語るシェフ
 ↓


内臓料理を語る時は、なぜ内臓を料理するか、という基本中の基本の証明から入るのですね。
さすがはリケジョ。




料理の基本は味、見た目も大切だが、それはあくまでも2番目、と語るシェフですが、「総合解説」で紹介した内臓料理は、とてもゴージャスな盛り付けの美しい料理です。
皿を覆う大きなドーナッツ形に切ってオーブンで焼いたブリック生地の上に、豚の耳、足、ネルヴェッティ、リードボーを盛り付けるという、見た目のインパクトも特大な1品。
美しい料理を作れる人だから、見た目はあくまでも2番目なんて語れるんですね。




物静かにワインを語るマウリツィオ、バリバリ仕事をこなしている親分肌のヴァレリア。
互いを尊敬しあっている素敵な夫婦の店でした。

イタリアの一流シェフの団体、ソステの会員でもあるヴァレリア。
会員のリチェッタ集『グランディ・リストランティ・グランディ・シェフ』もお勧め。



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ヴァレリア・ピッチーニの記事の日本語訳は「総合解説」2014年3月号に載っています。
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2018年8月10日金曜日

サルデーニャの子羊のロースト

今日はメイド・イン・イタリーの食材の一つ、サルデーニャの子羊の話。
 
冬と夜間以外は野生状態で育てます。
 ↓



サルデーニャで子羊をローストするというのは儀式のようなものなんだそうです。
  ↓


サルデーニャの子羊は、半野生状態で、自然のものだけを食べて育ちます。
5~7kgになると母乳以外の放牧地のハーブも食べるようになります。
このハーブが、サルデーニャの子羊肉を特別なものにしている要因です。

ローストするときに加える香りの良い枝は、ミルトが代表的。



総合解説」で、子羊の腸を編み込んで炭火で焼いた“コルドゥーラ”と説明しているのはこれ。
 ↓


ちなみに2014年のサルデーニャの子羊の消費量は約55万頭だそうです。

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総合解説
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2018年8月8日水曜日

シチリア料理で夏を乗り切る

今日は、夏が暑ければ暑いほど、どの料理も美味しそうに見えるシチリア料理の本、
グイド・トンマージ地方料理シリーズの『ラ・クチーナ・シチリアーナ』のリチェッタを訳して、夏バテを解消してみたいと思います。


ただし、この本の最大の魅力は、空気感が素晴らしい写真なので、見ただけで涼しくなって食欲が湧いてくる写真をお届けできないのが残念です。

オリジナルのアレンジを加えたリチッタから。

■ジャスミンのリモナータ/Limonata al gelsomino。

材料/1.5リットル分

 ジャスミンの花・・一握り
 レモン(できればグリーンレモン)・・4個
 砂糖・・100g

・日没後にジャスミンの花を摘み、水500mlに一晩浸す。
・グリーンレモン1個の皮をすりおろし、グラニュー糖100gと一緒に沸騰した湯500mlに入れて冷ます。
・翌朝、ジャスミンの花とレモンの皮入り水の両方を漉して混ぜる。
・残りのレモンの汁を絞り、これも加える。
・よく冷やし、好みで砂糖とジャスミンの花を加えてサーブする。


■ロング・ズッキーニのガスパチョ/Gazpacho di cucuzza lunga

材料/4人分
 ロング・ズッキーニ・・500g
 きゅうり・・1/2本
 玉ねぎ・・大1個
 にんにく・・1/2かけ
 ミント・・2枝
 ビネガー・・大さじ7
 EVオリーブオイル・・1/2カップ
 水・・2カップ
 1日たったパン・・2枚
 塩・・5つまみ

・ロングズッキーニは皮をむいて輪切りにし、2~3分ゆでる。
・水気を切って密閉容器に入れ、小さく切った玉ねぎ、にんにく、ミント、パンのクラム、ビネガー、塩を加える。
・冷蔵庫で約1時間マリネする。
・水と油を加えてミキサーにかける。
・よく冷やしてサーブする。

■キンカンのイワシ巻き/Alici al kumquat

材料/4人分
 イワシ・・16尾
 キンカン・・16個
 パン粉・・大さじ3
 レモン汁・・2個分
 しょうが
 EVオリーブオイル
 塩、こしょう

・イワシを開き、レモン汁としょうがで30分マリネする(長すぎると柔らかくなる)。
・イワシをとり出してさっと油をつけ、塩とこしょうを加えたパン粉をまぶす。
・これでキンカンを巻き、楊枝で止める。
・グリルで焼き色がつくまで焼く。
・塩をつけて熱いうちに食べる。


■ヤリイカのマルサラ煮/Calamari al marsala

材料/4人分
  ヤリイカの輪切り・・500g
 玉ねぎ・・大1個
 トマト・・小2個
 マルサラ・・1カップ
 塩、こしょう
 EVオリーブオイル

・玉ねぎを薄く切り、水大さじ数杯と一緒に底の厚いフライパンで煮る。
・柔らかくなったら油と皮をむいてフォークで潰したトマトを加えてよく混ぜ、イカの輪切りも加える。
・マルサラ1/2カップをかけ、火を強めてアルコール分を飛ばす。火を弱めてかき混ぜながら10分煮る。
・塩、こしょうで調味し、仕上げに残りのマルサラをかけてなじませる。
・火を止めて冷ましてサーブする。

■柑橘果汁入りパンナコッタ/Panna cotta agli agumi

材料/4~5人分
 牛乳・・250ml
 生クリーム・・250ml
 砂糖・・60g
 オレンジフラワーウォーター・・小さじ1
 板ゼラチン・・5g
 無農薬のグリーンレモンと黄色いレモンの皮・・各1個分
 飾り用きんかん・・2個、砂糖・・大さじ2

・板ゼラチンを水で10~15分ふやかす。
・黄色いレモンの皮をむく。白い部分が入らないようにする。グリーンレモンの皮はすりおろす。
・皮を牛乳に加えてゆっくり沸騰させ、漉して生クリーム、砂糖、オレンジフラワーウォータを加える。再び火にかける。
・絞ったゼラチンを加えて完全に溶かし、沸騰させずに数分煮る。
・5分冷まして型か小型のグラスに流し入れ、キンカンの軽いカンディートの輪切りで飾る。砂糖と水のシロップをかける。


この他に、オリーブのクンツァーテやミント詰め、真っ白なリコッタのパスタなど、伝統料理にもおもしろそうなものがたくさんあります。

オリーブのクンツァーテ
 ↓


リコッタのパスタ
 ↓



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2018年8月6日月曜日

ドロミテの牛乳とパンとハーブのストランゴラプレーティ

今日はストランゴラプレーティの話。
トレント地方の料理です。

今月の「総合解説」では、この料理の背景を解説しています。
ストランゴラプレーティstrangolapretiと、ストロッツァプレーティstrozzapretiは、どちらもよく似た名前の料理ですが、前者はニョッキ、後者はねじって整形するショートパスタで、出来上がりは全く違います。

ストロッツァプレーティ。
 ↓


よく見れば、この2つは、どちらにもプレーティという言葉がついています。
カトリックの司祭のことです。
その前につく、ストランゴラとストロッツァも、なんとなく似ていますが、どちらにも、首を絞めるという、物騒な意味があります。

ストロッツァプレーティは、中央~南イタリアがルーツの料理。
トスカーナのヌーディ、ウンブリアのストロンゴッツィ、ラツィオのスパゲットーニ、ナポリのニョッキなど、様々な形態があります。

ストランゴラプレーティは、北イタリアのトレントの料理として知られています。

ストランゴラプレーティという名前の由来には諸説ありますが、この記事の説は、かなり信憑性がありました。
逆に言えば、一番マイルドでありそうな話。
詳細は「総合解説」をご覧ください。

さて、トレントのストランゴラプレーティは、カネデルリをシンプルにした貧しい庶民の料理がルーツで、地方料理としての真髄は、ドロミティ地方のもっとも基本の食材、パン、牛乳、ハーブです。
でも、イタリア料理として全国区になるにつれて、ほうれん草やビエトラが主役になりました。

ドロミティ地方 見てるだけで涼しくなります。
 ↓


ドロミティ地方の料理
 ↓


ストランゴラプレーティ
 ↓


現代では、パンは最低2日たった、スパッカティーナspaccatina(こんなパン)やミケッタが一般的。

猛暑の北半球でトレントは素敵な避暑地かも・・・なんて思ったら、
トレントでも夏は暑い、と言う人が。
ついでにトレントではみんなドイツ語を話してりんごを食べていると思っているとか、
イタリア人でもトレントの固定概念にはかなり誤解があるようです。
 ↓




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“ストランゴラプレーティ”の記事の日本語訳は「総合解説」2016年3月号に載っています。
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2018年8月3日金曜日

サルデーニャの職人芸パスタとドルチェ

今月の「総合解説」で取り上げた料理書は、『トラディツィオーネ・グスト・パッシオーネ2
すでに売り切れの本ですが、あまりの出来良さに、毎年、夏になると勧めたくなります。
中古になりますが、注文があれば、頑張って探しますよ。


出版されて早々に売り切れて、2011年には絶版になりました。
この本の素晴らしさは、なんと言ってもその写真。

なので、文章で説明するのがとてももどかしいのです。

南イタリアと島の料理を紹介するこの本の最初のリチェッタは、サルデーニャのパスタ、ロリギッタス。



パラパラページをめくると、芸術品のように美しく装飾されたドルチェが。
イタリアのドルチェの中でもひときわ抜きん出た美しさです。
サ・ティンバッラという洗礼式の時の伝統的なドルチェ。

さらにページをめくると、今度はフィリンデウです。



素麺のように細く伸ばした麺を重ねて板状にするという、とても複雑で珍しい麺ですが、この本では、イカ墨入りの真っ黒なフィリンデウ、という、斜め上のパスタを紹介しています。
これを魚のスープ、グアッゼットにパンの代わりに入れた1品です。
リチェッタを紹介した店は、オルビアのホテル・レストラン、Gallura。
朝は自家製ドルチェや地元の山羊のヨーグルトを出しているそうです。

次のページは、パーネ・カラザウの上にペコリーノをのせて炭火でグリルしている写真。
とろけだしたチーズが黄金色に輝いています。
これに蜂蜜をかけてデザートとしてサーブするのだそうです。
この料理を作っている店の名前、Sa Cardiga e Su Schironiは、“グリルと串焼き”という意味。

こんな調子で、ページをめくる度に目を瞠るような写真ばかりで、超オススメの本です。
「総合解説」ではサルデーニャとシチリアの12品のリチェッタを訳しました。
いつまでこの貴重な食文化が残っているか、ちょっと心配です。


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トラディツィオーネ・グスト・パッシオーネ2』のリチェッタの日本語訳は、「総合解説」2016年3月号に載っています。
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