2012年6月26日火曜日

オリーブオイル、スーペルインテンシーヴォの時代

今日はオリーブオイルの話。
『ヴィエ・デル・グスト』の記事の解説です。

イタリアで、“エクストラバージン・オリーブオイル”というものが法律で定義されたのは、今から50年前の1960年11月3日のことだそうです。
ところが、この記事を寄稿したオリーブオイル生産者は、50周年なんて祝う気分じゃない、と、これまでの政府の方針に非常に憤慨しています。

現在、イタリアのオリーブオイル生産者は、外国産オイルの強烈な攻勢にさらされています。
ライバルは1ℓ1.99ユーロだというから、状況は厳しいですね。
最近はイタリアでもオリーブオイルのコンクールでスペイン産オイルの優勝が続いたりして、品質、価格の両方で、イタリアのオリーブオイルの現状は大変そうです。

それにしても、記事によると、イタリアでは畑1ヘクタールあたりに植えられているオリーブは250~300本だが、外国の格安品は2000本、というのはすごしいですねえ。
50年の間に、オリーブの収穫もすっかり機械化されました。
これだけ密集してオリーブを育てる方法は、イタリア語では“インテンシーヴォ”と呼ばれますが、今ではさらに密集させて機械で一気にどさっと収穫する“スーペルインテンシーヴォ”という方法が用いられています。

↓超密集したスーペルインテルシーヴォの畑でも、機械でささっと収穫。


広大な畑を所有する大地主が歴史的な経緯から今でも残っているスペインと違って、個人の小さな農場で手間暇かけて栽培する農家が主流のイタリアでは、生産の規模が違いすぎますよね。
生産者が、政府のバックアップが少ないと文句をいいたくなる気持ちもわかりますよ。

↓ゾニン社のオリーブ畑。
まだ隙間があって、広々してますねえ。

L'oliveto della Tenuta

そんなイタリアの職人的生産者にとって、多少はスカッとした出来事だったのが、脂肪酸エチルタステルと脂肪酸メチルエステルを添加したオイルをエクストラバージンオイルと認めないという、2011年1月24日のEUの決定でした。
これらの添加物は脱臭剤です。
収穫されて大量に山積みされたオリーブが、搾る前に発酵を初めるために、オイルから悪臭が発生するんですねえ。
それを消すためのものです。
さらに、オリーブオイルの栄養的評価が、不飽和脂肪酸が悪玉コレステロールを減らすという点にのみ集中している。
もっとポリフェノールに注目すべきだ、という説も、新鮮ですねえ。
ポリフェノールの抗酸化作用は、昨今ではとてもよく知られていますもんねえ。

丁寧で誠実なオイル作りをしているイタリアの小さなオイルメーカーが、外国の巨人に簡単に潰されていくのが悔しい、という思いが伝わってくる記事でした。

その一方で、『ガンベロ・ロッソ』の新しい格付け本、『オーリ・ディ・イタリア2011』の記事は、そういったイタリアのオイル作りの最高峰を冷静に分析、評価するものとして興味深いものでした。

この記事の話は次回に。



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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2011年4月号、“イタリア産オリーブオイルの未来”の記事の訳は、「総合解説2011年4月号」に載っています。

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2012年6月21日木曜日

プーリアの手打ちパスタ

ボローニャのパスタの次は、プーリアのパスタ。
『ラ・クチーナ・イタリーアナ』の記事の解説です。

ボローニャのパスタの特徴は、軟質小麦を使った濃い黄色の平らな生地背。
ボローニャ名物のタリアテッレも黄色が濃いと、一段と美味しそう。


tagliatelle-salsiccia-rosmarino1

これは、卵黄の色が濃い卵を使って出している色。
それと、粉と卵の割合。
ボローニャでは小麦粉100gに卵1個(または2個)ですが、『グランデ・エンチクロペディア・イッルストラータ・デッラ・ガストロノミア』によると、リグーリアやピエモンテでは、小麦粉200gに卵1個+水の割合。
プーリアでは、硬質小麦粉かセーモラ・リマチナータにぬるま湯と塩。

↓プーリアのパスタのこねかた。
ボローニャのパスタより、やけにあっさり。



↓ボローニャのスフォリーナのパスタとプーリアのパスタを比べる、 ボローニャのパスタが、いかに生地を美しく伸ばすことに全力を注いでいるか、よーく分かりますねえ。
そもそも、スフォリーナというのは生地をスフォーリア(薄く伸ばす)にする人という意味ですから。




厚さ約1㎜に大きく広げた真っ平らな生地は、イタリア人は大雑把という固定観念を打ち砕く几帳面さですが、イタリアならではのアーティスティックな職人技も感じさせます。
一方、プーリアのパスタは、パスタをカールさせる方法を考えてたら、一杯できちゃったみたいな楽しいパスタ。
卵のしなやかな弾力を生かすか、粉の強固な弾力を生かすかで、パスタもこんなに違うんですね。
でも、ボローニャでも、手打ち麺のプロ、スフォリーナの数は減っていて、イタリアの家庭でパスタを手作りする主婦は、減少の一途のよう。
面倒ですもんねえ。


『ヴィエ・デル・クスト』の記事でプーリアで今、観光客に人気のパスタと紹介されているのが、サーニェンカンヌラーテsagne 'ncannulate。
なんでもカールさせちゃうプーリア人がタリアテッレを作るとこうなる、みたいなパスタですね。
作り方はいろいろあるようですが、出来上がりの形は一緒。





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関連誌:『ラ・クチーナ・イタリアーナ』、『』サーレ・エ・ペペ』、『ヴィエ・デル・グスト』、“ボローニャの手打ちパスタ”、“゜プーリアの手打ちパスタ”、“サーニェ”の記事の解説は、「総合解説」2011年4月号に載っています。

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2012年6月18日月曜日

ボローニャのスフォリーナ

今日は“スフォリーナsfoglina”の話。
ボローニャのパスタ職人の女性たちです。
ボローニャのパスタの成形の基本は、板状に伸ばすこと。
タリアテッレもトルテッリーニもラザーニャも、麺棒を使って生地を1枚に広く伸ばすことから始めます。
イタリアならどこでもやってそうなことですが、生地をこねて麺貌で伸ばす方法が、伝統的な食文化として残っていて、プロの職人がいるのはエミリア・ロマーニャ州のみ。

手打ち麺はボローニャのプライド。
↓めずらしく男性が麺打ちの修行中。



↓これがプロの技。
ラザーニャ・アッラ・ボロニェーゼを作ってます。



続きはこちら。

↓タリアテッレ作り。パスタをカットするのに使う独特の長方形の包丁通称コルテッリーナcoltellinaは、野菜も切ります。



↓ボローニャ・スフォリーネ協会のイベント




↓ボローニャの有名トラットリーア・アンナ・マリーアのタリアテッレ・アッラ・ボロニェーゼ。

Trattoria Anna Maria


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関連誌;『サーレ・エ・ぺぺ』2011年4月号、“ボローニャの手打ちパスタ”の記事は「総合解説」2011年4月号に載っています。
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2012年6月11日月曜日

チブレオのリチェッタ

それではチブレオのリチェッタをどうぞ。

『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の記事にもある通り、チブレオにはいろんなバージョンがあります。
有名なレストラン、チブレオのチブレは、卵は加えないとか、オステリーア・イ・リッファイオーリのチブレオは玉ねぎ入りとか、他にもトマトやアンチョビ入りバージョンなど、ほんとに様々です。

元々、この料理は、ルーツなど、ほとんどが不明。
個性的な名前の由来にも諸説あります。

アルトゥージは、食の細い人や病み上がりの人に向く優しい煮物だと書いていますが、その割には、カテリーナ・デ・メディチが食べ過ぎて消化不良を起こしたという武勇伝も伝わっていて、お腹に優しいんだか厳しいんだかも、よく分らない。
貴族が食べた料理だという割には、鶏のトサカと内臓が材料という時点で、鶏を飼育している農家じゃないと作れないような料理だし。
まあでも、昔は鳥類は高級品だったというからなあ。

トスカーナ料理を詳細に集めた豪華本、『イル・グランデ・リーブロ・デッラ・ヴェーラ・クチーナ・トスカーナ』から、チプレオのリチェッタです。

内臓のチブレオ
CIBRÈO DI RIGAGLIE
材料/6人分:
鶏レバー・・300g
鶏のとさかと肉垂・・12羽分
鶏の心臓・・24個
鶏の脾臓・・24個
バター・・50g
玉ねぎ・・小1個
セージ
白ワイン・・1/2カップ
小麦粉
ナツメグ
ブロード・・少々
卵黄・・2個
レモン・・1/2個
オリーブオイル
塩、粒こしょう
・とさかと肉垂を数分ゆでて皮をむき、小さく切る。
・鍋にバターと油大さじ4を熱し、玉ねぎのみじん切りとセージ数枚を炒める。
・しんなりしたらトサカ加えて数分炒め、ワインをかけて15分煮る。
・レバーを小さく切って小麦粉を薄くまぶす。これを、半分に切った心臓、脾臓と一緒に鍋に加えて塩、こしょう、ナツメグ少々で調味し、必要なら熱いブロードをかけながら15分煮る。
・卵黄、レモン汁、ブロード少々を混ぜてかけ、よく混ぜてすぐにサーブする。仕上げにこしょうをかけてもよい。


病気で弱った猫が食べたら、一発で元気が出そうな料理ですね。

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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2011年4月号
“チブレオ”の記事とリチェッタは、「総合解説」2011年4月号に載っています。

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2012年6月7日木曜日

ガンベロ・ロッソで猫と狐が注文した料理

それでは、『ピノッキオの冒険』で、狐と猫が、オステリーア・ガンベロ・ロッソで注文した料理のレシピです。
原文はこう。

Il povero Gatto, sentendosi gravemente indisposto di stomaco, non potè mangiare altro che trentacinque triglie con salsa di pomodoro e quattro porzioni di trippa alla parmigiana: e perchè la trippa non gli pareva condita abbastanza, si rifece tre volte a chiedere il burro e il formaggio grattato!
La Volpe avrebbe spelluzzicato volentieri qualche cosa anche lei: ma siccome il medico le aveva ordinato una grandissima dieta, così dovè contentarsi di una semplice lepre dolce e forte, con [p. 73]
un leggerissimo contorno di pollastre ingrassate e di galletti di primo canto. Dopo la lepre si fece portare per tornagusto un cibreino di pernici, di starne, di conigli, di ranocchi, di lucertole e d’uva paradisa; e poi non volle altro.

まずはヒメジのトマトソース。
原文はこうなっていますが、トスカーナでは、これつまりヒメジのリヴォルノ風ということですね。
TVドラマ版でも、リヴォルノ風と言っています。
ヒメジのリヴォルノ風は、カッチューコ・アッラ・リヴォルネーゼと並ぶトスカーナの代表的な魚料理。
ヒメジのトマトソース煮というシンプルな料理。
魚の淡い赤い色とソースの鮮やかな赤い色が特徴。
猫はヒメジを35尾と注文していますが、普通の人間の場合、ヒメジが大きければ一人前1尾、小さければ、この動画のように2、3尾といったところでしようか。


次はトリッパ・アッラ・パルミジャーナ。
これだけトスカーナ料理を集めているのに(ちなみに作者のカルロ・コッローディはフィレンツェ生まれで、お父さんは貴族の館の料理人)、なぜかトリッパは、有名なフィレンツェ風ではなく、お隣のエミリア=ロマーニャ州の料理。
フィレンツェ風は、トリッパをトマトソースで煮ますが、パルミジャーナは香味野菜とトマト、ブロード・ディ・カルネで煮込んで、仕上げにパルミジャーノを散らします。

Trippa alla Parmigiana - North Bondi Italian Food AUD22.40
トリッパ・アッラ・パルミジャーナ

そして狐が注文したのが、まず野兎のドルチェ・フォルテ。
強くて甘い野兎とは、ちょっと想像しにくいですが、ドルチェフォルテdolceforrteとは、トスカーナの言い方で“アグロドルチェagrodolce”甘酸っぱいという意味。
煮汁に砂糖、レーズン、カンディート、ビネガーなどを加えたトスカーナの煮込み料理です。
イタリア料理では代表的な野兎の調理方法の1つでもあります。

こんな料理。

この野兎の付け合せに狐が要求したのは鶏。
pollastre ingrassate とgalletti di primo cantoを直訳すれば、太らせた若鶏と一番鶏。
pollastra は鶏の中でも1.5㎏以上に太らせたもの。
作者のコッラーディとほぼ同時代にトスカーナで暮らしたアルトゥージは、ゆで鶏にするとおいしいと書いています。
トスカーナで一番鶏と言えば、ワインのキアンティにまつわる有名な話がありますよね。
シエナとフィレンツェの領土争いで境界線を決めるために使われたのが、朝の到来を告げる一番鶏。

Chianti Classico, non solo vino...

キアンティ・クラッシコのキャラクターとしても親しまれてますよね。
これを付け合わせに注文するなんて。
お客さん、通すぎる~。


そていよいよ後は最後のチブレイーノですが、今日ははここで力尽きました。
チブレオの話は次回に。



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2012年6月4日月曜日

ピノキオのガンベロ・ロッソ

ピノキオの話、続きです。
それでは、オステリーア・ガンベロ・ロッソが舞台となるくだりを、実写版のTVドラマからどうぞ。
02:45あたりからです。
初回放送は1972年ですが、イタリア人はみんな観たという人気ドラマだったそう。

狐は「軽く何かつまんで一休みしてから、夜中に奇跡が原(金貨を埋めると金貨が生る木が育つという場所)に出発しよう」と、ピノキオを誘います。
そして猫は「お腹の具合が悪くて食欲がないから軽いのがいいなあ」と言いながら頼んだのが、
トマトソースをかけたヒメジのリヴォルノ風、野兎のサルミ煮、トリッパ・アッラ・パルミジャーナが数人前。
次にダイエット中という狐が頼んだのが、野兎料理。付け合せは若鶏と一番鶏、その後にヤマウズラの串焼きとうさぎ。
さらにはこの店で一番上等のワイン。
これがドラマ版で猫と狐が注文したもの。

大分原作に忠実です。
原作では、猫はヒメジのトマトソース煮を35尾、トリッパ・アッラ・パルミジャーナは4人前だけど味が薄そうだから、ソースは3倍で、バターとおろしチーズも添えて、と注文。

狐はシンプルに野兎の煮込みと太らせた若鶏と一番鶏の軽い付け合わせ、その後で口直しにヤマウズラ、やまうずら、うさぎ、カエル、トカゲ、ぶどうの“チブレイーノ”。
チブレオではなく、“小さな”チブレオと言うところが、感じ悪さ100万倍ですね。
チブレオは鶏の内臓やとさかのフリカッセなので、かなり気持ち悪い料理ですよ、これ。

このころになるとピノキオの顔は大分たくましくなっているのですが、
金貨を机の上に広げて、自分のために頼んだ物が、くるみ2個とパンをひときれ!
もう、狐と猫の野郎を殴りに行きたい。

案の定、ピノキオが目を覚ますと狐と猫は一銭も払わずにピノキオを置き去りに。
しかもあろうことか後を追ってきたピノキオを脅して追剥行為。
この後は、縛り首になったり、牢屋に入れられたり、空腹のあまり畑のぶどうをつまみ喰いして罠にかかったり、海に出たおじいさんを助けようとと巨大フカと戦ったりと、まるでイタリア版ルフィーみたいな冒険ぶり。
というか、登場人物が全員極悪人のくずという点で、ワンピースよりもっと過酷な環境。
子供を無垢で可愛い天使ではなく、わがままで手におえない悪がきとして描くピノキオは、より現実的で、奥が深い。
善と悪という単純な構造でもなく、必ずしも善が勝つとは限らないので、ひえ~この先、どうなるのお、と思いながら、続きが知りたくて、結局、実写版ドラマを全部見ちゃいました。
役者たちの演技が素晴らしい。
悪人たちも、生きていくために必死なんですよ。
残酷なだけの話じゃなかった。
衣装もおしゃれ。
かて日本でもdvdが販売されていたようなので、中古品なら売ってるかも。

続きはこちら

次こそは料理の話です。


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