2015年10月29日木曜日

ハロウィンだけどカーニバルの話

今年もハロウィーンの季節がやってきましたねー。
今年は、例年になく、ご近所が浮足立ってます。
コスプレしてはしゃぐちびっこたちは可愛いのですが、
スクリームのお面に黒いマントの大人が家の前に立ってた時は、通報したくなりました。
大人がこの種の仮装をする時は、遊び心が必要ですねー。

日本のハロウィンは、大人も仮装してはっちゃけるので、気分的にはカーニバルに近いんじゃないでしょうか。
そういえば、今月の「総合解説」は、2月号ということもあり、カーニバル料理の記事が2つあります。
イタリアの伝統的なカーニバルの食べ物と言えば、揚げ菓子、特に、おしゃべりという名の揚げ菓子、キアッキエレが有名ですが、
カーニバルのドルチェとは別に、カーニバルにぴったりの遊び心のあるリチェッタも訳しています。
イタリアの伝統料理という縛りがなくなると、普段は敬遠しているアングロサクソンや永遠のライバルフランス料理も大いに取り入れて、楽しいコースメニューを考え出しています。
聞きなれない英語やフランス語の名前の料理もあったので、今回はこのメニューの簡単な解説です。

まずは、ウーピーパイ。
これはアメリカ版マカロンとう説明の通り、アメリカのお菓子です。
ウーピーパイ
 ↓
Whoopee Pies

ふつうは甘いクリームを挟みますが、そこはイタリア人、記事ではゴルゴンゾーラとマスカルボーネを混ぜたクリームをはさんでいます。
ちなみに、ウーピーは、やったー!という意味。

次はジャンボン・ペルシエ。
ジャンボンはフランス語でハムのこと。
そう、今度はフランス料理です。
豚肉とパセリのゼラチンよせのテリーヌですが、これをとてもカラフルな美しい一品に仕上げています。
きれいだったので、写真は「総合解説」のページにupしました。

ジャンボン・ペルシエ
 ↓



イタリア版は、ズッキーニやパプリカでカラフルに賑やかに仕上げています。
カーニバルには、カラフルな紙吹雪が欠かせませんが、それがモチーフになっています。

紙吹雪が舞うウーディネのカーニバル
 ↓
Carnival. From Inside.

締めのドルチェの1つ、ポップタルトは、ケロッグの製品。
アメリカで大人気の朝食向けお菓子。
薄い長方形のパイにさまざまなクリームをはさんだもの。




どんな味なのか想像もつかないけど、おこちゃまは好きそうですねー。

という訳で、ジョークが利いているなら、なにをやってもOKなのが、カーニバルの料理のようです。
でも、そういう時こそセンスが問われるなー。




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“カーニバル”と“カーニバルのドルチェ”のリチェッタは、「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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2015年10月26日月曜日

トラットリア風料理

今日は「総合解説」P.22の記事、“トラットリア風料理”の話。

都会に住むイタリア人がイメージするトラットリア風料理とは、どんなラインナップなんでしょうか。
まあ、だいたい想像がつくのが、気取った高級感よりも家庭的な暖かさ。
前菜からデザートまで、みごとに各地の地方料理のいいとこ取りをした料理が並びました。

前菜はミラノの揚げミートボール、プリーモはトリッパとラビオリ、そしてトスカーナのリボッリータ、メインはほほ肉の赤ワイン煮込み、ドルチェはピエモンテのボネのアレンジ。


前菜がミートボールというのは意外でしたねー。
正確にはモンデギーリという名前です。
この料理については、忘れてましたが、すでにブログで一度、取り上げていました。(こちら)

確かにミラノがスペインに支配されていた時代の名残の料理です。
つい最近も、サルデーニャがスペインに支配されていた時代の名残の料理の話をした記憶が・・・。
そうそう、パナーダスだす。

残り物を有効利用した究極に家庭料理な一品が、トラットリア風コースの前菜。
ミラノ人以外には理解されにくいこの偏愛ぶり。
この記事を考えた人、ミラノ人ですねー。





まあ、トラットリア風料理には、作る人の家庭料理や、過去の記憶への個人的な思い入れが反映される、ということでしょう。
それが醍醐味でもあるし。

でも、次のトリッパは、いかにも典型的なトラットリア料理というイメージ。
イタリア各地に名物トリッパがあるので、作った人がどこで修業したかは、トリッパで分かるかも。

リボッリータは黒キャベツが入っていて、かなり本格的なトスカーナ料理。
これは、珍しいイタリア野菜が手に入ったら、その産地の名物家庭料理にすると、いう鉄則を遵守していますねー。

メインはイタリアだけでなく、多分世界中のトラットリーアの定番中の定番、牛肉の煮込み。

ちなみに、今月の「総合解説」の料理の基礎リーズ、牛肉編のテーマは“ストゥファート”。
肩バラの煮込み、肩肉のブラザート、トマト入りオッソブーコのリチェッタも載せています。

そしてドルチェは、パンとチョコレートのトルタとアマレッティのブディーノの2品。
どちらにもパン粉が入っていますよ。
チョコレートやアマレットの高級そうなケーキも、パン粉が入るととたんに家庭的になるものだなあ。
それと、アマレッティのブディーノは、「総合解説」のページに写真も載せたのですが、
平べったいブディーノの上に、その厚さを上回る高さのホイップクリームが山盛りになっているという、食事の最後にふさわしい大トリ感。
この演出もトラットリア的。





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“トラットリア風料理”のリチェッタは、「総合解説」13/14年2月号に載っています。

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2015年10月22日木曜日

『ラ・クチーナ・ディ・ローマ・エ・デル・ラツィオ』


今日は今月のお勧め本、“イルストラーティ”シリーズ、『ラ・クチーナ・ディ・ローマ・エ・デル・ラツィオ』の紹介です。


本の表紙はローマ野菜の温製サラダですが、裏表紙はがらっと趣を変えて、子羊を見守るように集まっている羊の群れ。
羊の白い毛のフワフワ感と松並木の迫力が伝わって来る中世の絵のような写真です。
このローマやラツィオの地元感が、この料理書の特徴です。



















本は、「パン屋通り」という番地表示の写真から始まって、最初の料理はいちじくと生ハムのピッツァ・ビアンカ、そしてブルスケッタとそのバリエーション、スップリ、ズッキーニの花のフリット、ポルケッタ、ロッショーリのピッツァ・ロッサと続きます(他にも料理はあります)。
Merendeと名付けられたこの章は、ローマが世界に誇るスナックやストリートフードの章です。
早くもがっちり引き込まれますねえ。

続いてMinestraの章。
パスタ・エ・チェーチから始まって、アックアコッタ、エイひれのミネストラなど、家庭的なスープがずらっと続きます。
そしてpaste asciutte。
パスタは、やっぱりカーチョ・エ・ペペから。
カーチョ・エ・ペペの解説文は
「カーチョ・エ・ペペには1001通りのバージョンがあり、美味しく作る秘訣は1002個あると言われています」で始まります。
研究のしがいがあるパスタのようですね。
次はカルボナーラ。
普通、パスタの写真は、テーブルの上に置かれた皿に盛られたパスタがアップになっているものですが、この本は、なぜか、カメラマンの知り合いたちがそのパスタを食べている姿なんです。
カルボナーラは白いタンクトップを着たロングヘアの美女が、スパゲティをセクシーにフォークに巻きつけている姿。
その微笑に気を取られながらページをめくると、次は黒ぶち眼鏡をかけた中年男性が皿にかぶさるような前がみになってカメラ目線で大口を開けてトマトソースの赤いパスタを口の中に押し込んでいる写真がどーんと目に飛び込んできます。
アマトリチャーナです。
トマトソースが白いシャツに跳ねたらすぐに拭くぞ、とでもいうように、手にはナプキンを握りしめています。
はは、面白ーい、と思いながら次のページをめくると、今度は茶色のシャツを着た若者が茶色いナプキンを握りしめてグリーチャを食べています。
はっと気がついて最初の美女の写真まで戻ると、やっぱり。
白いナプキンを握りしめていました。
これは演出なのか、それとも、これがローマ人がパスタを食べる時の習慣なのか。
うーん気になる。
その後も、顔を真っ赤にしてオールドファッショングラスでワインを飲みながらブッタネスカを食べるのは胸毛もじゃもじゃのランニングシャツを着たおじさま、アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノは4コマ漫画風、アッラッビアータを奪い合いながら食べるのは思春期前の著者の二人の子供たち。
かと思えばパヤータのリガトーニや手打ちのフェットゥッチーネなどはプロの美しい手元をじっくり撮影。

もう大分引き込まれてますが、次の肉の章ですっかり夢中。
トリッパやアッバッキオなどの新鮮な食材は、美しいですねー。
でも、やっぱり大トリは野菜の章。
表紙の写真でもわかるように、料理がアートのよう。
というか、アーティチョーク、プンタレッレといったローマの野菜が絵になるのか。
ドルチェの章では、憧れのマリトッツィを発見して、ローマで食べたい、という思いを強くするのでした。


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2015年10月19日月曜日

カラブリア風ラザーニャ

今月の地方料理、2品目は、カラブリアの、サーニェ・キーネです。

カラブリア風ラザーニャとして紹介している動画。
特徴は小粒のミートボール入り。
 ↓



カラブリアでは主に復活祭の時やお祝いの時に食べるラザーニャだそうですが、どうりでゆで卵やアーティチョーク、グリーンピースといった、パスクアの食材がたっぷり入っています。
挽肉をミートボールにしてボリュームのある具にする家庭料理らしい工夫がみられる一方で、トマトソースと野菜のソースを長時間煮込む、パスタを打つ、豆粒大のポルペッティーネを大量に作るなど、主婦の労働量はかなりなもの。
時間もかかるので、この記事のように、朝6時に、ソースの匂いで目が覚めるという、素敵な体験も、あり得ますねー。
小さな子供が、思わずベッドから台所まで直行しちゃう匂いです。

でも、じゃあお婆ちゃんはいったい何時に起きて料理を始めたの?
だってこのソースは4時間も煮込むんだよ、と健気な女の子は思うわけですよ。
そんな思いからか、心優しい少女はお婆ちゃんを手伝って、ポルペッティーネを一緒に作ることにします。
ところが、お婆ちゃんみたいに上手にできない。
どうして?
と悩んで、結局、これは秘密があるのではなく、何度も繰り返さなくては上手くならないんだ、ということにまで気が付きます。
母から娘へ、こうして楽しい思い出と共に家庭料理が受け継がれていくんですね~。

記事の中にある、南部のおばあちゃんの典型的なエプロンというのが気になって画像を調べてみましたが、残念ながら見つからず。
その代わり、カラブリアのカラフルな民族衣装の写真がたくさんヒットしました。
どうやらこれは、15~17世紀にアルバニアからの移民が造った村のお祭りの写真でした。
ポッリーノにあるこの村では、いまだにアルバニア語が話されているそうです。
カラブリアは、まだまだ謎が多いなあ。

サン・パオロ・アルバネーゼのアルバニア風民族衣装。
南部のおばあちゃんのエプロンてこんなイメージ?
 ↓




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“サーニェ・キーネ”の記事とリチェッタの日本語訳は、「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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2015年10月15日木曜日

パナーダス


今日から2月号の「総合解説」の解説です。
まず最初は、地方料理の記事から。
サルデーニャのパナーダスです。
HPの「総合解説」のページに写真と記事のサンプルをUPしてあります。

写真を見る限り、特に何の変哲もない、地味な田舎風のタルトですが、記事を読むと、このタルトにサルデーニャの食文化が詰まっていることが分かります。

まず、サルデーニャ料理を語るときに欠かせないのが、サルデーニャの食文化の柱の一つが、小麦だということ。
その小麦から、サルデーニャ独特のパスタ、パン、ドルチェが生まれてきました。
パナーダスはドルチェではありません。
小麦粉とラードをこねた生地で、発酵もさせませんが、イタリアでは、これをパンの一種とみなすようです。

また、サルデーニャは島とはいえ、漁業より放牧と農業を中心として発展してきました。
海辺は、海賊の侵略やマラリアの危険があったために、内陸で生活をしていたのです。
そのため、サルデーニャの伝統料理は魚より肉料理がベースにあります。
パナーダスも肉を使った料理ですが、なんとそもそもは、放牧中も肉を持ち運べるようにと、保存食として考え出された料理でした。
そういえば、寿司もそもそもは魚の保存食だったなあ。
もちろん、現在ではサルデーニャのビーチが観光客に大人気で、魚料理が島の名物になりつつります。
観光客に人気なのは、アルゲーロの伊勢エビ、カリアリのフレーグラ、ヌーオロの子羊、ガッルーラのヴェルメンティーノといった具合。

集落は内陸にできましたが、島だけあって、昔から様々な侵略を受けてきました。
イタリアの各州の料理をコンパクトにまとめた本、“ラ・グランデ・クチーナ・レジョナーレ・イタリアーナ”シリーズの『サルデーニャ』によると、フェニキア人に始まって、カルタゴ、ローマ、ヴァンダル、東ローマ、ピサ、ジェノヴァ、アラゴン、カタルーニャ、ピエモンテと、イタリア内外から、侵略され放題です。
そして、パナーダスは、その名前からもわかる通り、スペインの影響でできた食べ物です。
島のどの時期がスペイン支配の時代かというと、だいたい中世からイタリア統一まで。
長い!
パナーダスとはスペイン語で包むという意味のエンパナダスが語源なのですが、エンパナダスで検索するとそっくりの南米の料理ばかり見つかる結果に。
むしろこれは、パナーダスは南米の料理によく似ていると言うべきなのか。

包むという名前のパナーダスは、美しい閉じ方も料理のポイントです。
その閉じ方は“縫う”と呼ばれています。

そのようなことを踏まえて、パナーダス作りの動画をどうぞ。



民族衣装が似合う食べ物ですねー。




確かに、縫物してるようです。


各国のエンパナーダスの動画を見ましたが、やっぱり別物。
サルデーニャのパナーダスは、形がとても美しいです。

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“パナーダス”の記事とリチェッタの翻訳は「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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2015年10月8日木曜日

牛肉をゆでる

前回、あまり深く考えずに提案してみた問題、bollitoとlessoを日本語に訳す、という件ですが、考えれば考えるほど奥が深い問題だったことが分かってきました。
さらに、クラッコシェフのsbianchireの提案は、この疑問をもっと深く掘り下げる結果に。
クラッコ氏によると、スビアンキーレとは、ゆですぎを防いで過熱を止めるために、ゆで上がった食材を氷水にさらす、というテク二ック。
どうやら、イタリア語のゆでる、lessareには、歯ごたえを残すようにゆでる、という概念がないようです。
しかし、日本料理は、歯ごたえをかなり重視する料理で、ゆでると言ったら、歯ごたえを残す程度に、というのは暗黙の了解になっているはず。

ところが、bollitoとlessoの違いを探すと、イタリア料理のlessareにはあって、日本料理のゆでるにはない概念があることが分かってきました。

具体的には、「総合解説」P.30の3つのリチェッタを見てください。

ボッリートは、「この方法だと肉は味を保つがブロードの風味は弱い」という一文が。
さらにレッソは、「この方法だと肉が香味野菜の香りを吸い込む」
ブロードは、「この方法だと美味しいブロードが取れるが、肉はタンパク質を失う」とあります。

この3種類のゆで方には、このような違いがあるのです。

そこで問題になるのが、日本語のゆでるというテクニックの意味。

和食では、食材の臭みや脂を取って柔らかくするためにゆでます。
そこには味の概念はありません。
むしろ、この後で味を入れるための準備のような意味合いがあります。
味を加えるとなると、煮る、というテクニックになります。

でも、ボッリートもレッソも、加熱しながら味を加える、あるいは、味をなくさないゆで方です。
でも、煮るとは微妙に違います。
ちなみにイタリア語で煮るはcuocereです。
ゆでながら食材に味を加える、というのは、食材本来の味を活かすことを大命題とする和食の概念とは、ちょっと違います。
でも、肉を食べてきた食文化で、肉を柔らかくしながらさらに美味しくする、そのために考え出されたのがボッリートとレッソというテクニックではないでしょうか。

どうやて肉をもっと美味しくするのか、その点に注目しながら、前述の3つのリチェッタを読んでみると、なかなか面白い発見があるはずです。

最後に、クラッコシェフがその料理テクニックを簡潔、かつ詳細にまとめた本、『Dire, fare, brasare』では、lessareの章で、bollitoとlessoの違いを説明しています。
大雑把にまとめると、

lessareにはlessare "A FREDDO"とlessare "A CALDO"の2種類があります。
そして前者がlesssoで後者がbollito。
前者の“フレッドでゆでる"の概念を説明するなら、ブロードが完璧な例になります。
野菜のブロードなら、5リットルの水に玉ねぎ、にんじん、セロリ、ローリエ、イタリアンパセリ、セロリの葉、粒こしょうなど全部の材料を入れて沸騰させます。
そして2時間ゆでます。

“カルドでゆでる”の例としては、鶏のボッリートを挙げています。
この場合は、まず鍋にブロードとほぼ同じ香味野菜を入れて沸騰させます。
ここに鶏を入れて静かに沸騰させながら45分ゆでて取り出します。
そしてソースを添えて、または冷ましてサラダとしてサーブします。
ゆで汁は美味しくはないけれど、捨てずにリゾットやブラザートなどに使います。

フレッドの例としてブロードを挙げていますが、「総合解説」では、これをさらにレッソとブロードに分けています。
つまり、食材を美味しく食べるためのゆで方がボッリート、食材とゆで汁の両方を美味しくするのがレッソ、ゆで汁を美味しくするのがブロードのゆで方です。
中でも特徴的なのが、レッソのテクニック。
日本料理は素材の持ち味を活かす、というのなら、西洋料理はどうやって素材に味を加えるのだろう、という素朴な疑問を抱いていたのですが、つまりこいうことなのか、となんとなく納得しました。

そうそう大切なポイントがもうひとつ。
「総合解説」のレッソは、1㎏の牛の肩バラ肉を使っています。
ボッリートは1㎏の牛のブリスケ。
つまり、要は牛の塊肉を美味しく食べるためのテクニックですよね。

でも、牛肉の塊を調理する習慣のない日本では、代わりに薄~い切り身にしてしゃぶしゃぶする方法が考えだされたのでした。
イタリアでは、薄~い切り身なんて火を通すまでもなく、生で食べますわ。
肉食系なめんなよ、ですわ。

チプリアーニのカルパッチョ
 ↓
Carpaccio Cipriani





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“ボッリート/料理のシリーズ、牛肉編”の記事の日本語訳は、「総合解説」13/14年1月号に載っています。

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2015年10月5日月曜日

ゆでる

今日は、今月の「総合解説」料理の基礎シリーズの記事から、“ボッリート”と“レッソ”について。

イタリア語だとbollitoとlesso。

イタリア料理用語の基礎中の基礎ですから、もちろん皆さま両者の違いは、よくご存じでしょう。
ところが、これを日本語にしようとすると、適切な言葉が見つからない。
どちらも“ゆでる”という意味ですが、そのゆでる目的と出来上がったものは、明確に違います。
つまり、イタリア語には、ゆでるという意味の言葉が少なくとも2つあるのです。
でも、イタリア人でも両者の違いがよく分かっていない人もいるようなので、ちょっとだけ専門的な話になります。

その答えは「総合解説」に書いてありますのでご覧ください。
で終わりでもいいのですが、一応、解説の解説です。

ボッリートという名前の料理はありますが、レッソという名前の料理は、あまり見たことないのでは?
これは大きなヒントです。

様々な部位の牛肉をゆでるピエモンテ風ボッリート
 ↓



一方、レッソは鶏肉や野菜によく使う調理方法です。


答えを簡単に言ってしまえば、ボッリートはゆでる食材の味を活かすゆで方で、レッソはゆで汁を美味しくするためのゆで方。
つまり、味を肉に閉じ込めて肉を食べるのと、味をゆで汁に溶け出させてブロードにする方法。

ここで問題です。
和食を代表する料理、しゃぶしゃぶは、ボッリートでしょうか、レッソでしょうか。

うーん、悩むなあ。

実は、以前にも書いたことがある気がするのですが、カルロ・クラッコシェフは、その著書、『ディーレ・ファーレ・ブラザーレ』の“LESSARE”の章で、レッソの調理方法について実に7ページに渡って詳細に分析しつつ、レッソの一つ、日本のしゃぶしゃぶについても深い洞察力で語っています。
彼の初しゃぶしゃぶは日本を訪れたマルケージ氏が驚いた調理方法として作ってくれたものを食べたのだそうです。
彼もかなり衝撃を受けたようで、信じられないテクニックだと書いています。
ボッリートとレッソのゆで方がしみこんでいる国の人からすれば、薄く切った牛肉(クラッコシェフはカルパッチョのようと説明しています)を、だし汁でさっとゆでるだけで、肉も美味しくいただけるし、だし汁も美味しくなるというのは、画期的な調理方法だったのでしょう。

ちなみに、彼の本では、ゆでる調理方法をもう一つ挙げています。
それはスビアンキーレsbianchireです。

クラッコ氏は、イタリアの家庭料理で野菜をゆでると言えば、熱湯に野菜を入れて完全に柔らかくなるまでゆでることだと説明します。
そうそう、これこそが、初めてイタリアでゆで野菜を食べたときに感じた別物感。
日本のゆでると、イタリアのゆでるは違う。
そこで料理人に必要なのが、スビアンキーレのテクニックだと、シェフは語ります。

つまり、沸騰した熱湯に野菜を入れてゆでたらすぐに取り出して氷水で冷やす。
この方法だと色と歯ごたえが活かせます。

考えてみれば、日本では、この方法はよく使いますよね。
野菜だけでなく、麺にまで。

こんな調子で、カルロ・クラッコ氏の本はとても興味深い内容がいっぱいです。
ついでですので、次回はlessareの章をもう少し訳してみます。



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“ボッリート/料理のシリーズ、牛肉編”の記事の日本語訳は、「総合解説」13/14年1月号に載っています。
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2015年10月1日木曜日

カラブリアの黒豚


豚がドングリを食べて育つ、という話を初めて聞いたのは、多分、イベリコ豚が出回りだした頃。
それ以来、一般的な豚がどんなものを食べているかも知らずに、ドングリを食べて育った豚の肉は美味しい、という情報だけが刷り込まれてしまいました。

イベリコ豚
 ↓



要は、ブナの木の下で放牧した豚ということでしょか。
でも、それならスペインだけでなく、どこでもできそうですね。
それをインパクトの強いセールスポイントに仕立てた頭脳の勝利なのか。

「総合解説」の“黒豚の生ハムに合うワイン”の記事を訳していて、ちょっとした短い文章が印象に残りました。

それは、
「カラブリアの黒豚は、半野生状態で、どんぐり、栗、根、球根、野生の果実など自然のものを食べて育つ」
というもの。
ほお~、これはむしろ、どんぐりだけ食べている豚より、健全じゃないですか。

しかも
「小麦粉の餌を与えられた豚と違って、肉には多価不飽和脂肪酸が多く、グルテンは含まない。
36か月熟成のものは世界中の生ハムの中でオレイン酸含有量が最も多い」

だそうですよ。
こんな素晴らしい食材が、イタリアにもあるんじゃないですか。

イタリアの農産物がことごとくスペイン産に負けてしまうのは、スマートな宣伝方法を取らず、ひたすらプライド高く、昔ながらの職人技を強調しているだけだからなのかなあと、常日頃感じていたのですが、実は、この点をオリーブオイルで考察した興味深い記事が次回の「総合解説」にはあります。
その話は来月詳しく取り上げます。

カラブリアの黒豚
 ↓



トスカーナの山間部での豚の放牧
 ↓


さすがに豚の放牧は見たことないなあ。
森の濃度が違うというか、ヨーロッパの森は、豚が群れで通れるくらい、足元が広々してますね。

これだけの数の豚を放牧できるということは、どんぐりだけでなく、球根や果実などさまざな餌が豊富にあるということで、他の野生動物にとっても棲みやすい環境があるということ。
野生動物が里に下りてきちゃう環境では、無理だろうなあ。

なかなか貴重な豚のようですが、宣伝下手のカラブリアで、カラブリアの黒豚が、チンタ・セネージやネブローディのように、メジャーになる日は来るのでしょうか。

カラブリアの黒豚のサルーミ
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“黒豚の生ハムに合うワイン”の記事の日本語訳は「総合解説」13/14年1月号に載っています。
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