今日はチーズの話。
『ア・ターヴォラ』の解説です。
モッツァレッラと言えば、水牛。
水牛と言えば、カンパーニア。
と思っていましたが、今はそうでもないんですねえ。
カセルタ(カンパーニア)の水牛
ラ・レプッブリカのこちらの記事によると、イタリア最大の水牛飼育場は、クレモナ(ロンバルディア)とヴェローナ(ヴェネト)にあるんだそうです。
そもそも水牛はアジア原産でイタリアの外から伝わった家畜なので、南イタリア以外で飼育されていても、まあそれほどあり得ないことではありません。
でも、水牛の飼育が、北ではなく南イタリアに普及したのには、何か理由があるはずです。
例えば、水牛は人の手が入っていない荒地や湿地でも飼育することができました。
餌も質素なもので育ちます。
湿地につきもののマラリアで人口が減っても、半野生の状態で生き延びるたくましさがあり、沼地のような悪路でも、重い荷物を運ぶことができる大きなひづめがあります。
厳しい環境でも飼育できて、労働力になって、しかもミルクが出る。
そういう条件が南イタリアにぴったり合った訳ですね。
さてそれでは、北イタリアで水牛を飼育することに、どんなメリットがあるのでしょうか。
北でも出来たてのモッツァレッラを食べることができるようになる?
確かに。
でも、ことはそう単純ではないようです。
イタリアの経済構造が北と南に分かれていることは、みなさんすでにご存じの通り。
農業の分野でも、イタリアは北と南に分かれています。
大雑把に言うと、北は資本主義で、南は大地主制。
そしてこの両者の間には、簡単には相いれない深い溝があるようなのです。
例えば、去年、ロンバルディア出身の内務大臣がある発言をして、南イタリアから大反発をくらってしまいました。
彼はこう言ったのです。
「本当かどうか知らないが、カンパーニアのモッツァレッラはロンバルド族によって伝えられたのではないかと聞いた」
この発言を伝える記事
ロンバルド族とは、ロンバルディアの語源にもなっている北からやってきたゲルマン人で、6世紀から8世紀の間、北イタリアを支配していました。
実は、水牛がロンバルド人によってイタリアに伝えられた、という説も確かにあって、間違っているとは言い切れないのです。
でも、一連の反応を見ると、カンパーニアの人は「それだけは絶対にない」と断固信じているようです。
カンパーニアの人が信じているのは、おそらく、アラブからシチリア経由で伝わったという説。
北イタリアでモッツァレッラを作るということは、工場で安い製品を大量生産する、というイメージと結びつきます。
さらに北は政治力もあるので、法律を作って、水牛のミルクを使っていればどこ産のミルクであっても一様にモッツァレッラ・ディ・ブーファラとして認める、ということにならないか、とカンパーニアの人は危惧しています。
つまり、北でモッツァレッラを作ることは、南からは歓迎されていないんですねえ。
それでも、北でモッツァレッラを作っている人もいます。
こちら↓はロンバルディアのカゼイフィーチョ。
北の水牛の話、次回に続きます。
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