今日はナポリ料理の話。
『サーレ&ペペ』の記事の解説です。
今回取り上げるナポリ料理は、じゃがいものガットー gattò di patate 。
これ、ガトー gateau じゃないですから。
あくまでも、ガットーですから。
こんな料理です。
kucinare.it
ricettedicucinamoderna.blogspot.com
gennarino.org
ゆでて潰したじゃがいもに、バター、牛乳、おろしチーズ、卵、生ハムの小角切り、プレッツェーモロなどを加えて濃いピューレにし、間にプローヴォラやモッツァレッラをはさみながら型に詰めて、パン粉を散らして焼いたじゃがいものケーキです。
とても家庭的な一品で、イタリアのあちこちのブログで自慢のガットーが紹介されています。
ガットーって、なんだか微妙になまってるなあと前々から思っていたのですが、『サーレ&ペペ』の記事を読んで、なるほど、そうだったのか!と納得しましたよー。
どうやらこの名前、広めたのはイッポリート・カヴァルカンティのようですね。
イッポリート・カヴァルカンティ Ippolito Cavalcanti 。
この人は、1787年ナポリ生まれの文人、かつ料理研究家で、ブオンビチーノ公という称号の貴族でした。
探してみたら、ブオンビチーノという名前の村がカラプリアにありました。
この村の領主だったのかどうかは知りませんが、ブオンビチーノ家は、ナポリにやってくる前はフィレンツェとカラブリアに領地を持つ一族だったそうです。
イッポリート・カヴァルカンティは、ナポリ料理の本としてはとても権威のある歴史的な本、『クチーナ・テオリコ・プラティコ(理論的、実践的料理)』(1837年初版)の著者として有名で、イタリア料理の歴史の中では重要な人物。
この本は19世紀のナポリ料理をシンプルな言葉で解説した本で、貴族向けのイタリア語の章と、平民向けのナポリ方言の章とで構成されています。
方言で書くというのは当時としては珍しいことでした。
彼は普段から、「貴族の義務」というものを大切に思っていた人だったそうで、貴族の間に広まっているおいしい料理を庶民にも伝えたい、という純粋な使命感からこの本を書いたのかもしれません。
中世からイタリアが統一されるまでの間、ナポリでは主にフランス人とスペイン人の王が交互に誕生しては消えていく状態を繰り返していました。
そして19世紀前半当時、貴族の間で流行していた料理というのがフランス風の料理です。
カヴァルカンティは、普段は標準イタリア語でさえ話さず、ましてやフランス語などほとんど理解しない庶民に、フランス風の料理を分かりやすく紹介しようとしたわけです。
そこで考えだしたのが、フランス語の発音をイタリア語にあてはめたオリジナルのネーミング。
この単語をイタリア語風にすると、どうなると思いますか?
charlotte
gratin
céleri
gateau
カヴァルカンティが考えた言葉は、
チャルロッタ
グラッテ
セッレーリ
ガットー
ずいぶん愛情あふれる経緯で生まれたネーミングだったんですねえ。
そう思って見てみると、「じゃがいものガットー」って、なまってるところが味があっていいかも・・・。
ナポリ料理の店で、“ gattò di patate ”というメニューを、ガトーじゃなくてガットーと読む人がいたら、きっとなかなかの通ですよん。
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関連誌;『サーレ&ペペ』2006年10月号(クレアパッソで販売中)
“じゃがいものガットー”の記事の日本語解説は、「総合解説」'06&'07年10月号、P.5に載っています。
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ブオンビチーノって、ディアマンテの近くにあるんですね。思わず地図で探してしまいましたよ。しかもイッポリートのワイン、カラブリアで買って帰ったことがあるだけになんだかナポリの話だけど興味がわきますね(単純)。
返信削除しかし書名からしてすごいなぁ。「平民向けのナポリ方言の章」ってなおさらすごいなぁ(平民がそんな書名の本を読むかどうかはさておき、そこらへんが貴族らしい)
ガットーと読む人に出会ってみたいけど、やっぱり高級な店にいかないと元々居なそう?あるいはこれは庶民的な店で出す料理ですか?
>うーんとお洒落して、一流のサービスを受けながら、感動するような料理を食べてみたい!
御意御意!!
くるりさん
返信削除ブオンビチーノ、カラプリア、イッポリート・・・、連想ゲームみたいですね。私まで、カラブリアに行ったらイッポリートのワインを飲みたくなっちゃいましたよー(笑)。
ナポリの人は方言にプライド持ってるようで、方言で書かれた料理書もあるんですよ。でも、よそ者にはほとんど解読不能~。
ガットーは、貴族の料理を庶民がアレンジしたものが家庭料理として受け継がれてきたみたいです。一口大にカットすればこじゃれた前菜にもなるから、トラットリーアなんかで出してるかもしれませんね。