今月の「総合解説」には、欧米の食文化にはキリスト教が深く関わっていると感じる記事がありました。
“断食の魚料理”という記事です。
“断食”と聞いてすぐに思い浮かぶのは、イスラム教のラマダン。
約1ヶ月間、日の出から日没まで飲食を断つことによって、信仰心を清める修行、だそうです。
文字通りの断食ですね。
キリスト教の場合は、木曜はニョッキ、金曜は魚、というローマの言い回しが知られているように、曜日によって肉を食べることが禁じられた日がありました。
金曜日は“mangiare di magro”の日と呼ばれていました。
断食といっても肉を食べない、ということです。
金曜日はキリストが死んだ日と信じられていたそうです。
マーグロmagroというのは、イタリア料理の用語としても定着しています。
例えば、具に肉が入らないほうれん草とリコッタのラビオリなとどは、代表的なラビオリ・ディ・マーグロです。
キリスト教の主な断食は、カーニバルと復活祭の間の40日間(クアレジマ)、キリストが荒野で断食したという苦行を思って“動物性脂肪、主に肉を食べない”、という修行です。
キリスト教の初期の頃は、戒律を破ると死刑だったそうですよ。
9世紀になると魚は肉より浄化されているとしてクアレジマの間に食べることが許されました。
それからというもの、40日間、イタリア中、山の中でも魚料理を美味しく食べるために、工夫が重ねられました。
そして庶民的なイワシやタラを中心に、塩漬けやスモークという長期保存技術も発達して、イタリアの伝統料理に魚料理が加わっていったのでした。
現在でも、クアレジマの間はイタリアの魚の消費量は増えているそうなので、敬虔なイタリア人は断食の掟を守っているようですね。
断食とバッカラについての話は以前このブログでも取り上げました。
(こちら)
やはり、断食料理の王様は干ダラでしょうか。
国民的イタリア料理には、どんな魚料理があるかなあと思って、
『グランディ・クラシチ』
を見てみましたが、
カッチュッコ、アンコナ風ブロデット、タコのルチアーナ、メカジキのシチリア風、バッカラのヴィチェンツァ風などと、肉に比べてごく少数。
しかも漁師町の料理が多いですね。
では、定番の家庭料理にはどんな魚料理があるのかなと、今度は『マンマミーア』を見てみました。
するとこちらにはたくさんありました。
最初の1品はマトウダイ(サン・ピエトロ)でしたが、あとはイワシが多いですねえ。
他は、マグロやクロダイ、ムール貝、エビ、メカジキ、ホウボウなど、地方料理から全国区になった代表的イタリア料理が多いです。
おもしろいことに、最近では魚が贅沢な高級品になってきて、魚、肉という区別ではなく、高級品というくくりで断食すべきという意見もあるそうです。
現代では魚の保存や輸送の技術も向上して、魚料理の選択肢も豊富になりました。
あとは調理次第です。
魚をボリューミーにする手段の一つ、テンプラは、ポルトガル人の宣教師によってヨーロッパに逆輸入されました。
これを異文化の出会いから生まれた素晴らしい成果の1つだと、鉄砲伝来とテンプラ伝来を同レベルで語る人もいます。
断食の期間に食べる、大衆魚を保存のきく方法で調理した料理、その実例が何品か、今月の「総合解説」に載っています。
他にもあるので、次回はその料理の紹介です。
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“断食の魚料理” の日本語訳は、「総合解説」2016年3月号に載っています。
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